イタリア本土、カラブリア半島のつま先から、わずか3キロの海を隔てて浮かぶシチリア島。その玄関口として、古くから人々と物資、そして文化が行き交う十字路であり続けた街、それがメッシーナです。多くの旅人は、この街をタオルミーナやパレルモへの通過点と捉えがちかもしれません。しかし、食品商社に勤め、世界中の食と文化の交差点を探し求める私にとって、メッシーナは素通りするにはあまりにも惜しい、深い魅力に満ちた宝箱のような場所なのです。
ここは、ギリシャ神話の怪物スキュラとカリュブディスが渦を巻いたとされる伝説の海峡。歴史の荒波に何度も呑まれながら、不死鳥のごとく蘇ってきた不屈の街。そして何より、海峡の豊かな恵みとシチリアの大地の幸が織りなす、独自の食文化が根付く美食の都でもあります。
この記事では、単なる観光スポットの紹介に留まりません。メッシーナの歴史と神話の息吹を感じながら街を歩き、グルメライターである私の舌を唸らせた絶品の郷土料理を味わい尽くし、旅の思い出を彩るお土産を見つける。そんな、五感をフルに使ってメッシーナを体験するための、具体的で実践的な旅のすべてをご案内します。さあ、神話と美食が交差する、シチリアの玄関口の扉を開けてみましょう。
メッシーナ、神話が息づく海峡の街

メッシーナについて語る際、その地理的特徴である「メッシーナ海峡」を抜きにすることはできません。この狭い海峡はティレニア海とイオニア海をつなぐ要所であり、古代から現代にかけて地中海の歴史を大きく動かしてきた重要な舞台です。激しい潮の流れは、古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』に登場する恐ろしい海の怪物の伝説を生み出しました。
スキュラとカリュブディスの伝説
英雄オデュッセウスが故郷へ向かう長い旅路で直面した最大の試練のひとつが、このメッシーナ海峡でした。海峡の一方の岸には6つの頭を持つ怪物スキュラが潜み、通りかかる船乗りを襲い食らいました。反対側の岸には、すべてを飲み込む巨大的な渦潮カリュブディスが口を開けていたと伝えられています。船乗りたちはどちらかの犠牲を覚悟するしかなく、そうでなければこの海峡を渡ることはできませんでした。
この神話は、メッシーナ海峡の複雑かつ危険な潮の流れを、古代人が巧みに表現したものです。実際、異なる潮流がぶつかり合うこの海峡では、今なお予測不能な渦が巻き起こることがあります。現代の私たちは大型フェリーで安全に海峡を渡れますが、かつて小舟で挑んだ船乗りたちの恐怖と畏敬の念を思い描きながらこの海峡を眺めると、その旅は一層奥深いものになるでしょう。スキュラはカラブリア側に、カリュブディスはシチリア側の岬にいるとされ、メッシーナの街はまさにカリュブディスが口を開ける岬の麓に広がっています。この神話の記憶は、街の空気や人々の心の中に今も静かに息づいています。
不死鳥のごとく蘇った街の歴史
メッシーナの歴史は神話の時代よりさらに古く、紀元前8世紀にギリシャ人入植者が築いた植民都市「ザンクレ」に遡ります。「ザンクレ」とはギリシャ語で「鎌」を意味し、天然の良港であるメッシーナ港の三日月形に由来しています。その後、古代ローマ、ビザンツ帝国、アラブ、ノルマンと支配者が次々と変わり、多様な文化がこの地に積み重なっていきました。中世にはシチリア王国の首都として繁栄を極め、地中海貿易の中心地となりました。
しかし、メッシーナの歴史は栄光ばかりではありません。何度も壊滅的な悲劇に見舞われてきました。特に記憶に新しいのは、1908年12月28日の早朝に起きたヨーロッパ史上最悪とも称される大地震です。マグニチュード7.1の揺れとそれに続く津波により、街は瓦礫の山と化し、10万人以上の尊い命が失われました。美しい中世の街並みや歴史的建造物のほとんども消失してしまいました。
