バンコクの喧騒を抜け出して、列車に揺られること約4時間。車窓の風景が次第にのどかな緑と、時折きらめくタイ湾の青に変わっていく。多くの旅人がホアヒンやその先の島々を目指す中、私が降り立ったのは、まだ観光地化の波に洗われていない、静かな時間が流れる港町、プラチュアップキーリーカーン。
ここは、派手なネオンサインも、大音量で音楽を鳴らすビーチクラブもありません。あるのは、穏やかな波の音、漁から戻った船のエンジン音、そして地元の人々の飾らない笑顔。アパレル企業での目まぐるしい日々から心と体を解放したくて選んだこの場所は、まさに「大人のための隠れ家」と呼ぶにふさわしい、穏やかな空気に満ちています。
特にこの町で私を虜にしたのは、ビーチ沿いに点在する、素朴ながらも絶品のシーフードを提供するレストランや屋台の数々。タイ湾で水揚げされたばかりの新鮮な魚介を、潮風を感じながら味わうひとときは、何物にも代えがたい贅沢です。この記事では、私が実際に足を運び、心から感動したプラチュアップキーリーカーンのビーチ沿いの「食」の魅力について、余すところなくお伝えしたいと思います。きらびやかなリゾートとは一味違う、本物のタイの豊かさに触れる旅へ、ご案内しましょう。
なぜ今、プラチュアップキーリーカーンなのか?

タイには数多くの美しいビーチリゾートがあります。プーケット、サムイ、パタヤ、そして近年人気が再燃しているホアヒン。それぞれに魅力があり、世界中から観光客が訪れます。では、なぜ私が数ある選択肢の中から、あえてプラチュアップキーリーカーンを選んだのか。それは、他の場所では得られない、特別な時間がここには流れているからです。
喧騒から離れた、手つかずの自然
バンコクから南へ約280km。この「近すぎず、遠すぎない」絶妙な距離が、プラチュアップキーリーカーンを特別な場所にしています。日帰りで訪れるには少し遠く、多くの観光客はより知名度の高いホアヒンで足を止めてしまう。だからこそ、ここには手つかずの自然と、ローカルな日常が色濃く残っているのです。
町の中心部から少し南に下った場所にある「アオ・マナオ(マナオ湾)」は、その象徴的な場所。タイ王国空軍の管理下に置かれているため、過度な開発から守られ、驚くほど静かで美しいビーチが広がっています。三日月形に弧を描く白い砂浜、エメラルドグリーンに輝く遠浅の海。ビーチにはパラソルが並びますが、ジェットスキーのけたたましいエンジン音は聞こえません。聞こえるのは、穏やかな波の音と、木陰で涼む人々の楽しげな話し声だけ。
私が訪れた平日の午後は、ビーチにいるのはほとんどがタイ人の家族連れやカップルでした。彼らは海で泳いだり、砂遊びをしたり、ビーチ沿いのレストランで食事を楽しんだり、思い思いの時間を過ごしています。そこには、観光客向けの作り物の笑顔ではなく、日常の中にある本物の安らぎがありました。この「邪魔されない時間」こそが、情報過多な現代社会で疲弊した心にとって、最高のデトックスになるのです。
王室ゆかりの地がもたらす、品格と安らぎ
プラチュアップキーリーカーンが持つ独特の落ち着いた雰囲気は、この地が王室と深い関わりを持つことと無関係ではありません。隣接するホアヒンにラーマ7世によって夏の離宮「クライカンウォン(Klai Kangwon Palace)」が建設されて以来、この一帯は王室の保養地として発展してきました。その影響はプラチュアップキーリーカーンの町づくりにも及んでおり、タイ国政府観光庁の公式情報にもあるように、町全体が清潔で、よく整備されているのが特徴です。
派手な歓楽街や猥雑なエリアは存在せず、夜は驚くほど静か。治安も非常に良好で、女性が一人で旅をしても、基本的な注意を払っていれば安心して過ごすことができます。町の中心部を歩けば、コロニアル様式の美しい駅舎や、手入れの行き届いた公園が目に入り、この町が持つ品格を感じ取ることができるでしょう。
