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    喧騒を離れ、心を満たす。パタヤ・ジョムティエンビーチ、究極の3泊4日ミニマル旅

    パタヤ。その名前を聞いて、多くの人がネオンきらめくウォーキングストリートや、エネルギッシュなナイトライフを思い浮かべるかもしれません。確かにそれもパタヤの一つの顔。しかし、その喧騒の中心からソンテウでほんの15分南へ下るだけで、まるで別世界のような穏やかな時間が流れる場所があることを、あなたはご存知でしょうか。

    そこが、ジョムティエンビーチ。

    長く続く砂浜、比較的穏やかな波、そしてパタヤ・シティの喧騒が嘘のような、ゆったりとした空気。僕のような5リットルの子供用リュック一つで旅をするミニマリストにとって、ここは物質的な刺激ではなく、心の充足を求めるのに最高の場所なのです。必要なものは、強い日差しを遮る帽子と、マーケットで100バーツで手に入れたTシャツくらい。荷物が軽いと、心も軽くなる。フットワークも、驚くほど軽やかになるのです。

    この旅は、所有することではなく、体験することに全ての価値を置く旅。豪華なホテルや高級レストランが主役ではありません。主役は、あなた自身の五感。朝日を浴びて輝く砂浜、潮風に乗って運ばれてくるシーフードBBQの香り、肌を撫でる南国の生温かい風、そして地元の人々の飾らない笑顔。

    さあ、3泊4日という限られた時間の中で、ジョムティエンビーチの魅力を骨の髄まで味わい尽くす、ミニマルで、しかし最高に豊かな旅のプランをご提案しましょう。まずは、この旅の舞台となる場所を、地図で感じてみてください。

    目次

    1日目: ジョムティエンへの到着と、黄昏に染まる海

    旅の始まりはいつも、移動の時間の中にあります。飛行機の窓から見える景色が、見慣れた都会の街並みから果てしなく広がる水田や蛇行する川へと変わっていくその瞬間、僕の心はもう既に新たな場所へと飛び立っているのです。スワンナプーム国際空港に降り立つと、まとわりつくような湿気と独特のスパイスの香りが、「タイへようこそ」と静かに語りかけてくるように感じられます。

    スワンナプームからジョムティエンへ、賢い移動方法

    さて、ここからが旅の腕の見せどころ。多くのパタヤ行きの旅行者はタクシーや貸切のミニバンを利用しますが、僕たちミニマリストはもっとスマートで、地元に根ざした手段を選びます。目指すは空港1階の8番ゲート付近にあるパタヤ行きバスのチケットカウンターです。

    おすすめは、ジョムティエンビーチのバスターミナルまで直接行く「エアポートバスパタヤ」。料金は時期次第ですが、およそ150バーツ前後。驚くほど手頃ですよね。タクシーなら1,500バーツは下らない距離を、約10分の1の価格で移動可能です。これも、荷物を最小限に抑えた旅の特権。大きなスーツケースを抱えていれば、この方法は難しいでしょう。

    バスに揺られて約2時間。窓の外の景色は、バンコク郊外の近代的なビル群から徐々にのどかな田園風景へと変わり、そして再び活気にあふれた街並みに変貌します。この変化をぼんやり眺める時間こそが旅の醍醐味。目的地に着くことだけが旅ではなく、その道中のすべてがかけがえのない体験なのです。

    ジョムティエンのバスターミナルに到着したら、次はソンテウ(乗り合いピックアップトラック)の出番です。ビーチロード沿いを走るルートソンテウに乗れば、一人10バーツでホテルの近くまで行けます。行き先を告げる必要はなく、降りたい場所が近づいたらルーフにあるブザーを押すだけ。このシンプルな仕組みが心地よく感じられます。

    チェックイン、そして初めての夕焼け

    ジョムティエンでの宿選びは、何を重視するかで変わります。ビーチへのアクセスを重視するなら、ビーチロード沿いのホテルやゲストハウスが適しています。静けさを求めるなら、ビーチロードから一本入ったソイ(小道)にある宿が良いでしょう。僕は、清潔なシャワーと安定したベッドがあれば十分なので、評判が良くコスパの高いゲストハウスにリュックを下ろしました。

    荷物はと言えば、パスポート、スマートフォン、充電器、そして最低限の洗面用具のみ。パッキングという言葉は僕の辞書には存在しません。リュックをベッドに投げ出したら、次にすることはただ一つ。サンダルに履き替えてビーチへと走り出すのです。

