乾いたアスファルトをタイヤが掴む音、どこまでも続くノルマンディーの緑の丘陵。レンタカーのステアリングを握りながら、僕はカーラジオから流れるフレンチ・ポップスに身を任せていた。目的地は、地平線の彼方に蜃気楼のように浮かび上がる、あの孤高の島。そう、モンサンミッシェルだ。
自動車整備士として油にまみれていた僕が、ハンドルをカメラとペンに持ち替えて大陸を駆けるようになって数年。数々の絶景を見てきたつもりだったけれど、遠くからそのシルエットを捉えた瞬間、思わず息を呑んだ。海と空の間にそびえる、まるで神が創りたもうた彫刻のような修道院。ここはただの観光地じゃない。訪れる者すべての心を揺さぶり、忘れかけていた冒険心に火をつける特別な場所だ。
この記事は、単なる美しい写真と感想を並べた旅行記ではない。元整備士としての知識をフル活用したアクセス方法の徹底解説から、最高の瞬間を切り取るための時間と場所の選び方、そして知らなければ損をする島内での立ち回り方まで、僕が実際に体験し、考え抜いた「実践的な攻略法」のすべてを詰め込んだ。あなたがモンサンミッシェルの門をくぐる時、不安なく、ただその感動だけに集中できるように。さあ、一緒に天空の城への扉を開こうじゃないか。
モンサンミッシェルへの道、その選択が旅の質を決める

壮大な旅のスタートは、いつだって交通手段の選択から始まる。モンサンミッシェルへのアクセス方法はいくつか存在するが、それぞれに独自の魅力と注意点がある。ここでは、元整備士である私の視点から、最もおすすめのレンタカーによるアクセスを軸に、公共交通機関やツアー利用のポイントについても詳しく解説しよう。
自由な翼を羽ばたかせるレンタカー – パリからのドライブ案内
私が選んだのは、もちろんレンタカーだ。時間に縛られず、気ままに寄り道できる自由は何にも代えがたい魅力だ。パリのシャルル・ド・ゴール空港で借りたプジョーのコンパクトカーは、軽やかな走りでノルマンディーの郷愁を誘った。
パリからモンサンミッシェルまでの距離は約360キロで、高速道路(オートルート)を利用すれば途中休憩を含めても4~5時間程度のドライブとなる。フランスの高速道路は非常に整備が行き届き快適だが、日本の高速道路とは異なる点がいくつかある。まず料金所(Péage)について。チケットを受け取り出口で支払う方式と、一定区間ごとに料金を支払う方式が存在し、支払いはクレジットカードが圧倒的に便利だ。「CB」やカードの国際ブランドマークのあるレーンを選ぶのが賢明だ。なお、「Télépéage」と表記されたレーンは日本のETC専用なので間違って入らないよう注意したい。
また、特に重要なのがモンサンミッシェル周辺の駐車場の仕組みだ。島内は一般車両の進入が禁止されており、対岸に広がる公式駐車場に車を停め、そこからシャトルバス(Passeur)か徒歩で島へ向かうことになる。駐車場入口で駐車券を受け取り、帰る際に券売機で精算するシステムだ。料金は24時間単位で変動し、決して安価とは言えないが、駐車料金にシャトルバスの往復料金も含まれているため追加費用は不要だ。
ここで元整備士からのアドバイスを一つ。海外でレンタカー旅行をする際には、車上荒らしに最大限注意すべきだ。特に観光地の駐車場では、車内に荷物を置いたまま離れるのは絶対に避けてほしい。スーツケース、バッグは当然として、ジャケット一着でも外から見える場所に置かないこと。すべてトランクに収納し、車内を空っぽにしておくのが鉄則である。貴重品は必ず身に着けて行動しよう。
駐車場に車を停めた後は、いよいよ島へ向かう。無料のシャトルバス「Passeur(パスール)」は数分おきに運行し、約12分で島の入り口付近まで連れて行ってくれる。バスを待つ時間も、遠ざかる駐車場と近づくモンサンミッシェルの景色に心は高鳴るばかりだ。体力に自信があるなら、約2.5キロの遊歩道を歩くのもおすすめだ。表情を刻々と変える修道院を眺めながらの散策は、忘れがたい体験になるだろう。
