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    世界で最も美しい街、チェスキー・クルムロフへ。おとぎの国を巡る完全ガイド

    「まるで、時が止まった絵本の世界に迷い込んでしまったかのよう」。 チェコ南ボヘミア地方に佇む小さな街、チェスキー・クルムロフを訪れた旅人は、誰もがそう口を揃えます。蛇行するヴルタヴァ川に抱かれるようにして存在するその街は、オレンジ色の屋根が連なる家々と、天を突くようにそびえ立つ城が織りなす景観があまりにも美しく、1992年にはプラハ歴史地区とともにユネスコの世界遺産に登録されました。

    ヴルタヴァ川が大きくS字に湾曲し、その内側に旧市街、外側に城が築かれた独特の地形。中世からルネサンス、バロック時代にかけての建築物が、奇跡的にも戦火を免れ、当時の面影をそのまま現代に伝えています。一歩足を踏み入れれば、そこはもう物語の中。石畳の小径を歩けば、馬車の蹄の音が聞こえてきそうです。窓辺に飾られたゼラニウムの赤が、クリーム色の壁に映え、角を曲がるたびに息をのむような風景が目の前に広がります。

    この街の魅力は、ただ美しいだけではありません。そこには何世紀にもわたる貴族たちの栄華の物語が息づき、エゴン・シーレをはじめとする芸術家たちが愛したインスピレーションの源泉があります。日中は世界中からの観光客で賑わい、夜になればガス灯風の明かりが石畳を濡らし、幻想的な静寂が街を包み込みます。

    この記事では、そんな魔法にかけられたような街、チェスキー・クルムロフの魅力を余すところなくお伝えします。初めて訪れる方はもちろん、再訪を誓った方にも新たな発見があるような、詳細で心躍る旅のプランをご提案します。さあ、一緒に時空を超える旅に出かけましょう。

    目次

    ヴルタヴァ川に抱かれた「眠れる森の美女」

    チェスキー・クルムロフという名前は、チェコ語で「チェコの(Český)」と、蛇行する川辺の窪んだ牧草地を意味するドイツ語「Krumme Aue」に由来すると言われています。その名の通り、街はヴルタヴァ川が大きく湾曲してできた半島のような土地に広がっており、その地形そのものが天然の要塞の役割を果たしていました。

    この街の歴史は13世紀に遡ります。南ボヘミアの有力貴族ヴィートコフツィ家が、交易路を見下ろす岩山の上に城を築いたのが始まりです。その後、14世紀から17世紀初頭にかけて、チェコで最も権勢を誇った貴族の一つ、ロジェンベルク家がこの地を治め、街は黄金時代を迎えます。彼らは城をゴシック様式からルネサンス様式へと大改築し、今日の壮麗な城の基礎を築きました。街もまた、商工業の中心地として大いに栄えたのです。

    ロジェンベルク家の統治が終わると、エッゲンベルク家、そしてシュヴァルツェンベルク家へと領主は変わりますが、彼らもまたこの街を愛し、バロック様式の劇場や庭園を造営するなど、さらなる美しさを付け加えていきました。

    しかし、20世紀に入ると、この美しい街は時代の波に翻弄されます。二度の世界大戦、そしてその後の共産主義政権下では、街は歴史的価値を顧みられることなく、荒廃の一途をたどりました。建物は朽ち果て、色鮮やかだった壁はくすみ、街全体が深い眠りについているかのようでした。このため、チェスキー・クルムロフは「眠れる森の美女」と形容されることもあります。

    転機が訪れたのは1989年のビロード革命。民主化後、街の歴史的価値が再評価され、大規模な修復作業が開始されました。そして1992年、その類まれな美しさが世界に認められ、街全体が世界遺産に登録されたのです。長い眠りから覚めた美女は、かつての輝きを取り戻し、今や世界中の人々を魅了してやみません。私たちが今目にしているのは、まさに奇跡的に保存された、中世ヨーロッパの宝石なのです。

    首都プラハからの心地よい小旅行

    チェスキー・クルムロフへの旅は、多くの旅行者にとって首都プラハからの日帰り、あるいは一泊二日の小旅行として計画されます。プラハから南へ約170km、その道のり自体もまた、旅の楽しみの一つと言えるでしょう。主なアクセス方法は長距離バス、鉄道、そしてレンタカーやツアーです。