現在のメッシーナの街を歩くと、道が碁盤の目のように整然と整備されていることに気づくでしょう。これは地震後の都市計画により耐震性を考慮して再建された結果です。一見すると、他のイタリアの古都にみられる迷路のような魅力は少ないかもしれません。しかし、その整然とした街並みは、大災害から立ち上がり未来へと歩みを進めてきたメッシーナ市民の不屈の精神の証しと言えます。瓦礫の中から救い出された美術品を収蔵する州立美術館を訪れたり、再建された大聖堂の前に立ったりすると、この街が背負ってきた重い歴史と、それを乗り越えた人々の強さを実感せずにはいられません。メッシーナは単に美しいだけの街ではなく、その背後にある喪失と再生の物語を知ることで、旅人の目に映る風景はより一層感動的なものとなるのです。
メッシーナの心臓部を歩く – 必見の観光スポット

地震によって多くの被害を受けたメッシーナですが、市民の誇りと熱意によって再建された見事な建築物が街の中心で私たちを迎えてくれます。まずは、この街の象徴ともいえる場所から散策を始めてみましょう。
空高くそびえる仕掛け時計 ― メッシーナ大聖堂(ドゥオーモ)
メッシーナの信仰と市民生活の中心に位置するのが、ドゥオーモ広場にそびえ立つ大聖堂です。正式名称は「サンタ・マリア・アッスンタ大聖堂」と呼ばれ、その歴史はノルマン時代にまでさかのぼります。しかし、1908年の大震災で完全に倒壊し、その後、オリジナルの姿を忠実に再現して再建されました。ところが第二次世界大戦中の空襲により再び甚大な被害を受け、戦後にさらに修復が行われたという、まさにメッシーナの苦難を象徴する教会です。
内部に入ると、質素ながらも厳かな空間が広がっています。しかし、この大聖堂の最大の見どころは、本堂の隣に立つ高さ60メートルの鐘楼に設置された「世界最大の天文時計」です。1933年にストラスブールのウンゲラー社によって制作されたこの時計は、単に時間を知らせるだけでなく、毎日正午の鐘を合図に約12分間もの壮大なショーが繰り広げられます。
**【Do情報】正午のショーをベストポジションで鑑賞するには**
メッシーナ観光のハイライトともいえるこの天文時計のショーは、ぜひ良い場所で見るように準備しましょう。
- 行動のタイミング: ショーは正午ちょうどに始まります。少なくとも11時45分までにはドゥオーモ広場に到着しておくことを強くおすすめします。観光シーズンは特に混雑が予想されます。
- 最適な鑑賞スポット: 広場中央にあるオリオンの噴水を背にし、鐘楼を見上げる位置が全体を見渡しやすいです。鐘楼に近づきすぎると上部の仕掛けが見えにくくなるため、少し離れた場所から全体を捉えるのがポイントです。
- ショーの見どころ: 正午の鐘が鳴り始めると、まず頂点のライオンが吠え、旗を振ります。続いてその下の雄鶏が鳴き声を上げ、羽根を広げます。それから次々と人形たちが動き出し、キリストの生涯の場面や聖母マリアに捧げられた手紙を運ぶ天使、そしてメッシーナの守護者たちが登場します。各動作には深い意味が込められており、まるで壮大な物語絵巻を観ているような感覚に浸れます。事前に少し仕掛けの内容を調べておくと、感動がより深まるでしょう。
**【Do情報】大聖堂見学の際のマナーと注意点**
神聖な祈りの場である大聖堂を訪れる際は、以下の点に気を付けましょう。
- 服装について: イタリアの多くの教会と同様、肌の露出が多い服装は避けるべきです。特に肩や膝が出るタンクトップやショートパンツでは入場を断られる場合があります。夏でもストールやカーディガンを一枚持参すると安心です。
