紺碧の地中海に浮かぶ、一枚の巨大な岩の塊。フランスでありながら、どこかイタリアの風が香り、独自の言語と文化が息づく島。それが、コルシカ島です。「美の島(Île de Beauté)」という愛称を持つこの島は、訪れる者を決して飽きさせない、荒々しくも気高い魅力に満ちています。太陽に焼かれた断崖絶壁、絹のように白い砂浜、天を突くような山々、そして何千年もの歴史を刻む古都。そのすべてが、訪れる者の五感を激しく揺さぶります。
食品商社に勤める傍ら、世界の食文化を追い求める私にとって、コルシカ島はまさに宝の山。古代から受け継がれるシャルキュトリ(食肉加工品)やチーズ、土着品種で造られるワイン、そして島の厳しい自然が育んだ食材を使った力強い郷土料理。その一つひとつに、コルシカの人々の誇りと魂が宿っています。
この島は、ただ美しい景色を眺めるだけの場所ではありません。ヨーロッパ屈指の難関トレッキングルートに挑み、透明度抜群の海に潜り、迷宮のような旧市街を彷徨う。そして、疲れた体を地元の料理とワインで癒す。そんな本物の旅が、ここにはあります。
この記事では、ナポレオン・ボナパルトを生んだ激動の歴史から、断崖の上の絶景都市、島ならではの食文化、そして旅を成功させるための実践的な情報まで、私の経験を交えながら、コルシカ島の魅力を余すことなくお伝えします。さあ、地図を広げて、地中海の中心で輝く「美の島」への旅を始めましょう。
コルシカ島とは? – 知られざる「美の島」の横顔

コルシカ島は、フランス本土の南東に位置し、イタリアのサルデーニャ島の北側に臨む地中海で4番目に大きな島です。行政的にはフランスの「コルス地方公共団体」に属していますが、その歴史と文化は非常に独特です。島を歩くと、フランス語の中にコルシカ語(Corsu)が混ざって聞こえてきます。この言語はラテン語を起源とするロマンス語で、イタリアのトスカーナ方言に近く、島のアイデンティティの中核を成しています。
ジェノヴァからフランスへ、そしてナポレオンの時代
コルシカの歴史は、支配と抵抗の連続でした。古代ギリシャやローマ、ヴァンダル族、ビザンツ帝国など、多くの勢力がこの戦略的拠点の支配を目指しました。中でも特に大きな影響を与えたのは、13世紀から18世紀にかけて島を支配したジェノヴァ共和国です。現在でも島の海岸線に設置された見張り塔や、バスティアやカルヴィといった港町の城塞(シタデル)は、ジェノヴァ時代の名残です。これらの石畳の路地を歩くと、まるで中世の世界に迷い込んだかのような感覚を覚えます。
1755年には、英雄パスカル・パオリのリーダーシップの下、コルシカは一時的に独立を果たし、近代的な憲法を制定しました。しかし、その独立は長続きせず、1769年にフランスに併合されました。同じ年、アジャクシオでナポレオン・ボナパルトが生まれました。コルシカの激しい気質を受け継いだ彼が後にフランス皇帝となり、ヨーロッパの歴史を大きく変える運命を辿ったのは、非常に興味深い事実です。島の住民の間には、フランス国民であると同時に、誇り高きコルシカ人であるという強いアイデンティティが今も根付いています。
気候と訪れるのに適した時期
コルシカ島は典型的な地中海性気候を有し、夏は乾燥して暑く、冬は温暖で湿度が高めです。旅の目的によって、訪れるのに最適なシーズンは異なります。
- 夏(7月〜8月): ビーチリゾートが最も賑わう時期で、海水浴やマリンスポーツを楽しむには理想的ですが、多くの観光客で混雑し、宿泊料金も上昇します。日差しが非常に強いため、日焼け対策が欠かせません。内陸でのハイキングには暑すぎる場合もあります。
- 春(5月〜6月)および秋(9月〜10月): 旅行には最適なシーズンと言えるでしょう。気温は穏やかで快適、混雑も夏ほどではありません。春は山々が花々で彩られ、秋は豊かな実りの季節で、どちらも魅力的です。特にハイキングや街歩きを楽しむのに絶好のタイミングです。
