ヨーロッパとアジアの境界線に、まだ多くの日本人旅行者が知らない宝石のような国があります。コーカサス山脈の懐に抱かれ、黒海の風に吹かれるその国の名は、ジョージア。かつて「グルジア」と呼ばれていたこの小さな国が、いま世界中のバックパッカーや美食家たちの間で「次に行くべき旅先」として急速に注目を集めています。
8000年前から続くワイン造りの伝統、思わず声が漏れるほどの山岳絶景、そして一度食べたら忘れられないチーズたっぷりの郷土料理。この記事では、まだガイドブックには載りきらないジョージアの魅力を、アクセスから予算、モデルコースまで徹底解説します。次の旅の目的地を探しているあなた、きっとこの国に恋をするはずです。
ジョージアってどんな国?知っておきたい基本情報
ジョージアは、コーカサス地方の南に位置する人口約370万人の小さな国です。北にロシア、南にトルコとアルメニア、東にアゼルバイジャンと国境を接し、西は黒海に面しています。面積は北海道よりやや小さいほどですが、その中に5000m級の山々から亜熱帯の海岸線まで、驚くほど多彩な自然が凝縮されています。
公用語はジョージア語(カルトゥリ語)で、独自の文字体系を持っています。丸みを帯びたジョージア文字は、世界で最も美しい文字のひとつとも称され、街を歩いているだけで異世界に迷い込んだような感覚を味わえます。宗教はキリスト教(ジョージア正教)が主流で、4世紀にキリスト教を国教として受け入れた世界最古のキリスト教国のひとつでもあります。
通貨はラリ(GEL)で、2026年2月現在、1ラリはおよそ55円前後。物価は西ヨーロッパの3分の1程度と非常にリーズナブルで、コスパの良さも旅人に愛される理由のひとつです。
世界最古のワイン文化|8000年の歴史が生きるクヴェヴリ製法
ジョージアが「ワイン発祥の地」と呼ばれていることをご存知でしょうか? 2017年、ジョージア国内の遺跡から約8000年前のワイン醸造の痕跡が発見され、世界最古のワイン生産地であることが科学的に裏付けられました。
特に注目すべきは、「クヴェヴリ」と呼ばれる素焼きの大きな甕(かめ)を地中に埋めてワインを発酵・熟成させる伝統的な製法です。この技法は2013年にユネスコの無形文化遺産にも登録されており、現代のジョージアワイナリーでも脈々と受け継がれています。
ジョージアワインの最大の特徴は、「アンバーワイン(オレンジワイン)」の存在です。白ブドウを果皮や種ごとクヴェヴリで長期間漬け込むことで生まれる琥珀色のワインは、複雑で深みのある味わい。一口含めば、フルーツの華やかさとほのかな渋み、ナッツのような余韻が口の中に広がります。
カヘティ地方を訪れれば、ブドウ畑が広がるのどかな風景の中で、家族経営の小さなワイナリーを巡ることができます。試飲はほとんどの場合無料で、オーナーが自慢のワインを次々と注いでくれる温かいもてなしに、きっと心まで酔いしれることでしょう。
絶対に訪れたい!ジョージアの必見スポット
トビリシ旧市街|東西文化が溶け合うカオスな首都
首都トビリシは、ジョージア旅行の玄関口であり、最大の見どころでもあります。クラ川の両岸に広がる旧市街は、カラフルなバルコニー付きの伝統家屋、ペルシャ様式のハマム(公衆浴場)、ロシア帝国時代の壮麗な建築、そしてモダンなガラスの「平和の橋」が混在する、まさに東西文化のるつぼです。
旧市街の頂上に佇むナリカラ要塞からの眺望は圧巻。赤レンガの屋根が連なる街並みの向こうに、雪を冠ったコーカサスの山々が広がります。夜にはライトアップされた街がクラ川に映り込み、息を呑むような幻想的な光景が楽しめます。
ぜひ体験してほしいのが、トビリシ名物の硫黄温泉です。アバノトゥバニ地区には、ドーム型の屋根が特徴的な伝統的浴場が並び、かの文豪プーシキンも「トビリシの温泉ほど素晴らしいものはない」と絶賛したと伝えられています。個室のプライベートバスなら15〜30ラリ(約800〜1,650円)ほどで利用でき、旅の疲れを癒すには最高のひとときです。
