いつもの私なら、週末のフライトで向かうのは決まってソウル。推しのセンイル広告を巡り、お気に入りのカフェで新作スイーツを味わい、最新の韓国コスメをハントする…それが私の旅のルーティンでした。でも、ある日ふと思ったんです。「この熱量、他のアジアの街に向けたらどうなるんだろう?」と。そんな好奇心から、今回私が降り立ったのは、タイ・バンコク。目指すは、世界最大級のチャイナタウン「ヤワラート」です。
空港からタクシーに乗り、都会のビル群を抜けてヤワラートの入り口に差しかかった瞬間、空気が変わりました。鼻腔をくすぐるスパイスと炭火の香り、目に飛び込む極彩色の漢字の看板、そして耳をつんざくような人々の喧騒。ソウルの洗練された賑わいとはまったく違う、もっと生の、もっと混沌としたエネルギーの渦。全身の毛穴がぶわっと開くような感覚に、私は一瞬で心を奪われてしまいました。ここは、ただの観光地じゃない。街全体が生きている、巨大な生命体のような場所。
さあ、あなたも私と一緒に、このエネルギッシュな迷宮に足を踏み入れてみませんか?きらびやかなネオンの海を泳ぎ、美食のジャングルを探検し、古い歴史と最新のトレンドが交差するカオスな魅力を、心ゆくまで味わい尽くす旅へ出かけましょう。ここは、あなたの五感を解放し、旅の価値観を塗り替えてしまうかもしれない、特別な場所なのですから。
ヤワラートとは?- 龍の背を歩く、黄金のチャイナタウン
バンコクの中心部に位置しながら、まるで異世界への扉のように存在するヤワラート。その歴史は古く、18世紀末、チャクリ朝の初代国王ラーマ1世がバンコクに遷都した際に、もともと王宮があった場所に住んでいた中国系の人々が移住してきたことから始まりました。以来、200年以上にわたって、彼らの勤勉さと商才がこの地をタイ随一の商業の中心地へと発展させてきたのです。
天に昇る龍の如き道
ヤワラートのメインストリートである「ヤワラート通り」は、大きくうねるようにカーブしているのが特徴です。この形が、天に昇ろうとする龍の体に似ていることから、風水的に非常に縁起の良い場所とされています。実際にこの道を歩いていると、自分が巨大な龍の背中に乗って、街のエネルギーの中を遊泳しているかのような不思議な感覚に包まれます。道の両脇には金行(ゴールドショップ)がずらりと並び、ショーウィンドウに飾られた黄金の装飾品がギラギラと輝きを放っているのも、この「龍の道」の富と繁栄を象徴しているかのようです。
旅人を優しく迎える、進化するアクセス
かつてはタクシーやトゥクトゥク、あるいは路線バスを乗りこなす必要があり、旅行者にとっては少しアクセスのハードルが高い場所でした。しかし、2019年にMRT(地下鉄)ブルーラインが延伸し、「ワット・マンコン駅」が開業したことで、その様相は一変しました。マンコンとはタイ語で「龍」のこと。まさにヤワラートの心臓部に誕生したこの駅のおかげで、今ではスクンビットなどの都心エリアからでも乗り換えなし、もしくは一度の乗り換えで、いとも簡単にこのカオスのど真ん中にワープできるようになったのです。
駅の構内も必見です。龍をモチーフにした装飾や、中国の伝統的な建築様式を取り入れたデザインは、まるでこれから始まる冒険へのプロローグのよう。改札を出て地上へのエスカレーターを上るにつれて、徐々に聞こえてくる喧騒と漂ってくる香りに、期待で胸が高鳴るのを抑えきれないはずです。さあ、龍の駅を降りて、本格的なヤワラート探検へと繰り出しましょう。
五感を揺さぶる!ヤワラート食べ歩き天国 – 絶対外せないストリートフード図鑑
ヤワラートの魅力、その核心にあるのは間違いなく「食」です。昼は乾物や漢方の香りが漂い、夜になると炭火の煙とスパイスの匂いが立ち込めるこの街は、巨大な屋外レストランそのもの。ここでは、高級中華から一皿数十バーツのB級グルメまで、ありとあらゆる美食があなたを待ち受けています。胃袋の限界まで、この美食の迷宮を彷徨い尽くしましょう!