- 静粛に振る舞う: ミサが行われていることもあるため、大声での会話は控え、静かに見学しましょう。
- 写真撮影のルール: 内部での写真撮影は許可されていることが多いですが、フラッシュは禁止されています。また、祈っている人たちへカメラを向けることは絶対に避けてください。
- 鐘楼への入場: 鐘楼に登って時計の仕掛けを間近に見ることも可能です。チケットは鐘楼入口の券売所で購入できます。階段の段数が多いため、歩きやすい靴を履いて行くことをおすすめします。詳細な時間や料金は変動することがあるため、事前にメッシーナ公式観光サイトで確認しておくとよいでしょう。
ドゥオーモ広場とオリオンの噴水
大聖堂の正面に広がるドゥオーモ広場は、市民の憩いの空間になっています。カフェのテラス席では地元の人々がエスプレッソ片手に談笑を楽しんでいます。広場の中央に位置し、大聖堂と向かい合う形で立っているのが「オリオンの噴水(Fontana di Orione)」です。
この噴水は、ルネサンス期を代表する彫刻家の一人で、ミケランジェロの弟子でもあったジョヴァンニ・アンジェロ・モントルソリによって1553年に作られました。1908年の大震災の際も大きな損壊を免れた、メッシーナが誇る芸術品です。噴水の頂点には街の創始者とされる神話の巨人オリオンの像が立ち、その下にはナイル川、ティグリス川、エブロ川、そして地元のカマロ川を擬人化した彫像が配されています。流れる水と精巧な彫刻が織りなす調和は圧巻のひとこと。正午の天文時計ショーを待つ間に、噴水の周りで腰をおろし、水のせせらぎを聞きながらルネサンスの巨匠たちの息吹を感じてみるのもおすすめです。
海峡を見守る黄金の聖母像 ― マドンナ・デッラ・レッテル
メッシーナ港の入口、サン・ラニエーリ半島の先端には、天に手を広げた巨大な黄金の聖母像が立っています。こちらは「マドンナ・デッラ・レッテル(手紙の聖母)」と呼ばれ、船乗りや市民の守護者として優しく見守り続けています。
像は高さ60メートルの石柱の上に立ち、聖母像自体は7メートルあります。台座部分にはラテン語で「VOS ET IPSAM CIVITATEM BENEDICIMUS」と刻まれており、「我は汝らと汝らの街を祝福する」という意味です。これは聖母マリアがメッシーナの人々に宛てた手紙の一節という伝説に由来し、多くの苦難を経験してきた市民にとって大きな精神的支柱となってきました。
**【Do情報】聖母像を美しく撮影するポイント**
この象徴的な聖母像を美しく写真に収めるには、いくつかおすすめのスポットがあります。
- ヴィットーリオ・エマヌエーレ2世通り: 港沿いを走るこの通りからは、海峡と聖母像を同じ構図に収めることができます。特に夕暮れ時、夕日に照らされて黄金色に輝く姿は息をのむ美しさです。
- フェリーの船上から: イタリア本土からフェリーでメッシーナに入るときや、メッシーナから出航する際に船上から見る聖母像は格別です。徐々に近づいたり遠ざかったりするその姿は、旅の始まりと終わりをより一層印象深いものにしてくれます。
- 丘の上の展望台: 市街地から少し足を伸ばして、「クリスト・レの聖堂(Sacrario di Cristo Re)」のある丘に登ると、メッシーナの港や街並み、そして聖母像の絶景が楽しめます。やや坂道を上る必要がありますが、その眺望は十分に行く価値があります。
グルメライターが唸る!メッシーナの食を巡る旅

お待たせしました。ここからは私の真骨頂、メッシーナの美食世界へとご案内いたします。シチリア料理とひとまとめにされがちですが、メッシーナにはこの地特有の海峡の恵みと長い歴史が育んだ独自の食文化が息づいています。
メッシーナ海峡の恵み - 海産物の饗宴