このような背景があるため、プラチュアップキーリーカーンに集まる人々も、喧騒を求めるタイプではありません。静かな環境で家族との時間を大切にしたい人々、パートナーとロマンチックなひとときを過ごしたいカップル、そして私のように、日常から離れて心穏やかに過ごしたいと願う旅人。訪れる人々が共通の価値観を持っているからこそ、町全体が優しく、穏やかな空気に包まれているのです。この安らぎと品格こそが、他のリゾート地にはない、プラチュアップキーリーカーンならではの魅力と言えるでしょう。
潮風が最高のスパイス。ビーチ沿いのレストラン徹底ガイド

プラチュアップキーリーカーンの旅のハイライトは、何と言ってもビーチ沿いでの食事です。タイ湾に面したこの町は、新鮮なシーフードの宝庫。町の中心を南北に走るビーチロードには、個性豊かなレストランが軒を連ね、どこに入ろうかと嬉しい悩みに包まれます。ここでは、私が実際に訪れて舌鼓を打った、特におすすめのレストランを厳選してご紹介します。
地元民に愛される老舗の味 – Krua Chaiwat (ครัวชัยวัฒน์)
もしプラチュアップキーリーカーンで「絶対に外さない一軒」を尋ねられたら、私は迷わず「クルア・チャイワット」の名前を挙げます。アオ・プラチュアップ(プラチュアップ湾)の北側に位置するこのレストランは、観光客だけでなく、地元のタイ人家族でいつも賑わう、正真正銘の老舗です。
外観は、派手な装飾のない、いかにもローカルな食堂といった佇まい。しかし、一歩足を踏み入れると、その活気と、厨房から漂ってくる食欲をそそる香りに期待が高まります。プラスチックの椅子とテーブルが並ぶ店内は気取ったところが一切なく、誰もがリラックスして食事を楽しんでいます。海に面したオープンエアの席に座れば、心地よい潮風が吹き抜け、目の前には静かなプラチュアップ湾と、点在する小島の美しい景色が広がります。
ここで必ず注文したいのが、「プー・パッポンカリー(蟹のカレー炒め)」。バンコクの有名店で食べるそれとは、少し趣が異なります。ここのプー・パッポンカリーは、ふわふわの卵とカレー粉のスパイスが主役でありながら、主役であるワタリガニの繊細な甘みを決して邪魔しません。殻ごと豪快に炒められたカニの身を、夢中でほじくりながら口に運ぶと、カニの旨味とカレーの風味が一体となって口の中に広がります。甘すぎず、辛すぎず、絶妙なバランス。これをご飯にかけて食べれば、もうスプーンが止まらなくなります。
もう一品、外せないのが「プラーガポン・トート・ナンプラー(スズキの素揚げ、ナンプラーソースがけ)」。丸ごと一匹のスズキを高温の油でカリッカリになるまで揚げ、甘じょっぱい特製のナンプラーソースをかけた、タイのシーフードレストランの定番料理です。クルア・チャイワットのそれは、揚げ加減がまさに神業。外側の皮はクリスピーで香ばしく、中の白身は驚くほどふっくらとしてジューシー。そこに、ナンプラーの塩気とコク、砂糖の甘み、そして少しの酸味が加わったソースが絡み、淡白な白身魚の味を極限まで引き立てます。付け合わせの青いマンゴーの千切りサラダと一緒に食べると、さっぱりとした酸味が加わり、さらに食が進みます。
夕暮れ時、茜色に染まる空を眺めながら、氷でキンキンに冷えたシンハービールを片手に、これらの絶品料理を味わう。これこそが、プラチュアップキーリーカーンでしか体験できない、至福のひとときです。
モダンと伝統の融合 – In Town Seafood (イン タウン シーフード)
ビーチロードを散策していると、ひときゆわモダンで洗練された雰囲気のレストランが目に留まります。「In Town Seafood」は、伝統的なタイのシーフード料理を、現代的な感性で提供してくれる、少しお洒落な一軒です。ローカルな雰囲気も良いけれど、少し特別なディナーを楽しみたい、そんな気分の日にぴったりの場所。
