紺碧のイオニア海がどこまでも広がり、その向こうには雄大なエトナ山が静かに煙を上げる。太陽の光を浴びて輝く白亜の街並み、甘い花の香りとエスプレッソのアロマが混じり合う空気。ここはシチリア島、世界中の旅人を魅了してやまない珠玉の街、タオルミーナ。その心臓部ともいえる場所に、まるで天空に浮かぶテラスのような広場があります。その名は「ピアッツァ・ノーヴェ・アプリーレ」——4月9日広場。
ここはただの美しい広場ではありません。シチリアの激動の歴史が刻まれ、人々の祈りと歓びが染み込み、そして今もなお、訪れる者すべてを温かく迎え入れる魔法のような空間です。カフェのテラスでアペリティーボを片手に夕暮れを待つ時間、白と黒の市松模様の床の上を歩きながら遥か彼方の水平線を眺める瞬間、この広場はきっとあなたの旅の記憶の中で、最も鮮やかな一頁となるでしょう。食品商社に勤め、世界の食と文化を追い求めてきた私、隆(たかし)が、今回はこのシチリアで最も美しいと謳われる4月9日広場の魅力と、その周辺に広がる美食の街タオルミーナの楽しみ方を、余すところなくご案内します。さあ、一緒に時を忘れる旅に出かけましょう。
4月9日広場とは?歴史が刻まれたシチリアの心臓部

タオルミーナのメインストリート、ウンベルト1世通りの中心部に差しかかると、視界がぱっと開ける場所があります。そこが4月9日広場です。崖の縁に張り出すように造られたこの広場は、街で最も優れた展望スポットとして知られています。ここからの光景は、言葉では言い表せないほどの美しさ。眼下には澄み切ったイオニア海の青が広がり、その海岸線に沿って緑豊かな丘陵地帯が延びています。さらに目を遠くに向けると、ヨーロッパ最大の活火山エトナ山が、季節によっては雪を頂く姿を見せ、圧倒的な存在感で景色を支配しています。この絶景を目当てに、世界中から多くの人々が訪れるのも頷けるでしょう。
広場の床は白と黒の大理石で市松模様が描かれ、まるで巨大なチェス盤のような洗練された雰囲気を醸し出しています。昼間は太陽の光を反射して輝きを放ち、夜になれば街灯の柔らかな灯りの下で幻想的な表情を見せます。広場にはカフェのテラス席が並び、訪れた人々はカプチーノを楽しんだり、アペロール・スプリッツ片手に談笑したりと、思い思いの時間を過ごしています。時には大道芸人が巧みな技を披露し、画家がキャンバスに美しい景色を写し取る光景も見られます。ここは、タオルミーナの普段の暮らしと特別な時間が交錯する、活気ある場所なのです。
なぜ「4月9日」という名前なのか? ガリバルディとシチリアの熱い想い
この美しい広場に「4月9日」という特定の日付が冠されている理由をご存知でしょうか。そこには、イタリア統一の英雄ジュゼッペ・ガリバルディにまつわる感動的なエピソードがあります。
時は1860年。イタリア統一の波が押し寄せる中、シチリアはまだブルボン王朝の支配下にありました。4月9日、タオルミーナのサン・ジュゼッペ教会でのミサの最中、一人の男が駆け込みこう叫んだと伝えられています。「ガリバルディがマルサラに上陸した! シチリアの解放が始まった!」と。この知らせに教会は騒然となり、ミサは中断。街全体が歓喜に包まれました。人々はこの広場に集まり、解放への希望に胸を躍らせながら未来を語り合ったのです。
しかし、このニュースは実は誤りでした。ガリバルディがマルサラへ上陸したのは、約1か月後の5月11日のことでした。それでもなお、タオルミーナの人々にとって4月9日は、圧政からの解放と自由への熱い願いが爆発した、忘れがたい記念の日となりました。その情熱と希望を永遠に称えるため、この広場は「4月9日広場(Piazza IX Aprile)」と名付けられたのです。その由来を知ると、広場の石畳一つひとつにシチリアの人々の誇りと魂が宿っているように感じられます。
イオニア海の青とエトナ山の白が織りなす絶景パノラマ
4月9日広場の最大の魅力は、なんといってもその圧巻のパノラマビューです。時間帯や季節によってその表情は変わり、訪れるたびに新たな感動をもたらしてくれます。