    ジョムティエンビーチの夕暮れは息をのむ美しさ。パタヤ湾の彼方にゆっくり沈む太陽が、空と海をオレンジ、ピンク、紫のグラデーションに染め上げていきます。ビーチには観光客だけでなく、仕事帰りや放課後に涼みに来た地元の人々もちらほら見られます。犬を連れた人、恋人たち、家族連れ……それぞれの日常がこの壮大な夕景に溶け込む様は、まるで一枚の絵画のようです。

    僕はただビーチチェアに身を預け、ビールを片手にその光景を眺めます。何も考えず、何もせずに、目の前で繰り広げられる自然のショーに心をゆだねる。この上ない贅沢と言えるでしょう。身軽な旅は、「何もしない時間」を贅沢に味わう最高の方法でもあるのです。

    初日の夕食は波の音とともに。地元シーフードを堪能

    太陽が完全に沈み、空に最初の星が輝き始めた頃、お腹がすいてきます。ジョムティエンの夜は、食のパラダイス。特にビーチロードの北端、船着場近くには新鮮なシーフードを味わえるレストランが立ち並んでいます。

    その中でも有名なのが「プーペン・シーフードレストラン」。毎晩多くの客で賑わうこの店は、味も雰囲気も申し分ありません。でも、ひねくれ者の僕はあえてその隣や向かいにある、よりローカル色の強い店に惹かれます。プラスチックの椅子とテーブル、壁に貼られた写真のメニューという簡素な佇まい。こうした場所にこそ、本物の味との出会いがある予感がするのです。

    まず頼むのは「クン・パオ(海老の炭火焼)」。炭火で香ばしく焼かれた大ぶりの手長海老は身がぷりぷりで、味噌も濃厚。ライムと唐辛子が効いたシーフードソース(ナムチム・タレー)に浸せば、ビールが進むこと間違いなし。

    そして外せないのが「プーパッポンカリー(蟹のカレー粉炒め)」。ふんわり卵とカレーソースが蟹の身に絶妙に絡みつき、唯一無二の美味しさを生み出します。これをご飯の上にかけ、一気にかき込むのが至福のひととき。

    他にも、酸っぱくて辛いスープ「トムヤム・タレー(シーフードのトムヤムクン)」や春雨のサラダ「ヤムウンセン」など、試してみたいメニューが尽きません。波の音をバックミュージックに、潮風を感じながら味わう新鮮なシーフード。長い旅の疲れも、すっかり癒えていきます。これがジョムティエンの夜の正しい過ごし方。初日からこの地の魅力にすっかり心を奪われてしまうのです。

    2日目: アクティブに、そしてディープに。ジョムティエンの素顔に触れる

    旅の2日目は、普段より少しだけアクティブに過ごしてみましょう。ビーチでのんびりするのもいいですが、せっかくの機会ですから、この地の本当の姿、地元の人々の生活が息づく場所にも足を運んでみたいものです。持ち物が最小限だからこそ、僕たちの行動範囲は無限に広がります。好奇心というエンジンをフル回転させ、ジョムティエンの奥深い魅力に触れる一日にしましょう。

    朝の静けさ。ビーチを独り占めする散歩と地元の市場

    夜の喧騒が嘘のように静まり返った早朝、まだ空がうっすらと明け始めた頃にぜひビーチを歩いてみてください。冷たくてさらさらした砂の感触が足裏に心地よく、波のさざめきだけが響く空間は、まるで世界に自分ひとりだけしかいないかのような、不思議な孤独感を味わえます。

    ビーチ沿いでは、欧米からの長期滞在者がジョギングをしたり、タイの人々が太極拳のようなゆったりとした動きで身体をほぐしていたりします。そうした日常の風景の中に溶け込むのも、旅の醍醐味のひとつです。

    散歩でお腹がすいてきたら、朝食は地元の市場で調達しましょう。ジョムティエン・ナイトマーケットとして知られる広場も、朝の時間帯は地元民が食材を買い求める朝市に変わります。新鮮な野菜や果物、魚介類がずらりと並び、食欲をそそる香ばしい匂いが漂う屋台も賑わっています。

    タイの定番の朝食といえば、「ジョーク(お粥)」や「カオトム(雑炊)」。鶏や豚の旨みがじんわり染み渡る優しい味わいが、起床直後の身体にやさしく馴染みます。揚げパンの「パトンコー」を浸して食べるのが地元流。他にも、豚串の「ムーピン」やもち米の「カオニャオ」、豆乳売り場など、多彩な屋台が軒を連ねています。指差しに簡単な英語、そして笑顔があれば意思疎通はばっちり。一杯20〜30バーツのジョークをすすりながら、市場の活気を楽しむ。まさに旅先での理想的な朝の過ごし方と言えるでしょう。