定番中の定番!絶対王者グルメ
まずは、ヤワラートに来たら絶対に素通りできない、王道のグルメたちをご紹介します。これらを食べずして、ヤワラートを語ることはできません。
海の恵みが凝縮された一杯 – フカヒレスープ
ヤワラートの代名詞ともいえるのが、フカヒレスープ。専門店の前には、土鍋がずらりと並び、ぐつぐつと煮えるスープが食欲をそそります。賛否両論ある食材ではありますが、ここでは古くからの高級食材として根付いています。中でも有名なのが「Hao Shark Fin(เฮง หูฉลาม)」や「China Town Scala Shark Fin(ไชน่าทาวน์ สกาลา)」といった老舗。とろみのついた熱々のスープは、カニの身やしいたけの旨味が溶け出し、奥深い味わいです。テーブルに置かれたもやしやパクチー、そして黒酢を少し加えると、また違った表情を見せてくれます。値段はピンからキリまでありますが、一杯300バーツくらいから試せるお店も多いので、特別な日のご馳走として、あるいは旅の思い出に一度味わってみるのも良いかもしれません。
炭火の香りが食欲を爆発させる – 炭火焼きシーフード
日が傾き、ヤワラート通りにネオンが灯り始めると、どこからともなくシーフードを焼く香ばしい煙が立ち上り始めます。これぞ、ヤワラートの夜の風物詩。道端にテーブルを並べただけの簡素なお店「T&Kシーフード」や「レック&ルット・シーフード」の前には、あっという間に人だかりができます。緑や赤のポロシャツを着た店員さんたちが、威勢のいい声で客を呼び込み、手際よく注文をさばいていく様子は、見ているだけでもエンターテイメント。
店頭の氷の上に並べられた新鮮なエビやイカ、カニ、ホタテ、魚の中から好きなものを選び、調理法を伝えるのがヤワラート流。おすすめは、何と言ってもシンプルな炭火焼き。特に手長エビの炭火焼きは絶品です。ぷりっぷりの身に、香ばしい炭の香りが乗り、濃厚なエビ味噌がたまりません。ニンニクと唐辛子が効いた緑色のシーフードソースをたっぷりつけて頬張れば、ビールが止まらなくなること間違いなし。この熱気の中で味わうシーフードは、高級レストランでは決して味わえない、最高の贅沢です。
優しい味わいの実力者 – カオマンガイ
タイ料理の定番、カオマンガイもヤワラートで食べればまた格別。鶏の出汁で炊き上げたご飯の上に、しっとりと茹でられた鶏肉が乗ったシンプルな料理ですが、それゆえに店のこだわりが光ります。ヤワラートの路地裏、イサラヌパープ通りにある「ガイトーン・ナイウアン」は、地元の人々にも愛される名店の一つ。ここのカオマンガイは、ご飯の一粒一粒に鶏の旨味がしっかりと染み込んでいながら、決して脂っこくないのが特徴。鶏肉も驚くほど柔らかく、ジューシーです。生姜と唐辛子がピリッと効いた特製のタレ「ナムチム」が、全体の味をきゅっと引き締めてくれます。揚げ鶏が乗ったカオマンガイトートとのミックスも可能なので、ぜひ両方試してみてください。喧騒の中で、ほっと一息つけるような優しい味わいに、きっと癒されるはずです。
モチモチ食感がクセになる – クワイジャップ・ユアン・ポー・チャナー