朝、東の空がほんのり明るくなり始めると、イオニア海は静謐な瑠璃色に染まります。太陽が昇るにつれて海面はきらきらと輝きだし、エトナ山の輪郭が鮮明に浮かび上がります。観光客もまだ少ないこの時間帯は、広場を贅沢に独占できる特別な瞬間。深呼吸すると、潮の香りと花の甘い香りが混じり合い、爽やかな空気が胸いっぱいに広がります。
日中は、強いシチリアの太陽が大地を鮮やかに照らします。海の青色はさらに深まり、空との境界が曖昧になるほどです。エトナ山の山肌の細部まで見渡せ、時には山頂から噴き上がる煙もはっきりと目にすることができます。活気あふれる広場のカフェで冷たいグラニータを味わいながら景色を楽しむひとときは、贅沢そのものです。
そして、その日の締めくくりは夕暮れ時の魔法の時間。太陽が西に傾くと、空と海は刻一刻とオレンジやピンク、紫に染まり始めます。エトナ山のシルエットが夕闇に溶け込む様子は、まるで一枚の絵画のよう。この「マジックアワー」を狙って、多くの人がカメラを手に広場に集います。アペリティーボを楽しみながら、ロマンチックなひとときを過ごすのがタオルミーナ流の過ごし方です。
夜になると、広場はまた異なる顔を見せます。ライトアップされた教会や時計塔が幻想的に浮かび上がり、対岸の街灯りが星のように輝きます。満天の星空の下、遠くから波のささやきが聞こえてくることもあります。昼間の喧騒が嘘のように、静謐でロマンチックな空気に満ちた広場となるのです。
広場を彩る建築物たち – 過去と現在が交差する場所

4月9日広場の魅力は、その圧倒的な景観だけにとどまりません。広場を取り囲む歴史的な建造物が、この場所に荘厳さと優雅さをもたらしています。それぞれが異なる時代に建てられ、異なる建築様式を持ちながらも、調和を保ちつつ美しい景観を作り上げています。
サン・ジュゼッペ教会 (Chiesa di San Giuseppe)
広場で最も目を引くのが、このサン・ジュゼッペ教会です。ピンク色の大理石と白い石灰岩が織り成すコントラスト豊かなファサードは、シチリア・バロック建築の傑作と称されています。中央の大きな窓、両脇の渦巻き装飾、そして頂上に掲げられた十字架。その緻密で豪華な装飾は、つい足を止めて見入ってしまうほどの美しさを誇ります。特に夕日に照らされ、建物全体がバラ色に染まる様子は言葉を失うほどの絶景です。
教会内部は、外観の華やかさとは対照的に、白を基調とした落ち着いた空間が広がっています。しかしながら、フレスコ画や漆喰の繊細な装飾など、バロック様式のこまやかな意匠が随所に見られ、静かな祈りの場でありつつも芸術作品としての価値も非常に高い場所です。
ここで、教会見学時の実用的なポイントをいくつかご紹介します。
- 服装について: イタリアの多くの教会と同様に、サン・ジュゼッペ教会でも肌の露出が多い服装はマナー違反となります。特に肩や膝が見えるタンクトップやショートパンツでの入場は断られる場合があります。暑い季節でも、教会に入る際にさっと羽織れる軽いカーディガンやストールを持ち歩くと便利です。
- 見学時のマナー: 教会内部は信者の祈りの場です。見学時には大声で話さず静かに行動しましょう。写真撮影は許可されていることが多いですが、フラッシュは禁止です。またミサの時間中は信者以外の入場が制限される場合がありますので、入口の掲示でミサスケジュールを確認してから訪れることをお勧めします。
元サンタゴスティーノ教会 (Ex Chiesa di Sant’Agostino)
サン・ジュゼッペ教会の向かいに位置する、シンプルながら美しいゴシック建築が元サンタゴスティーノ教会です。1448年に建てられたこの建物は現在、市立図書館として利用されており、タオルミーナの文化的な拠点となっています。尖ったアーチ窓やバラ窓(円形ステンドグラス)がゴシック様式の特色を色濃く残しています。
図書館として機能しているため、観光客が自由に出入りしやすい場所ではありませんが、外観からでもその美しい建築を鑑賞する価値は十分にあります。特に屋根に設けられた小さな鐘楼が、青空を背景にかわいらしいアクセントを添えています。時折、文化イベントや展示会が開催されることもあるので、入口にポスターが掲示されている場合は内容をチェックしてみるのもおすすめです。