    長距離バスでの快適な旅路

    最もポピュラーで、かつ利便性が高いのが長距離バスを利用する方法です。特に「RegioJet (Student Agency)」や「FlixBus」といったバス会社が、プラハ市内の主要なバスターミナルからチェスキー・クルムロフへ向けて、一日に何便も運行しています。

    所要時間は約3時間。バスの旅と聞くと窮屈なイメージを持つかもしれませんが、チェコの長距離バスは驚くほど快適です。座席は広く、リクライニングも可能。無料Wi-Fiや各座席のコンセントはもちろん、RegioJetのバスでは映画や音楽を楽しめるタッチパネル式のモニターが備え付けられています。さらに、アテンダントが乗務し、コーヒーや紅茶などの無料ドリンクサービスまであるのですから、まるで飛行機に乗っているかのような気分です。

    予約は各バス会社のウェブサイトから簡単に行うことができます。特に観光シーズンは満席になることも多いため、早めの予約がおすすめです。プラハの出発地は「Na Knížecí」バスターミナルや「Florenc」バスターミナルが主ですが、予約時に必ず確認しましょう。

    チェスキー・クルムロフのバスターミナル「Český Krumlov, AN」に到着したら、旧市街までは徒歩で10分ほど。少し坂道を下っていくと、目の前にオレンジ色の屋根が広がり始め、旅の始まりを告げる感動的な風景に出会えるはずです。

    鉄道で巡るボヘミアの風景

    時間に余裕があり、車窓からの風景をのんびり楽しみたいという方には、鉄道の旅も選択肢の一つです。プラハ本駅からチェスケー・ブジェヨヴィツェ(České Budějovice)まで行き、そこでローカル線に乗り換えてチェスキー・クルムロフへ向かうのが一般的です。

    所要時間は乗り換えを含めて3時間半から4時間ほど。バスに比べると少し時間はかかりますが、広大な畑や森、小さな村々といった南ボヘミア地方の牧歌的な風景を眺めながらの移動は、また違った趣があります。

    ただし、チェスキー・クルムロフの駅は旧市街から少し離れた丘の上にあり、徒歩で20分から30分ほどかかります。スーツケースなど大きな荷物を持っている場合は、駅前からタクシーを利用するのが賢明でしょう。バスの利便性と比較すると少し手間はかかりますが、チェコ国鉄(České dráhy)のウェブサイトやアプリで時刻や料金を調べ、旅のプランに組み込んでみるのも一興です。

    自由気ままなレンタカーの旅

    自分たちのペースで旅をしたい、途中で気になった場所に立ち寄りたい、という方にはレンタカーが最適です。プラハからチェスキー・クルムロフへの道中には、白亜の城が美しい「フルボカー城(Hluboká Castle)」や、バドワイザービールの故郷である「チェスケー・ブジェヨヴィツェ」など、魅力的な立ち寄りスポットが点在しています。

    ただし、チェスキー・クルムロフの旧市街は車両の乗り入れが厳しく制限されています。宿泊先のホテルが専用駐車場を持っているか事前に確認するか、街の入り口にある有料駐車場を利用することになります。石畳の道は狭く、運転には注意が必要ですが、その分、旅の自由度は格段に上がります。

    必見!チェスキー・クルムロフの珠玉の見どころ

    街のどこを切り取っても絵になるチェスキー・クルムロフですが、その中でも絶対に外せない、珠玉の見どころをご紹介します。まずは、この街の象徴であり、歴史そのものであるチェスキー・クルムロフ城から巡りましょう。

    街のシンボル「チェスキー・クルムロフ城」

    ヴルタヴァ川の外側の湾曲部、険しい岩山の上にそびえ立つチェスキー・クルムロフ城は、プラハ城に次いでチェコで2番目に大きな城です。40もの建物と宮殿、5つの中庭、そして広大な庭園からなる複合体は、まさに圧巻の一言。その姿は、街のどこからでも仰ぎ見ることができます。

    城の歴史と壮麗な建築

    この城の歴史は、街の歴史そのものです。13世紀にヴィートコフツィ家によってゴシック様式の城として築かれ、14世紀から統治したロジェンベルク家によってルネサンス様式に改築されました。城壁に描かれただまし絵(スグラフィット装飾)は、この時代の特徴をよく表しています。その後、エッゲンベルク家、シュヴァルツェンベルク家と城主が変わる中で、バロック、ロココ様式が加えられ、様々な建築様式が混在する現在の複雑で魅力的な姿になりました。城の見学ツアーに参加すれば、豪華な装飾が施された部屋々や、黄金の馬車など、歴代城主の栄華を物語る品々を間近に見ることができます。

