スイスと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、アイガーやマッターホルンに代表される峻厳なアルプスの山々ではないでしょうか。もちろん、その壮大な景色はスイスの大きな魅力です。しかし、この国にはもうひとつ、静かで、奥深く、知る人ぞ知る美しい山脈があります。それが、フランスとの国境に沿って弓なりに伸びる「ユラ山地」です。
アルプスのような華やかさはありませんが、ここには穏やかな緑の丘陵、深い森、神秘的な渓谷、そして長い年月をかけて育まれた豊かな文化が息づいています。世界に名だたる高級時計が生まれた「ウォッチ・バレー」の故郷であり、香り高いチーズが作られる牧歌的な風景が広がる場所。派手な観光地を巡る旅とは一線を画す、心に深く刻まれるような静寂と発見の旅が、ユラ山地ではあなたを待っています。
今回は、まだあまり知られていないスイスのもうひとつの顔、ユラ山地の魅力を余すところなくお伝えします。ハイキングの準備から、美味しい郷土料理、旅の計画の立て方まで、この記事を読めば、あなたもきっとユラ山地への旅に出たくなるはずです。
さあ、アルプスの喧騒から少し離れて、自分だけの時間を見つける旅へ出発しましょう。
とはいえ、スイス・アルプスの壮大な絶景と美食もまた、旅人の心を魅了してやまないでしょう。
ユラ山地とは?知られざるスイスのもうひとつの顔

ユラ山地(Jura Mountains)は、スイス北西部からフランス東部にかけて、三日月状に約360kmにわたり連なる山脈です。ジュラ紀という地質時代の名称の由来となった地域でもあり、石灰岩でできた独特の地形が大きな特徴となっています。
地理と特徴 – 穏やかな緑の風景
アルプス山脈が地殻変動による激しい隆起を経験した「造山運動の主役」だとすれば、ユラ山地はその影響を受けてゆるやかに褶曲した、いわば「舞台の脇役」とも言える存在です。しかし、その名もなき脇役が持つ魅力は決して主役に引けを取りません。
最も高い地点は標高1,720m(フランス側のクレ・ド・ラ・ネージュ)であり、4,000m級の雄大なアルプス山脈に比べると控えめな高さです。どこまでも続く緑豊かな牧草地、深く茂るモミの森、そして石灰岩が浸食されて生まれた神秘的な洞窟や渓谷が織りなす風景は、訪れる人々の心を穏やかに包み込みます。夏には色とりどりの高山植物が咲き誇り、秋になると森が黄金色に染まる。このように四季折々に変化する美しい風景が広がり、「スイスのグリーンベルト」と称され、多くのハイカーや自然愛好家を惹きつけ続けています。
歴史と文化の交差点 – 時計とチーズの発祥地
ユラ山地の魅力は、その素晴らしい自然環境だけに留まりません。ここはスイスの文化と産業の歴史を語る上で欠かせない重要な拠点でもあります。
ウォッチ・バレーの核心部
16世紀に宗教改革の混乱を避けてフランスから逃れてきた新教徒(ユグノー)たちが、この厳しい山間地に辿り着きました。彼らが持ち込んだのが、高度な時計製造技術です。冬季に雪に閉ざされるユラ山地の農家では冬の副業として時計部品の製作が始まり、それがやがて世界的に知られるスイス時計産業の基盤となりました。ラ・ショー・ド・フォンやル・ロックルなどの都市は、時計産業の振興のために計画的に建設され、現在もその歴史的な面影を濃く残しています。この地域は「ウォッチ・バレー」と呼ばれ、多くの著名な時計ブランドがここで誕生しました。
チーズの道の発祥地
緩やかな丘陵地帯は酪農に適した環境を整えています。夏の間、牛たちは豊かな牧草を食べ、その恵みから美味しいチーズが生まれます。世界的に有名な「グリュイエール」や、花びら状に削って味わう「テット・ド・モワンヌ」など、個性豊かなチーズの多くがこのユラ地方を発祥としています。点在する農家やチーズ工房を訪れれば、伝統的な製法と人々のチーズに対する深い愛情に触れることができるでしょう。
このように、ユラ山地は単なる景勝地にとどまらず、スイスのアイデンティティを形成してきた歴史と文化が凝縮された場所であることがわかります。