豊かな漁場に面するメッシーナでは、魚介料理が絶品であるのは当然のこと。中でも街の象徴的な魚と言えるのが「メカジキ(Pesce Spada)」です。春から夏にかけて、メッシーナ海峡を回遊するメカジキを、「フェルーカ」と呼ばれる見張り台の付いた特殊な船で追いかける伝統的な漁法は現在も脈々と受け継がれています。
メッシーナのトラットリアに足を踏み入れると、ほぼ間違いなくメカジキを使った料理が並んでいます。ぜひ味わっていただきたいのが「インヴォルティーニ・ディ・ペッシェ・スパーダ(Involtini di Pesce Spada)」。これは薄くスライスしたメカジキで、パン粉、松の実、レーズン、パセリ、チーズなどを混ぜたフィリングを巻き、串に刺してグリルやオーブンで焼いた一品です。淡白なメカジキの旨味に香ばしいフィリングの風味とほのかな甘みが見事に調和し、白ワインがつい進んでしまう味わい。レーズンの使用に見られるように、かつてこの地を支配したアラブ文化の影響が感じられます。
もうひとつ、メッシーナ独自のパスタが「パスタ・アッラ・ノルマ・コン・ペッシェ・スパーダ」。カターニア発祥で、揚げナスとトマトソース、リコッタ・サラータを使う「アッラ・ノルマ」と呼ばれるパスタに、メッシーナ流の工夫として角切りのメカジキを加えたものです。トマトの酸味とナスの甘み、メカジキの旨味が三位一体となり、忘れがたい味わいを生み出しています。
**【Do情報】美味しいトラットリアの見つけ方**
有名店も良いですが、地元の人に愛される真の味に出会うために、以下のポイントを押さえてみてください。
- 予約がおすすめ: 小さな人気店はすぐ満席になるため、特にディナータイムは、当日の昼か前日までに電話で予約(Prenotare / プレノターレ)しておくのが賢明です。
- 「本日の魚」を尋ねる: メニューを見るのも良いですが、「Pesce del giorno?(ペッシェ・デル・ジョルノ? / 今日の魚は何ですか?)」と聞いてみましょう。その日に水揚げされた最も新鮮な魚を、一番おいしい調理法で用意してくれるはずです。
- 地元の活気を探す: 港の近くや観光客で賑わう通りから少し入った路地に、隠れた名店が多くあります。地元の人で賑わう店はまず間違いありません。遠慮せずにドアを開けてみてください。
ストリートフードの王者 - アランチーノとピットーネ
シチリアの旅で楽しみのひとつが、安くて美味しいストリートフードの食べ歩きです。もちろんメッシーナにも、小腹が空いた際にぴったりの絶品グルメがあります。
シチリア名物のライスコロッケ「アランチーノ(Arancino)」。パレルモなど西部では「アランチーナ」と呼ばれ丸い形をしていますが、メッシーナを含む東部では「アランチーノ」と称され、エトナ山を模したとされる円錐形が一般的です。中の具材は定番のラグー(ミートソース)ほか、ピスタチオやハムとモッツァレラなど、多彩なバリエーションが店ごとに楽しめます。
しかし、メッシーナに訪れたら絶対に味わいたいのが、この地だけで食べられるストリートフードの王様、「ピットーネ・メッシネーゼ(Pitone Messinese)」です。ピザの生地のようなものを半月形に折りたたみ、中にアンチョビ、スカローラ(エンダイブの一種)、トマト、そしてトゥーマというフレッシュチーズを詰めて揚げた、揚げカルツォーネのような料理。熱々を頬張れば、生地のサクッとした食感の中からアンチョビの塩気と野菜のほのかな苦味、そしてとろりと溶けたチーズがあふれ出します。この絶妙な組み合わせはたまらず、ビールとの相性も抜群で、一度味わえば病みつきになること間違いなしです。