    圧巻のパノラマ!「城の塔」

    城内でひとき饉わ目を引くのが、カラフルで美しい円筒形の塔です。ルネサンス様式で装飾されたこの塔は、城の最も古い部分であるゴシック様式の「フラデーク(Hrádek)」と呼ばれる建物の一部。塔の内部は博物館になっており、162段の狭い螺旋階段を上りきると、息をのむような絶景が待っています。眼下には、オレンジ色の屋根がひしめき合う旧市街、それを優雅に縁取るヴルタヴァ川、そして遠くに広がるボヘミアの森。この景色を見るためだけにでも、クルムロフを訪れる価値があると言っても過言ではありません。360度のパノラマビューは、街の地理的な特徴を理解するのにも最適です。

    空中の回廊「マントル橋」

    城の第4の中庭と第5の中庭、そして城の庭園を結ぶのが、高さ40メートルの巨大な「マントル橋(Plášťový most)」です。深い堀の上に架けられた3層構造のアーチ橋は、まるで古代ローマの水道橋を彷彿とさせる壮大さ。この橋は単なる通路ではなく、城の各部を天候に左右されずに移動するための屋根付きの回廊になっています。橋の上からは、城の塔からとはまた違った角度で、旧市街と聖ヴィート教会の尖塔を望むことができます。特に夕暮れ時、西日に照らされた街並みは幻想的で、多くの写真家がシャッターを切る絶好のフォトスポットです。

    世界最古の劇場「バロック劇場」

    城の第5の中庭の奥に、世界でも類を見ない文化的至宝が眠っています。それが、1766年に完成した「バロック劇場」です。驚くべきことに、当時の舞台装置、背景画、衣装、小道具のほとんどが、ほぼ完全な形で保存されているのです。奈落の底にある木製の機械を人力で動かすことで、瞬時に舞台背景を変えることができ、波の音や雷鳴といった効果音も当時の仕掛けで再現されます。まるで18世紀にタイムスリップしたかのような体験ができるこの劇場は、世界に数カ所しか現存しない極めて貴重なもの。見学はガイドツアーのみで、人数も制限されているため、事前に予約することをおすすめします。

    優雅な散歩道「城の庭園」

    マントル橋を渡った先には、広大な城の庭園が広がっています。フランス式庭園とイギリス式庭園の要素を取り入れたこの場所は、幾何学的に刈り込まれた植木、美しい花壇、そして優雅なカスケードの噴水が配された、まさに王侯貴族の憩いの場。庭園の奥には、夏の間だけオペラなどが上演されるユニークな「回転劇場」もあります。観客席が360度回転し、舞台が森の木々や夜空そのものになるという斬新な仕掛けです。観光の合間に、この静かで美しい庭園を散策し、心地よい風に吹かれながら一息つくのは、最高の贅沢と言えるでしょう。

    城の堀に住む「熊」

    城の第1の中庭と第2の中庭を結ぶ橋の下を覗き込むと、城の堀で熊が飼育されていることに気づきます。これは、16世紀から続く伝統です。当時の城主ロジェンベルク家が、その祖先がイタリアの名門オルシーニ家(Orsiniはイタリア語で「小熊」を意味する)につながるという伝説にあやかって、熊を飼い始めたのがきっかけとされています。以来、城のシンボルとして代々大切に育てられてきました。訪れた人々は、のっそりと歩く熊の姿に思わず足を止め、微笑んでいます。

    旧市街散策のすすめ ~迷宮の路地を巡る~

    チェスキー・クルムロフのもう一つの主役は、ヴルタヴァ川にぐるりと囲まれた旧市街です。城からの眺めも素晴らしいですが、実際にその迷路のような路地を歩き、肌でその空気を感じることこそ、この街の旅の醍醐味です。

    スヴォルノスティ広場 (旧市街広場)

    旧市街の中心に位置するのが、スヴォルノスティ広場です。周囲には、パステルカラーの美しいルネサンス様式やバロック様式の建物がずらりと並び、まるで映画のセットのよう。広場に面した市庁舎の壁には、チェコ共和国、チェスキー・クルムロフ、エッゲンベルク家、シュヴァルツェンベルク家の紋章が飾られ、この街の歴史を物語っています。