店内は、白と青を基調とした清潔感のあるインテリアで統一されており、壁には海をモチーフにしたアートが飾られています。窓が大きく取られているため、どの席からも美しい海の景色を望むことができますが、特におすすめなのは海にせり出すように作られたテラス席。夜になると、テーブルに置かれたキャンドルの灯りがロマンチックな雰囲気を演出し、デートや記念日のディナーにも最適です。
ここの料理は、伝統的な調理法を大切にしながらも、盛り付けや食材の組み合わせにモダンな工夫が凝らされています。私が特に感銘を受けたのは、「ホイシェル・オップ・チーズ(帆立のチーズ焼き)」。新鮮で大ぶりの帆立貝に、ガーリックバターとたっぷりのチーズを乗せて香ばしく焼き上げた一品です。プリプリの帆立の甘みに、ガーリックの風味とチーズの塩気とコクが加わり、思わず白ワインが欲しくなる美味しさ。タイ料理という枠を超えた、インターナショナルな味わいです。
もちろん、伝統的なタイ料理も一級品。「ゲーン・ソム・プラー・リウキウ(白身魚と野菜の酸っぱいカレー)」は、南タイ特有のターメリックが効いたスパイシーなスープ。タマリンドの酸味と唐辛子の刺激的な辛さが特徴ですが、ここのゲーン・ソムは、ココナッツミルクを少し加えているのか、辛さの中にまろやかさと深いコクが感じられます。一緒に入っているタケノコやインゲンのシャキシャキとした食感も良いアクセント。辛いものが得意な方には、ぜひ挑戦していただきたい逸品です。
「In Town Seafood」は、料理の質の高さはもちろんのこと、スタッフのサービスも丁寧で心地よいのが魅力。料理に合うワインを尋ねれば、的確なアドバイスをくれますし、辛さの調整などにも快く応じてくれます。古き良きタイの味と、現代的な快適さが融合したこのレストランは、プラチュアップキーリーカーンの食のレベルの高さを象徴する一軒と言えるでしょう。
サンセットを独り占めする特等席 – La-Leuk (ลาลึก)
プラチュアップキーリーカーンの夕日は、息をのむほど美しい。空と海がオレンジ、ピンク、紫と刻一刻と色を変えていく様は、まるで一枚の絵画のようです。この魔法のような時間を、最高のロケーションで楽しむなら、「La-Leuk」をおいて他にありません。
このレストランは、ビーチロードの南端近く、少し小高くなった場所に位置しており、プラチュアップ湾全体を見渡すことができる絶好のパノラマビューを誇ります。店名もタイ語で「追憶」や「思い出す」といった意味を持ち、その名の通り、一度訪れたら忘れられない記憶を心に刻んでくれる場所です。
店の作りは非常にシンプル。しかし、そのシンプルさこそが、目の前に広がる絶景を最大限に引き立てています。海に面したカウンター席は、まさにサンセットを独り占めするための特等席。日没の1時間ほど前にこの席を確保し、冷たいドリンクを飲みながら、空の色が変わっていくのをただぼんやりと眺める時間は、何よりも贅沢な体験です。
La-Leukの料理は、景色という最高の調味料を活かすためか、素材の良さをストレートに味わえるシンプルなものが中心です。「クン・パオ(海老の炭火焼き)」は、大ぶりの川海老をシンプルに炭火で焼いただけの料理ですが、これが信じられないほど美味しい。殻を剥くと、香ばしい香りと共に、オレンジ色の濃厚なミソが現れます。プリプリで甘みの強い身を、ニンニクと唐辛子が効いたシーフードソース(ナムチム・シーフード)につけて食べれば、口の中は幸福感で満たされます。
新鮮な「ホイ・ナーンロム・ソット(生牡蠣)」もおすすめです。タイの牡蠣は日本のものより小ぶりですが、味が濃厚でクリーミー。これに、フライドオニオン、ニンニク、唐辛子、そしてナムプリック・パオ(チリペースト)を少し乗せ、マナオを絞って一気に口に放り込むのがタイスタイル。海のミルクと呼ばれる牡蠣の旨味に、様々な薬味の風味と食感が複雑に絡み合い、エキゾチックな味わいを生み出します。
あるタイのグルメレビューサイトでは、この店の景色と雰囲気について多くのユーザーが絶賛しており、地元の人々にとっても特別な場所であることが伺えます。料理の味はもちろんのこと、「La-Leuk」が提供してくれるのは、食事という行為を超えた、感動的な体験そのもの。プラチュアップキーリーカーンを訪れたなら、ぜひこの場所で、人生で最も美しい夕日の一つを目に焼き付けてください。
