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太陽と歴史に抱かれて。南仏オランジュで紡ぐ、心豊かなサステナブルな旅

南フランス、プロヴァンス地方に降り注ぐ太陽の光は、まるで蜂蜜のようにとろりと甘く、空気を金色に染め上げます。オリーブの木々が銀色にきらめき、ラベンダーの香りが風に乗って運ばれてくる、そんな五感を優しく撫でる土地。今回ご紹介するのは、そのプロヴァンスの玄関口に位置する古都、オランジュです。

多くの旅人がアヴィニョンやエクス=アン=プロヴァンスを目指す中、なぜ、オランジュなのでしょうか。その答えは、この街が持つ類まれな二面性にあります。ひとつは、息をのむほどに壮大な古代ローマ時代の遺跡が、今もなお街の心臓部として鼓動を続けていること。そしてもうひとつは、世界的に名高いワインの銘醸地「シャトーヌフ・デュ・パプ」に隣接し、豊かな食文化が根付いていること。

歴史の重みと、大地の実りが交差する場所、オランジュ。ここでは、ただ観光地を巡るだけではない、もっと深く、心に残る旅が待っています。それは、環境に配慮しながら、地域の文化や人々の暮らしに寄り添う「サステナブルな旅」。この記事では、旅サイトのプロライターとして、そして一人のエコツーリズムを愛する旅人として、オランジュでの忘れられない滞在を叶えるためのホテル選びと、心豊かな過ごし方をご提案します。慌ただしい日常から少しだけ離れて、時の流れがゆるやかになるプロヴァンスの光の中で、未来へとつながる旅の物語を一緒に紡いでいきませんか。

目次

なぜ今、オランジュなのか?旅人を惹きつける街の魅力

パリのリヨン駅から高速鉄道TGVに乗れば、約3時間。車窓の風景が北フランスの曇り空から、南仏の突き抜けるような青空へと変わっていくのを眺めているだけで、心は躍ります。オランジュは、ローヌ川の東岸に広がる、決して大きくはない街。しかし、その小さな街には、訪れる者を圧倒するほどのエネルギーが満ちています。

時を超えて語りかける、二つの世界遺産

オランジュの魂ともいえるのが、ユネスコの世界遺産に登録されている二つの古代ローマ遺跡です。「オランジュのローマ劇場とその周辺及び『凱旋門』」。この街を訪れることは、2000年以上前の歴史の舞台に足を踏み入れることに他なりません。

古代ローマ劇場(Théâtre Antique d’Orange)

街の中心に忽然と姿を現す、巨大な石の壁。これが古代ローマ劇場です。初代ローマ皇帝アウグストゥスの治世下、紀元前1世紀に建設されたこの劇場は、世界で最も保存状態の良いローマ劇場の一つとして知られています。

特筆すべきは、「スカエナエ・フロンス」と呼ばれる舞台背後の壁。幅103メートル、高さ37メートルにも及ぶこの壁は、皇帝アウグストゥス帝の像が中央に鎮座し、かつては豪華な大理石の柱や彫刻で飾られていました。ルイ14世が「我が王国における最も美しい壁」と称賛したという逸話も納得の迫力です。

この劇場の真価は、その建築美だけではありません。驚くべきはその音響効果。舞台中央で発した小さな声が、最上段の観客席までクリアに届くように設計されているのです。ぜひ、劇場の中心に立って、手を叩いたり、声を響かせてみてください。古代ローマの建築技術の粋に、きっと鳥肌が立つはずです。

現在でも、この劇場は現役の文化施設として息づいています。毎年夏に開催されるオペラの祭典「コレジー・ドランジュ」では、世界中から一流の歌手や指揮者が集まり、星空の下で壮大なスペクタクルが繰り広げられます。古代の石壁に反響するアリアを聴く体験は、まさに時空を超えた感動をもたらしてくれるでしょう。

凱旋門(Arc de Triomphe d’Orange)

街の北側、かつてアグリッパ街道が通っていた場所に、もうひとつの世界遺産、凱旋門が堂々と建っています。紀元前27年頃に建設され、後に皇帝ティベリウスを称えるために改築されたこの凱旋門は、ローマがガリアを制圧した栄光を記念するものです。