    広場の中央には、18世紀初頭にペストの終焉を記念して建てられた「マリア柱(ペスト記念塔)」がそびえ立ち、聖人たちの像が街の平和を見守っています。広場の周りにはカフェやレストランのテラス席が並び、多くの人々がビールを片手に談笑したり、名物の菓子「トゥルデルニーク」を頬張ったりしています。まずはこの広場で一息つき、これから始まる路地裏探検への期待に胸を膨らませましょう。

    曲がりくねった石畳の路地裏へ

    広場から放射状に延びるどの道を選んでも、そこには新たな発見が待っています。チェスキー・クルムロフの本当の魅力は、地図を片手に目的地を目指すのではなく、気の向くままに、あえて道に迷ってみることにあります。

    幅の狭い石畳の道は、予測不能に曲がりくねり、時折現れるアーチをくぐると、また違った表情の空間が広がります。壁に描かれた美しいフレスコ画やだまし絵(スグラフィット装飾)は、歩く人の目を楽しませてくれます。軒先を彩る可愛らしい看板、ショーウィンドウに並べられたボヘミアングラスやマリオネット、そして思わぬところにある小さな中庭。そのすべてがフォトジェニックで、カメラのシャッターを切る手が止まらなくなるはずです。特に観光客が少ない早朝や、ガス灯が灯る夜の散策は格別。静寂の中、石畳に響く自分の足音だけが聞こえる時間は、忘れられない思い出となるでしょう。

    聖ヴィート教会

    旧市街の中で、城の塔と並んでランドマークとなっているのが、聖ヴィート教会の天高く伸びる尖塔です。15世紀初頭に完成したこの教会は、プラハの聖ヴィート大聖堂を彷彿とさせる壮麗なゴシック建築。ロジェンベルク家の庇護のもと、何世紀にもわたって増改築が繰り返されました。

    一歩中に足を踏み入れると、高い天井を支えるリブ・ヴォールトの美しい曲線と、壁を彩るフレスコ画、そして主祭壇の荘厳さに圧倒されます。差し込む光によって表情を変えるステンドグラスも必見です。この教会には、ロジェンベルク家の当主やシュヴァルツェンベルク家の心臓が安置されており、この街の精神的な支柱であり続けてきたことが伺えます。城の華やかさとは対照的な、静かで敬虔な空気に満ちた空間で、しばし心を落ち着けてみるのも良いでしょう。

    チェスキー・クルムロフの芸術と文化に触れる

    この街は、ただ美しい景観が広がるだけではありません。多くの芸術家を惹きつけ、インスピレーションを与えてきた、文化の香り高い街でもあります。

    エゴン・シーレ・アートセンター

    オーストリアを代表する表現主義の画家、エゴン・シーレ。彼の母はチェスキー・クルムロフの出身であり、シーレ自身もこの街の美しさに魅了され、1911年に愛人のヴァリ・ノイツェルと共に移り住み、多くの作品を描きました。しかし、彼の前衛的な作風と自由奔放なライフスタイルは、保守的な街の人々に受け入れられず、わずか数ヶ月で街を追われることになります。

    そんな彼とゆかりの深いこの街に、1993年、かつてのビール醸造所を改装して「エゴン・シーレ・アートセンター」がオープンしました。館内では、シーレの素描や水彩画、そして彼の生涯に関する資料が常設展示されているほか、国内外の現代アーティストの企画展も積極的に開催されています。シーレが愛し、そして拒絶された街で彼のアートに触れることは、非常に感慨深い体験となるはずです。

    写真好きにはたまらない「セバスチャン写真美術館」

    かつての写真家、ヨゼフ・セバスチャンとフランチシェク・セバスチャンのスタジオ兼住居を改装したユニークな美術館です。ここでは、19世紀末から20世紀初頭にかけて撮影されたチェスキー・クルムロフの古い写真や、当時の人々のポートレートが数多く展示されています。まだ観光地化される前の、素朴で静かな街の姿は非常に興味深く、現在の風景と見比べることで、時の流れを感じることができます。

    また、館内にはアンティークカメラのコレクションや、当時の現像室(暗室)も再現されており、写真の歴史そのものに触れることができます。写真が好きな方はもちろん、歴史に興味がある方にもぜひ訪れてほしい、隠れた名スポットです。