    水上マーケットで味わう、昔ながらのタイの賑わい

    朝食を終えたら、少し距離を伸ばして「パタヤ水上マーケット」へ向かいましょう。ここは昔のタイの水郷の暮らしを再現したテーマパークのような場所です。ジョムティエンビーチロードからスクンビット通りに出て、その路線を走る白いソンテウを捕まえれば、一人あたり20バーツ前後でアクセス可能です。

    入場料は必要ですが、十分にその価値があります。運河が張り巡らされた広大な敷地内には、高床式の木造家屋が並び、小舟に乗った売り手たちが果物や食べ物、民芸品などを手売りしています。このパタヤ水上マーケット(Pattaya Floating Market The Four Regions Water Market)の醍醐味は、単に見て回るだけでなく、多彩な体験が楽しめることです。

    手漕ぎボートに乗り込み、水上からマーケットの風景を眺めるのは定番アクティビティ。熟練の船頭さんが巧みに舟を操り、狭い水路を進む様子はちょっとした冒険気分を味わせてくれます。途中で舟から直接、マンゴースティッキーライスやココナッツアイスクリームを購入して味わうのも楽しいひととき。

    マーケット内はタイの北部、東北部、中部、南部の4地方ごとのエリアに区分され、それぞれの地方の建築様式、文化、料理を体感できます。僕は物欲が薄いのでお土産を買いませんが、各地方の特色ある料理を少しずつ味わうのが何よりの楽しみです。スパイシーな東北地方のソーセージ「サイクローク・イサーン」や、甘辛いタレが特徴の北部のカレー麺「カオソーイ」など、まるでタイ国内を食べ歩いているかのような気分になれます。

    また、決まった時間に開催されるタイの伝統舞踊のショーや、ムエタイのデモンストレーションも見応え充分。これらはタイの文化の多様さと奥深さを改めて実感させてくれます。一見派手な観光スポットではありますが、その背後にはタイの人々の暮らしの息吹が息づいており、単なるテーマパークを越えた「生きた文化博物館」として、心に刻まれるでしょう。

    夜はナイトマーケットで。喧騒に包まれながら美食のカオスを楽しむ

    水上マーケットでタイの文化と味覚を堪能したあとは、一度ゲストハウスに戻ってシャワーを浴び、少し休憩を。陽が傾いて涼しい風が吹き始める頃に、再び街へ繰り出します。今晩の目的地は、ジョムティエンが誇る最大のエンターテインメントスポット、「ジョムティエン・ナイトマーケット」です。

    夕方5時頃からビーチロード沿いの広大な敷地には続々と屋台が集まり始め、瞬く間に巨大なグルメとショッピングのワンダーランドが姿を現します。その活気と熱気はまさに混沌そのものですが、このエネルギッシュな雰囲気こそが東南アジアのナイトマーケットの醍醐味です。

    まずはマーケット全体をぐるりと一周。炭火焼きのシーフード、パッタイ、ソムタム、ガイヤーン(焼き鳥)、カオカームー(豚足煮込み)、串揚げ、フルーツシェイク、クレープ、さらには昆虫食まで、ありとあらゆる屋台が所狭しと並んでいます。香りや煙、人々のざわめきが入り混じり、五感に強烈な刺激を与えます。

    僕のスタイルは、気になるものを少しずつ多種類試すこと。まずはキンキンに冷えたビア・シン(シンハービール)を片手に、ジューシーなムーピンを一串。その後、辛さ控えめ(マイ・ペット)で注文したその場で作るソムタム・タイ(青パパイヤのサラダ)のシャキシャキ感と甘酸っぱい辛味は絶品です。

    メインディッシュには、焼きたてのイカ「プラームック・ヤーン」や魚の塩焼き「プラー・パオ」を選び、マーケット中央にある共用テーブルで味わいます。周囲には世界各国からの旅人と地元タイ人が混ざり合い、それぞれが思い思いに食事を楽しんでいます。言葉が通じなくても、美味しい食事の前では自然と笑顔になる。この一体感こそナイトマーケットの魅力です。

    食後はデザート探しへ。熟したマンゴーともち米をココナッツミルクでいただく「カオニャオ・マムアン」は定番の美味しさ。バナナと卵を生地で包み焼いたロティも、甘いものがほしいときには最高の一品です。