ユラ山地へのアクセス方法 – 旅の計画をはじめよう
ユラ山地の魅力に触れたところで、次は具体的な旅行プランを立ててみましょう。スイスは世界屈指の交通網が整備されており、ユラ山地へのアクセスも非常に快適です。
主要都市からユラ山地へのアクセス
スイスの主要な国際空港はチューリッヒ(ZRH)、ジュネーブ(GVA)、バーゼル(BSL)です。いずれの空港からも、鉄道を利用してユラ山地の中心地へスムーズに移動できます。
- ジュネーブ空港発: ユラ山地南西部の玄関口であるヌーシャテル(Neuchâtel)までは直通列車で約1時間20分です。
- チューリッヒ空港発: ユラ山地の主要都市の一つであるビール/ビエンヌ(Biel/Bienne)までは乗り換え1回で約1時間30分の所要時間です。
- バーゼル空港発: 空港からバスでバーゼルSBB駅へ移動後、デレモン(Delémont)まで約40分の列車移動となります。
鉄道チケットの購入方法
スイス鉄道旅行に欠かせないのがSBB(スイス国鉄)です。チケット購入は多様な方法が用意されており、どれも簡単に利用できます。
- SBB Mobileアプリ: 最もおすすめなのは、公式スマートフォンアプリ「SBB Mobile」を使うことです。出発地、目的地、日時を入力するだけで時刻表検索やチケット購入がサクサク行えます。クレジットカードを登録しておけば、数タップで購入完了。発券されるQRコードをスマホ画面で見せるだけで済むため、紙のチケットをなくす心配がありません。
- SBB公式ウェブサイト: パソコンからの事前計画には公式サイトが便利です。アプリ同様に購入でき、プリントアウトしたりアプリに取り込んだりも可能です。
- 駅の券売機: 各駅に設置されている券売機でも購入可能です。英語対応のタッチパネル式で、現金またはクレジットカードが使えます。
- 窓口での購入: 不安がある場合は有人窓口で相談しながら購入できます。行き先を伝えれば最適なチケットを案内してもらえますが、タイミングによっては混雑することもあります。
どのチケットを選ぶ?スイストラベルパスの活用法
スイスを効率よく周遊するなら、「スイストラベルパス」が強力な味方です。このパスは指定期間内にスイス国内のほぼすべての鉄道、バス、湖上船が乗り放題となるもので、外国人観光客向けに提供されています。
- 利点:
- 乗車ごとに切符を買う手間が省ける。
- ユラ山地内を走るポストバスを含むほとんどの公共交通機関が利用可能。
- 多数の美術館や博物館の入場料が無料(例:ラ・ショー・ド・フォンの国際時計博物館も含まれる)。
- 山岳交通機関が割引価格(50%オフ)で利用できる。
- 注意点:
- 滞在期間が短い場合や移動頻度が少ない場合は割高になることもある。
パスは3日間、4日間、6日間、8日間、15日間の種類から選べます。旅行スタイルに合わせて検討しましょう。ユラ山地のみをゆっくり巡る場合は、区間ごとにチケットを購入したり、特定エリア向けの割引パス(地域パス)を利用したりするのも賢い方法です。
ユラ山地内の移動手段
ユラ山地内の移動は、鉄道と黄色い車体が特徴の「ポストバス」が網の目のように路線を張り巡らせており、とても便利です。特に鉄道が通っていない小さな村やハイキングコースの出発点へのアクセスには、ポストバスが欠かせません。時刻表はSBBのアプリやウェブサイトで鉄道とまとめて検索できるため、乗り継ぎも円滑に計画できます。
レンタカーを使う方法もあります。時間に縛られず、風光明媚な場所で自由に停車できるのが魅力です。ただし、スイスの交通ルールは厳密で、特に山道での運転には注意が必要です。国際運転免許証を忘れず携行しましょう。なお、冬季(11月から4月頃)は積雪や凍結が予想されるため、冬用タイヤが必須となり、それに伴う運転技術も求められます。
ユラ山地で必ず訪れたい!珠玉の観光スポット