公共交通機関を活用する – TGVとバスの連携テクニック
運転に不安があったり、国際免許証を持っていない場合は、公共交通機関が頼もしい選択肢となる。一般的なルートは、パリのモンパルナス駅から高速鉄道TGVに乗り、レンヌ(Rennes)駅でモンサンミッシェル方面の直通バスに乗り換える方法だ。
TGVの所要時間は約1時間半、レンヌ駅からバスで約1時間15分。全体で3時間前後の移動となる。チケットはフランス国鉄(SNCF)の公式サイトやアプリ「SNCF Connect」で事前予約するのが断然おすすめだ。早めの予約で割引を受けられ、満席リスクも減らせる。座席指定も可能なので、窓側の席を取ってフランスの美しい田園風景を満喫したい。
レンヌ駅でのバス乗り換えは少し注意が必要だ。バスターミナル(Gare Routière)は駅の北口にあり、案内表示に従えば迷うことはないが、TGV到着とバス出発の間に余裕を持ったスケジューリングが安心だ。バスのチケットもTGVと同時にオンライン購入できることが多いため、セットで手配するのが賢明だ。
このルートのメリットは、運転の疲労がなく効率的に移動できる点。窓外の景色をゆっくり楽しんだり、移動中に旅の計画を練ったりと自由な時間が確保できる。一方、デメリットは時間の制約が大きいこと。特に帰路のバスやTGVの発車時間を厳守しなければならず、島での滞在時間が限られてしまう可能性がある。日帰りの場合は特に、修道院の見学時間を十分に確保できるよう細かく計画を立てることが重要だ。
ツアー参加という賢い選択肢
すべての手配を専門家に任せたいなら、パリ発のバスツアーがおすすめだ。日帰りや島内・近郊の宿泊付きなど、多彩なプランが用意されている。
ツアーの最大の魅力は手軽さにある。交通手段やチケットの手配、スケジュール管理など、煩わしい作業をすべてツアー会社が担ってくれる。日本語ガイド付きツアーを選べば、モンサンミッシェルの歴史や見どころをより深く理解できるだろう。移動中バスの中で休憩し体力を温存できるのも嬉しいメリットだ。
反面、自由度が低いのがデメリットだ。集合時間が厳守され、自分のペースでゆっくり見学したり気になる店に立ち寄ったりすることが難しい。特に日帰りツアーは滞在時間が非常に短く、修道院や参道を駆け足で回るだけになってしまう場合も少なくない。
ツアー選びの際は、自分の旅のスタイルをはっきりさせることが大切だ。主要スポットを効率よく回りたいなら日帰りツアー、島の雰囲気をじっくり楽しみたいなら宿泊付きツアー、といった具合に自身に合ったプランを選んでほしい。口コミサイトで実際の参加者の評価をチェックすることも、良質なツアー会社を見極めるための重要なポイントだ。
潮の満ち引きが描く絶景 – 最高の瞬間を逃さないために

モンサンミッシェルが「単なる古い修道院」ではなく、「唯一無二の絶景」と称される最大の理由、それが「潮の満ち引き」にある。ヨーロッパでも最も大きな干満差を誇るこの湾は、時間の経過とともに劇的に姿を変える。この自然が織り成す壮大なドラマを理解し、計画的に行動することが、モンサンミッシェル観光の成功を左右すると言っても過言ではない。
潮汐カレンダーは欠かせない必携アイテム
訪問前にぜひとも確認してほしいのが、潮汐カレンダーである。干潮時には島を取り囲む広大な干潟が現れ、その姿はまるで大地に根を張った大樹のように見える。一方で満潮になると、海水が岸辺まで押し寄せ、島はすっかり海に浮かぶ孤島の姿へと戻る。この幻想的な光景こそ、多くの人が思い描くモンサンミッシェルの象徴だろう。