時計塔 (Torre dell’Orologio)
4月9日広場から旧市街中心部へ向かう門の役割を果たしているのが、この時計塔です。12世紀に建てられたこの塔は戦争や地震で何度か損壊し、現在の形は17世紀に再建されたものとなっています。重厚な石造りの塔の上には、青いタイルで彩られたマヨルカ焼きの美しい時計盤が設置されています。
時計塔はタオルミーナの街を二つの区域に区切っており、西側は中世の趣きを残す旧市街、東側はより新しいエリアです。このアーチをくぐる瞬間には、まるで時を遡るかのような体験が味わえます。塔の下を通り抜けると、ウンベルト1世通りの賑やかなエリアが広がり、ブティックやレストラン、ジェラート店が軒を連ね、多くの人で賑わっています。4月9日広場の開放感あふれる空間から、迷路のような旧市街探訪への一歩を踏み出す、まさに冒険の入り口となるゲートです。
4月9日広場を120%楽しむための実践ガイド

それでは、4月9日広場を心ゆくまで楽しむための、より具体的で実践的な情報をご紹介します。最適な訪問時期や広場のカフェでの過ごし方、必要な準備などを知れば、タオルミーナでの滞在が一層充実し、快適になることでしょう。
最適なシーズンと訪れる時間帯
タオルミーナは年間を通じて温暖な気候が特徴ですが、旅の目的によって訪れるべきシーズンは変わってきます。
- 春(4月〜6月)および秋(9月〜10月): 私が最も推奨するシーズンです。気温が穏やかで心地よく、街中には色とりどりの花々が咲き誇ります。夏のハイシーズンほど混雑しておらず、広場のカフェでもゆったりとした時間を楽しめます。特に春先はエトナ山に雪が残っていることも多く、「雪を頂く火山と青い海」という美しい対比を堪能できるチャンスが高いです。
- 夏(7月〜8月): まさにハイシーズンの真っ只中で、世界各国から多くの観光客が押し寄せ、街は活気であふれます。日差しが非常に強烈で、日中の気温は30度を超えることも珍しくありません。暑さや混雑が苦手な方にはややハードかもしれませんが、夜遅くまで賑わう街の雰囲気やビーチでの海水浴を満喫したい方には最適な季節です。
- 冬(11月〜3月): オフシーズンに入り街は静かな表情を取り戻します。観光客向けの店舗の多くが休業することもありますが、その分地元の人々の暮らしに近い、落ち着いたタオルミーナの一面を感じられます。幸運なら雪化粧をした幻想的なエトナ山を望むことも可能です。ただし、天気が不安定で雨が多くなる時期でもあります。
さらに、一日の中でどの時間帯に広場へ足を運ぶかによって、その体験は大きく変わります。
- 朝(7時〜9時): 静寂と澄んだ空気に包まれた広場を一人占めできる貴重な時間帯。朝日に照らされながら、ゆっくりと景観を楽しみたい方にぴったりです。
- 昼(11時〜15時): 最も活気あふれる時間帯です。太陽の光が海や街並みを鮮やかに照らし出し、写真撮影には絶好のチャンス。ただし、強い日差し対策は欠かせません。
- 夕方(17時〜19時): アペリティーボの時間帯。夕日に染まる空を眺めつつ、グラスにプロセッコやスプリッツを傾けるひとときは格別です。ロマンチックな雰囲気を求めるならこの時間帯が最適でしょう。
- 夜(20時以降): ディナーの後にライトアップされた広場を散策するのも素敵です。昼間の賑わいが嘘のように落ち着き、幻想的でムードのある空気に包まれます。
広場のカフェで過ごす、至福のシチリアタイム
4月9日広場の魅力を満喫するなら、テラス席のあるカフェで贅沢に過ごすことが王道です。目の前に広がる絶景を堪能しながら、心地よいシチリアの風を感じる時間は、旅の忘れがたい思い出となるでしょう。広場には名高いカフェがいくつかありますが、中でも歴史が深く、多くの著名人も訪れたことで知られる「Wunderbar Caffè」は特におすすめです。
ここで、イタリアのカフェ利用時に役立つちょっとしたポイントをご紹介します。
