クラシック音楽が流れ、壮麗な歴史的建造物が立ち並ぶオーストリア。ウィーンのカフェハウスで過ごす優雅なひとときは、多くの旅人が夢見る光景でしょう。しかし、愛煙家にとって旅先で気になるのが「喫煙事情」。かつては紫煙がくゆっていたカフェの光景も、今では大きく様変わりしました。ルールを知らずに訪れると、思わぬ罰金や周囲からの厳しい視線に戸惑うことになりかねません。
こんにちは、健司です。仕事柄、世界中を飛び回る中で、各国の文化やルールに触れる機会が多くあります。特に、嗜好品に関する規制は国によって大きく異なり、旅の快適さを左右する重要な要素です。今回は、音楽の都オーストリアに焦点を当て、2019年の法改正以降、厳格化された喫煙ルールを徹底的に解説します。どこで吸えるのか、タバコはどこで買えるのか、そしてスマートな愛煙家として振る舞うためのマナーまで。この記事を読めば、オーストリアでの一服が、気まずい時間ではなく、旅の素晴らしいアクセントになるはずです。それでは、美しきドナウの国での喫煙ガイドを始めましょう。
激変したオーストリアの喫煙ルール:2019年11月の法改正

まず最初に、そして最も重要な点として理解しておくべきことは、オーストリアの喫煙ルールが2019年11月1日をもって大きく変わったという事実です。この日、いわゆる「禁煙法(Nichtraucherschutzgesetz)」が施行され、飲食店内での喫煙が原則として全面的に禁止されました。多くの喫煙者や旅行者にとって、この変化は非常に衝撃的なものであったと言えるでしょう。
なぜ全面禁煙となったのか?その背景
この法改正以前、特にウィーンを中心とするオーストリアのカフェ文化とタバコは密接な関係にありました。分煙制度は進んでおり、多くのカフェやレストランでは喫煙席と禁煙席が分けられていました。しかし、欧州全体でより健康志向が高まり、受動喫煙防止への取り組みが強まる中で、オーストリアもその影響を大きく受けました。国民の健康を守るという大義名分のもと、長年の議論を経て、ついに公共屋内空間での完全な禁煙体制へと移行したのです。
この法律は国民の意思を色濃く反映したものであり、禁煙支持の署名が多数集まったことで政府も対応を免れませんでした。旅行者としては、こうした現地の決定を尊重し、ルールをしっかり理解して遵守することが求められます。
法律のポイント:どこが「禁煙」対象なのか
この法律で禁煙とされる場所は非常に広範囲にわたります。具体的には以下の場所が含まれます。
- すべての飲食店: レストラン、カフェ、バー、居酒屋、ディスコ、クラブなど、業態を問わず全飲食店の屋内は全面禁煙です。かつて存在した喫煙席やガラスで仕切られた喫煙ルームも現在は認められていません。
- 公共施設: 学校、役所、病院、劇場、映画館、美術館などの公共建物内も禁煙対象です。
- 公共交通機関: 電車、バス、トラム(路面電車)、地下鉄の車内は禁煙です。駅のコンコースや地下鉄駅構内も禁煙に含まれます。
簡単にまとめると、「屋根と壁で囲まれた公共の屋内空間はほぼすべて禁煙」と考えて差し支えありません。
違反時の厳しい罰則
ルールには罰則が伴います。軽率に違反すると、楽しい旅行が台無しになる恐れがあります。罰金は決して軽くないため、必ず把握しておきましょう。
- 喫煙者本人: 禁煙エリアで喫煙した場合、初犯で最大100ユーロ(約17,000円)、再犯では最大1,000ユーロ(約170,000円)の罰金が科される可能性があります。
- 施設管理者・経営者: 禁煙対策を怠った場合、事業者にはさらに厳罰が課せられます。初犯で2,000ユーロ、再犯で最大10,000ユーロの高額罰金が科されるため、店舗側も徹底してルール運用に取り組んでいます。
「少しだけなら」「見つからないだろう」といった甘い考えは通用しません。店のスタッフから注意を受けるだけでなく、場合によっては他の客から通報されることもあります。旅先での余計なトラブルを避けるために、ルールは必ず守りましょう。
ここなら吸える!喫煙可能な場所の完全ガイド
オーストリアでは屋内がほぼ全面禁煙となっていますが、愛煙家が全く喫煙できる場所がないわけではありません。ルールやマナーを守れば、喫煙できる場所はきちんと確保されています。ここでは具体的にどのような場所で喫煙が認められているかを詳しくご紹介します。
基本は「屋外」:開放感あふれるオープンスペースで
現在のオーストリアにおける喫煙の基本は「屋外」となっています。建物の外側、つまりオープンエアの場所であれば、原則として喫煙が許可されています。公園のベンチや路上で一服している人を見かけることも珍しくありません。
ただし、屋外ならどこでも無条件で喫煙できるわけではありません。ここで重要になるのは、法律以前の「マナー」です。