広大なユラ山地には、多彩な魅力的なスポットが点在しています。ここでは、特におすすめの場所をいくつかピックアップしてご紹介します。
時計産業の拠点 – ラ・ショー・ド・フォンとル・ロックル
ユラ山地を訪れる際には、この二つの街はぜひ訪れてほしい場所です。ラ・ショー・ド・フォン(La Chaux-de-Fonds)とル・ロックル(Le Locle)は、19世紀の大火災で甚大な被害を受けた後、時計製造の効率的な生産体制を実現すべく、碁盤目状の計画都市として再建されました。この独特な都市構造は、「時計製造の都市計画」としてユネスコ世界遺産に登録されています。
国際時計博物館(Musée international d’horlogerie)
ラ・ショー・ド・フォンにあるこの博物館は、時計ファンだけでなく誰もが楽しめるスポットです。日時計から始まり、精巧で華麗な懐中時計、天文時計、そして現代のクォーツ時計まで、4,500点を超える多彩なコレクションが展示されています。時計の歴史や技術革新を、美しく革新的な展示方法で体験できます。
- 訪問にあたってのポイント(チケット購入など):
- チケットは博物館の受付で購入可能で、スイストラベルパス所有者は無料で入場できます。
- 開館時間や特別展の詳細は、事前に公式サイトで確認することをおすすめします。
- 荷物はロッカーに預けられます(コインが必要な場合があります)。
- 見学には半日以上かかることもあるため、時間に余裕を持って訪れてください。
自然の迫力を体感 – クル・デュ・ヴァン
「ユラのグランドキャニオン」とも称されるクル・デュ・ヴァン(Creux du Van)は、ユラ山地が誇る最も壮大な自然の景観です。氷河と流水によって、約1億6千万年以上の長い年月をかけて形成されたこの巨大な馬蹄形の圏谷は、幅1,400メートル、深さ200メートルにおよびます。
垂直に切り立った岩壁が円形劇場のように連なる光景は、息をのむ美しさ。運が良ければ、岩場に生息する野生のアイベックス(アルプスヤギ)の群れに出会うこともできるでしょう。
- アクセスとハイキング情報:
- 最寄りの鉄道駅はノワレーグ(Noiraigue)。ここから山頂のレストラン「Le Soliat」まで、約2時間半から3時間のハイキングが楽しめます。
- コースは急な登りが続きますが、整備された道なので体力に自信のある方におすすめです。頂上からの絶景は、疲れを忘れさせてくれます。
- 車の場合、山頂付近のレストランまで行くことが可能ですが、狭く未舗装の道もあるため慎重な運転が求められます。
- 注意点:
- 多くの箇所で崖の縁に柵がありません。写真撮影に没頭して足を踏み外さないよう、崖際には決して近づかないでください。特に強風時は非常に危険です。
- 天候が変わりやすいため、レインウェアや防寒具の携帯を忘れないようにしましょう。
チーズの故郷を巡る旅
ユラ地方は、風味豊かなチーズの産地として知られています。製造過程の見学ができる施設は、食文化に関心のある方にとって見逃せないスポットです。
ラ・メゾン・デュ・グリュイエール(La Maison du Gruyère)
ユラ山地南麓のグリュイエール村にあるこのチーズ工場では、世界的に有名なAOP認定チーズ「グリュイエール」の製造工程を間近で見学できます。音声や映像を駆使した展示は多言語対応で、チーズ作りの奥深さを楽しみながら学べます。見学の最後には、熟成期間の異なるグリュイエールの試食も体験可能です。
メゾン・ド・ラ・テット・ド・モワンヌ(Maison de la Tête de Moine)
ベルレー修道院の敷地内にあるこの施設は、もう一つの名高いチーズ「テット・ド・モワンヌ」の歴史と製造方法を紹介しています。このチーズは専用の削り器「ジロール」を使い、花びらのように薄く削って食べるのが特徴。削ることで空気に触れ、芳醇な香りが一気に広がります。見学者は試食や購入も可能です。
ドゥー川の絶景とサン・チュルサンヌの町