    伝統工芸と可愛いお土産探し

    チェスキー・クルムロフの散策の楽しみの一つが、個性豊かなお店でのショッピングです。特にチェコを代表する伝統工芸品は、旅の思い出にぴったりです。

    • ボヘミアングラス: 世界的に有名なチェコのクリスタルガラス。繊細なカットが施されたグラスや花瓶は、光を受けてきらきらと輝きます。
    • ガーネット: 深い赤色が美しいチェコ産のガーネットは、古くから宝飾品として愛されてきました。比較的手頃な価格のアクセサリーも見つかります。
    • 木のおもちゃ: 温かみのある木製のおもちゃは、チェコの伝統工芸の一つ。クルテク(もぐらのキャラクター)など、可愛いモチーフのものがたくさんあります。
    • マリオネット: チェコは人形劇の国。精巧に作られたマリオネットは、もはや芸術品です。
    • コヒノール(Koh-i-Noor): チェコの老舗文房具メーカー。カラフルな色鉛筆や可愛らしいデザインの文具は、お土産に喜ばれること間違いなしです。

    旧市街の路地裏には、こうした品々を扱う小さなお店が点在しています。ぜひお気に入りを見つけてみてください。

    美食の街クルムロフを味わい尽くす

    美しい景色と芸術だけでなく、チェスキー・クルムロフは食の楽しみにもあふれています。歩き疲れたら、この街ならではの美味しい料理と飲み物でエネルギーをチャージしましょう。

    伝統的なチェコ料理を堪能

    チェコ料理は、肉とジャガイモ、そして「クネドリーキ」と呼ばれる茹でパンが基本。ボリューム満点で、日本人にも親しみやすい味付けのものが多くあります。

    • グラーシュ (Guláš): 牛肉をパプリカなどで煮込んだシチュー。濃厚なソースをクネドリーキに絡めて食べるのが定番です。
    • スヴィチュコヴァー (Svíčková na smetaně): 牛肉のローストに、野菜とクリームをベースにした甘酸っぱいソースをかけた、チェコを代表するご馳走。クランベリーソースやホイップクリームが添えられます。
    • ペチェナー・カフナ (Pečená kachna): ローストダック。皮はパリパリ、肉はジューシーで、紫キャベツの甘煮とクネドリーキが添えられるのが一般的です。

    特におすすめなのが、中世の洞窟のような雰囲気の中で食事ができるレストラン「Krčma v Šatlavské ulici」です。ここでは、暖炉の直火で豪快に焼き上げるグリル料理が名物。豚の膝肉のロースト「ペチェネー・コレーノ(Pečené koleno)」は、ぜひ試してほしい一品です。人気店なので、予約は必須です。

    ヴルタヴァ川を眺めるリバーサイドカフェ

    天気の良い日には、ヴルタヴァ川沿いのカフェのテラス席で過ごすのが最高です。川のせせらぎを聞きながら、行き交うラフティングボートを眺め、ゆっくりと流れる時間に身を任せる。そんな贅沢なひとときを過ごせます。美味しいコーヒーや、リンゴのパイ「シュトゥルーデル」、蜂蜜のケーキ「メドヴニーク」など、チェコの伝統的なスイーツと共に、至福の時間を楽しんでください。

    地ビール「エッゲンベルク」を味わう

    チェコといえば、世界一のビール消費量を誇るビール大国。チェスキー・クルムロフにも、この街の歴史と深く結びついた地ビールがあります。それが「エッゲンベルク(Eggenberg)」です。

    16世紀末にロジェンベルク家によって設立され、その後、城主となったエッゲンベルク家の名を冠したこの醸造所は、何世紀にもわたってクルムロフの人々に愛されてきました。残念ながら醸造所自体は2014年に閉鎖されましたが、そのブランドとレシピは引き継がれ、現在も飲むことができます。市内のレストランやパブで、この街の歴史が詰まった一杯を味わってみてはいかがでしょうか。喉ごしの良いピルスナーは、散策で乾いた喉を潤すのに最適です。

    アクティビティと体験 ~街を五感で楽しむ~

    景色を眺め、歴史を学び、美食を味わうだけでなく、チェスキー・クルムロフにはもっとアクティブな楽しみ方もあります。

    ヴルタヴァ川ラフティング&カヌー

    夏にチェスキー・クルムロフを訪れるなら、ぜひ挑戦してほしいのがヴルタヴァ川でのラフティングやカヌーです。旧市街をぐるりと囲む川を、水上からのんびりと下っていく体験は、陸から見るのとは全く違う視点で街の美しさを発見させてくれます。