三つのアーチを持つ壮麗な姿もさることながら、注目すべきはその壁面を埋め尽くす精緻なレリーフ。ガリア人との戦いの様子、捕虜、武器、そして海戦をモチーフにした彫刻などが、ローマ軍の圧倒的な強さを物語っています。風雨に晒されながらも2000年の時を生き抜いてきた石の芸術を前にすると、歴史の重みと人間の営みの儚さ、そして偉大さを同時に感じずにはいられません。

これらの遺跡は、ただの観光名所ではありません。オランジュの街と人々は、この偉大な遺産と共に暮らし、それを誇りに思い、大切に守り続けているのです。街を歩けば、ふとした路地の向こうに劇場の壁がそびえ、人々の日常と古代の記憶がごく自然に溶け合っていることに気づくでしょう。

プロヴァンスの太陽とワインが育む、豊かな暮らし

オランジュの魅力は、古代遺跡だけにとどまりません。旧市街の迷路のような小道を歩けば、プロヴァンスらしい暮らしの息吹が感じられます。パステルカラーの壁、窓辺を彩るゼラニウムの花、カフェのテラスで談笑する人々。木曜の朝に開かれるマルシェ(市場)は、この土地の豊かさを体感できる絶好の場所です。

色とりどりの野菜や果物、芳醇な香りを放つチーズ、地元産のオリーブオイル、そしてプロヴァンス名物のハーブの束。生産者と直接言葉を交わしながら、新鮮な食材を選ぶ時間は、旅の何よりの楽しみ。ここで手に入れたパンとハム、太陽をたっぷり浴びたトマトで、ピクニックをするのも素敵です。

そして、オランジュを語る上で欠かせないのがワインです。街の南には、ローヌワインの王様と称される「シャトーヌフ・デュ・パプ」の広大なぶどう畑が広がっています。14世紀、アヴィニョンに教皇庁が置かれた時代、教皇たちの夏の離宮(新しい城=シャトーヌフ)がこの地に築かれたことからその名が付きました。

力強く、複雑で、長期熟成にも耐えるこの偉大なワインを生み出すテロワール(土壌)は、すぐそこにあります。ワイナリーを訪ね、情熱的な生産者の話を聞きながらテイスティングをする。それは、オランジュの旅をより深く、味わい深いものにしてくれる特別な体験となるでしょう。

歴史、自然、食。これらすべてが凝縮されたオランジュは、訪れる者に多層的な喜びを与えてくれます。表層的な観光では見えてこない、この街の奥深い魅力を、サステナブルな視点と共に探っていきましょう。

地球と心に優しい選択を。オランジュのおすすめホテル

旅の拠点となるホテル選びは、滞在の質を大きく左右する重要な要素です。特にサステナブルな旅を志向するなら、単に快適さや立地だけでなく、そのホテルが地域や環境に対してどのような姿勢を持っているかにも目を向けたいもの。ここでは、ラグジュアリーな滞在から、より地域に密着したアットホームな宿まで、オランジュならではの魅力を持つホテルを厳選してご紹介します。

ラグジュアリーとエココンシャスを両立するホテル

特別な旅には、心から寛げる上質な空間が欠かせません。環境への配慮と贅沢な快適さを見事に融合させたホテルは、私たちの罪悪感を和らげ、より晴れやかな気持ちで滞在を楽しむことを可能にしてくれます。

Grand Hôtel d’Orange, BW Signature Collection, an IHG Hotel

オランジュの旧市街、古代劇場のすぐそばという絶好のロケーションに位置するこのホテルは、歴史的な建物を美しく改装した4つ星ホテルです。重厚感のある石造りの外観とは対照的に、館内はモダンで洗練されたデザイン。歴史と現代性が心地よく共存しています。

このホテルが素晴らしいのは、その立地や快適さだけではありません。IHGグループの一員として、「IHG Green Engage」という環境サステナビリティプログラムを導入しています。これは、エネルギーや水の消費量削減、廃棄物の管理など、環境負荷を低減するための具体的な目標を設定し、実践する取り組みです。

例えば、客室の照明にはLED電球が使われ、節水型のシャワーヘッドが設置されています。リネンの交換頻度をゲストが選択できるようにすることで、水や洗剤の使用量を削減する工夫も。こうした小さな取り組みの積み重ねが、地球全体の大きな変化につながっていくのです。