これは、ぜひ挑戦してほしいヤワラートならではの麺料理「クワイジャップ」。米粉を丸めて作ったくるくるとカールした麺が特徴で、その食感はモチモチ、つるんとしていて、一度食べたら病みつきになります。サンペーン市場の近くにある「クワイジャップ・ユアン・ポー・チャナー」は、創業40年以上の老舗。ここのスープは、胡椒がガツンと効いたスパイシーなクリアスープ。豚モツやカリカリに揚げた豚バラ肉(ムーグローブ)がゴロゴロと入っていて、ボリュームも満点です。一口すすると、まず胡椒の刺激が鼻を抜け、その後に豚の旨味がじわっと広がります。独特の麺の食感と、様々な部位のモツの歯ごたえ、そしてムーグローブのカリッとしたアクセントが渾然一体となり、口の中はまさにお祭り騒ぎ。行列必至ですが、並んででも食べる価値のある一杯です。
手軽に楽しむ!魅惑のB級グルメ&スイーツ
メインディッシュでお腹が満たされても、ヤワラートの食の探検は終わりません。ここからは、片手で楽しめる絶品B級グルメと、別腹を刺激する魅惑のスイーツをご紹介します。
朝食の定番、魅惑の揚げパン – パートンコー
「パートンコー」は、小麦粉を練って揚げた、タイ風の揚げパン。朝食として、豆乳やおかゆと一緒に食べるのがローカルスタイルです。ヤワラートには、ミシュランガイドのビブグルマンにも掲載された有名な屋台「パートンコー・サヴォイ」があります。夕方から営業を始めるこの屋台には、いつも長い行列ができています。ここのパートンコーは、外はサクッと軽く、中は驚くほどモチモチ。油っぽさを全く感じさせない軽やかな食感は、まさに職人技です。そのまま食べても素朴な甘みがあって美味しいのですが、ぜひ試してほしいのが、緑色のパンダンリーフ風味のカスタードクリーム「サンカヤー」。優しい甘さのクリームが、パートンコーの美味しさをさらに引き立てます。揚げたてアツアツをその場で頬張る幸福感は、何物にも代えがたい体験です。
ふわふわパンに溺れたい – カノムパン・チャオ・アルン・ノイ
これもまた、行列必至の人気スイーツ店「カノムパン・チャオ・アルン・ノイ」。一見するとただの小さな屋台ですが、ここから魔法のようなスイーツが生み出されます。炭火で軽くトーストされた、ふわっふわのちぎりパンに、これでもかというほどたっぷりのフィリングを詰めてくれるのです。フィリングは、ミルクやチョコレート、サンカヤー(カスタード)、そして唐辛子ペーストなど、甘いものからしょっぱいものまで様々。一番人気は、とろりとした甘いコンデンスミルク。熱々のパンにじゅわっと染み込んだミルクの甘さが、疲れた体に染み渡ります。パンをちぎって、溢れんばかりのフィリングをディップしながら食べるスタイルは、背徳感と幸福感が入り混じる、まさに禁断の味。夜遅くまで営業しているので、ヤワラート散策の締めくくりにぴったりです。
香ばしさが誘う – 焼き栗
ヤワラート通りを歩いていると、甘く香ばしい匂いが漂ってくることがあります。その正体は、巨大な鍋で砂と一緒に炒られている「焼き栗」。大きなヘラでザッザッと栗をかき混ぜるパフォーマンスも見ていて楽しいものです。日本の甘栗とは少し違い、殻がパリッと薄く、手で簡単に割ることができます。中の実はホクホクで、自然な甘みが口いっぱいに広がります。添加物などを使っていない、素朴で優しい味わいは、食べ歩きのお供に最適。熱々のものをハフハフしながら食べるのが最高です。ついつい手が伸びて、気づいたら一袋ぺろりと食べてしまっていることでしょう。
美容にも嬉しいご褒美 – 燕の巣デザート
美を追求する私のような(?)旅人にとって、見逃せないのが「燕の巣」。古くから滋養強壮や美容に良いとされる高級食材です。ヤワラートには、この燕の巣を比較的手頃な価格で楽しめる専門店が点在しています。温かいシロップや冷たいシロップ、あるいはココナッツミルクなど、様々なスタイルで提供されます。氷の上に白キクラゲやクコの実、イチョウなどと一緒に出てくる冷たいデザートは、歩き疲れた体に嬉しい一品。ゼリーのような、ぷるんとした独特の食感で、味自体は淡白ですが、体に良いものを摂っているという満足感が心を豊かにしてくれます。自分へのご褒美として、試してみてはいかがでしょうか。