    初心者でも気軽に楽しめる短いコースから、数時間かけて下る本格的なコースまで様々。川にはいくつかの「堰(せき)」があり、そこを滑り台のように下るのがスリル満点で大人気です。城や教会を見上げながら、水しぶきを浴びて進むのは爽快そのもの。家族や友人と一緒に挑戦すれば、忘れられない夏の思い出になるでしょう。市内の複数の会社が用具のレンタルやツアーを催行しています。

    クルムロフに泊まるという贅沢

    チェスキー・クルムロフは、プラハからの日帰り観光も可能ですが、この街の本当の魅力を知るためには、ぜひ一泊することをおすすめします。

    日中の喧騒が嘘のように静まり返る夜。ガス灯風のオレンジ色の光が石畳を優しく照らし、街全体が幻想的な雰囲気に包まれます。ライトアップされた城は闇夜に浮かび上がり、その姿は息をのむほど荘厳です。観光客が去った後の静かな路地を散策するのは、宿泊者だけの特権です。

    そして翌朝。朝霧が川面から立ち上り、街をヴェールのように覆う中、誰よりも早く散策を始めれば、まるで自分だけのものになったかのような、神秘的なクルムロフに出会えます。日帰りでは決して味わうことのできない、穏やかで深い感動がそこにあります。城を望むホテルや、歴史的な建物を改装した趣のあるペンションなど、宿泊施設も魅力的な場所がたくさんあります。

    旅のヒントと心構え

    最後に、チェスキー・クルムロフへの旅をより快適で思い出深いものにするための、いくつかのヒントをご紹介します。

    ベストシーズンはいつ?

    チェスキー・クルムロフは、どの季節に訪れてもそれぞれの魅力があります。

    • 春(4月~6月): 花が咲き乱れ、街が生命力に満ち溢れる季節。気候も穏やかで、街歩きに最適です。
    • 夏(7月~8月): 最も観光客で賑わうハイシーズン。緑が美しく、ラフティングなどのアクティビティが楽しめます。夜まで明るいので、活動時間も長くなります。
    • 秋(9月~10月): 街の木々が赤や黄色に色づき、紅葉とオレンジ色の屋根のコントラストが美しい季節。気候も良く、落ち着いた雰囲気の中で散策ができます。
    • 冬(11月~3月): 運が良ければ、雪景色に染まったおとぎの国のような風景に出会えます。クリスマスシーズンには、スヴォルノスティ広場で可愛らしいクリスマスマーケットが開かれ、温かいワイン(スヴァジャーク)を片手に楽しむことができます。

    街歩きの服装と靴

    この街の道は、そのほとんどが何世紀も前に敷かれた石畳です。歴史の趣はありますが、非常に歩きにくく、特にヒールの高い靴は危険です。必ず、履き慣れた歩きやすいスニーカーやフラットシューズを選びましょう。また、街は坂道も多いので、足腰に自信のない方は無理のない計画を立てることが大切です。夏でも朝晩は冷え込むことがあるので、羽織れるものを一枚持っていくと安心です。

    通貨と支払い

    チェコの通貨はチェコ・コルナ(Kč)です。プラハなどの大都市ではユーロを使える店もありますが、チェスキー・クルムロフでは基本的にコルナが必要です。旧市街には両替所やATMが複数ありますが、レートが良いとは限らないため、できればプラハなどで両替を済ませておくと良いでしょう。

    レストランや大きなお土産物屋ではクレジットカードが使える場合が多いですが、小さな個人商店や屋台などでは現金のみのこともあります。ある程度の現金は用意しておきましょう。

    知っておくと便利なチェコ語

    観光地なので英語は比較的通じますが、簡単なチェコ語を知っていると、地元の人々とのコミュニケーションがよりスムーズになり、旅が豊かになります。

    • こんにちは: Dobrý den (ドブリー・デン)
    • ありがとう: Děkuji (ジェクイ)
    • はい / いいえ: Ano / Ne (アノ / ネ)
    • お願いします / どういたしまして: Prosím (プロスィーム)
    • さようなら: Na shledanou (ナ・スフレダノウ)
    • 乾杯!: Na zdraví! (ナ・ズドラヴィー!)

    たった一言でも、現地の言葉で挨拶をすれば、きっと素敵な笑顔が返ってくるはずです。それは、どんな美しい風景にも勝る、旅の宝物となるでしょう。さあ、準備は整いました。時を超えた美しさを湛える街、チェスキー・クルムロフが、あなたを待っています。

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    この記事を書いたトラベルライター

    SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

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