併設されたレストラン「Le Parvis」では、地元の旬の食材を活かしたプロヴァンス料理を提供。シェフが近隣のマルシェで直接仕入れた新鮮な野菜や、ローヌ地方の優れた肉・魚料理を、もちろんシャトーヌフ・デュ・パプをはじめとする豊富なワインリストと共に楽しめます。地産地消は、輸送にかかるCO2を削減するだけでなく、地域の生産者を支え、その土地ならではの食文化を守ることにも繋がる、最も美味しくて楽しいサステナブルアクションの一つです。

歴史地区の中心で、環境に配慮されたモダンな快適さを享受する。そんな贅沢な滞在を求める方に、ぜひおすすめしたいホテルです。

Hôtel Arène

こちらも古代劇場の向かいという、最高のロケーションを誇る魅力的なホテルです。18世紀の建物を改装した館内は、プロヴァンスらしい温かみとクラシックなエレガンスが融合した空間。一部の客室からは、ライトアップされた古代劇場の壮大な姿を眺めることができ、その感動は言葉になりません。

Hôtel Arèneの魅力は、そのアットホームな雰囲気と、地域への深い愛情にあります。大規模なホテルチェーンとは異なり、オーナーの顔が見える家族経営的な温かさが、ゲストを優しく迎え入れてくれます。

サステナブルな観点からは、朝食に注目です。ビュッフェ形式で提供される朝食には、地元のパン屋さんから毎朝届けられる焼きたてのクロワッサンやパン・オ・ショコラ、近郊の農家が作るジャム、フレッシュなフルーツなどが並びます。長距離輸送された加工品を極力減らし、地域の恵みをシンプルに味わう。これこそが、旅先での朝の最高の贅沢ではないでしょうか。

また、ホテルではレンタサイクルの手配も積極的に行っています。オランジュの街や、少し足を延ばしてシャトーヌフ・デュ・パプのぶどう畑を自転車で巡ることは、CO2を排出しない最もエコな移動手段であり、プロヴァンスの風や香りを肌で感じる最高のアクティビティです。ホテルスタッフに相談すれば、おすすめのサイクリングコースや、途中で立ち寄れるワイナリーの情報も親切に教えてくれるでしょう。

歴史の舞台を目の前に、プロヴァンスの日常に溶け込むような滞在を体験したい方にぴったりの宿です。

地域に根差す、温かなB&B(シャンブル・ドット)での滞在

より深く、パーソナルな旅を求めるなら、B&B(フランス語ではChambre d’hôtes、シャンブル・ドット)での滞在がおすすめです。個人宅の空き部屋を宿泊施設として提供するスタイルで、ホテルとは一味違った、温かな交流と発見があります。

Justin de Provence

オランジュの中心部から少しだけ離れた、静かな住宅街に佇む美しいメゾン(邸宅)。それがJustin de Provenceです。緑豊かな庭にはプールがあり、まるでプロヴァンスの友人宅に招かれたかのような、リラックスした時間を過ごすことができます。

オーナー夫妻の温かなもてなしは、この宿の最大の魅力。彼らはこの土地を深く愛しており、ゲストがオランジュの魅力を最大限に楽しめるよう、様々なアドバイスをしてくれます。おすすめのレストランから、観光客があまり行かない隠れた名所まで、その情報はガイドブックには載っていない生きた情報ばかりです。

特筆すべきは、マダムが腕を振るう自家製の朝食。庭で採れたフルーツを使ったコンフィチュール、手作りのヨーグルト、地元の養鶏場からの新鮮な卵。一つひとつに心のこもった料理は、一日の始まりを幸せな気持ちで満たしてくれます。

このような小規模な宿に泊まることは、それ自体がサステナブルな選択です。大規模ホテルに比べてエネルギーや水の消費量が少なく、地元の小規模な生産者から直接食材を仕入れることが多いからです。そして何より、宿泊費が直接オーナーの収入となり、地域経済の活性化に貢献します。人との繋がりを大切にし、暮らすように旅をしたいと願う人にとって、Justin de Provenceは忘れられない思い出を約束してくれるでしょう。