特に注目すべきは「大潮(Grandes Marées)」の期間だ。年に数回訪れる干満差が14メートル以上にも達するこの時期、満潮になると島へ続く橋が一時的に水没し、島が完全に孤立することがある。この「孤島化」の現象は、モンサンミッシェルがかつて要塞としての役割を担っていた姿を現代に蘇らせる、非常にドラマティックな瞬間だ。
さらに、大潮時の満潮には「マスキャレ(le mascaret)」と呼ばれる川を逆流する波の壁が見られることもある。この自然が生み出す迫力満点の現象を一目見ようと、世界中から観光客やカメラマンが集まるのだ。
これらの潮汐情報は、モンサンミッシェル観光局公式サイトで年間のカレンダーとして公開されている。訪問予定日の満潮・干潮の時刻や潮位をあらかじめ確認し、どの時間帯にどこで過ごすべきか綿密に計画しよう。満潮のピーク前後約2時間が最も見応えがあるとされ、この時間を中心に修道院の見学や食事のスケジュールを組むのが賢い観光のコツだ。
絶景を収めるためのフォトスポット完全ガイド
自然が作り出す最高の舞台を、最適なアングルから切り取りたいと誰もが願うだろう。私もカメラを手に、島と対岸を行き来しながら最高の一枚を狙った。ここでは、私が見つけた珠玉のフォトスポットをいくつか紹介しよう。
- 対岸のダムからの眺め
駐車場から島へ向かう途中にあるダム(Barrage sur le Couesnon)は、モンサンミッシェル全景をバランスよくフレームに収められる定番のロケーションだ。特に風がなく穏やかな早朝は、ダム湖の水面が鏡のようになり、修道院の逆さ映り「逆さモンサンミッシェル」が楽しめる。その美しさには息をのむ。さらに日没後のマジックアワーからライトアップされた夜景まで、一日を通して素晴らしい景観が味わえる。三脚を持参すれば、より完成度の高い撮影が可能だ。
- 島へ渡る橋(パスレル)の上から
シャトルバスを降り、島へと続く穏やかな曲線を描く木製の橋。ここを歩きながら徐々に近づいてくるモンサンミッシェルの姿を撮影するのは格別の喜びだ。ローアングルから見上げるように撮ると、その堂々たる風格が一層際立つ。満潮時には、まるで海上を歩くかのような不思議な感覚とともに幻想的な写真を撮ることができる。ただし風が強い日が多いため、帽子などが飛ばされないよう注意が必要だ。
- 島内の坂道から見上げる修道院
島の入場口である王の門をくぐり、メインストリートのグランド・リュを少し登ったあたりで振り返ると、狭い路地や建物の隙間から尖塔が顔を出す。この「見上げる」アングルは、島の生活感と修道院の神聖さを一枚の写真に融合させることができ、非常に趣が深い。あえて観光客の賑わいもフレームに収めることで、活気ある参道の空気感を伝えるのも面白い。
- 修道院の西のテラスから
修道院内部を見学するハイライトのひとつが、西のテラス(Terrasse de l’Ouest)からの眺望だ。眼下には果てしない湾と干潟、そして島へと続く橋が一望できる。ここで眺める夕日は格別で、空と海がオレンジ色に染まるその光景は、まさに神々しいとしか言いようがない。ここに立つことで、自分がいかに高所にいるのかを実感し、この修道院を築いた人々の信仰の力に思いを巡らせることができるだろう。
撮影のポイントは、何よりも時間を惜しまず粘り強く待つことだ。同じ場所でも光の入り方や雲の動き、潮の満ち引きによって表情は大きく変わる。最高の瞬間は、あきらめずに待ち続けた者だけに訪れる贈り物なのである。
いざ、天空の城へ – モンサンミッシェル島内完全踏破マニュアル

対岸からの絶景を楽しんだ後はいよいよ島の内部へと足を踏み入れる時だ。迷路のように入り組んだ細い路地、歴史の重みを感じさせる石造りの建物、そして島の頂にそびえる壮大な修道院。この先では、この小さな島の魅力を効率的に、かつ深く味わうための具体的な方法を解説していく。