**【Do情報】揚げたてを狙うコツ**
アランチーノもピットーネも、街角の「ロスティッチェリア(Rosticceria)」と呼ばれる惣菜屋やバールで手に入ります。最高の味を楽しむには何より「揚げたて」を狙うことがポイント。ショーケースのものも十分美味しいですが、タイミングが合えば厨房から揚げたてを取り出す瞬間に遭遇できるかもしれません。「Appena fatto?(アッペーナ・ファット? / 出来たてですか?)」と聞くのもおすすめです。地元客がひっきりなしに買う店は回転が早く、常に出来たてを提供している証しです。
甘美な誘惑 - グラニータと伝統菓子
南イタリアの強い陽射しの中で欠かせないのが冷たいデザート。メッシーナはシチリア州内でも特に「グラニータ(Granita)」の美味しさで知られています。日本の「かき氷」とは異なり、果汁やコーヒーなどを凍らせながら何度もかき混ぜて作るため、シャーベットのようになめらかでありながらも氷のシャリシャリ感が残っているのが特徴です。
シチリアの他の街ではレモンやアーモンド味が定番ですが、メッシーナのグラニータの王者は何と言っても「コーヒー味(Granita al caffè)」。注文の際の決まり文句は「コン・パンナ(con panna)」。つまりたっぷりの生クリームを添えるのがメッシーナ流です。さらに地元の人はこれをふわふわのブリオッシュ(Brioche col Tuppo)と一緒にオーダーし、ブリオッシュをちぎってグラニータやクリームに浸して味わいます。これが夏の定番朝食。濃厚なコーヒーの風味と甘いクリーム、リッチなブリオッシュが一体となった味は、まさに至福のひとときです。
甘いもの好きの方は、メッシーナならではの伝統菓子にもぜひ挑戦を。「ピニョラータ(Pignolata)」は松ぼっくりのような形をした揚げ菓子で、片面をチョコレート、もう片面をレモン風味のアイシングで覆った、見た目にも個性的な一品。「ビアンコ・エ・ネロ(Bianco e Nero)」はシュークリームのような生地にクリームを詰め、チョコレートとアイシングで白と黒のコントラストを演出したお菓子です。どちらもかなり甘めですが、濃厚なエスプレッソとの相性は抜群です。
旅の実用情報 – メッシーナを賢く楽しむために

メッシーナの魅力を余すところなく楽しむには、事前の準備と情報収集が欠かせません。ここでは、アクセス方法から市内の移動手段、トラブル対策まで、旅を快適に進めるための実用的な情報をご紹介します。
メッシーナへのアクセス
シチリアの玄関口であるメッシーナは、イタリア本土からはもちろん、シチリア島内の各都市からもアクセスが非常に便利です。
**イタリア本土からフェリーでのアクセス**
メッシーナへの代表的な交通手段は、カラブリア半島のヴィッラ・サン・ジョヴァンニ(Villa San Giovanni)からフェリーでメッシーナ海峡を渡るルートです。
- 具体的な流れ(チケット購入から乗船まで):
- フェリー会社: この航路を運航している主な会社はCaronte & Touristです。公式ウェブサイトから時刻表の確認やオンラインでのチケット購入が可能です。
- チケット購入: チケットはウェブサイトでの事前購入のほか、ヴィッラ・サン・ジョヴァンニの港にある窓口でも直接購入できます。自動車で乗船する際には車種を申告する必要がありますが、徒歩乗船も問題ありません。
- 乗船: フェリーは24時間運航され、特に日中は20〜40分間隔で頻繁に出航しています。所要時間は約20分と短く、船上のデッキから本土が遠ざかりシチリア島が近づく様子や、黄金の聖母像を眺めることができるこの瞬間は、旅の思い出に特別な彩りを添えます。
- 注意事項: 特に夏のバカンスシーズンは車での乗船は混雑が予想されるため、余裕を持って港に到着することをおすすめします。