- 席料(Coperto)とサービス料(Servizio): イタリアの飲食店では、テーブルに座ると「コペルト」と呼ばれる席料が一人当たり数ユーロかかるのが一般的です。これはパン代やテーブルセッティングの費用にあたります。メニューに記載されていることが多いので確認しましょう。また、場合によってはサービス料が含まれていることもあります。レシートの確認をお忘れなく。
- カウンター(Al Banco)とテーブル(Al Tavolo): 同じエスプレッソ一杯でも、立ち飲みのカウンターと座って飲むテーブル席では料金が大きく異なります。テーブル席は場所代やサービス料が上乗せされるため、倍以上の値段になることも珍しくありません。4月9日広場では絶景を楽しみながらゆったりするのが醍醐味なので、ぜひテーブル席を選びたいところですが、この違いは他の場所でも役立つ知識です。
- 注文と会計: テーブル席の場合はウェイターが注文を取りに来ます。食事や飲み物を終えたら、「イル・コント、ペルファヴォーレ(Il conto, per favore./お会計をお願いします)」と伝えれば伝票をテーブルまで持ってきてくれます。支払いは店によって異なり、その場で済ませるかレジで支払う形式があります。
グルメライター隆のイチオシ — グラニータ・コン・ブリオッシュの楽しみ方
シチリアでぜひ味わいたいスイーツといえば「グラニータ」です。日本で「かき氷」と訳されることが多いものの、全く別物と言えます。果汁やナッツのペーストを水や砂糖と混ぜて凍らせ、何度もかき混ぜることでシャーベットよりなめらかでありつつ、氷の粒感が楽しめる独特の舌触りに仕上げられます。
4月9日広場のカフェでぜひトライしたいのが、「グラニータ・コン・ブリオッシュ」。ほんのり甘く温かいブリオッシュが添えられて提供されます。シチリアの人々はこのブリオッシュをちぎってスプーン代わりにグラニータをすくったり、冷たいグラニータに浸して食べたりするのが定番のスタイルです。冷たいグラニータと温かいブリオッシュの組み合わせが口の中で見事なハーモニーを奏でます。
定番のフレーバーは、レモン(Limone)、アーモンド(Mandorla)、ピスタチオ(Pistacchio)、コーヒー(Caffè)など。特にエトナ山麓のブロンテ村産ピスタチオは世界的に有名で、その濃厚な風味は格別です。朝食にグラニータ・コン・ブリオッシュを楽しむ地元の人も多くいます。
持ち物と服装のポイント
タオルミーナ、特に4月9日広場周辺を快適に散策するために、準備しておきたい持ち物と服装のポイントをご案内します。
- 必携&便利アイテム
- サングラス、帽子、日焼け止め: シチリアの日差しは非常に強いです。特に夏場は必須アイテムです。広場は日陰がほとんどないため、しっかり対策しましょう。
- 羽織るもの: 日中と朝夕の気温差に対応できる薄手のカーディガンやストールがあると便利です。また、教会訪問時のマナーとしても役立ちます。海風が冷たく感じられることもあります。
- 歩きやすい靴: タオルミーナの多くは石畳や坂道です。ヒールのある靴は避け、クッション性に優れたスニーカーやフラットサンダルがおすすめです。
- カメラやモバイルバッテリー: 絶景の連続で写真撮影が止まらないでしょう。スマホの充電切れに備え、モバイルバッテリーがあると安心です。
- 現金: 高級店ではカードが使えますが、小さな店舗や市場、カフェのトイレ利用などではカード不可のことも。少額のユーロ現金を持っていると便利です。
- ウェットティッシュ: ジェラートやスナックの後などに手を拭くのに重宝します。
- 服装のアドバイス
- 基本的に「TPO」を意識しましょう。日中の散策はカジュアルで動きやすい服装で問題ありませんが、夜に少し格式のあるレストランに行く場合は、男性は襟付きシャツ、女性はワンピースなど少しドレッシーな服装がスマートです。
- 教会見学の予定がある日は、肩や膝を隠せる服や羽織るものを必ず用意してください。
広場から始まるタオルミーナ散策 – 珠玉のスポットへ