チケット購入から入場まで – スマートな流れ
モンサンミッシェルの見どころである修道院(Abbaye du Mont-Saint-Michel)へ入るには、入場チケットが必要だ。ここで旅の快適さを左右する重要なポイントが訪れる。
結論を述べると、チケットは必ず事前にオンラインで予約購入しておくことが望ましい。なぜなら、現地のチケットカウンターは特にハイシーズンに長い列ができ、多くの時間をロスしてしまうからだ。せっかくの貴重な観光時間をチケット購入で30分から1時間も費やすのは非常にもったいない。
モンサンミッシェル修道院公式サイトから簡単にクレジットカードで事前購入が可能。手順は以下の通りだ。
- サイトにアクセスし、チケット購入ページに進む。
- 訪問日と入場時間を選択する。ほとんどの場合、時間指定制なので、自分のスケジュールに合わせて選ぼう。
- 人数とチケットの種類(大人、割引対象者など)を選択。オーディオガイドの追加も可能だ。
- 個人情報を入力し、クレジットカードで決済する。
- 購入完了後にメールで届くEチケット(QRコード付き)をスマートフォンに保存、または印刷して持参する。
当日は、指定された時間より少し早めに修道院入口へ向かい、スマホでQRコードを提示すればスムーズに入場できる。このスマートな入場方法は、行列を横目に通り抜ける気分を味わわせてくれるだろう。
どうしても現地で買う必要があるなら、修道院入口手前のチケットオフィスに向かおう。ただし、長蛇の列を覚悟する必要がある。また、島内の観光案内所でも購入できる場合があるが、混雑が激しいため、やはり事前予約が最善策であることに変わりはない。
グランド・リュ(Grande Rue)を歩く – 参道の魅力と賢い散策法
島の入口にある「王の門」をくぐると、目の前に広がるのがメインストリート「グランド・リュ」だ。両側には土産物店やレストラン、ホテルがひしめき合い、中世の巡礼路の面影を現在に伝えている。しかし、この通りは道幅が狭く、日中は世界各国からの観光客で非常に混雑する。
混雑を避けるコツは、訪問時間を調整すること。多くの日帰り観光客が押し寄せる午前10時から午後4時ごろがピークだ。可能なら、朝一番(修道院開館直後)か、観光客が帰り始める夕方以降に散策するのがベスト。特に夕暮れ時のグランド・リュは、人通りも少なくなり、街灯に照らされた石畳が幻想的な光景を作り出す。
参道ではぜひ、モンサンミッシェル名物のグルメを味わいたい。特に有名なのは、巡礼者の宿として始まった「ラ・メール・プラール(La Mère Poulard)」のフワフワオムレツだ。銅のフライパンで薪火で焼き上げる伝統的な逸品で、メレンゲのような独特の食感が魅力。一度は試してみたい名物だが、価格はかなり高めなので予算と相談してほしい。
もう少しカジュアルに楽しみたいなら、クレープリーで塩バターキャラメルのクレープや、リンゴの発泡酒シードルを味わうのもおすすめ。ブルターニュ地方に近い土地ならではの美味しさが堪能できる。
禁止事項と服装マナー – 知っておきたいルール
モンサンミッシェルは世界遺産かつ神聖な宗教施設であるため、訪問時にはいくつかのルールとマナーを守る必要がある。
- 大きな荷物の持ち込み: 修道院内にはスーツケースや大きなリュックの持ち込みは禁止されている。対岸のインフォメーションセンター近くにあるコインロッカーに預けてから渡るのが望ましい。島内は急な階段や狭い通路が多いため、身軽な装いが基本だ。
- 飲食と喫煙: 修道院内での飲食は禁止されている。また、島全体が歴史的建造物であるため、喫煙も厳重に制限されている。喫煙は指定場所のみで行おう。