Le Mas de l’Oulivié(少し足を延して)

もしレンタカーでの移動を計画しているなら、オランジュから車で30分ほどのレ・ボー・ド・プロヴァンス近郊にある「Le Mas de l’Oulivié」も、サステナブルな旅の拠点として強くおすすめしたい宿です。ここは、フランスの厳しい環境基準をクリアしたホテルに与えられる「La Clef Verte(緑の鍵)」認証と、ヨーロッパの「Ecolabel」をダブルで取得している、エココンシャスなホテルの先駆け的存在です。

オリーブの木々(Ouliviéはオリーブ畑を意味します)に囲まれたこのホテルでは、雨水の再利用、太陽光発電、地熱を利用した冷暖房など、随所に環境への配慮が見られます。レストランでは、自家菜園や提携農家から届くオーガニック野菜をふんだんに使い、フードマイレージの削減を徹底しています。

ここに滞在することは、ラグジュアリーな快適さを享受しながら、自然と共生するライフスタイルを体験すること。プロヴァンスの豊かな自然の中で、地球に優しい暮らしのヒントを見つけられるかもしれません。オランジュを拠点に、プロヴァンス地方を広く巡る旅のプランに、ぜひ組み込んでみてはいかがでしょうか。

ホテル選びでできる、サステナブルなアクション

  • 連泊を心がける: 同じホテルに連泊することで、シーツやタオルの交換、部屋全体の清掃回数を減らすことができます。これは水やエネルギー、洗剤の使用量削減に直結します。「Do Not Disturb(起こさないでください)」の札を積極的に活用しましょう。
  • アメニティは持参する: 小さなボトルに入ったシャンプーやコンディショナーは、プラスチックごみの大きな原因です。普段から愛用しているものを詰め替えボトルに入れて持参するだけで、かなりのごみを削減できます。
  • 予約サイトのフィルター機能を活用: 多くのホテル予約サイトには、「サステナブル認証」や「環境に配慮」といったフィルター機能があります。これを活用して、環境への取り組みを公表しているホテルを積極的に選んでみましょう。
  • 地元の小規模な宿を選ぶ: 大規模な国際チェーンホテルも素晴らしいですが、地元の個人経営のホテルやB&Bを選ぶことは、地域経済を直接支援することにつながります。

ホテルは、ただ眠るだけの場所ではありません。旅の哲学を映し出す鏡であり、新しい価値観と出会う舞台でもあります。あなたの次の旅が、地球にとっても、あなた自身にとっても、より豊かで意味のあるものになるような、素敵なホテル選びの参考になれば幸いです。

環境に優しく、心豊かに。オラン-ジュでの過ごし方モデルプラン

オランジュでの滞在を、より深く、記憶に残るものにするために。ここでは、環境への負荷を意識しながら、この街の魅力を存分に味わうための3日間のモデルプランをご提案します。もちろん、これはあくまで一例。あなたの興味やペースに合わせて、自由にアレンジしてみてください。大切なのは、効率よく観光地を巡ることではなく、プロヴァンスのゆったりとした時間の中で、五感を開放し、心で感じることです。

1日目:古代ローマの息吹とプロヴァンスの日常に触れる

パリからTGVでオランジュに到着。まずはホテルにチェックインし、荷物を置いたら、身軽になって街へ繰り出しましょう。移動はすべて徒歩。オランジュの主要な見どころは、十分に歩いて回れる範囲にあります。

午前:古代劇場と博物館で時空を超える

旅の始まりは、やはりこの街の象徴、古代劇場から。まずは外からその巨大な壁を見上げ、2000年という時の重みを肌で感じてください。その後、中へと足を踏み入れます。

ここでぜひ活用したいのが、入場料に含まれているオーディオガイド。日本語にも対応しており、劇場の歴史や建築の秘密、ここで繰り広げられたであろう古代の演劇の様子などを、臨場感たっぷりに解説してくれます。ただ見るだけでは通り過ぎてしまうような細かなレリーフの意味や、驚くべき音響効果の仕組みを知ることで、遺跡との対話がより深いものになります。

観客席の最上段まで登れば、オランジュの街並みと、その向こうに広がるローヌ渓谷の壮大なパノラマを一望できます。古代ローマ人も見たであろうこの景色を眺めながら、しばし物思いにふける時間は、何物にも代えがたい贅沢です。