4月9日広場は、タオルミーナ観光の絶好のスタート地点です。この広場を拠点に、魅力あふれるスポットへ足を伸ばしてみましょう。迷路のように入り組んだ細い路地を歩けば、きっと素敵な発見が待っています。
メインストリート「ウンベルト1世通り」を歩く
広場に貫くウンベルト1世通り(Corso Umberto I)は、タオルミーナの中心ともいえるメインストリートです。メッシーナ門からカターニア門まで約800メートルにわたって続き、歩行者専用のエリアとなっているため、いつも多くの人で賑わっています。
通りの両側には、高級ブランドのブティックからシチリア特産のデリカテッセン、カラフルなチェラミケ(陶器)の店、かわいらしいお土産屋さんまで、多彩なお店が軒を連ねています。ウィンドウショッピングを楽しみながらのんびり歩くだけでも心が躍るはず。途中にある小さな脇道に足を踏み入れると、美しい中庭や隠れ家的なトラットリアが見つかることも。こうした寄り道が、タオルミーナ散策の醍醐味と言えるでしょう。
グルメライターとして特に推したいのは、食材店です。ドライトマトのオイル漬けやピスタチオ・アーモンドのペースト、唐辛子入りサラミ、エトナ山麓で採れるハチミツなど、太陽の恵みをたっぷり浴びたシチリア産の食材が揃っています。お土産にすれば、日本でもシチリアの風を感じられますよ。
ギリシャ劇場 (Teatro Antico di Taormina) へのアクセス
4月9日広場からウンベルト1世通りを東方向(カターニア門方面)に進み、脇道へ入って坂をのぼると、タオルミーナ最大の見どころであるギリシャ劇場にたどり着きます。紀元前3世紀に古代ギリシャ人によって建設され、その後ローマ人により改築されたこの劇場は、現在もコンサートやオペラの舞台として利用されています。
この劇場の素晴らしさは、その背後に広がる景観にあります。観客席の最上段に立てば、円形の舞台、その背後に崩れた壁のアーチが見え、そのアーチのフレームの奥にイオニア海とエトナ山が見事に収まるのです。古代ギリシャの人々も、この壮大な景色を眺めながら演劇を楽しんでいたと思うと、感慨深い気持ちになります。ゲーテが『イタリア紀行』で「これほど素晴らしい観客席をもつ劇場は他にない」と称賛したのも納得です。
- チケット購入のポイント: ギリシャ劇場は非常に人気が高いため、特に観光シーズンにはチケット購入の行列が長くなることがあります。時間を有効に使うためにも、公式サイトでオンライン事前予約をするのがおすすめです。日時を指定して購入でき、スムーズに入場できます。詳しくはタオルミーナ古代劇場公式サイトをご覧ください。現地の窓口でも購入可能ですが、時間に余裕を持って訪れることをお勧めします。
市民公園 (Villa Comunale) でひと息
ウンベルト1世通りの賑わいから離れてゆったり過ごしたいなら、市民公園がおすすめです。4月9日広場から徒歩圏内にあり、静かな時間を過ごせる美しい庭園です。この公園は元々、イギリスの貴族女性フローレンス・トレヴェリヤンが自身の邸宅の庭として作り上げたもので、彼女の死後にタオルミーナ市に寄贈されました。
園内には、ヤシの木やブーゲンビリア、ハイビスカスなどの南国の植物に加え、世界各地から取り寄せられた珍しい樹木が植えられています。また、彼女の鳥好きが高じて作られた東洋風のユニークな塔(The Beehives)が点在し、異国情緒あふれる雰囲気を醸し出しています。園内の小径を散策すると、あちこちからイオニア海やエトナ山の絶景が楽しめ、ベンチに腰かけて景色を眺めるだけでも心が清められるようです。散策で疲れたら、この緑豊かなオアシスでゆっくりと休憩してみてはいかがでしょうか。
シチリアの胃袋を掴む!タオルミーナの食体験

食に情熱を注ぐ人々にとって、シチリアはまさに理想郷と言えます。アラブやギリシャ、スペインなど多様な文化が融合して生まれた独特の食文化は、素材の味を引き立てるシンプルながら深みのある料理が特徴です。タオルミーナにも、その魅力を心ゆくまで堪能できるレストランやトラットリアが数多く点在しています。
トラットリアで味わう、本格シチリア料理