- 子どもの近くは避ける:公園や広場であっても、子どもが遊んでいるプレイグラウンド周辺は必ず避けましょう。
- 人混みの中では控える:バス停で列ができている場所や観光地の入り口など、多くの人が集まっているところでの喫煙は周囲への配慮から控えるのが望ましいです。
- 建物の出入口付近は避ける:出入りの多い建物のエントランス付近は煙が中に流れ込む恐れがあるため、喫煙は控えましょう。
屋外での喫煙は周囲に不快感を与えないような「配慮」が最も重要です。周囲の状況をよく観察し、喫煙しても問題ないかどうか見極める習慣をつけましょう。
レストランやカフェの「テラス席」
飲食の合間に一服したい方にとって、屋外設置のテラス席は大きな救いとなります。特にウィーンでは「シャニガルテン(Schanigarten)」と呼ばれる、歩道に設けられたカフェのテラス文化が根付いており、暖かい季節には多くの店が外にテーブルと椅子を並べます。
これらのテラス席では多くの場合、喫煙が許可されていることが多いです。テーブルに灰皿が置いてあれば、その場所は喫煙可能エリアのサインです。ただし店舗ごとの方針が異なり、食事の雰囲気を重視してテラス席も禁煙としている場合もあります。
【利用時のポイント】テラス席での喫煙の確認法
- 灰皿の有無をチェックする:これが最もわかりやすい目印です。灰皿があれば喫煙OKの可能性が高いです。
- 店員に直接尋ねる:不明な場合は席に案内された際、「Darf ich hier rauchen?(ここでタバコを吸ってもよいですか?)」と一言聞いてみましょう。このひとことがトラブル回避に非常に役立ちます。
- 周囲の客の様子を観察する:周りの人が喫煙しているかどうかも参考にしてみてください。
ウィーンのカフェのテラス席で、メランジェ(ウィーナーコーヒーの一種)を楽しみながら一服する時間は、愛煙家にとって至福のひとときです。ルールを守って、この素敵な文化を満喫しましょう。
ホテル選びのポイント:喫煙ルームを探す方法
旅行中の宿泊先における喫煙環境は重要なポイントの一つです。オーストリアのホテルは禁煙法の対象となっており、ロビーやレストランを含むパブリックスペースはすべて禁煙です。
客室の喫煙可否が問題となります。多くのホテルは全館禁煙に移行していますが、一部にはまだ「喫煙ルーム(Raucherzimmer)」を設けているところもあります。ただしその数は年々減少しているため、事前の確認が不可欠です。
【準備のコツ】喫煙ルームを確実に確保する方法
- 予約サイトのフィルター機能を活用:大手ホテル予約サイトでは「喫煙ルーム」や「喫煙可」といった検索フィルターが用意されています。これを使って候補を絞り込むのが効率的です。
- 「バルコニー付き」部屋を狙う:喫煙ルームが見つからない場合は、部屋の中は禁煙でもバルコニーでの喫煙が許されていることが多いため、バルコニー付きの客室を選ぶのも一つの手です。ただしこれもホテルごとに方針が異なるため、必ず事前に確認してください。
- ホテルに直接問い合わせる:予約サイトの情報だけでは不安な場合や確実に喫煙ルームを押さえたい場合は、予約前にホテルにメールなどで直接問い合わせるのがおすすめです。「I would like to request a smoking room.(喫煙ルームを希望します)」や「Is smoking permitted on the balcony of the room?(部屋のバルコニーで喫煙は可能ですか?)」といった簡単な英語で十分伝わります。
私自身、以前ザルツブルク訪問時に予約サイトで「喫煙可」と記載のあったホテルを予約したものの、実際には数年前に全館禁煙に切り替わっていた経験があります。幸いバルコニー付きの部屋に変更してもらえましたが、こうしたトラブルを防ぐためにも直前の確認は必ず行いましょう。
空港や駅の喫煙スペース
長距離移動の前後にはどうしても一服したくなるものです。空港や駅など交通の要所にある喫煙スペースも把握しておきましょう。
- ウィーン国際空港(VIE):空港内は基本的に全面禁煙ですが、ターミナル内にガラス張りの喫煙キャビン(Smoking Cabins)がいくつか設置されています。設置場所は変わる可能性があるため、空港の案内表示やインフォメーションカウンターで確認するのが確実です。保安検査後のエリアにも設けられており、搭乗直前まで利用できます。
- オーストリア連邦鉄道(ÖBB)の駅:駅構内や屋根付きプラットフォームは禁煙となっていますが、多くの駅でプラットフォームの一部に「Raucherzone(喫煙エリア)」が指定されています。四角いラインで囲まれ、灰皿が設置されているのが目印です。電車を待つ際は必ずこの指定エリア内での喫煙を心がけましょう。