- ドローンの飛行: 島および周辺でのドローンの使用は禁止されている。安全面および文化財保護の観点から許可なしの飛行は罰金対象となることがあるため、絶対にやめよう。
- 服装について: 修道院はキリスト教の聖地であり厳しいドレスコードはないものの、極端に肌を露出する服装(タンクトップやショートパンツなど)は避けるべきだ。特に教会内に入る際は節度を持った服装で臨みたい。
何よりも重要なのは歩きやすい靴を履くことだ。島内は急な坂道や数百年かけて磨り減った石畳の階段が続く。ヒール靴や滑りやすいサンダルは非常に危険なので、グリップ力のあるスニーカーやウォーキングシューズなど、履き慣れた靴を選ぶのが必須となる。
修道院内部の探訪 – 見逃せない名所をめぐる
いよいよ島の核心である修道院内部へ入る。順路に従って進むと、壮麗な建築空間が次々と目の前に現れるだろう。
- 西のテラス: 入場後すぐに広がる空間で、先ほどもフォトスポットとして紹介した絶景が眼前に広がる。ここで深く息を吸い、天空の修道院に来たことを実感しよう。
- 付属教会(L’Église Abbatiale): ロマネスクとゴシック様式が融合した荘厳な教会。高い天井とステンドグラスから差し込む光が神聖な空気を漂わせている。祈りを捧げる人々の姿から、今なお信仰の場であることを強く感じさせる場所だ。
- ラ・メルヴェイユ(La Merveille): 「驚異」と名付けられた修道院の北側に建てられた三層構造のゴシック建築の傑作。中でも特に美しいのが列柱廊(Cloître)で、繊細な円柱が二重に並び中庭を囲む。かつて修道士たちが瞑想に耽ったこの静謐な空間は、調和と静寂が息づいている。
- 騎士の間(Salle des Chevaliers): 聖ミカエル騎士団の騎士たちが集ったとされる大広間で、華麗なリブ・ヴォールト天井が見どころ。かつては修道士たちが写本作業を行っていた場所でもある。
- 迎賓の間(Salle des Hôtes): 巡礼者である王侯貴族をもてなした部屋。大きな暖炉がふたつ設けられ、当時の豪華な雰囲気が伝わってくる。
見学にはオーディオガイドの利用を強く推奨する。各部屋の歴史的背景や建築の特色を詳しく解説してくれるため、単に見るだけよりも遥かに深く理解できる。日本語対応もあるので、ぜひ活用してほしい。
旅の準備とトラブルシューティング – 元整備士流・備えあれば憂いなし

どんなに綿密に計画を立てても、旅先で予想外のトラブルに遭遇することは避けられない。しかし、事前の準備と心構えがあれば、落ち着いて対応できるだろう。ここでは、私の経験をもとにした持ち物リストと、ありがちなトラブルへの対処法を紹介したい。
万全の持ち物リスト
旅の快適さは持ち物次第と言っても過言ではない。モンサンミッシェル観光を存分に楽しむための必需品をまとめてみた。
- 必携アイテム
- 歩きやすい靴: 何度も強調したいが、これが最も重要。スニーカーがおすすめだ。
- 季節に応じた服装: 海に囲まれた地形のため、天候が変わりやすく、風も強い。夏でも薄手のジャケットやパーカーなど羽織りものを一着持っておくと安心できる。冬なら防寒対策を徹底し、帽子・手袋・マフラーは必須だ。
- 雨具: 折りたたみ傘や両手が使えるレインウェアが便利。晴れていても念のためバッグに入れておくべき。
- モバイルバッテリー: 写真撮影や地図アプリの利用でスマホのバッテリーは意外と早く減るため必需品。
- カメラ: スマホでも充分だが、この絶景をより美しく記録したいなら、一眼レフやミラーレスカメラを持っていくと良い。
- 現金とクレジットカード: 多くの店舗ではカードが使えるが、小規模なショップや自販機では現金のみの場合もある。少額のユーロを用意しておくと安心。