タオルミーナでぜひ味わっていただきたい、代表的なシチリア料理をいくつかご紹介いたします。
- パスタ・アッラ・ノルマ (Pasta alla Norma): カターニア発祥のシチリアを代表するパスタ料理です。揚げナスとトマトソース、そして塩漬けリコッタチーズ「リコッタ・サラータ」が織りなす絶妙なハーモニーは格別。シンプルな構成ながら、素材それぞれの旨味が引き立て合い、忘れがたい味わいを生み出します。
- ペッシェ・スパーダ (Pesce Spada): メカジキのことを指し、シチリア近海で豊富に獲れます。グリルやカツレツ(コトレッタ)、またパン粉や松の実、レーズンなどを詰めて巻いたインヴォルティーニなど、多彩な調理法で楽しまれています。淡白ながらもしっかりとした旨味のある白身は、シチリア産の白ワインと非常に良く合います。
- アランチーニ (Arancini): 一種のライスコロッケで、サフランで色付けしたリゾットにラグーソース(ミートソース)やモッツァレラチーズを包み、パン粉をつけて揚げたものです。その名の通り「小さなオレンジ」のような丸い形が愛らしい、シチリアの定番ストリートフード。ちょっとした小腹満たしに最適です。
- カポナータ (Caponata): 揚げたナスをトマトや玉ねぎとともに、砂糖と酢で甘酸っぱく煮込んだ一品。前菜としてよく提供され、冷やして食べることが多いため、暑い季節に食欲を刺激します。店ごとに味付けが異なるため、食べ比べも楽しめます。
レストラン選びのポイントは、ウンベルト1世通りから一本入った小道を探すこと。メインストリート沿いは観光客向けの店が目立ちますが、少し路地に入れば地元住民に愛される、家庭的な雰囲気のトラットリアが見つかることが多いです。手書きのメニューやイタリア語のみで対応する店こそ、当たりの可能性が高いでしょう。
グルメライター隆が推薦するタオルミーナのお土産
旅の記念や大切な方への贈り物にぴったりの、タオルミーナで手に入るおすすめの食関連お土産をご紹介します。
- ピスタチオ製品: 繰り返し申し上げますが、ブロンテ産のピスタチオは特別です。このピスタチオをふんだんに使用したスプレッドは、パンに塗るだけでなくヨーグルトに加えても一気にシチリアの風味を楽しめます。濃厚な味わいは、一度味わうとやみつきになること請け合いです。
- アーモンド菓子 (Pasta di Mandorla): シチリアはアーモンドの名産地でもあります。アーモンド粉と砂糖、卵白を混ぜて焼き上げた「パスタ・ディ・マンドルラ」は、外はサクサク、中はしっとりとした食感が特徴の伝統的なお菓子です。見た目も可愛らしく、お土産として喜ばれる一品です。
- エトナ・ワイン: ヨーロッパ最大の活火山エトナ山の麓は、火山性土壌と標高の高さが相まって世界的なワイン産地として注目されています。ミネラル豊かでエレガントな白ワイン(エトナ・ビアンコ)、繊細さと力強さを兼ね備えた赤ワイン(エトナ・ロッソ)は、ワイン愛好者にはたまらない贈り物です。
- 塩漬けケッパーとオリーブ: シチリア料理には欠かせない名脇役です。特にサリーナ島産の塩漬けケッパーは香りが豊かで、パスタや魚料理に加えるだけでぐっと本格的な味わいになります。大粒かつ肉厚なオリーブの塩漬けもおすすめです。
- モディカ・チョコレート (Cioccolato di Modica): タオルミーナから少し離れたモディカの名産です。アステカ文明に由来する古代製法で作られており、低温で加工されるため砂糖が溶けきらず、ジャリジャリとした独特の食感が特徴。カカオの香りをストレートに感じられる、個性的なチョコレートです。
これらのお土産を持ち帰る際は、機内持ち込み液体制限(100ml以上の容器は預け荷物に)や、瓶製品が割れないよう衣類で包むなど、しっかりとした梱包にご注意ください。
トラブル回避術と知っておきたい基本情報

あなたのタオルミーナ滞在がより安全で快適なものとなるよう、移動手段や緊急時の対応方法など、実用的な情報をお届けいたします。
アクセス方法 – カターニアからタオルミーナへの行き方