禁断の果実 – ドリアン
好き嫌いがはっきりと分かれる、果物の王様ドリアン。その強烈な匂いから「ホテル持ち込み禁止」の張り紙をよく見かけますが、ヤワラートはそんなドリアンを心ゆくまで味わえる聖地でもあります。旬の時期になると、道端には山のようにドリアンが積まれ、その場で殻を割って売ってくれます。初心者におすすめなのは、クリーミーで甘みが強い「モントーン」という品種。ねっとりとした食感と、カスタードクリームのような濃厚な甘さは、一度ハマると忘れられない味です。匂いが苦手な方は、ドリアンチップスやドリアンアイスから試してみるのも良いでしょう。この街のエネルギーの源の一つかもしれない、この禁断の果実に、勇気を出して挑戦してみるのも面白い体験です。
命の湧き水 – フレッシュジュース
強烈な日差しと人々の熱気で火照った体をクールダウンさせてくれるのが、道端で売られているフレッシュジュース。特にヤワラートで有名なのが、真っ赤なザクロジュースです。おばちゃんが専用の機械で、目の前でザクロをギュゥゥッと絞ってくれる様子は、見ているだけで喉が渇いてきます。ボトルに詰められた鮮やかなルビー色の液体は、甘酸っぱくて濃厚。ビタミンが体に染み渡っていくのを感じます。他にも、オレンジジュースやパッションフルーツジュースなど、南国ならではのフレッシュな恵みを、ぜひ味わってみてください。
昼と夜、二つの顔を持つヤワラートの歩き方
ヤワラートの魅力は、時間帯によって全く異なる表情を見せることです。昼間はローカルの生活感あふれる市場として、夜はネオンきらめくエンターテイメント空間として、一日中いても飽きることがありません。
活気あふれる昼間の顔 – 市場と問屋街をディープに探検
太陽が高く昇る時間帯、ヤワラートは商売の街としての本来の顔を見せます。メインストリートから一本入った路地裏は、人ひとり通るのがやっとの細い道。そこは、ありとあらゆるものがひしめき合う、巨大な市場と問屋街なのです。
カオスの迷宮 – サンペーン市場
ヤワラート通りの南側を並行して走る細い路地が「サンペーン市場」です。ここは、まさにカオスの迷宮。アーケードの下には、アクセサリーパーツ、布地、文房具、おもちゃ、生活雑貨などを扱う小さなお店が、これでもかというほど密集しています。韓国の南大門市場にも似た雰囲気ですが、もっと湿度と密度が高い感じ。バイクが人混みをかき分けるように走り抜け、荷物を満載した台車が「どいて、どいて!」と進んでいく。その活気たるや、圧倒されること間違いなしです。
ここでは、宝探しをするような感覚で掘り出し物を見つけるのが楽しみ方。K-POPアイドルがつけていそうな可愛いデザインのピアスが驚くような安さで売られていたり、カラフルなタイシルクの小物が山積みになっていたりと、見ているだけでワクワクします。ただし、ほとんどが問屋なので、ロット単位でしか売ってくれないお店も多いですが、中には小売りしてくれるお店もあるので、勇気を出して聞いてみましょう。何も買わなくても、このごちゃ混ぜのエネルギーの中を歩くだけで、ヤワラートの真髄に触れられる気がします。
ローカルの台所 – タラート・マイ(新市場)