劇場の見学を終えたら、隣接するオランジュ市立博物館(Musée d’Art et d’Histoire d’Orange)へ。ここには、劇場を飾っていた彫刻の断片や、発掘されたローマ時代の遺物、そして特筆すべきは、土地の測量図が刻まれた3枚の大理石板「カダストル」が展示されています。ローマ人たちの高度な統治システムを物語る貴重な資料であり、この土地の歴史をより立体的に理解する助けとなるでしょう。

昼食:マルシェの恵みでエコなピクニック

もし到着が木曜の午前であれば、旧市街で開かれているマルシェへ直行しましょう。そうでなくても、街の中心には美味しいパン屋(Boulangerie)、チーズ屋(Fromagerie)、総菜屋(Traiteur)が点在しています。

マイバッグを片手に、お店の人と「Bonjour!」と挨拶を交わしながら、今日のランチを選びます。焼きたてのバゲット、地元のヤギのチーズ、風味豊かなソシソン(乾燥ソーセージ)、そして太陽の味がする完熟トマト。ペットボトルの水ではなく、マイボトルに水道水を詰めれば、プラスチックごみも出ません。

食材を調達したら、サン・ユートロップの丘(Colline Saint-Eutrope)へ。古代劇場の背後に広がるこの丘は、市民の憩いの公園です。木陰のベンチに腰を下ろし、眼下に広がる劇場の全景と街並みを眺めながらのピクニックは、最高のレストランにも勝るご馳走です。もちろん、ゴミはすべて持ち帰り、来た時よりも美しい状態にしてその場を去るのが、サステナブルな旅人のマナーです。

午後:凱旋門への散策と旧市街の迷宮

昼食後は、腹ごなしに街の北側にある凱旋門まで歩いてみましょう。交通量の多いロータリーの中央に堂々と立つその姿は、古代と現代が交差するオランジュを象徴する光景です。車の流れに気を付けながら、間近でその精緻なレリーフをじっくりと観察してみてください。ガリア兵士たちの苦悶の表情や、ローマ軍の武具のディテールに、歴史の生々しさを感じ取れるはずです。

その後は、旧市街の散策を楽しみましょう。地図は持たず、気の向くままに細い路地へと迷い込んでみるのがおすすめです。思いがけない場所にかわいいブティックやアートギャラリーを見つけたり、窓辺の花々や古びた扉に心惹かれたり。そんな偶然の出会いこそ、街歩きの醍醐味です。疲れたら、カフェのテラスで一杯のエスプレッソを。道行く人々を眺めながら過ごす時間は、旅情を一層かき立ててくれます。

夕食:地産地消を味わうビストロで

一日の締めくくりは、地産地消(Circuit Court)を大切にするレストランで。シェフが自ら生産者のもとへ足を運び、厳選した食材で作る料理は、味の深みが違います。メニューに「Produits Locaux(地元の産物)」や、提携農家の名前が書かれているお店を探してみましょう。

プロヴァンスのハーブで風味付けした仔羊のロースト、新鮮な野菜を煮込んだラタトゥイユ、そしてもちろん、グラスにはローヌ地方のワインを。食事をしながら、その日の感動を語り合う。そんな豊かな時間が、旅の記憶をより鮮やかなものにしてくれます。フードロスを避けるため、食べきれる量を注文する心遣いも忘れずに。

2日目:E-bikeで巡る、ワイン畑とプロヴァンスの風

2日目は、少しアクティブに。オランジュの南に広がるワインの聖地、シャトーヌフ・デュ・パプを目指します。車ではなく、あえて自転車を選ぶことで、環境に優しく、そしてプロヴァンスの風景を全身で感じることができます。

午前:E-bikeでシャトーヌフ・デュ・パプへ

体力に自信がなくても大丈夫。ここは電動アシスト付き自転車「E-bike」の出番です。オランジュ市内のレンタルショップで借りることができます。緩やかな坂道も、E-bikeなら鼻歌交じりでスイスイと進めます。