ムツヘタ|世界遺産の古都で祈りの風景に出会う
トビリシから車でわずか30分、かつてのジョージア王国の首都ムツヘタは、国全体のキリスト教信仰の原点ともいえる聖地です。ユネスコ世界遺産に登録されたスヴェティツホヴェリ大聖堂は、4世紀に建てられたジョージア最古の教会のひとつ。キリストの聖衣が埋められているという伝説が残り、今なお多くの巡礼者が祈りを捧げに訪れます。
丘の上に建つジュワリ修道院からは、アラグヴィ川とクラ川が合流する壮大なパノラマが一望でき、その神々しい風景はジョージアを象徴するアイコニックな絶景として知られています。
カズベギ(ステパンツミンダ)|天に最も近い教会
トビリシから北へ約3時間、ジョージア軍用道路を北上すると、標高5047mのカズベギ山の麓に小さな町ステパンツミンダが現れます。ここでの最大の見どころは、標高2170mの丘の上に凛と立つゲルゲティ三位一体教会です。
雲海の上に浮かぶように佇む白い教会の姿は、まさに「天空の教会」。晴れた日にはカズベギ山の巨大な白い山頂を背景に、息を呑む絶景が広がります。ここまでの道のりは徒歩で片道約1時間半のトレッキング。体力に自信がない方は、現地の四駆タクシー(往復60〜80ラリ程度)を利用すれば山頂近くまでアクセスできます。
シグナギ|「愛の街」で過ごすロマンティックな一日
カヘティ地方の丘の上に佇む小さな城壁都市シグナギは、「愛の街」という別名を持っています。その理由は、24時間いつでも結婚届を受理してくれる「結婚の宮殿」があるから。世界中からカップルが駆け込み婚をしにやってくるというロマンティックなエピソードも。
レンガ色の屋根が連なる旧市街を散策すれば、アラザニ渓谷とコーカサス山脈を一望できるパノラマビューが待っています。ワイン産地の中心地でもあるため、テラス席でジョージアワインを傾けながら夕陽を眺める贅沢なひとときが楽しめます。
ジョージア料理の魅力|一度食べたら忘れられない絶品グルメたち
ジョージアを訪れた旅人が口を揃えて言うのが、「料理が驚くほどおいしい」ということ。ジョージア料理は、トルコ、ペルシャ、ロシアなど周辺国の影響を受けつつも、独自の進化を遂げた唯一無二の食文化です。
ハチャプリ|ジョージアのソウルフード
パン生地の中にたっぷりのチーズを包み込んで焼き上げるハチャプリは、ジョージアの国民食。地方ごとにさまざまなバリエーションがありますが、特に有名なのがアジャラ地方発祥の「アジャルリ・ハチャプリ」。舟形のパンの中に溶けたチーズ、バター、そして半熟の卵がのった姿は、見た目のインパクトも抜群です。ナイフで卵を崩しながら、熱々のチーズパンに絡めて食べる幸福感は、言葉では言い表せません。
ヒンカリ|ジューシーな小籠包の親戚
ジョージア版の餃子ともいえるヒンカリは、スパイスの効いた肉汁たっぷりの具をもっちりした皮で包んだ料理。食べ方にはコツがあり、まずひだの部分をつまんで持ち上げ、小さく噛み切って中のスープをすすり、それから具と皮を味わいます。一つひとつが手のひらサイズで食べ応え満点。地元の人は一人で10個以上ペロリと平らげるそうです。
シュクメルリ|日本でも話題になったあの料理
にんにくたっぷりのクリームソースで鶏肉を煮込んだシュクメルリは、日本でも某牛丼チェーンがメニューに取り入れて話題になりました。本場のシュクメルリは、素焼きの器ごとオーブンで焼き上げるスタイルで、ガーリックの香りが食欲を刺激する一品。パンでソースを拭って食べるのがジョージア流です。
スプラ|ジョージア流の宴会文化
ジョージアの食文化を語るうえで欠かせないのが「スプラ」と呼ばれる伝統的な宴会です。「タマダ」と呼ばれる乾杯の音頭をとる役割の人が、家族への愛、友情、平和など、さまざまなテーマで美しい乾杯の辞を述べ、参加者全員がワインを飲み干します。旅行中にレストランや民泊先でスプラに招かれる機会があれば、ぜひ参加してみてください。ジョージアのホスピタリティの真髄を肌で感じられる、忘れられない体験になるはずです。
ベストシーズンと気候|いつ行くのがおすすめ?