- 冬(11月〜3月): 観光客はぐっと減少し、静かな島の本来の姿を味わえます。ただし、多くのホテルやレストランが冬季休業に入るため、計画には注意が必要です。山間部では雪が降り、スキーを楽しむことも可能です。
コルシカ島までのアクセス方法
日本からコルシカ島への直行便はありません。一般的には、パリのオルリー空港やシャルル・ド・ゴール空港、あるいはニースやマルセイユなど南フランスの都市を経由し、島の主要空港へ向かうルートが主流です。
- 主な空港:
- アジャクシオ・ナポレオン・ボナパルト空港 (AJA)
- バスティア・ポレッタ空港 (BIA)
- カルヴィ・サント・カトリーヌ空港 (CLY)
- フィガリ・シュド・コルス空港 (FSC) — 南部のボニファシオやポルト・ヴェッキオへアクセスしやすい空港
さらに、フランス本土(マルセイユ、ニース、トゥーロン)やイタリア(リヴォルノ、ジェノヴァ、サルデーニャ島)からフェリーが運行されています。車ごと乗船することも可能で、時間に余裕があれば地中海クルーズ気分を味わいながら島に到着するのもおすすめです。詳細なスケジュールや料金は、コルシカ・リネアなどのフェリー会社の公式サイトで確認し、予約も行えます。
コルシカ島の必見都市と見どころ
「山は海の中に、海は山の中に」と称されるコルシカ島。その多彩な地形は都市ごとにまったく異なる魅力を映し出します。皇帝の生誕地、天空の要塞、ジェノヴァの港町…それぞれに息づく物語をたどってみましょう。
アジャクシオ(Ajaccio):皇帝ナポレオンの足跡を辿る
コルシカ島の西海岸に位置する最大かつ首府の都市、アジャクシオ。この街の姿は、偉大な息子ナポレオン・ボナパルトと切り離せません。空港名やメインストリートの名前、広場の銅像にいたるまで、すべてが彼を称えています。
メゾン・ボナパルト(ナポレオンの生家)
観光の出発点は、旧市街にあるナポレオンの生家です。彼が生まれ、9歳までを過ごしたこの家は、現在国立博物館として一般公開されています。きらびやかさよりも、当時の地方貴族の生活を伝える質素な調度品が並び、若き日のナポレオンが駆け回ったであろう部屋を巡ると、その野心の原点がこの島にあったことを改めて感じさせられます。音声ガイドを利用してゆっくり見学するのがおすすめです。
フェッシュ美術館
ナポレオンの叔父であるジョゼフ・フェッシュ枢機卿の膨大なコレクションを収蔵する美術館です。ボッティチェッリ、ティツィアーノ、ヴェロネーゼなど、イタリア・ルネサンス絵画のコレクションはルーヴル美術館に次ぐ規模を誇り、なぜこれほどの名画がコルシカにあるのか驚かれることでしょう。ナポレオン一族の権力の大きさを物語る貴重な美術館です。
サンギネール諸島(血の島々)の夕景
アジャクシオ湾の入口に浮かぶ4つの小島、サンギネール諸島。夕暮れ時、太陽が島の向こうに沈むと、空と海、島の影が燃えるような深紅に染まります。その美しさから「血の島々(Îles Sanguinaires)」と呼ばれるこの光景は圧巻です。パラタ岬の展望台から眺めるのが定番ですが、日没に合わせて出るクルーズに乗れば、より劇的な体験が可能です。船上でアペリティフを手に、刻々と変わる空の表情を楽しむ時間は忘れがたい思い出となるでしょう。
バスティア(Bastia):ジェノヴァの息吹を残す港町
島の北東部に位置するバスティアは、コルシカ最大の港町であり経済の中心地です。アジャクシオがフランス風の洗練された雰囲気を持つのに対し、バスティアにはジェノヴァ支配期の面影が色濃く残り、どこかイタリア的な活気と哀愁を感じさせます。
旧港(ヴュー・ポール)とサン・ジャン・バティスト教会
バスティアの核はヨットや漁船が集まる旧港。港を囲むパステルカラーの高い建物の1階にはカフェやレストランが軒を連ねます。潮風を浴びながらテラス席で飲むのが、地元流の過ごし方です。港の北側には島で最大の教会、サン・ジャン・バティスト教会がそびえ、バロック様式の双塔が街のシンボルとなっています。