フランスとの国境に沿って流れるドゥー川(Doubs)は、ユラ山地に多彩な美しい風景をもたらしています。そのなかでも、とりわけ中世の趣を色濃く残す小さな町、サン・チュルサンヌ(St-Ursanne)は訪れる価値があります。
アーチ型の美しい橋が架かる川沿いにたたずむ町は、まるで時が止まったかのような静謐さに包まれています。ロマネスク様式の修道院や石畳の路地を歩けば、まるで物語の世界に迷い込んだかのような感覚を味わえるでしょう。夏の時期には、ドゥー川でのカヌーやカヤックが人気のアクティビティとなっています。
ユラ山地を歩く!おすすめハイキング&アクティビティ
ユラ山地の魅力を存分に味わうには、やはり自らの足で歩くことが一番です。スイス全国に張り巡らされたハイキングコースのネットワークはユラ山地にも広がっており、初心者から上級者まで誰もが楽しめるルートが揃っています。
初心者におすすめのパノラマコース:シャスラル山
ビールやビエンヌの街の背後にそびえるシャスラル山(Chasseral)は、標高1,607mでユラ山地を代表する山のひとつです。山頂までは車やポストバスでアクセス可能で、そこから見渡せる360度のパノラマは圧巻の美しさを誇ります。晴れていれば、眼下に広がるビール湖、ヌーシャテル湖、ムルテン湖の三つの湖や遠くのベルナーアルプスの名峰群が見渡せます。
山頂周辺には、緩やかで歩きやすいハイキングコースが整備されています。例えば、山頂のホテルから尾根沿いに進むコースは標高差が少なく、絶景を眺めながらゆったりと散策するのにぴったりです。約1~2時間の短時間コースを選べば、小さなお子様連れのご家族も安心して楽しめます。
ハイキングの準備と必需品 – 快適に歩くために
楽しいハイキングにするためには、適切な準備が欠かせません。山の天候は変わりやすいため、「これぐらいで大丈夫だろう」と油断しないようにしましょう。
- 服装のポイント(推奨):
- レイヤリング(重ね着)が基本です:
- ベースレイヤー(肌着): 汗を素早く吸収・発散する化繊やウール製がおすすめ。綿は乾きにくく体を冷やすため避けましょう。
- ミドルレイヤー(中間着): 保温性のあるフリースや軽量ダウンジャケット。
- アウターレイヤー(上着): 雨風を防ぐ防水透湿素材(例:ゴアテックス)のジャケットが理想的です。
- ズボン: 動きやすいトレッキングパンツが最適。ジーンズは濡れると重くなって動きづらいため避けましょう。
- 靴:
- ハイキングシューズまたはトレッキングブーツ: 足首を支え、滑りにくい靴底のものを選びましょう。新品の靴は必ず事前に履き慣らし、長距離を歩く際の靴擦れを防ぎます。
- 持ち物チェックリスト:
- バックパック: 20~30リットルほどの体にフィットするもの。
- 水: 最低1.5リットルは携帯。夏場はそれ以上が望ましいです。
- 行動食: ナッツ、ドライフルーツ、チョコレート、エナジーバーなど、手軽にカロリー補給できるものを用意しましょう。
- 地図とコンパス: スマホのGPSも便利ですが、バッテリー切れや通信圏外に備えて紙の地図とコンパスも携行すると安心です。
- 日焼け対策用品: 日焼け止め、サングラス、帽子は必携。標高が高まるほど紫外線は強くなります。
- 救急セット: 絆創膏、消毒液、痛み止め、持病の薬などを持ちましょう。
- レインウェア: 上着だけでなく、防水ズボンも用意しておくと安心です。
- 現金: 山小屋や食事処(メテリー)ではカードが使えない場合が多いため、一定額の現金を持参してください。
- ゴミ袋: 自分が出したゴミは必ず持ち帰りましょう。
ハイキング時に守るべきルールとマナー
未来に美しい自然を残すために、ハイカーとして守るべきルールやマナーがあります。
- 禁止事項・注意点:
- 自然保護: 指定されたハイキングルートから外れないようにしてください。高山植物を踏んだり採取したりするのは禁止です。また、野生動物に餌を与える行為も控えましょう。
- ゴミの持ち帰り: 「来たときよりも美しく」を心掛け、出したゴミは必ず持ち帰ります。