    また、このナイトマーケットは僕のような旅人にとって重要な「装備調達」の場でもあります。汗で濡れたTシャツや少し汚れたパンツも、ここで新調すれば問題なし。100〜200バーツあれば、涼しく快適なTシャツや、タイを象徴する象柄のパンツが購入できます。ここで手に入れた服が、この旅の残りの日々のユニフォームになるのです。そして旅の終わりが近づいたら、洗濯して次の旅人のための寄付ボックスに入れる。服は所有するものではなく、その土地で借りるもの。そんな気持ちでいれば、旅はより自由で軽やかに楽しめるでしょう。

    3日目: 心と体を解き放つ、リラクゼーションと絶景の一日

    旅も3日目を迎えると、徐々に疲労が蓄積してくる頃かもしれません。または、連日のご馳走で胃が少し重く感じられることもあるでしょう。そんな時こそ、無理にあちこち動き回るのではなく、心身をじっくりと癒す時間を持つのが賢明です。ジョムティエンには、究極のリラクゼーションと息をのむような絶景があなたを待っています。今日は、自分自身をとことん甘やかし、この旅の思い出をより深く刻みましょう。

    究極のデトックス。タイ伝統のマッサージで心身をリセット

    タイを訪れたら、ぜひタイ古式マッサージを体験してみてください。それはまさに旅の必修科目とも言える体験です。ジョムティエンのビーチロードや、そこから細かく伸びるソイの数々には、無数のマッサージ店が軒を連ねています。煌びやかなスパから家庭的な小さな店まで、多彩な選択肢があります。

    私がいつも選ぶのは、飾り気のない、施術の腕が確かな地元密着型の小さなお店です。店先で客引きをしているおばちゃんと目が合うと、にこやかに「マッサージいかが?」と声をかけられます。フットマッサージは1時間200バーツほど、タイ古式マッサージは1時間250~300バーツが相場です。この値段で極上の癒しを得られるのですから、毎日でも通いたくなってしまいます。

    店に入ると、まずは温かいお湯で丁寧に足を洗ってもらいます。その後、ゆったりとしたタイパンツに着替え、マットに横たわります。セラピストは指や手のひら、肘、膝、足を巧みに使いながら、全身の「セン」と呼ばれるエネルギーラインをひとつずつ刺激していきます。「痛気持ちいい」と表現したくなる圧力が、凝り固まった筋肉をじわじわとほぐしてくれます。

    アクロバティックなストレッチもタイ古式マッサージの魅力の一つ。自分では絶対に伸ばせない角度まで体がぐーっと引き伸ばされるため、思わず声が漏れてしまいますが、施術後の爽快感は格別です。まるで古い殻を脱ぎ捨てたかのような軽やかさを感じ、血行も促進されて頭もすっきりします。

    長時間の歩行で疲れた足には、フットマッサージもおすすめです。的確に足裏のツボを刺激されると、内臓からじわりと元気が蘇るような感覚が味わえます。施術の最後には温かいハーブティーをいただき、ぼんやりと余韻に浸る時間。これこそ旅の途中に必要な、至福の静寂のひとときです。心と体がすっかりリセットされ、新たな活力が湧いてくるのを実感できるでしょう。

    絶景を求めて。ビッグブッダの丘からパタヤ湾を望む

    心身がリフレッシュしたら、次は視覚からの癒しを求めて絶景スポットへ足を運びましょう。ジョムティエンとパタヤ・シティの間に位置するプラタムナックの丘には、この地域で最も有名なランドマークの一つ、「ワット・プラヤイ(ビッグブッダ)」が鎮座しています。

    ここへ行くには、ソンテウを貸し切るのが最も手軽な手段です。数人のグループであれば、交渉次第でリーズナブルな料金が期待できるでしょう。私は一人なので、バイクタクシー(モタサイ)のおじさんと価格交渉の上で利用。ヘルメットをかぶり、風を感じながら丘を駆け上がるのは、またスリリングで楽しい体験です。

    長い階段を登り切ると、そこに現れるのは黄金に輝く巨大な仏像。その穏やかな微笑みで見下ろす姿は荘厳で、訪れる者の心を静かに包み込みます。地元の人々が熱心に祈りをささげる様子からは、タイの深い信仰心が伝わってきます。敬意をもって静かにお参りしましょう。