オランジュからシャトーヌフ・デュ・パプまでは、約10km。ぶどう畑の中を貫く、走りやすいサイクリングロードが整備されています。ペダルを漕ぎ始めると、プロヴァンスの乾いた風が心地よく頬を撫でます。目の前には、どこまでも続くぶどう畑。品種によって異なる葉の色、土壌を覆う有名な丸い石(ガレ・ルーレ)、点在する小さなワイナリー(ドメーヌ)。車では見過ごしてしまうような細やかな風景の変化を、自転車のスピードならゆっくりと楽しむことができます。

途中、気に入った風景があれば、自転車を停めて写真撮影。鳥のさえずりと、風がぶどうの葉を揺らす音だけが聞こえる静寂の中で、深呼吸。これぞ、スローな旅の醍醐味です。

昼食:村のビストロでワインと共に

シャトーヌフ・デュ・パプの村に到着。丘の上に築かれたこの村は、かつての教皇の城跡がシンボルです。まずは村を散策し、その歴史的な雰囲気を味わいましょう。

昼食は、村の中心にあるビストロやレストランで。多くの店が、地元のワインをグラスで豊富に取り揃えています。サイクリングで火照った体に、冷えた白のシャトーヌフ・デュ・パプが染み渡ります。もちろん、料理も地元の食材を活かしたものばかり。ワイナリー巡りの前に、まずはこの土地のワインと料理のマリアージュをじっくりと堪能してください。

午後:オーガニックワイナリーでテロワールを学ぶ

シャトーヌフ・デュ・パプには、数多くのワイナリーがありますが、せっかくなら環境に配慮したワイン造りを行う生産者を訪ねてみてはいかがでしょうか。「Agriculture Biologique(有機農法)」の認証マーク(ABマーク)を掲げるワイナリーを探してみましょう。

事前に予約をしておくと、生産者自らが畑や醸造所を案内してくれ、彼らの哲学やこだわりを直接聞くことができます。なぜ化学肥料や農薬を使わないのか、土壌の微生物をいかに大切にしているか、ぶどうの個性を最大限に引き出すためにどのような工夫をしているか。その話は、単なるワイン造りの説明を超え、自然と共生する生き方そのものを教えてくれます。

そして、お待ちかねのテイスティング。同じシャトーヌフ・デュ・パプでも、ワイナリーや畑の区画、ヴィンテージによって、その味わいは驚くほど異なります。生産者の情熱が溶け込んだワインを、その物語と共に味わう体験は、ただ飲むのとは全く違う感動を与えてくれます。お気に入りの一本を見つけたら、ぜひお土産に。生産者から直接購入することは、彼らの大きな支えとなります。

夕方:夕日に染まるぶどう畑を抜けて

ほろ酔い気分で、再びE-bikeにまたがりオランジュへの帰路へ。西に傾いた太陽が、ぶどう畑を黄金色に染め上げる光景は、息をのむほどの美しさです。一日中プロヴァンスの自然と触れ合った満足感と、心地よい疲労感に包まれながら、ホテルへと戻ります。夕食は、軽めに済ませるか、ホテルでゆっくりとルームサービスを楽しむのも良いでしょう。

3日目:公共交通で訪ねる、近隣の小さな宝石

最終日は、オランジュから少し足を延ばして、プロヴァンスのさらに奥深い魅力に触れてみましょう。レンタカーに頼らなくても、電車やバスなどの公共交通機関を使えば、魅力的な町や村を訪れることができます。

午前:ヴェゾン・ラ・ロメーヌのローマ遺跡と中世の街

オランジュ駅からバスで約40分。モン・ヴァントゥーの麓に位置するヴェゾン・ラ・ロメーヌは、フランスで最も広大な古代ローマ遺跡を持つ町として知られています。オランジュとはまた違う、市民の生活空間がそのまま残されたような遺跡群は、非常に見ごたえがあります。

遺跡を見学した後は、ウヴェーズ川にかかるローマ橋を渡り、丘の上の旧市街(オート・ヴィル)へ。石畳の急な坂道を登っていくと、そこには中世の時間がそのまま止まったかのような美しい街並みが広がっています。頂上にある伯爵の城跡からの眺めは、まさに絶景。