オーストリアでのタバコ購入ガイド

現地でタバコを購入したい場合、一体どこで買えばよいのでしょうか。日本のコンビニのように気軽にどこでも手に入るわけではないため、注意が必要です。
タバコ専門店「Trafik」を見つけよう
オーストリアでタバコや葉巻、新聞、雑誌などを手に入れる際の基本は「Trafik(トラフィック)」または「Tabak Trafik」と呼ばれるタバコ専門店です。街のあちこちで目にすることができ、青を基調とした看板に白字で「TABAK」と書かれているほか、オーストリアの国章である鷲のマークが目印となっています。
店舗内には多様な種類の紙巻きタバコはもちろん、葉巻やパイプタバコ、手巻き用のシャグ、さらには喫煙具まで幅広く取り揃えています。店員に好みを伝えれば、おすすめの商品を紹介してくれることもあります。オーストリアで流通している主な国際ブランドのタバコは、ほとんどここで購入可能です。
自動販売機の利用方法と注意点
Trafikの店頭や、レストランやバーの外壁などにはタバコの自動販売機が設置されている場合もあります。24時間利用できて便利ですが、旅行者にはひとつハードルがあります。
オーストリアでは未成年者の喫煙防止のため、自動販売機での購入には年齢認証が必須です。多くの場合、オーストリア発行の銀行カード(Bankomatkarte)や特定の認証機能があるカードを機械に挿入しないと購入できません。日本のクレジットカードでは認証できないことが多いため、旅行者が自動販売機を使うのは難しいと考えたほうがよいでしょう。基本的にはTrafikの営業時間内に購入することが確実です。営業時間は店によって異なりますが、平日の日中が中心で、土曜は午前中のみ営業、日曜は休業の場合も多いのでご注意ください。
電子タバコ・加熱式タバコの利用ルール
近年、利用者が増えている電子タバコ(Vape)や加熱式タバコ(IQOSやgloなど)ですが、オーストリアの法律上では基本的に紙巻きタバコと同じ扱いとなっています。つまり禁煙法の対象となる屋内では使用が禁止されており、テラス席や屋外など、紙巻きタバコが許可されている場所でのみ使用可能です。
リキッドや専用スティックは、一部のTrafikや都市部にある電子タバコ専門店で手に入ります。ただし、日本で販売されている全てのフレーバーや種類が揃っているわけではないため、こだわりがある場合は日本から持参するのがおすすめです。持ち込みのルールについては、次のセクションで詳しくご説明します。
旅の準備:持ち込みルールと必須アイテム
オーストリアへの旅行を計画する際、愛煙家の方が事前に準備しておくべきポイントや持ち物について把握しておきましょう。
必携アイテム:携帯灰皿
これが最も重要だと言っても過言ではありません。前述の通り、オーストリアでは喫煙が基本的に屋外でのみ許可されています。街中にはゴミ箱に灰皿が設置されている場所もありますが、常に見つけられるとは限りません。美しい街の景観を守るため、またマナーある旅行者としての振る舞いのためにも、携帯灰皿は必ず持参しましょう。
タバコのポイ捨てはマナー違反であるだけでなく、厳しい罰金の対象になります。地域によっては90ユーロ以上の罰金を科されることも少なくありません。携帯灰皿を一つポケットに入れておけば、このようなリスクを避け、気持ちよく喫煙できます。
日本からのタバコ持ち込み:免税範囲について
普段吸っている銘柄をオーストリアでも楽しみたい場合、日本からの持ち込みが必要になります。その際、知っておくべきなのが免税の上限です。オーストリアはEU加盟国のため、EU共通の規定が適用されます。
日本のようなEU域外の国からオーストリアに入国する場合、17歳以上であれば以下の範囲内でタバコ製品を免税で持ち込めます。
- 紙巻きタバコ:200本(1カートン)
- 細葉巻(シガリロ):100本
- 葉巻(シガー):50本
- 刻みタバコ:250g
これらは「または」の関係にあり、例えば紙巻きタバコを100本(免税範囲の半分)と葉巻を25本(同じく半分)という組み合わせでの持ち込みも可能です。加熱式タバコのスティックも、一般的に紙巻きタバコ200本相当の量が免税範囲とされています。最新の正確な情報については、渡航前にオーストリア財務省公式サイトでの確認をおすすめします。
免税範囲を超えて持ち込む場合は、税関での申告と関税支払いが必要です。申告しないと密輸とみなされ、高額な罰金や商品の没収など厳しい措置が取られる可能性があるため、絶対に避けてください。
ライター・マッチの機内持ち込みについて
喫煙具であるライターやマッチの機内持ち込みには規制があります。航空会社によってルールは異なりますが、一般的な基準は以下の通りです。