    しかし、この場の真の見どころは仏像だけではありません。丘の頂上からは、パタヤの海岸線が見渡せます。弓なりに広がるパタヤ・シティのビーチと高層ビル群、そしてあなたが滞在している穏やかで長いジョムティエンビーチ。二つの対照的な景観を一望できるこの場所は、まるでパタヤという街の多面性を象徴しているかのようです。 タイ国政府観光庁の公式サイトにも紹介されている通り、多くの観光客が必ず訪れるべきスポットです。

    時間に余裕があれば、ビッグブッダからほど近い「パタヤ・ビューポイント(カオ・パタヤ・ビューポイント)」にも足を伸ばしてみてください。特に夕景が美しいことで知られ、大きな「PATTAYA CITY」のサインボードとともに、パタヤ湾の絶景を写真に収めるのに最適なロケーションです。昼の景色も見応えがありますが、もし機会があれば夕暮れ時に再訪するのがおすすめ。街の灯りがひとつまたひとつと灯り始めるマジックアワーの情景は、忘れられない思い出になるでしょう。

    最後の夜は、少しだけ贅沢に。ルーフトップバーで乾杯

    旅の締めくくりの夜には、少し特別な時間を過ごしたくなります。パタヤには多くのルーフトップバーがありますが、その多くは華やかでドレスコードが厳しいところも少なくありません。しかし、ジョムティエンエリアにはもっと気軽に楽しめて、しかも素晴らしい景色を堪能できるルーフトップバーも存在します。

    例えば、D Varee Jomtien Beach Pattaya のような高層ホテルの最上階にあるバーは、ウォーキングストリートの喧騒から離れた落ち着いた大人の空間。象柄のパンツでの入店は遠慮したくなりますが、ナイトマーケットで購入したきれいめのポロシャツに着替えれば問題ありません。

    エレベーターで上層階へ一気に上がると、扉が開いた瞬間、360度のパノラマビューが目に飛び込んできます。眼下には延々と続くジョムティエンビーチの海岸線、遠くには宝石のように煌めくパタヤ・シティの夜景が広がっています。心地よい海風を感じつつ、カウンターでカクテルを注文。

    シンガポールスリングやモヒートなど定番のカクテルを片手に、この3日間の旅を振り返ります。空港からのバスの移動、初めて見たジョムティエンの夕日、ナイトマーケットの賑わい、水上マーケットの活気、タイマッサージの心地よさ、そしてビッグブッダの丘からの壮大な眺め。さまざまな思い出が走馬灯のように蘇ります。

    物は何一つ増えていないのに、心の中は豊かな体験で満たされています。この充実感こそが、私が旅に求めるすべてです。隣に座った一人旅の旅行者と何気ない会話を交わすかもしれません。「どちらから?」「ジョムティエンはいかが?」といった他愛ないやりとりが、旅の夜をさらに豊かに彩ってくれます。最高の景色、美味しいお酒、心地よい孤独と一期一会の出会い。ジョムティエンでの最後の夜は、静かにそして深く更けていくのです。

    4日目: 名残惜しさを胸に、次の旅へ

    旅の締めくくりはいつも、ほんの少しだけ切なさを感じさせます。しかしそれは同時に、新たな出発の合図でもあるのです。ジョムティエンの太陽と風から得たエネルギーを胸に、別れを惜しみつつも軽やかに次のステージへ歩み出しましょう。最終日は慌ただしく過ごすのではなく、この地への感謝を込めて、ゆったりと締めくくるのが僕の流儀です。

    最後の朝食をもう一度。お気に入りの屋台へ

    旅の最終日の朝食は、僕にとって特別な儀式のようなものです。それは、この数日間で見つけた「一番のお気に入り」をもう一度楽しむための時間。ゲストハウスの近くにあったカオマンガイの屋台か、毎朝通ったジョークのお店かもしれません。

    僕の場合は、ビーチロードから少し入ったソイで見つけた、地元の労働者たちでにぎわうクイッティアオ(タイラーメン)の屋台でした。豚挽き肉とつみれ、モツが入ったスープは少し甘めで、ナンプラーや唐辛子、ライム、砂糖を自分で加えて好みの味に仕上げます。一杯40バーツ。決して特別なものではなく、タイのどこにでもある日常の味です。しかしこの旅の中では、どの高級レストランよりも記憶に深く刻まれる味となりました。

    店のおばちゃんは三日連続で訪れた僕をしっかり覚えてくれて、「いつもの?」とにっこり頷いてくれます。こんな何気ない交流が旅を何倍にも豊かにしてくれるのです。最後の一滴までスープを飲み干し、「アロイ・マーク(とても美味しい)」と伝えると、彼女ははにかみながら微笑んでくれました。この味と笑顔を忘れないよう、心に大切に刻みます。