テラ・ノヴァ(シタデル)
旧港の南側の丘に位置するジェノヴァ時代の要塞、テラ・ノヴァ(新しい土地)。堅固な城壁に囲まれた内部は、石畳の細い路地が迷宮のように入り組みます。かつて総督の館だった建物は今やバスティア博物館となり、街の歴史を学べます。シタデルの展望台からは旧港、ティレニア海、遠くイタリアの島々まで見渡せる絶景ポイントです。
コルシカ岬(カップ・コルス)へのドライブ
バスティアは、島の北端に突き出たコルシカ岬を巡るドライブの出発地点です。約40kmの半島は「島の中の島」と称されるほど独特の風景が広がります。東海岸は穏やかな漁村が点在し、西海岸は断崖が続く荒々しい景色。細く曲がりくねった道が多いため運転は注意が必要ですが、時間があればぜひ挑戦を。レンタカーは必須です。
ボニファシオ(Bonifacio):白亜の断崖に浮かぶ天空の要塞
コルシカの最南端に位置し、石灰岩の真っ白な断崖上に築かれたボニファシオは、島で最もドラマチックな光景を誇る街。まさに空中に浮かぶ要塞都市のような存在で、自然美と人の営みが融合した唯一無二の場所です。
オート・ヴィル(旧市街)の散策
ボニファシオの魅力は城壁に囲まれた旧市街「オート・ヴィル」に凝縮されています。海風が通り抜ける狭い路地は暑さをしのぐ先人の知恵。石畳の道を歩けば中世のジェノヴァ時代にタイムスリップしたかのような感覚に。小さな教会やブティック、レストランが軒を連ね、どこを切り取っても絵になります。城壁の西端にある展望台からは、サルデーニャ島まで見渡せる絶景が広がっています。
アラゴン王の階段
断崖の側面に刻まれた、天へと続くかのような急勾配の階段。伝説では1420年にアラゴン王の軍勢が一晩で掘ったと伝えられていますが、実際には古くから真水を汲み上げるための通路でした。187段の階段を下ると眼前にエメラルドグリーンの海が広がります。往復はかなり体力を使いますが挑戦する価値あり。滑りにくい靴が必須で、入場料は入口の券売機で購入してください。
海上クルーズで海からの絶景を楽しむ
ボニファシオの真価は海上からこそ実感できます。港からは断崖や海蝕洞をめぐるボートツアーが頻繁に出航。波に削られた断崖の縁に建つ家々は崩れ落ちそうな迫力満点の光景です。「ナポレオンの帽子」と呼ばれる奇岩や、洞窟の天井にコルシカの形をした穴が開いているスポットなど、見どころは多彩。複数のツアー会社があり、所要時間や料金、英語ガイドの有無を確認して選びましょう。特に夏は混雑するため、事前予約か午前中の早い時間にチケット購入がおすすめです。
カルヴィ(Calvi):コロンブス誕生の伝説が息づく街
北西部バラーニュ地方に位置し、美しい三日月形の湾に面したリゾートタウン、カルヴィ。背後には雄大な山々がそびえ、ジェノヴァ時代の堅牢なシタデルが街を見守ります。探検家クリストファー・コロンブスの出生地と伝えられており(真偽は不明ながら)、ロマンを掻き立てられます。
シタデル探訪
岬の先端にそびえるシタデルはカルヴィの象徴。厚い城壁に囲まれた内部には、ボニファシオ同様に迷路のような石畳の路地が続きます。かつてのジェノヴァ総督邸やサン・ジャン・バティスト大聖堂、コロンブスの生家とされる遺跡など歴史を感じる地点が点在。城壁の上からは街並みやマリーナ、遠くの山並みまで見渡せます。
美しいビーチとマリーナ
シタデルの麓から東へ約5km続く松林と白砂のビーチは、コルシカ屈指の美しさを誇ります。波穏やかで遠浅なため家族連れに人気。ビーチ沿いには洒落たレストランやバーが立ち並び、リゾート気分を堪能できます。マリーナには高級ヨットが停泊し華やかな雰囲気。ヤシ並木の遊歩道を散策するだけでも楽しい時間が過ごせます。
コルテ(Corte):コルシカ独立の精神が宿る内陸の古都
海岸沿いのリゾートとは対照的に、島のほぼ中央、険しい山々に囲まれた内陸に位置するコルテ。18世紀にパスカル・パオリがコルシカ独立共和国の首都を置いた地であり、今なおコルシカの精神的な故郷として特別な意味を持ち続けています。