- 身分証明書: パスポートのコピーや国際運転免許証などを忘れずに。
- あると便利なアイテム
- 双眼鏡: 修道院のテラスから遠景を楽しんだり、野鳥観察に役立つ。
- ウェットティッシュ: 食事前やちょっとした汚れを拭く際に重宝する。
- 小さなゴミ袋: 島内にはゴミ箱が少ないため、自分の出したゴミは持ち帰るのがマナー。
- 日焼け止め、帽子、サングラス: 夏は特に日差しが強く、干潟の照り返しにも注意が必要。
- 常備薬: 胃腸薬や鎮痛剤など、普段使い慣れた薬を持参すると安心できる。
よくあるトラブルとその対応策
実際に起こりうるトラブルとその対処法を事前にイメージしておこう。
- トラブル1: 帰りのシャトルバスに乗り遅れた場合
対岸の駐車場へ戻る最終バスの時間は季節によって異なる。事前に必ず確認しておくことが大前提だが、もし乗り遅れてしまっても慌てないようにしよう。駐車場までは徒歩で約2.5km、30分から40分程度で戻れる。夜でも遊歩道には照明が設置されており比較的安全だが、一人で歩くのは避けたほうが無難だ。同じく乗り遅れた人がいれば声をかけて一緒に歩くと心強い。タクシー乗り場があるが、常駐しているとは限らないので注意したい。
- トラブル2: オンラインチケットのQRコードが表示できない、予約を間違えた時
スマホの充電切れや不具合でEチケットを提示できなくなることがある。予約確認メールのスクリーンショットを保存するか、紙に印刷しておくのが確実だ。予約日や時間を間違えた場合、自己都合による変更や返金は基本的に認められにくい。しかし諦める前に現地のチケットオフィスで事情を説明してみよう。空席があれば、差額や手数料を支払い変更に応じてもらえる可能性はゼロではない。丁寧な対応がカギになる。
- トラブル3: 急な悪天候で橋が通行止めになる可能性
台風並みの強風や豪雨など極端な悪天候時には、島へ続く橋が安全のため一時的に閉鎖されることがある。非常にまれなケースだが、想定しておくべきだ。特に大潮と悪天候が重なる日は注意が必要。こまめに天気予報をチェックし、不安があれば現地の観光案内所やマンシュ県公式サイトで最新の交通情報を確認しよう。島内に宿泊する場合はホテルのスタッフから情報を得るのが最も確実だ。
- トラブル4: レンタカーが故障した場合
私の元整備士の経験からしても最も避けたいトラブルだが、万が一のときは冷静に対応しよう。フランスで車が故障した際は、まず安全な場所に停車しハザードランプを点灯させる。高速道路上ならオレンジ色の非常電話ボックス(SOSボックス)を探すのが最も早い手段だ。あるいはレンタカー契約時に渡された緊急連絡先に電話すると「Assistance(アシスタンス)」と呼ばれるロードサービスにつながる。保険内容によって補償の範囲が異なるため、契約時にしっかりと確認しておくことが重要。言語に不安があればスマホの翻訳アプリを活用すると大いに助かるだろう。
モンサンミッシェルでの特別な体験 – ただ見るだけでは終わらない

モンサンミッシェルは、日中に修道院を訪れるだけでは、その魅力を十分に味わい尽くせない場所だ。この島の本当の美しさは、観光客の波が引いた後にこそ鮮明に現れる。
幻想的な夜のモンサンミッシェル
日が沈み、空が濃い藍色に染まる頃、モンサンミッシェルはもうひとつの顔を見せる。島全体が柔らかな光に包まれ、暗い海に浮かび上がるその姿は、昼間とはまるで別世界のような幻想的な光景だ。
この静けさと光の調和を存分に楽しむには、島内で宿泊するのが最適だ。日帰りの観光客が引けたあとの夜のグランド・リュは、中世にタイムスリップしたような静寂に満ちている。石畳を踏む自分の足音だけが響き、見上げれば星がきらめく。こうした特別な時間を体験するためだけに、島の宿泊を選ぶ価値は十分にある。