ヤワラート通りの北側、イサラヌパープ通り周辺に広がるのが「タラート・マイ」。こちらは「新市場」という意味ですが、雰囲気は非常に歴史を感じさせます。サンペーン市場が雑貨中心なのに対し、こちらは生鮮食品や乾物がメインの、まさにバンコクの台所。フカヒレやアワビ、ナマコといった高級乾物から、見たこともないような漢方の材料、色とりどりのスパイス、新鮮な果物や野菜、そして生きたままの鶏や魚まで、ありとあらゆる食材が並んでいます。独特の匂いが混じり合い、人々の活気ある声が響き渡る空間は、タイの食文化の奥深さを肌で感じられる場所。観光客向けの顔ではなく、地元の人々のリアルな日常がここにあります。
美と健康の源泉 – 漢方薬局
コスメ好き、インナービューティーに興味のある私にとって、タラート・マイ周辺に点在する漢方薬局は、まるで宝の山のようでした。古めかしい木製の棚に、びっしりと薬草や生薬が入った瓶が並ぶ光景は圧巻。英語はあまり通じませんが、身振り手振りや翻訳アプリを駆使して、目的を伝えると、お店の人が症状に合わせたものを調合してくれます。例えば、美肌効果が期待できるハトムギや、体を温めるジンジャー、デトックス効果のあるお茶など、見ているだけで楽しくなります。タイ伝統のハーバルバームや、ハーブを使った石鹸などもお土産にぴったり。化学的なコスメとは違う、自然の力で美しくなれるような気がして、ついつい買いすぎてしまいました。
ネオンきらめく夜の顔 – 喧騒がエンターテイメントに変わる瞬間
太陽が西の空に沈み、街に夕闇が訪れると、ヤワラートは第二の幕を開けます。昼間の生活感あふれる市場は静まり、代わりにメインストリートが主役の舞台へと変貌するのです。
龍を彩るネオンサインの洪水
ヤワラートの夜の魅力は、何と言ってもそのネオンサイン。赤、青、緑、黄色…極彩色の漢字の看板が一斉に光を放ち始めると、街全体が巨大なイルミネーションのように輝き出します。特に、ヤワラート通りとパドゥン・ダオ通りが交差するあたりは、絶好の写真撮影スポット。まるでSF映画の世界に迷い込んだかのような、サイバーパンクな光景が広がります。トゥクトゥクのヘッドライトが光の川を作り、ネオンの光がアスファルトの濡れた路面に反射して、幻想的な世界を描き出します。この光の洪水の中に身を置いていると、自分が物語の主人公になったかのような高揚感に包まれます。
熱気と煙が渦巻くストリート
夜のヤワラートは、美味しい匂いの集合体。シーフードを焼く煙、スープを煮込む湯気、スパイスの香り、そして果物の甘い匂い。それらが、人々の話し声や笑い声、食器のぶつかる音、車のクラクションと混じり合って、ヤワラートならではのシンフォニーを奏でます。道を埋め尽くすほどのプラスチックのテーブルと椅子に座り、ビール片手に食事を楽しむ人々の姿は、それ自体がヤワラートを象徴する風景です。この喧騒と熱気こそが、最高のスパイス。一人で訪れても、不思議と寂しさを感じさせない、不思議な一体感がこの場所にはあります。
喧騒を見下ろす隠れ家 – ルーフトップバー
ヤワラートの混沌としたエネルギーを存分に味わった後は、少し高い場所からその景色を眺めてみるのも一興です。近年、ヤワラートには古い建物をリノベーションした、おしゃれなルーフトップバーが増えています。例えば「Wallflowers Upstairs」は、1階が人気のフラワーカフェで、その上にあるルーフトップバー。植物に囲まれたボヘミアンな雰囲気の中で、眼下に広がるヤワラートのネオンと、遠くに見える近代的なビル群のコントラストを楽しむことができます。また、「Ba Hao」は、レトロチャイニーズな雰囲気のバーで、小さなバルコニーから通りの喧騒を眺めながら、独創的なカクテルを味わえます。地上のカオスから少しだけ距離を置き、この街の熱気を静かに感じる時間は、旅の忘れられない思い出になるはずです。