シタデルとコルシカ博物館
街のもっとも高い岩山の上に鳥の巣のように築かれたシタデルは、コルテの象徴です。ここからは周囲の山々や渓谷を一望できる絶景が広がります。内部にはコルシカ博物館があり、島の歴史や文化、伝統的な生活様式にまつわる豊富な展示を鑑賞できます。コルシカの精神を深く理解するうえで欠かせない場所です。
タヴィニャーノ渓谷とレステニカ渓谷
コルテは、コルシカ島で最も美しいとされる二つの渓谷、タヴィニャーノ渓谷とレステニカ渓谷の玄関口です。エメラルドグリーンの清流が花崗岩を削り造られた天然のプールが点在し、夏は水遊びや日光浴の場として賑わいます。ハイキングから川沿いの軽い散策まで、レベルに合わせて楽しめるのも魅力。特にレステニカ渓谷は車で奥まで進めますが、道幅が狭いため運転には十分注意が必要です。自信がなければ夏季運行のシャトルバスの利用がおすすめです。
コルシカ島の自然を満喫する – アクティビティ完全ガイド

コルシカの魅力は歴史ある街並みにとどまりません。その真価は、手つかずの荒々しい自然環境にこそあります。海にそびえ立つ山と謳われるこの島は、アウトドア愛好家にとってのまさに楽園です。
GR20縦断:ヨーロッパ最難関トレッキングルートへの挑戦
コルシカ島を北西から南東へと背骨のように貫く、全長約180kmの長距離トレッキングルートが「GR20」です。ヨーロッパ屈指の美しさと過酷さを誇るこのトレイルは、世界中のハイカーたちの憧れとなっています。完歩には平均で15日ほどを要し、標高2,000メートル級の山岳を越え、岩場を登り、険しい尾根を歩むという厳しい行程です。
準備と心構え(実践情報)
GR20へ挑むには、綿密な準備と強い決意が欠かせません。
- 体力と経験: 頑強な足腰はもちろん、山岳地帯での長距離歩行経験も必須です。
- 装備: 丈夫な登山靴、変わりやすい天候に対応可能な服装、容量の大きなバックパック、寝袋、ヘッドランプなど、本格登山に適した装備が求められます。膝への負担を減らすためのストック(登山杖)も強く推奨されます。
- 山小屋(ルフュージュ)の予約: ルート上には複数の山小屋が点在しますが、特に夏季は非常に混み合います。宿泊やテント場の利用は完全予約制のため、コルシカ地域自然公園の公式予約サイトから必ず事前予約を済ませておきましょう。予約なしでの宿泊は不可能です。
- 食糧と水分補給: 山小屋では食事の提供もありますが、値段が高く品数が限られています。十分な行動食や非常食を持参することをおすすめします。水はルート上の湧き水から補給可能ですが、念のため浄水器や浄水タブレットを携行すると安心です。
すべての区間を完歩するのは困難でも、コルテ周辺からアクセスできる一部区間を日帰りで歩くだけでもGR20の魅力を十分に味わえます。
青く輝く海を満喫:ビーチとマリンアクティビティ
コルシカ島の海岸線は約1,000kmにおよび、その表情は多彩です。ゆったりとした湾に広がるパウダーサンドのビーチから、険しい岩礁に囲まれた隠れ家的な入り江まで、きっとお気に入りのスポットが見つかります。
- 南部の楽園ビーチ: ポルト・ヴェッキオ周辺には、島内屈指の美しいビーチが集中しています。
- パロンバッジア (Palombaggia): 赤みがかった岩と緑の松の木が、ターコイズブルーの海と白砂の浜辺に映える、まるで絵はがきのような景色が広がるビーチです。
- サンタ・ジュリア (Santa Giulia): ほぼ円形をした遠浅のラグーンビーチで、波は穏やか。ファミリーにも最適な場所です。
- アグリケイト砂漠の秘境ビーチ:
- サレッチア (Saleccia) / ロトゥ (Lotu): 北西部にある「アグリケイト砂漠」エリアの天国のようなビーチ。陸路は悪路で四駆車が必須なため、サン・フロラン港から出るシャトルボート利用が一般的です。アクセスの困難さ故に、手つかずの自然が色濃く残されています。