タオルミーナへの入口となるのは、多くの場合カターニア・フォンターナロッサ空港(CTA)です。空港からタオルミーナへは、主に以下の手段があります。
- バス: 最も一般的で便利な移動手段です。Interbus社をはじめとするバス会社が、空港からタオルミーナへの直通バスを頻繁に運行しています。所要時間は約1時間半。チケットは空港到着ロビーの販売窓口やオンラインで購入可能です。バスはタオルミーナのバスターミナルに到着し、そこから徒歩または市バスで中心部へアクセスします。時刻表は変わる場合があるため、Interbus公式サイトで事前に最新情報を確認されることをおすすめします。
- 電車: 最寄り駅はタオルミーナ・ジャルディーニ駅(Taormina-Giardini)ですが、駅は海沿いの低地に位置しており、丘の上にある町の中心部まではバスかタクシーでおよそ15分かかります。乗り換えや移動の手間を考えると、空港からはバスの利用がより便利でしょう。
- タクシー/レンタカー: 費用は高めですが、荷物が多い場合やグループでの移動には適しています。ただし、タオルミーナの中心部はZTL(Zona a Traffico Limitato)と呼ばれる交通規制エリアに指定されており、許可のない一般車両は進入できません。レンタカー利用時には、滞在先のホテルの駐車場状況などをあらかじめしっかり確認しておくことが大切です。
知っておくと安心なイタリアの事情
- 治安: タオルミーナは比較的安全な観光地ですが、スリや置き引きといった軽犯罪はまったくないわけではありません。特に混雑しやすいウンベルト1世通りや広場周辺では、バッグは身体の前でしっかり抱える、貴重品は複数箇所に分けて管理するといった基本的な防犯対策を心がけましょう。
- トイレ: イタリアでは公衆トイレが少なく、あったとしても有料の場合が多いです。外出中はカフェやバール、レストランを利用した際にそこのトイレを借りるのが賢明で、何か飲み物や軽食を注文するのがマナーとなっています。
- 緊急時: パスポートを紛失したり盗難にあった場合は、まず最寄りの警察署(CarabinieriまたはPolizia)で紛失・盗難証明書を発行してもらいます。その後、ローマにある日本国総領事館に連絡し、帰国のための渡航書発給手続きについて指示を得てください。緊急連絡先や手続きの詳細は、渡航前に在イタリア日本国大使館のウェブサイトであらかじめ確認しておくと安心です。
- ストライキ(Sciopero): イタリアでは公共交通機関のストライキが比較的頻繁に発生します。特に移動日には、ニュースや交通機関の公式サイトを前もってチェックし、もしストライキにぶつかってしまった時のために代替ルートを確認し、余裕をもったスケジュールを立てておくことが重要です。
時を忘れるほどの美しさ、4月9日広場であなただけの物語を

陽光がきらめく昼下がり、夕暮れに染まる黄昏の時間、星空が広がる静かな夜。どのひとときに訪れても、4月9日広場は優しく私たちを包み込み、日常の慌ただしさを忘れさせてくれます。
ここはただの絶景スポットではありません。歴史の息吹を感じ取り、シチリアの陽気な人々の暮らしに触れ、何よりも自分自身の心と静かに向き合える場所です。カフェの椅子にゆったりと腰を下ろし、目を閉じてみてください。教会の鐘の響きや楽しげな人々の話し声、遠くに聞こえる波のさざめき、そして頬を撫でる地中海の風。五感すべてで、この土地の空気を存分に味わえます。
ガリバルディの解放を信じて歓喜に包まれた人々の思い。長い年月にわたりこの景色を愛でてきた数え切れない旅人たちのまなざし。それらすべてが、この広場の市松模様の石畳の下に、何重にも積み重なっているのです。
さあ、あなたもこの天空のテラスで、あなた自身の物語を紡いでみませんか。グラニータの甘さに舌鼓を打ち、アペリティーボを片手にエトナ山を眺め、大切な人と言葉を交わす。そんなささやかなひとときが、きっと人生のかけがえのない宝物となるでしょう。シチリアの太陽と海、そして4月9日広場があなたを待っています。