**シチリア島内の各都市からのアクセス**
- 鉄道: カターニアやタオルミーナ、パレルモ、シラクーサといった主要都市は鉄道で結ばれており、メッシーナ中央駅(Messina Centrale)は港や市街地の中心に近く大変便利です。イタリア国鉄Trenitaliaの公式サイトやアプリで、時刻検索やチケット予約がスムーズに行えます。早期予約でSuper Economyなどの割引もあるため、予定が決まり次第チェックするのが賢明です。
- バス: 鉄道網を補完する形で、各都市間には長距離バスが運行されています。SAIS Autolineeなどのバス会社が主な路線を担当し、鉄道よりも安価な場合もあります。多くのバス停はメッシーナ中央駅近くにあるため、乗り換えも簡単です。
市内の移動手段
メッシーナの主要な観光スポットは、メッシーナ中央駅や港から徒歩圏内に集まっています。ドゥオーモ広場やショッピングストリートなどを訪れるだけなら、徒歩での移動が最も便利です。
より遠い場所へ行く際には、トラム(Tram)や市バスが役立ちます。
- 公共交通機関の利用方法のポイント:
- チケット購入場所: バスやトラムの車内でチケットを買うことはできません。乗車前に、街角の「タバッキ(Tabacchi)」というタバコ屋や一部のバール、駅の券売機などで購入する必要があります。購入時は「Biglietto per autobus/tram, per favore.(ビリエット・ペル・アウトブス/トラム、ペル・ファヴォーレ)」と伝えれば通じます。
- 刻印の重要性: 乗車したらすぐ、車内に設置されている黄色やオレンジの小さな機械にチケットを通し、乗車日時を刻印(バリデート)しなければなりません。これを忘れると、正規のチケットを持っていても無賃乗車とみなされ、検札員に発見されると高額な罰金が科せられます。必ず乗車直後に刻印を行いましょう。
準備しておきたい持ち物と心構え
メッシーナで快適に過ごすために準備したい持ち物や心得です。
- 持ち物リスト:
- 歩きやすい靴: 石畳の道が多いため、スニーカーやウォーキングシューズが必須です。
- 日焼け対策用品: 夏は日差しが強いので、帽子やサングラス、日焼け止めを忘れずに持参しましょう。
- 羽織るもの: 教会内の服装規定に対応したり、朝晩の冷え込みや冷房対策に薄手のカーディガンやストールがあると便利です。
- 現金: 小さな個人商店や市場、一部のバールではクレジットカードが使えないことがあるため、少額の現金を用意しておくと安心です。
- エコバッグ: 市場や店での買い物に便利です。
- モバイルバッテリー: 地図アプリや写真撮影でスマホのバッテリー消耗が早いため、携帯充電器は持っておくと安心です。
- 心構え: 南イタリアには「シエスタ(またはリポーズ)」という習慣が根強く、多くのお店が午後1時頃から4時頃まで昼休みで閉まります。この時間は無理に外出せず、ホテルで休んだりカフェでゆったり過ごすなど、現地のリズムに合わせることが旅を満喫する秘訣です。また、レストランのディナーは日本より遅い夜8時以降に始まることが多い点も頭に入れておきましょう。
トラブル回避のポイント
楽しい旅を損なわないために、注意したい点をいくつかご紹介します。
- スリ・置き引きへの警戒: これはイタリア全土で共通の注意点ですが、とくに混雑した場所では警戒が必要です。バッグは抱えるように前に持ち、ファスナーは必ず閉めておきましょう。カフェやレストランで席を離れるときは、バッグを椅子にかけたままにしないことが大切です。貴重品は一か所にまとめず、複数に分けて持つのが基本です。