- スカンドラ自然保護区:
- ポルト湾の西側に位置し、赤い火山岩が海に迫り出す壮観な景観で知られており、ユネスコ世界自然遺産にも登録されています。陸路からの立ち入りは不可で、ポルトやカルヴィからのクルーズ船でのみ訪問が可能です。イルカやミサゴなどの貴重な野生動物に出会えることもあります。保護区内での泳ぎや上陸は厳重に制限されているため、ツアーのルール遵守が必要です。
内陸部の渓谷と天然プール
夏の日差しが強い日、地元の人々が訪れるのは海だけではありません。山間を流れる川が作り出した天然の水たまりも人気のスポットです。花崗岩の川床を滑るように流れる澄み切った水は、冷たくて気持ちよく感じられます。コルテ近郊のレステニカ渓谷や、ゾロンザ川沿いのカスケード・ド・ポリシェルス(Polischellu)はカニオニング(沢下り)の名所としても知られています。安全に楽しむには、現地ガイド主催のツアーに参加するのがベストです。天候の急変もあり得るため、単独行動や無理な挑戦は避けましょう。
美食の島コルシカ – 大地の恵みを味わう食の旅
食品商社に勤める私にとって、この先が腕の見せどころとなる部分です。コルシカの食文化は、フランス料理やイタリア料理とは異なる独自の力強さと深みを備えています。厳しい島の自然環境の中で育まれた食材と、何世紀にもわたり継承されてきた伝統的な調理方法が、唯一無二の味わいを作り出しているのです。
コルシカ料理の真髄:伝統の味を探訪する
コルシカ料理の主役は山の幸です。かつて海賊の襲撃を恐れ、人々が山岳地帯へ避難して暮らしていた歴史が背景にあります。
- 猪の赤ワイン煮込み(Civet de Sanglier): 島内を駆け回る野生の猪(Sanglier)を使った煮込み料理。ハーブや栗、オリーブとともに長時間じっくり煮込まれた肉は、信じられないほど柔らかく、野性味あふれる深い味わいを楽しめます。
- 栗粉のポレンタ(Pulenta): 昔コルシカの人々の主食であった栗を乾燥させて粉にし、ポレンタ(練り粥)にしたもの。チーズやシャルキュトリと共にいただくことが多く、素朴ながらも滋味豊かな味わいが特長です。
- 子羊・子ヤギのロースト(Agneau/Cabri rôti): 島のハーブ「マキ」を食べて育った子羊や子ヤギの肉はクセがなく、風味豊か。ローズマリーなどのハーブとシンプルにローストした一品は、素材の良さをしっかりと感じられます。
- フェルム・オーベルジュ(Ferme Auberge): 最高のコルシカ料理を堪能したければ、「フェルム・オーベルジュ(農家レストラン)」の訪問を強く推奨します。自家製の食材を使った心尽くしの家庭料理がフルコースで提供されることが多く、予約は必須のため事前に電話で確認するのが得策です。
シャルキュトリ:島の宝石とも言える職人技
コルシカ料理を語るうえで欠かせないのが、シャルキュトリ(食肉加工品)です。島特有の黒豚(Porcu Nustrale)はドングリや栗を食べて育てられ、伝統的な製法でじっくり熟成されたシャルキュトリはまさに芸術品。
- プリスットゥ(Prisuttu): 骨付き豚もも肉を12か月以上熟成させた生ハム。ナッツのような香ばしさと凝縮された旨味が特徴です。
- コッパ(Coppa): 豚の首周りの肉を使用し、赤身と脂身の絶妙なバランスが楽しめます。しっとりした食感と奥深い味わいが魅力です。
- ロンズ(Lonzu): 豚ロースのフィレ肉を用いた脂肪控えめのシャルキュトリ。上品な風味で、ワインのお供にぴったりです。
- フィガテル(Figatellu): 豚レバーを使ったU字型の生ソーセージで、冬の味覚。通常は加熱して食べ、炭火で炙ると香ばしい香りと濃厚な旨味が広がります。
市場や専門店でシャルキュトリを選ぶ際は、「AOP(Appellation d’Origine Protégée)」認証の有無を確認しましょう。これが伝統的な手法で作られた高品質なコルシカ産シャルキュトリの証です。