午後:セリニャン・デュ・コンタで昆虫学者ファーブルに出会う

時間に余裕があれば、ヴェゾン・ラ・ロメーヌからバスを乗り継いで、セリニャン・デュ・コンタという小さな村を訪れるのも一興です。ここは、『昆虫記』で知られる博物学者ジャン=アンリ・ファーブルが晩年を過ごした場所。彼が「アルマス」と名付けた邸宅と庭は、現在博物館として公開されています。

ファーブルが昆虫を観察した庭を散策し、彼の書斎を覗き見る。偉大なナチュラリストの足跡に触れることで、プロヴァンスの自然を、これまでとは少し違った視点で見つめ直すことができるかもしれません。自然への深い愛情と探求心を持つ彼の生き方は、サステナブルな旅をする私たちに、多くの示唆を与えてくれます。

旅の終わりに

オランジュに戻り、駅へ向かう前に、最後にもう一度、旧市街を散策。お気に入りのパティスリーで、プロヴァンス名物のカリソンやヌガーをお土産に買うのも忘れずに。作り手の顔が見える、地元のお店で買い物をすることも、立派な地域貢献です。

TGVに乗り込み、遠ざかっていくオランジュの街並みを眺めながら、この旅を振り返る。古代の石、太陽の光、ワインの香り、そして人々の温かさ。オランジュでの体験は、きっとあなたの心の中に、深く、温かな記憶として刻まれることでしょう。

未来へつなぐ旅、オランジュで紡ぐ物語

私たちの旅は、時に大地に足跡を残します。飛行機や車が排出するCO2、ホテルで消費される水やエネルギー、観光地で生まれるゴミ。旅がもたらす喜びの裏側で、私たちは知らず知らずのうちに、愛する地球に負荷をかけているのかもしれません。しかし、だからといって旅をやめてしまうのは、あまりにも寂しいことです。旅は、私たちに新しい視点を与え、異文化への理解を深め、人生を豊かにしてくれる、かけがえのないものだからです。

大切なのは、旅のスタイルを少しだけ変えてみること。より意識的に、より思慮深く、選択をすること。今回ご紹介したオランジュでの過ごし方は、そんな「サステナブルな旅」の一つの形です。

パリからTGVを選ぶこと。それは、飛行機に比べてCO2排出量を劇的に削減する選択です。ホテルで連泊し、リネンの交換を断ること。それは、限りある水資源を守るための小さなアクションです。マイボトルとマイバッグを持ち歩くこと。それは、使い捨てプラスチックという深刻な問題へのささやかな抵抗です。

自転車でぶどう畑を駆け抜け、プロヴァンスの風を全身で感じること。それは、ガソリンを消費しないだけでなく、土地との一体感を深める最高の体験です。マルシェで地元の生産者から直接食材を買い、地産地消のレストランで食事をすること。それは、フードマイレージを削減し、地域の経済と文化を支える行為です。そして、オーガニック農法に取り組むワイナリーを訪ね、その哲学に耳を傾けること。それは、持続可能な未来への投資に他なりません。

オランジュという街は、私たちに多くのことを教えてくれます。2000年以上も前に築かれたローマ劇場が、今も現役の文化施設として人々に感動を与え続けているという事実。それは、優れたものが、いかに時代を超えて愛され、受け継がれていくかという証です。凱旋門のレリーフが、風雪に耐えながら歴史を語り続けるように、私たちの営みもまた、未来へとつながっています。

この旅であなたが選ぶ一つひとつの行動は、ささやかかもしれません。しかし、その小さな選択の積み重ねが、オランジュの美しい風景を、豊かな文化を、次の世代、さらにその次の世代へとつないでいく力になります。古代ローマ人がこの地に遺した壮大な遺産のように、私たちもまた、未来への良き遺産を残すことができるはずです。

旅の終わりは、新たな物語の始まり。オランジュの太陽の下で紡いだあなたの物語が、日常に戻ったあなたの心に温かな光を灯し続け、そして次の旅を、さらにその先の未来を、より良い方向へと導いてくれることを、心から願っています。さあ、あなただけのサステナブルな物語を、この歴史と太陽の街、オランジュで描いてみませんか。

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この記事を書いたトラベルライター

サステナブルな旅がテーマ。地球に優しく、でも旅を諦めない。そんな旅先やホテル、エコな選び方をスタイリッシュに発信しています!

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