- 火気の管理: 乾燥した時期は山火事のリスクが非常に高くなります。たばこのポイ捨ては絶対に避け、火の使用は指定されたバーベキュースポットだけで行ってください。
- ドローン飛行: 自然保護区や家畜のいるエリアではドローンの飛行が制限または禁止される場合があります。飛ばす前に現地のルールを必ず確認しましょう。最新情報はスイス連邦民間航空局(FOCA)の公式サイトで確認できます。
- 家畜への配慮:
- ユラ山地のハイキングルートは牧草地を通ることが多く、牛や羊などの家畜はこの土地に欠かせない存在です。
- 牧草地の柵のゲートは開けたら必ず自分で後ろ手に閉めてください。
- 特に子牛を連れた母牛には近づかず、静かに通り過ぎましょう。犬を連れている場合は必ずリードをつけ、家畜に迷惑をかけないようにしましょう。
旅のトラブル対策と豆知識

どれだけ入念に準備をしても、思いがけないトラブルは起こり得ます。万一に備え、適切な対処方法を知っておくことが重要です。
天候の急変に備えるポイント
山の天候は非常に変わりやすいことを常に意識しましょう。出発時には晴れていても、数時間後には突然の嵐に見舞われることがあります。
- 事前情報の確認: 出発当日の朝には、必ず最新の天気予報をチェックしてください。スイスの公式気象情報アプリ「MeteoSwiss」は精度が高く、特におすすめです。
- 異変を感じたら: 空が急に暗くなったり、風が強まったり、遠くで雷鳴が聞こえたりした場合は、天候悪化の兆候です。速やかに下山するか、近隣の山小屋やレストランなどに避難してください。
- 雷や濃霧が発生した場合: 雷が近づいた際は、開けた場所や高い木のそばを避け、できるだけ低い姿勢でしゃがみましょう。濃霧で視界が著しく悪化した時は無理に進まず、天候の回復を待つか、安全な経路を通って引き返す判断をしましょう。
道に迷った場合の対処法
スイスのハイキングコースは整備が行き届き、標識も分かりやすいですが、万一「道が分からなくなった」と感じたら、次の手順で行動してください。
- 冷静になる: まずは慌てず、落ち着くことが最も大切です。その場で立ち止まり、深呼吸して気持ちを整えましょう。
- 現在地を確認する: 地図やGPSアプリを活用し、自分の位置を特定します。周囲の地形(山の形状や川の流れなど)と照らし合わせて確認しましょう。
- 来た道を戻る: 無理にショートカットを探したり、見知らぬ道に入ったりするのは危険です。最後に確実に確認した標識のある場所まで安全に引き返すことが基本です。
- 救助の要請: 自力での下山が難しいと判断した場合は、躊躇せずに救助を呼びましょう。
- スイス山岳救助隊(REGA): 1414
- ヨーロッパ共通緊急番号: 112
- これらの番号は携帯の電波が弱い場所でも繋がりやすく設計されています。
鉄道の遅延や運休に遭遇した際の対応
スイス国鉄(SBB)は定時運行に定評がありますが、悪天候や技術的なトラブルで遅延や運休が生じることもあります。
- 運行情報の確認: まずはSBBの公式アプリや駅の電光掲示板で現在の運行状況をチェックしましょう。遅延の程度や代替ルートの案内が出ます。
- 代替ルートの検討: SBBのアプリは遅延時に自動的に最適な迂回ルートを提案してくれるため、これを活用しましょう。
- チケットの取り扱い(払い戻し等):
- 区間指定チケット: 1時間以上の大幅な遅延や運休で目的地に到着できなくなった場合は、駅窓口で払い戻しや変更の手続きを受けられます。
- スイストラベルパス: 乗り放題パスのため、特定列車の運休による払い戻しはありませんが、他の列車やバスを利用して目的地に向かえます。
- 困ったときは、駅の案内所やチケット窓口のスタッフに相談してください。彼らは旅行者対応に慣れており、親切に解決策を提案してくれます。最新の旅客権利に関する情報はSBB公式サイトでご確認いただけます。
ユラ山地のグルメを味わい尽くす