お土産に関する注意(Do情報): コルシカのシャルキュトリは素晴らしい味ですが、多くの肉製品は日本の家畜伝染病予防法により持ち込みが禁止されています。現地でじっくり味わい、思い出として心に留めるのが賢明です。
チーズ:羊と山羊が生み出す濃厚な味わい
コルシカはチーズの宝庫でもあります。主に羊(Brebis)や山羊(Chèvre)の乳から作られており、種類も多彩です。
- ブロッチュ(Brocciu): コルシカを代表するフレッシュチーズ。羊乳や山羊乳のホエイ(乳清)から作られ、リコッタチーズに似ていますが、よりクリーミーで風味豊か。ハチミツやジャムをかけてデザートにするほか、「フィアドーネ」というチーズケーキやカネロニの詰め物にも使われます。AOP認証を受けており、旬は冬から初夏にかけてです。
- トム・コルス(Tomme Corse): 羊乳または山羊乳から作るセミハードチーズ。熟成期間により味わいが変わり、若いうちはマイルド、熟成が進むとより力強い風味となります。
- 市場では生産者直売の多種多様なチーズに出会え、試食しながらお気に入りを探す楽しさがあります。
ワインとリキュール:島のテロワールを味わう
コルシカ島のワイン造りは古く、紀元前6世紀にさかのぼります。フランス本土とは異なる土着品種から作られるワインは非常に個性的で魅力的です。
- 主要なブドウ品種:
- 赤ワイン用:ニエルッキオ(Niellucciu)、シャカレッロ(Sciaccarellu)
- 白ワイン用:ヴェルメンティーノ(Vermentinu)
- 主なAOP原産地呼称:
- パトリモニオ(Patrimonio): ニエルッキオ種から生まれる、力強い赤ワインとロゼワインが有名。
- アジャクシオ(Ajaccio): シャカレッロ種を使ったエレガントでスパイシーな赤ワインが特徴。
- 食後酒:
- ミルトのリキュール(Myrte): マキの代表的な低木、マートルの実から作られる甘いリキュールで、食後に楽しまれます。
- シャテーニュのリキュール(Châtaigne): 栗のリキュールで、香ばしく甘い風味が魅力的です。
コルシカ島旅行の実用情報

魅力あふれるコルシカ島ですが、快適な旅を実現するためには、いくつかの準備と注意事項があります。ここでは、旅行を円滑に進めるための実践的な情報をお届けします。
計画と準備
持ち物リスト(Do情報)
コルシカの豊かな自然環境に適応するため、持ち物には工夫が求められます。
- 必携アイテム:
- パスポート、航空券、海外旅行保険証
- 現金(ユーロ)およびクレジットカード
- 国際運転免許証(レンタカー利用時)
- スマートフォン、充電器、変換プラグ(CタイプまたはSEタイプ)
- 服装:
- 夏でも朝夕や山間部は冷えることがあるため、薄手のジャケットやパーカーなど羽織るもの
- Tシャツや短パンなどの夏向け服装
- レストラン利用時に備えて、ややきれいめの服装(襟付きシャツやワンピースなど)
- 水着、ビーチサンダル、ラッシュガード
- トレッキングやハイキングを予定している場合は、速乾性ウェアやトレッキングパンツ
- 靴:
- 街歩きに適した歩きやすいスニーカー
- ハイキングや登山向けのしっかりとしたトレッキングシューズ
- その他:
- 日焼け止め(SPF50+推奨)、サングラス、帽子
- 虫よけスプレー
- 常備薬、絆創膏
- カメラ
- S字フック(ホテルで洗濯物を干す際に便利)
服装マナーについて(Do情報)
基本的に自由な服装で問題ありませんが、教会や修道院を訪れる際は肩や膝を覆う服装を心がけましょう。タンクトップやショートパンツでは入場を断られることがあります。ストールを一枚携帯するとさっと羽織れて便利です。また、高級レストランでは、男性の短パンやサンダルの着用は避けたほうが無難です。
島内の交通手段