また、夏季の一部期間には、修道院の夜間公開も実施されることがある。光と音のインスタレーションが施された夜の修道院を巡る体験は、昼間の見学とはまったく違う神秘的で忘れがたい思い出になるだろう。開催時期や入場チケットの詳細は、事前に公式サイトで確認することが必要だ。
干潟を歩く – 冒険心を刺激するガイドツアー
干潮時になると島を囲む干潟が広がる。この広大な干潟を歩いてみたいと思う人も多いだろう。干潟ウォークは、モンサンミッシェルの自然に直接触れられる最高のアクティビティの一つだ。
ただし、決して単独で踏み入れてはいけない。 この干潟には「流砂(quicksand)」が多く存在し、満ち潮が戻る速度は馬が駆けるほど速いと言われる非常に危険な場所である。干潟を歩く際は、必ず資格を持つ公認ガイドが同行するツアーに参加することを強く推奨する。
ガイドは安全な道筋を熟知しているだけでなく、流砂の仕組みを実演したり、この湾の生態系や歴史について魅力的な話を聞かせてくれる。裸足になり、冷たい砂の感触を楽しみながら徐々に遠ざかるモンサンミッシェルの姿を眺めるその体験は、まるで巡礼者の足跡を辿るように神聖な気分にさせてくれる。ツアーの予約は観光案内所やオンラインで可能だ。体力と冒険心があれば、ぜひ挑戦してもらいたい。
食で旅を彩る – 名物オムレツとその先に広がる味覚
旅の醍醐味は、美しい景色だけでなく食の楽しみにもある。モンサンミッシェルの食といえば、先に触れた「ラ・メール・プラール」のオムレツが非常に有名だ。その歴史や調理のパフォーマンスも含め、一度は体験する価値がある。
しかし、モンサンミッシェルのグルメの魅力はそれだけにとどまらない。対岸や島内には、手頃で美味しいレストランが数多くあり、ノルマンディーやブルターニュ地方の郷土料理を味わう楽しみもある。
特におすすめしたいのは、「アニョー・ド・プレ・サレ(Agneau de pré-salé)」という仔羊肉だ。これはモンサンミッシェル湾の塩分を含んだ牧草を食べて育った羊の肉で、独特の風味と柔らかな食感が特徴で、この地域ならではの希少な食材だ。メニューで見かけた際には、ぜひ味わってみてほしい。そのほかにも、近隣のカンカル港で獲れる新鮮な牡蠣や、リンゴを使ったタルトなど、美食の宝庫が訪れる人を待ち受けている。
次の目的地へ – モンサンミッシェルを拠点とした旅の広げ方

モンサンミッシェルで味わった感動は、旅の終着点ではなく、むしろ新たな冒険の扉を開く瞬間だ。この場所は魅力あふれるノルマンディー地方とブルターニュ地方のちょうど交差する地点に位置している。レンタカーがあれば、その行動範囲は無限に広がる。
もしも西へ車を走らせれば、そこはブルターニュ地方だ。城壁に囲まれた海賊の街「サン・マロ」や、新鮮な牡蠣が名物の港町「カンカル」へは、車で1時間もかからず到着できる。石造りの家々が立ち並ぶ美しい街並みを散策し、地元の新鮮なシーフードに舌鼓を打つ。そんな優雅な一日を過ごせるだろう。
反対に東へ進めば、ノルマンディーの魅力が待っている。第二次世界大戦の歴史を辿るなら、上陸作戦の舞台となった海岸や、バイユーのタペストリーが見どころだ。さらに足を伸ばせば、印象派の画家たちに愛された絵画のような港町「オンフルール」や、奇岩が連なる断崖絶壁の海岸「エトルタ」へと続いていく。
モンサンミッシェルを訪れることは、フランスの田舎の美しさ、歴史の奥深さ、そして豊かな食文化を知るための最良の入り口だ。僕の旅はまだ終わらない。この愛車と共に、次はどんな風景に出会えるのだろう。エンジンの鼓動を感じながら、再びアクセルを踏み込む。この先に、まだ見ぬ感動が待っていると信じて。