    パッキングはあっという間。身軽さこそ最高の土産

    ゲストハウスに戻り、出発の支度を整えます。とはいえ、僕のパッキングはあっという間に終わります。5リットルのリュックに、着てきた服(すでに洗濯済み)と必要最低限の洗面道具を詰めるだけ。ナイトマーケットで買ったTシャツと象柄のパンツはきれいに畳んでベッドの上に置きます。これはハウスキーパーさんへのささやかな感謝の気持ちです。きっとどこかで誰かが再利用してくれるはず。

    僕にとって最高の土産は「身軽さ」そのもの。旅の終わりに荷物は増えていないどころか、心の中の余分なものがそぎ落とされ、出発前よりもさらに軽やかに感じられるのです。たくさんの物と思い出をスーツケースに詰め込んで帰る旅も素敵ですが、僕は何も持たずに、しかし全てを心に焼き付けて帰る旅を選びます。それは本当に大切なものが、目に見えないし手で触れることもできないからです。体験であり、記憶であり、人との出会いこそが宝物なのです。

    ジョムティエンから空港へ。旅の終わりと新たな始まり

    チェックアウトを済ませ、ゲストハウスの主人に「コップン・クラップ(ありがとう)」と告げて外へ出ます。行きと同様にソンテウに乗り込み、ジョムティエンのバスターミナルへ向かいます。そこでバス会社のカウンターでスワンナプーム空港行きのチケットを購入し、再び2時間のバス旅が始まります。

    窓の外を流れる景色を眺めながら、この3泊4日の思い出を反芻します。ジョムティエンの穏やかな海は、パタヤの別の顔であり、タイの深い魅力を教えてくれました。物を持たないことで得られる自由と心の豊かさを、改めて実感させてくれたのです。

    空港の喧騒に身を置くと、ジョムティエンで過ごした時間がまるで夢のひとコマのように思えてきます。しかし、肌に焼きついた日焼けの跡と、心に満ちた温かな感触が、それが紛れもない現実だったことを示しています。僕の小さなリュックは、すでに次の目的地を求めています。この旅の終わりは、まさに新しい旅の始まりに過ぎません。さあ、次はどこへ向かおうか。ジョムティエンビーチがくれた静かな自信を胸に、僕の旅はまだ続いていきます。

    ジョムティエンが教えてくれる、本当の豊かさ

    私たちは、本当に必要以上に物を持ちすぎてはいないでしょうか。旅支度の際でさえ、あれもこれもと詰め込み、スーツケースをいっぱいにして、不安を物に紛らわせようとしているのではないでしょうか。

    今回のジョムティエンビーチでの3泊4日間は、現代社会が掲げる「所有」という価値観に対する小さなアンチテーゼとなる旅でした。持ち歩いたのは、わずか5リットルのリュックと、ほんの少しの好奇心だけ。しかし、そこで得たものは計り知れないほど大きなものでした。

    それは、遮るもののない水平線に沈む夕日を静かに見つめる時間。 それは、地元の市場の活気に包まれながら、名前も知らない料理を味わう喜び。 それは、言葉を超え、屋台のおばさんと交わした温かな笑顔の交流。 それは、自分の身体を労わり、マッサージに身をゆだねて深くリラックスする心地よさ。 そして何より、何も持たないからこそ味わえる、圧倒的な自由と心の静けさでした。

    ジョムティエンは、パタヤの賑やかなイメージとは一線を画す、穏やかで包容力のある場所です。豪華さや刺激を求めるのではなく、自分自身の内面と向き合い、シンプルで豊かな時間を再発見したい旅人にとっては、理想的な隠れ家となるでしょう。

    もしも日々の喧騒に疲れ、何かを手放したいという想いがあるなら、次の旅はリュックひとつでジョムティエンを訪れてみてはいかがでしょう。そこには、物質的な豊かさとは異なる、本質的な「豊かさ」の意味を教えてくれる穏やかな海と空が広がっています。服は現地の市場で買い、計画もその日の気分で柔軟に変えればいいのです。大切なのは、身軽な心で、目の前の瞬間を全力で味わうこと。

    ジョムティエンの砂浜は、きっとあなたを優しく迎え入れてくれることでしょう。

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    この記事を書いたトラベルライター

    5リットルの子供用リュック1つで旅をしています。最低限の荷物、最大限の自由。旅のスタイルは“軽く生きる”。そんな哲学を共有していけたら嬉しいです。

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