コルシカ島では公共交通機関がフランス本土ほど充実していません。島内を自由に巡るにはレンタカーの利用がほぼ必須となります。
レンタカー利用のすすめ
主要な都市や空港には大手レンタカー会社のカウンターがあります。
- 予約: 夏のハイシーズンは車両不足が予想されるため、日本出発前にオンラインで予約することを強くおすすめします。
- 車種選び: 島内、とくに山間部や小さな村へ向かう道は非常に狭く、カーブも多いため、コンパクトカーが適しています。ヨーロッパではマニュアル車が一般的です。オートマ車を希望する場合は必ず予約時に指定してください。台数が限られているため料金は割高になることがあります。
- 注意点: 運転マナーはフランス本土に比べるとやや荒く感じる場合があります。対向車とのすれ違いが難しい道も多いため、焦らず慎重な運転を心がけてください。
コルシカ鉄道(Trinichellu)
「小さな列車」を意味する愛称「Trinichellu」で親しまれているコルシカ鉄道は、バスティア〜アジャクシオ間と、途中のポンテ・レッチャからカルヴィ方面へ向かう路線があります。海岸線や険しい山岳地帯を走り抜ける車窓からの景色は見応えがあり、特にヴィザヴォーナ〜ボコニャーノ間の鉄橋は圧巻です。便数は多くありませんが、景色を楽しむ旅には十分に価値があります。チケットは駅窓口またはコルシカ鉄道公式サイトで購入可能です。
トラブル対応
旅先でのトラブルは避けられないこともあります。万が一に備え、適切な対処法を知っておきましょう。
盗難・紛失時の対応(Do情報)
- クレジットカード・現金: 速やかにカード会社の緊急連絡先へ連絡しカードを停止してください。現金やカードは一つの財布にまとめず、複数に分散して持つことをおすすめします。
- パスポート: 最寄りの警察署で盗難・紛失証明書を取得し、その後、在マルセイユ日本国総領事館に連絡して再発行や「帰国のための渡航書」の手続き指示を受けましょう。コルシカには領事館がないため、マルセイユまで移動が必要です。パスポートのコピーや写真を持参すると手続きがスムーズです。
ストライキ(Grève)への備え(Do情報)
フランスでは交通機関や公共サービスでストライキが頻発します。
- 情報収集: 航空会社や鉄道会社の公式サイト、アプリなどで最新の運行情報をこまめにチェックしましょう。
- 代替手段: フライトがキャンセルされた場合は、航空会社のカウンターで代替便や払い戻し手続きを行ってください。鉄道運休時は長距離バスやレンタカー、相乗りサービス(BlaBlaCarなど)が利用可能な代替手段となります。旅行には予備日を設けるなど、余裕を持った計画が重要です。
緊急連絡先(Do情報)
- 救急(SAMU): 15
- 警察(Police): 17
- 消防(Pompiers): 18
- 欧州共通緊急番号: 112(上記番号がわからない場合や、どの機関に連絡すべきか分からない場合に活用してください)
コルシカの魂に触れる旅へ
コルシカ島は単なるリゾート地ではありません。何世紀にもわたる支配と抵抗の歴史の中で培われた、誇り高く揺るぎない精神が息づいています。荒々しくも美しい自然、素朴で力強い食文化、そして独自の言語や伝統を守り続ける人々。これらが一体となって、この島ならではの個性を際立たせています。
断崖の上にあるボニファシオで潮風を感じ、コルテの山々で独立の歴史に思いを馳せ、地元の市場で生産者と笑顔を交わしながらチーズを味わう。そんなひとつひとつの体験が、あなたの旅を忘れがたいものにしてくれるでしょう。
この島は、訪れる人に少しばかりの挑戦を求めます。曲がりくねった山道を運転し、険しい道を歩き、時には変わりやすい天候に翻弄されることもあるでしょう。しかし、その先には、ありきたりな観光では決して味わえない、本物の感動が待っているのです。さあ、あなたもコルシカの魂に触れる旅に一歩踏み出してみませんか。地中海の宝石は常に、本物の旅人を歓迎しています。