ここでしか味わえない一皿
上記のレストラン以外にも、プラチュアップキーリーカーンには、食通の心をくすぐるマニアックな逸品が存在します。その一つが、「プラー・ムック・カイ・トート・ガティアム(卵持ちイカのニンニク揚げ)」。
これは、卵をたっぷり抱えた小ぶりのイカを、衣をつけずに丸ごと素揚げし、大量のフライドガーリックと胡椒で和えた料理です。外側のイカの身はカリッと香ばしく、中の卵はホクホクとして、まるでジャガイモのような食感。噛みしめるほどにイカの旨味と卵のコクが溢れ出し、ニンニクの香りと胡椒のピリッとした刺激が絶妙なアクセントになります。見た目は地味ですが、一度食べたら病みつきになる、最高のビールのお供です。この料理は、シーフードレストランのメニューにあれば、ぜひ試していただきたい隠れた名品です。
レストランだけじゃない!屋台とマーケットで楽しむローカルグルメ

プラチュアップキーリーカーンの食の楽しみは、レストランでの本格的な食事だけに留まりません。むしろ、この町の真の魅力は、地元の人々の生活に密着した屋台やマーケットの活気の中にこそあるのかもしれません。少し冒険心を持って路地裏や市場に足を踏み入れれば、安くて美味しい、本物のローカルフードに出会うことができます。
ナイトマーケットの熱気に飛び込む
陽が傾き、涼しい風が吹き始める頃、ビーチロード沿いの公園周辺に、毎晩のようにナイトマーケット(ウォーキングストリート)が立ちます。規模はそれほど大きくありませんが、その分、地元の人々のための生活に根ざしたマーケットであり、観光地化された市場にはない温かい雰囲気に満ちています。
マーケットに一歩足を踏み入れると、様々な食べ物の香りが混じり合った、アジアの市場特有の匂いに包まれます。炭火で焼かれるシーフードの香ばしい匂い、甘辛いタレで煮込まれる豚足の匂い、パパイヤを叩くリズミカルな音と共に漂うソムタムの酸っぱくてスパイシーな香り。五感が刺激され、自然とお腹が空いてきます。
ここでぜひ試したいのが、様々な種類の串焼き。鶏肉(ガイヤーン)や豚肉(ムーピン)の串焼きはもちろん、イカやエビ、貝などを焼いたシーフード串も豊富です。一本20バーツ程度からと非常に手頃で、食べ歩きに最適。甘辛いタレが塗られた熱々の串焼きを片手に、マーケットを散策するのは最高の楽しみです。
ソムタム(青パパイヤのサラダ)の屋台も必見です。注文すると、目の前で大きな鉢(クロック)を使って、青パパイヤ、インゲン、トマト、唐辛子、ニンニクなどをリズミカルに叩きながら混ぜ合わせてくれます。そのライブ感も楽しみの一つ。「辛さはどうする?」と聞かれたら、「ペット・ノーイ(少し辛く)」とお願いするのが無難です。酸っぱくて、辛くて、しょっぱくて、甘い。複雑な味のハーモニーが、暑さで疲れた体に活力を与えてくれます。
デザートには、タイの定番スイーツ「カオニャオ・マムアン(マンゴーともち米)」を。甘く炊いたもち米に、ココナッツミルクをかけ、完熟の甘いマンゴーを添えたこのデザートは、一度食べたら忘れられない美味しさです。マーケットの片隅にあるベンチに腰掛けて、人々の往来を眺めながら食べるカオニャオ・マムアンは、格別な味がします。
ナイトマーケットで食事をする際は、衛生面が気になる方もいるかもしれません。私の経験上、多くの人が並んでいる屋台や、食材がきちんとケースに入れられ、清潔に保たれている店を選ぶようにすれば、ほとんど問題はありません。不安な場合は、しっかりと火が通っている加熱調理されたものを選ぶとより安心です。
朝の散歩で見つける、隠れた名店
プラチュアップキーリーカーンの朝は、とても穏やかです。早起きしてビーチ沿いを散歩すると、ジョギングをする人、太極拳をするお年寄り、そして朝食の準備を始める屋台の姿を見ることができます。この朝の時間帯にしか出会えない、特別なグルメがあります。