ジョージアのベストシーズンは、春(4月〜6月)と秋(9月〜10月)です。
春は花々が咲き乱れ、山々の雪解けが始まる美しい季節。気温も15〜25℃と過ごしやすく、トレッキングにも最適です。秋はブドウの収穫期「ルトヴェリ」にあたり、ワイナリー巡りを楽しむなら最高のタイミング。カヘティ地方の紅葉に染まるブドウ畑は、ため息が出るほどの美しさです。
夏(7月〜8月)はトビリシが35℃を超える猛暑になることも。ただし、カズベギなどの山岳地帯は涼しく、避暑地として人気があります。冬(12月〜2月)は寒さが厳しいものの、グダウリなどのスキーリゾートが賑わいを見せます。
アクセス・ビザ情報|日本からジョージアへの行き方
日本からジョージアへの直行便は就航していませんが、イスタンブール(ターキッシュエアラインズ)やドバイ(フライドバイ)、ドーハ(カタール航空)経由でアクセスできます。所要時間は乗り継ぎ含めて約15〜20時間程度。
日本国籍の方は、観光目的であれば1年間ビザなしで滞在可能という、驚くほど寛大なビザポリシーが適用されます。パスポートの残存有効期間が入国時に6か月以上あれば、特別な手続きなしで入国できます。
トビリシ国際空港(ショタ・ルスタヴェリ空港)から市内中心部までは約20km。空港バス(37番)を利用すれば1ラリ(約55円)で市内へアクセスできるほか、タクシーでも30〜40ラリ(約1,650〜2,200円)程度とリーズナブルです。
旅の予算目安|コスパ最強の旅先
ジョージアの最大の魅力のひとつが、その圧倒的なコストパフォーマンスです。1日の目安予算は以下の通りです。
- 宿泊:ホステルのドミトリーなら20〜40ラリ(約1,100〜2,200円)、中級ホテルやゲストハウスなら80〜150ラリ(約4,400〜8,250円)
- 食事:ローカルレストランでの1食は10〜25ラリ(約550〜1,375円)。ハチャプリやヒンカリは5〜15ラリ(約275〜825円)で楽しめます
- 交通:市内の地下鉄・バスは1回1ラリ(約55円)。都市間のマルシュルートカ(ミニバス)も10〜25ラリ程度
- ワイナリー見学:無料〜30ラリ(試飲込み)
1日あたり5,000〜8,000円もあれば、充実した旅が楽しめます。西ヨーロッパ旅行の半分以下の予算で、それ以上の感動が得られる旅先、それがジョージアです。
2泊3日モデルコース|はじめてのジョージアを満喫
Day 1:トビリシ旧市街を歩き尽くす
午前中はナリカラ要塞とその周辺の旧市街を散策。ロープウェイで要塞まで上がれば、市内を一望できる絶景パノラマが楽しめます。昼食は旧市街のレストランでハチャプリとヒンカリを堪能。午後はアバノトゥバニの硫黄温泉でリラックスし、夕方からはルスタヴェリ通りのカフェやバーでジョージアワインを楽しみましょう。
Day 2:世界遺産ムツヘタ&カズベギ日帰りツアー
早朝にトビリシを出発し、まずムツヘタのスヴェティツホヴェリ大聖堂とジュワリ修道院を見学。その後、ジョージア軍用道路をドライブしてカズベギへ。途中、アナヌリ城塞やジンヴァリ貯水池の絶景ポイントにも立ち寄ります。ゲルゲティ三位一体教会の圧倒的な景色を堪能したら、夕方トビリシに帰着。ツアーは現地旅行会社で80〜120ラリ(約4,400〜6,600円)で参加できます。
Day 3:カヘティ地方でワイナリー巡り
トビリシからカヘティ地方へ日帰りドライブ。シグナギの城壁都市を散策した後、周辺のワイナリーを2〜3軒ハシゴ。クヴェヴリ製法の伝統ワインを試飲しながら、ブドウ畑の絶景を楽しみます。昼食はワイナリー併設のレストランで、ジョージア料理のフルコースとワインのペアリングを。
旅の注意点と持ち物アドバイス
言語について
英語は若い世代やツーリストエリアではある程度通じますが、地方ではジョージア語オンリーの場面も。Google翻訳のオフラインパック(ジョージア語)をダウンロードしておくと安心です。指さし会話帳も役立ちます。
服装のポイント
教会や修道院を訪れる際は、女性はスカーフで頭を覆い、男女ともに膝や肩が隠れる服装が求められます。入口にスカーフや巻きスカートの貸し出しがある場合もありますが、薄手のストールを1枚持参しておくと安心です。
交通事情
トビリシ市内は地下鉄とバスが整備されていますが、郊外や地方への移動はマルシュルートカ(ミニバス)かタクシーが主な手段。配車アプリ「Bolt」が広く使われており、料金もメーター制で安心です。
治安について
ジョージアの治安は総じて良好で、ヨーロッパの中でも犯罪率が低い国のひとつです。ただし、夜間の一人歩きや貴重品の管理など、基本的な注意は怠らないようにしましょう。
まとめ|ジョージアは「また来たい」と思わせる国
8000年のワインの歴史、天空に浮かぶ教会、胃袋を鷲掴みにする絶品グルメ、そして何よりも温かい人々のホスピタリティ。ジョージアは、一度訪れると「また来たい」と心から思わせてくれる、不思議な引力を持った国です。
ヨーロッパの洗練さとアジアの温かさが自然に溶け合うこの小さな国には、まだ観光地化されすぎていない「本物の旅」の感動が残っています。次の長期休暇、少し冒険心を持って、コーカサスの宝石に会いに行ってみませんか?
きっとあなたも、ジョージアに恋をするはずです。