- ライター:1人につき1個まで、小型の喫煙用ライター(使い捨てライターやオイルライター推奨)を機内持ち込み可能です。預け入れ手荷物に入れることは固く禁止されています。
- マッチ:小型の安全マッチであれば、1人1箱まで機内持ち込みが認められています。
一部のライター(例えばターボライターなど)は持ち込みが禁止される場合がありますので、利用する航空会社の規定を必ず事前に確認してください。
トラブル回避とスマートな喫煙マナー

ルールをしっかり理解したうえで、さらに一歩進んで周囲に不快な思いをさせないスマートな喫煙を心がけることが、ワンランク上の旅を楽しむコツとなります。
「Rauchen verboten」は絶対の禁止表示
街を歩いていると、「Rauchen verboten」という表示や、タバコの絵に斜線が入ったピクトグラムをよく見かけます。これはドイツ語で「喫煙禁止」を意味しており、大変わかりやすいサインです。この表示がある場所では、決して喫煙しないようにしてください。
逆に、「Raucherbereich」や「Raucherzone」と記されている場所は喫煙可能なエリアです。これらの簡単なドイツ語を覚えておくだけでも、行動に迷わずにすみます。
食事中の隣人への思いやり
テラス席で喫煙が認められている場合でも、隣のテーブルの方が食事中、特に食事を始めたばかりのタイミングでは、少し待つことが品のあるマナーと言えます。風向きを考慮し、煙が直接ほかのお客さんのほうへ行かないよう配慮するだけでも、お互いに快適な時間を過ごせます。特に子連れの家族が近くにいる場合は、より一層の配慮が必要です。
吸い殻の適切な後始末
前述の通り携帯灰皿の利用が望ましいですが、公共の灰皿を使う際も、しっかり火が消えたのを確認してから捨てるようにしましょう。オーストリアの街並みは大変美しく管理されているため、その清潔さを保つために、一人の旅行者として責任を持った行動が求められます。吸い殻一つで、その国や街に対する敬意が示されると私は感じています。
もしもの時のための情報
どれだけ注意を払っていても、ルールを誤解したり、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性は完全には排除できません。万が一の事態に備えて、以下の情報を念頭に置いておいてください。
罰金を科された場合の対処方法
もし禁煙区域での喫煙が警察官や当局の職員に発覚し、罰金を課された場合は、基本的にその指示に従う必要があります。その場で身分証明書(パスポート)の提示を要求され、違反切符(Strafzettel)が交付されます。支払いはその場で現金を求められる場合もあれば、後日指定された方法での振り込みを指示されることもあります。
ここで心がけるべきは、感情的になったり、その場を離れようとしたりしないことです。誠実に対応し、指示に従うことが、事態の悪化を防ぐ唯一の手段です。言語に自信がない場合は、翻訳アプリなどを活用してでも状況を正確に把握するよう努めましょう。
困った際の相談窓口
罰金の金額が不当に高いと感じたり、不当な扱いを受けるなど、問題が深刻化した場合は、一人で抱え込まず専門の機関に相談しましょう。旅行者にとって最も頼りになるのは、現地の日本国大使館や総領事館です。
これらの機関は法律相談を直接行うわけではありませんが、問題解決のための助言や現地の弁護士情報を提供してくれることがあります。緊急時の連絡先として、在オーストリア日本国大使館の連絡先を控えておくと安心です。
オーストリアの喫煙文化と旅行者の心構え

かつてウィーンのカフェハウスは、作家や芸術家、思想家たちが集まり、タバコを手に熱い議論を交わす文化の発祥地でした。ジークムント・フロイトが葉巻を愛好していたエピソードは広く知られています。あの時代と比べると、現在の全面禁煙という状況は、ひとつの大きな文化的変化といえるでしょう。
しかし、この変化はオーストリアが国民の健康と快適な環境を大切に考え、自ら進んで選んだ道なのです。私たち旅行者は、その変化や新しいルールを尊重する責任があります。古き良き文化にただ懐かしむのではなく、現代のオーストリアの姿を受け入れ、その中でどのように賢く、楽しく過ごすかを考えることが重要です。
厳しい規制のなかでも、テラス席でゆったりと一服する楽しみや、歴史ある街角で美しい景色を眺めながらの休憩といった、許された楽しみは確かに存在します。ルールを正しく理解し、周囲の人への配慮を忘れずに行動することが、愛煙家が音楽の都オーストリアを心から満喫するための最善の方法です。このガイドが、あなたの素晴らしいオーストリア旅行の助けとなれば幸いです。より詳細な禁煙法の情報については、オーストリア社会問題・保健・介護・消費者保護省の公式サイトもぜひご参照ください。