その代表格が、「ジョーク(タイ風お粥)」。米粒の形がなくなるまでじっくりと煮込まれた、とろとろのお粥です。豚肉のミンチボールや、内臓、溶き卵など、好みの具材をトッピングしてもらいます。テーブルに置かれた刻み生姜やネギ、そして少しピリ辛の酢などを自分で加えて、味を調整しながら食べるのがタイスタイル。疲れた胃に優しく染み渡るような、滋味深い味わいです。地元の人々が次々とバイクで乗り付けてはテイクアウトしていく、そんな人気の屋台を見つけたら、ぜひ試してみてください。
ジョークの屋台の近くには、たいてい「パトンコー(タイ風揚げパン)」を売る屋台もあります。小麦粉を練って揚げた、外はサクッ、中はモチっとした食感の揚げパンで、ほんのりとした塩味が特徴。これを、甘いコンデンスミルクやサンカヤー(カスタードクリーム)に浸して食べたり、温かい豆乳に浸して食べるのが定番です。揚げたてのパトンコーと、ジョークの組み合わせは、タイの完璧な朝食セットと言えるでしょう。
これらの朝食屋台は、決まった店舗を構えているわけではなく、毎朝同じ場所に出没する移動式の屋台がほとんど。だからこそ、散歩の途中で偶然見つけたときの喜びはひとしおです。観光客向けのガイドブックには載っていない、地元の人々の日常に溶け込むような食体験。これこそが、旅の醍醐味ではないでしょうか。
美食体験を120%楽しむためのヒント

プラチュアップキーリーカーンの豊かな食文化を心ゆくまで満喫するために、いくつか知っておくと便利なヒントがあります。ほんの少しの知識と準備で、あなたの美食体験はさらに深く、思い出深いものになるはずです。
ベストシーズンと時間帯
プラチュアップキーリーカーンを訪れるのに気候的に最も快適なのは、乾季にあたる11月から2月頃です。空は晴れ渡り、湿度も低く、日中の暑さも比較的穏やか。ビーチで過ごすにも、町を散策するにも最適な季節です。
レストランを訪れる時間帯も、目的によって計画するのがおすすめです。
- ランチタイム: 日差しが強い時間帯は、ビーチ沿いのオープンエアのレストランで、海を眺めながらのんびりとランチを楽しむのが最高です。日中は比較的空いている店が多く、予約なしでもすんなり入れることが多いでしょう。
- サンセットディナー: この旅のハイライトとも言えるのが、夕日を眺めながらのディナー。特に週末は、景色の良いレストランの人気席はすぐに埋まってしまいます。日没の1時間前には店に到着するか、可能であれば事前に電話で予約を入れておくことを強くお勧めします。特に「La-Leuk」のような絶景レストランは、早めの行動が鍵となります。
- レイトディナー: 地元の人々は、比較的遅い時間に夕食をとる傾向があります。夜8時を過ぎると、レストランは再び活気づきます。ナイトマーケットで軽くお腹を満たしてから、改めてレストランで飲み直す、といった楽しみ方も乙なものです。
注文のコツとタイ語フレーズ
タイ料理のメニューは種類が豊富で、何を頼めば良いか迷ってしまうことも多いでしょう。そんな時は、調理法のバランスを考えて注文するのがコツです。「トート(揚げ物)」「ヤーン(焼き物)」「ヌン(蒸し物)」「パット(炒め物)」「ゲーン(汁物・カレー)」といったカテゴリーから、それぞれ一品ずつ選ぶようにすると、味や食感に変化が出て、飽きることなく楽しめます。
また、いくつか簡単なタイ語フレーズを覚えておくと、注文がスムーズになり、お店の人とのコミュニケーションも楽しくなります。
- 辛さ控えめでお願いします: マイ・ペット・クラップ(カップ)/カー
- パクチーを入れないでください: マイ・サイ・パクチー・クラップ(カップ)/カー
- これください: アオ・アンニー・クラップ(カップ)/カー (メニューを指差しながら)
- おすすめですは何ですか?: มีอะไรแนะนำบ้างครับ(ค่ะ)?(ミー・アライ・ネナム・バーン・クラップ/カー?)