- ストライキ(Sciopero)情報のチェック: イタリアでは公共交通機関のストライキが比較的起こりやすいため、旅行前にニュースサイトなどで最新情報を確認しましょう。滞在中にストライキ予定がある場合は、別の交通手段(他社の交通機関やタクシー)を検討したり、予定を柔軟に調整するとよいでしょう。
- トラブル時の対処法: 万が一パスポートの紛失や盗難に遭った場合は、まず最寄りの警察署(Questura)で紛失・盗難証明書を発行してもらい、その後ローマの在イタリア日本国大使館に連絡し、指示を仰いでください。あらかじめパスポートのコピーや証明写真の予備を用意しておくと、緊急時の手続きが円滑になります。
メッシーナから足を延ばして

メッシーナは、シチリア東部の魅力溢れる町々へアクセスする拠点として最適な場所です。時間に余裕があるなら、ぜひ日帰りで気軽にショートトリップを楽しんでみてください。
紺碧の海に浮かぶ宝石・タオルミーナ
メッシーナから気軽に訪れることができる人気の観光スポットが、イオニア海を望む断崖に位置するリゾートタウン、タオルミーナです。ゲーテやワイルドをはじめとする多くの文豪たちを魅了してきたその景観は、まさに絶景そのものです。
タオルミーナの見どころは、言うまでもなく「ギリシャ劇場(Teatro Greco)」です。古代ギリシャ時代に築かれ、その後ローマ時代に改修が施された劇場は、保存状態が極めて良好なだけでなく、背景に広がるイオニア海の深い青と雄大なエトナ山が美しい借景を形成し、他に類を見ない感動的な景色を生み出しています。
市街地の中心を走るウンベルト1世通りには、お洒落なブティックやカフェ、ジェラート店が軒を連ねており、散策するだけでも心が躍ります。また、ケーブルカーで下ると「イソラ・ベッラ(Isola Bella)」と呼ばれる「美しい島」に到着します。干潮時には歩いて渡ることができ、透明度の高い海での水遊びも楽しめます。
- 交通情報(メッシーナからのアクセス):
- メッシーナ中央駅からタオルミーナ・ジャルディーニ(Taormina-Giardini)駅へは、鉄道(Trenitalia)で約40分から1時間。列車の本数も多く、最も便利かつ快適な移動手段です。
- タオルミーナ・ジャルディーニ駅は海岸沿いに位置しているため、丘の上にある市街地中心部へは駅前のバスに乗り換える必要があります。
神々が住まう山・エトナ火山
シチリアの象徴であり、現在も活動を続けるヨーロッパ最大の活火山、エトナ火山。その荒々しくも雄大な姿は、タオルミーナやメッシーナから眺めることができます。メッシーナからはやや距離がありますが、その大自然に触れるツアーに参加する価値は十分にあるでしょう。
エトナ火山は単なる山ではありません。標高ごとに植生が大きく変わり、麓には肥沃な火山性土壌を活かしてブドウやピスタチオ、柑橘類の畑が広がっています。特に、エトナの斜面で生産される「エトナDOC」ワインは、近年国際的に高い評価を得ており、ワイナリー訪問やテイスティングもおすすめの体験です。
- 注意事項(エトナ火山へ訪れる際):
- ツアー利用がおすすめ: メッシーナから個人で山頂付近まで行くのはやや難易度が高いため、現地ツアー会社が催行する日帰りツアーを利用するのが最も効率的かつ安全です。ジープで火口跡を巡ったり、溶岩洞窟を探検するなど、個人では体験しにくいプログラムが組まれています。
- 服装のポイント: 山頂付近は夏でも気温が低く、風も強いため、防寒着(フリースやウインドブレーカーなど)を必ず用意してください。足元は火山岩で滑りやすいため、トレッキングシューズやしっかりとした底の靴が必須です。
旅の記憶を形に – メッシーナのお土産選び