旅の醍醐味のひとつは、その土地固有の食文化を味わうことです。ユラ山地には、素朴でありながらも深い旨味が楽しめる絶品の郷土料理が数多くあります。
絶対に味わいたい名物チーズ料理
スイス料理の代表格であるチーズフォンデュやラクレットは、ユラ山地でも存分に堪能できます。地元産のチーズをふんだんに使ったフォンデュは、より濃厚で芳醇な香りが特徴です。特におすすめしたいのが、先に挙げたテット・ド・モワンヌです。ジロールで薄く削られたふわふわのチーズは、口に入れるとすっと溶け、ナッツのような深い味わいが広がります。パンやドライフルーツと合わせ、地元の白ワインと共に楽しめば、まさに至福のひとときとなるでしょう。
山間のレストラン「メテリー(Métairie)」
ユラ山地のハイキングコース沿いには、「メテリー」と呼ばれる農家経営のレストラン兼山小屋が点在しています。派手さはないものの、ここでいただける料理にはユラ山地ならではの本物の味わいが詰まっています。
自家製のソーセージやハム、採れたての野菜、そしてスイス風ハッシュドポテトの「レシュティ」など、シンプルながらも心温まる料理の数々が並びます。汗をかいたハイキングの合間に、絶景を眺めながらメテリーで食事をすることで、忘れがたい思い出が生まれることでしょう。
地元が誇る美酒をお忘れなく
ユラ山地は、かつて多くの芸術家たちを魅了した伝説の酒、アブサン(Absinthe)の故郷としても名高い場所です。ヴァル・ド・トラヴェール(Val-de-Travers)という谷では、ニガヨモギなどのハーブを原料にしたアブサンの蒸留が現在も行われています。一時は製造禁止とされていた「緑の妖精」ですが、今では合法化され、その神秘的な歴史と独特の風味に惹かれて多くの人々が訪れます。専門店でさまざまな種類を試飲するのも、楽しい体験となるでしょう。
滞在をより豊かにする宿泊施設の選び方

旅の拠点となる宿泊施設は、旅の印象を大きく左右する重要な要素です。ユラ山地には、多様なスタイルの宿泊施設が揃っています。
絶景が望める山岳ホテル
シャスラル山頂にある「Hôtel Chasseral」のような、山の頂上や稜線上に建つホテルに宿泊すれば、満天の星空や雲海から昇る朝日といった、宿泊者だけが楽しめる特別な景色を堪能できます。ハイキングの拠点としても理想的で、早朝の静かな山歩きをスタートできます。
都市の拠点として便利な快適ホテル
ラ・ショー・ド・フォンやヌーシャテル、ビール/ビエンヌといった都市部には、近代的で快適なホテルが多数あります。レストランやショップへのアクセスが良く、観光の基点として非常に便利です。特にヌーシャテルは、美しい湖と中世の城が調和した魅力あふれる街で、滞在そのものも楽しめます。
アグリツーリズム(農家民宿)
ユラ山地の文化をより深く体感したい方には、農家に宿泊するアグリツーリズムが特におすすめです。藁の上で眠る「Schlaf im Stroh」というユニークな体験ができる農家もあり、子どもたちにとって忘れられない思い出になるでしょう。自家製チーズやパンが並ぶ朝食を楽しみながら、農家の方々とふれあう時間は、かけがえのない貴重な経験です。
ユラ山地、静寂と発見の旅へ
アルプスの壮大なスケールは見事ですが、ユラ山地にはそれに劣らない静かで深みのある魅力が宿っています。
時計工房から響く繊細な機械音、牧草地に広がるカウベルの穏やかな調べ、森を渡る風のそよぎ、そして何よりも、全てを包み込む豊かな静寂がここにはあります。ここでは、時間に追われることなく、自分自身と向き合い、自然との対話を楽しめるのです。
緻密な時計製造の歴史に思いを馳せ、伝統的なチーズ作りの技術に感嘆し、果てしなく続く緑の丘をゆったりと歩く。そうした飾り気のない、本質的な旅がユラ山地には息づいています。
この記事が、あなたの次の旅のきっかけとなれば幸いです。さあ、あなただけの時間を見つけるために、穏やかで美しいユラ山地への旅の準備を始めてみてはいかがでしょうか。