- お会計お願いします: チェック・ビン・ドゥアイ・クラップ(カップ)/カー
タイ人はとてもフレンドリーなので、片言のタイ語でも一生懸命聞き取ろうとしてくれます。少し勇気を出して話しかけてみれば、きっと笑顔で応えてくれるはずです。このようなちょっとした交流も、旅の素敵な思い出になります。
女性一人の旅でも安心。安全に楽しむために
ライターとして世界中を旅する中で、特に女性の一人旅で最も重視しているのが「安全」です。その点、プラチュアップキーリーカーンはタイの中でも非常に治安の良い町ですが、それでも海外にいるという意識を持ち、基本的な安全対策を怠らないことが大切です。
- 夜道の一人歩き: 町の中心部は街灯があり明るいですが、少し路地に入ると暗い場所もあります。夜遅くにレストランからホテルへ戻る際は、ビーチロードなどの人通りのある明るい道を選ぶようにしましょう。不安な場合は、Grabなどの配車アプリを利用するのが賢明です。タイでは広く普及しており、料金も明確で安心して利用できます。
- 貴重品の管理: レストランで食事をする際は、バッグを椅子の背もたれにかけたり、隣の空いている椅子に置いたりするのは避けましょう。常に自分の膝の上か、目の届く範囲に置くことを習慣づけることが、スリなどの被害を防ぐ最も効果的な方法です。
- 信頼できる店選び: 先述したように、多くの人で賑わっている店や、清潔感が感じられる店を選ぶのは、食事の安全だけでなく、身の安全にも繋がります。酔っ払いに絡まれるといったトラブルも、健全な雰囲気の店では起こりにくいものです。自分の直感を信じ、少しでも「嫌な感じ」がしたら、その店は避ける勇気も必要です。
これらの点に少し気をつけるだけで、不要なトラブルを避け、心からリラックスして美食の旅を楽しむことができます。アパレル業界でトレンドを追いかける日々も刺激的ですが、こうした穏やかな場所で自分を見つめ直し、その土地の文化に触れる時間は、新たなインスピレーションを与えてくれる、かけがえのないものだと感じています。
食事が繋ぐ、人との出会いと文化体験

プラチュアップキーリーカーンの旅を振り返ったとき、私の心に深く刻まれているのは、単に美味しいシーフードの味だけではありません。それは、料理と共にあった、その場の空気、景色、そして人々の温かさです。
「クルア・チャイワット」で、忙しく立ち働く店員さんに片言のタイ語で「アロイ・マーク!(すごく美味しい!)」と伝えたときに見せてくれた、はにかんだような満面の笑み。隣のテーブルで食事をしていたタイ人の大家族が、孫の可愛らしい仕草に目を細め、幸せそうに笑い合っていた光景。
「La-Leuk」のカウンターで、私と同じように一人で夕日を眺めていたヨーロッパからの旅行者と、言葉少なにお互いのグラスを掲げ、その美しさを分かち合った瞬間。
ナイトマーケットで、どの串焼きにしようか迷っている私に、「こっちが美味しいよ!」と身振り手振りで教えてくれた屋台のおばちゃんの親切。
これらの何気ない一瞬一瞬が、料理の味を何倍にも美味しくし、私の旅を豊かで忘れられないものにしてくれました。プラチュアップキーリーカーンの食文化は、この町が持つ豊かさの象徴です。タイ湾がもたらす新鮮な海の幸、それを最高の料理に仕立て上げる人々の知恵と愛情、そして食事の時間を家族や友人と分かち合うことを何よりも大切にする、タイの温かい文化。そのすべてが、一皿の料理の中に凝縮されています。
ファッションの世界では、服は単に着るものではなく、自己を表現し、文化を語るメディアであると捉えられています。それと同じように、ここでの食事も、単に空腹を満たす行為ではありません。それは、その土地の自然と、歴史と、人々の暮らしに触れる、最も直接的で、最も心に残る文化体験なのです。
バンコクの華やかさや、有名リゾートの賑わいも魅力的ですが、もしあなたが本当にタイの持つ奥深さに触れたいと願うなら、少しだけ足を延ばして、この静かな港町を訪れてみてください。そこには、潮風と、美味しいシーフードと、人々の飾らない笑顔が、あなたを待っています。そして、旅を終えて日常に戻ったとき、ふとした瞬間に思い出すのは、きっとあの美しい夕日と、潮の香りが混じった、忘れがたい料理の味なのでしょう。多くの旅行情報サイト、例えばBK Magazineのようなメディアもこのエリアの魅力を伝え始めていますが、実際にその地に立って五感で感じる体験は、何物にも代えがたいものです。プラチュアップキーリーカーンは、そんな本物の体験を求める旅人に、静かに微笑みかけてくれる場所なのです。