旅の終わりには、その土地ならではの香りを持ち帰りたくなるものです。グルメライターの私がメッシーナで出会った、日常や食卓を豊かに彩る特別なお土産をご紹介します。
食卓を華やかにする逸品たち
メッシーナの美味を日本へ持ち帰り、旅の思い出に浸りましょう。
- メカジキの加工品: 新鮮なメカジキ自体は持ち帰れませんが、オリーブオイル漬けや燻製(affumicato)にした瓶詰や真空パックなら問題ありません。パスタに絡めたり、サラダやブルスケッタのトッピングにしたりと、使い勝手も抜群です。
- 地元産ワイン: シチリア北東部のメッシーナ周辺は、古くから続くワイン産地「ファロ(Faro)DOC」の地です。生産量が限られ希少価値が高いですが、見つけたらぜひ手に入れたい赤ワインです。また、少し足を伸ばしたエトナ山の麓で造られる「エトナ・ロッソ」や「エトナ・ビアンコ」もミネラル豊かで素晴らしい味わいを楽しめます。
- ピスタチオクリーム: シチリアはピスタチオの名産地で、濃厚で香り高いピスタチオクリームはパンに塗ったりお菓子作りに使用したり、幸せな甘みをもたらしてくれます。
- 塩漬けケッパーやオリーブ: サリーナ島など近隣の島々で採れる塩漬けケッパーは粒が大きく、風味が豊かで料理のアクセントに重宝します。大振りのオリーブもおつまみとして最適です。
- 購入時のポイント:
- 瓶詰めのオリーブオイルやワインなど液体状のものはスーツケースに入れて預け荷物にする必要があり、機内持ち込みは制限されていますのでご注意ください。
- 良質な食材を求めるなら、地元の人が利用する食料品店「サルーメリア(Salumeria)」や、午前中に開かれる市場(メルカート)を訪ねるのがおすすめです。
シチリアの魂が息づく工芸品
食べ物以外にも、シチリアならではの文化を感じられる魅力的なお土産があります。
- マヨルカ焼きの陶器: 鮮やかな色彩と独特のデザインで知られるシチリア陶器は、お皿やカップ、タイルなど食卓や室内を明るく彩ってくれます。
- テスタ・ディ・モーロ(Testa di Moro): 「ムーア人の頭」を模したエキゾチックで印象的な陶器のオブジェ。植木鉢や花瓶として使われることが多く、シチリアの家のバルコニーでよく見かけます。裏切りに対する復讐を題材とした、少し物悲しい伝説もこの品の背景にあり、シチリアの歴史の一端を感じさせます。
これらの工芸品はすべて職人の手作業によって作られており、同じものは二つとありません。時間をかけてあなた自身のお気に入りを見つけるのも、旅の醍醐味のひとつです。
海峡の風が誘う、次なる旅路へ

メッシーナの街を歩き、その歴史に触れ、海峡がもたらす恵みを心ゆくまで味わった今、この町が単なる「シチリアの玄関口」ではないということを、きっと実感されたことでしょう。
神話の時代からの力強い息吹や、大災害を乗り越えた人々の不屈の精神、そして日常生活に深く根づいた豊かな食文化。これらすべてが、メッシーナ海峡から吹き渡る風のように融合し、この街独自の独特な雰囲気を形作っています。
正午の鐘とともに動き出す大聖堂の仕掛け時計に目を奪われ、熱々のピットーネを頬張り、海を見つめる黄金の聖母像に旅の安全を祈る。こうした一つひとつの体験が、心に深く刻まれていくことでしょう。
メッシーナは決して派手な観光スポットとは言えないかもしれません。しかし、じっくり腰を据えて向き合えば、その奥深い魅力がじんわりと心に染み渡ります。まさに、味わい深い街なのです。この地で満たされた心と胃袋は、きっとあなたをシチリアのさらに奥地へ、そして新たな旅路へと誘うに違いありません。海峡の風を感じながら、あなただけの物語を紡ぎに、ぜひメッシーナを訪れてみてください。