喧騒の先にある静寂 – ヤワラートのパワースポット巡り
エネルギッシュな喧騒がヤワラートの代名詞ですが、この街には心を静め、深く祈りを捧げるための神聖な場所も存在します。美食とショッピングの合間に、タイの信仰心に触れる時間を設けることで、旅はより一層深みを増すことでしょう。
黄金仏が圧倒的な光を放つ「ワット・トライミット」
ヤワラートの西の端、チャイナタウン・ゲートのすぐそばに立つのが「ワット・トライミット・ウィッタヤーラーム・ウォラウィハーン」です。この寺院が世界的に有名なのは、本堂に安置されている純金製の仏像。その重さ、なんと5.5トン!高さは約3メートルにも及び、ギネスブックにも「世界で最も価値のある仏像」として認定されています。
この黄金仏には、奇跡のような物語があります。もともとは漆喰で覆われており、アユタヤ時代に作られたありふれた仏像の一つだと思われていました。ビルマ軍の侵攻から守るために、その価値を隠したのだと言われています。長い間その事実は忘れ去られていましたが、1955年、寺院の移設作業中にクレーンから落下。その衝撃で表面の漆喰が剥がれ落ち、中から黄金の輝きが姿を現したのです。想像してみてください。何百年もの間、泥の中に隠されていた宝石が、ある日突然その輝きを取り戻す瞬間を。そのドラマチックな歴史を知ってから仏像を前にすると、その黄金の輝きがより一層、神々しく、尊いものに感じられます。本堂の厳かな空気の中で、静かに手を合わせれば、心が洗われるような清々しい気持ちになれるでしょう。
人々の祈りが集う龍の寺「ワット・マンコン・カマラワート」
ヤワラートの心臓部、チャロンクルン通りに面して建つのが「ワット・マンコン・カマラワート」です。MRTの駅名にもなった「龍の寺(ワット・マンコン)」として知られ、バンコクで最も重要とされる中国寺院の一つ。ここは、観光客向けの寺院というよりも、地元の中華系タイ人の人々の生活に深く根差した、信仰の中心地です。
一歩足を踏み入れると、線香の煙が立ち込め、独特の香りが満ちています。本堂には、中国風の神々が祀られ、多くの人々が熱心に祈りを捧げています。人々は、お線香を買い、火を灯し、各香炉を順番に回って祈りを捧げます。また、赤い紙(金紙)を燃やして、先祖や神様にお金を送るという風習も見られます。その一連の動作は、非常に生活に密着した、自然な営みのように見えます。
特に旧正月の時期には、多くの人々が厄払いのためにここを訪れます。自分の干支の神様にお参りしたり、おみくじを引いたりする姿は、日本の初詣にも似た雰囲気。言葉はわからなくても、彼らの真剣な眼差しや敬虔な祈りの姿を見ていると、国や文化は違えど、人々が神仏に寄せる想いは同じなのだと感じさせられます。ヤワラートの喧騒の真ん中で、人々の篤い信仰心に触れる時間は、非常に貴重な体験です。
ヤワラート最旬アドレス – リノベカフェ&アートスポット
伝統と歴史が息づくヤワラートですが、近年、古い建物の魅力を活かしながら、現代的なセンスでリノベーションしたカフェやアートスペースが次々と誕生しています。ソウルの聖水洞(ソンスドン)や益善洞(イクソンドン)のように、レトロとモダンが融合した空間は、私のようなカフェ巡り好きにはたまりません。喧騒を逃れて、少しだけおしゃれな時間を過ごしてみませんか?
レトロチャイニーズと現代アートの融合
古い商家や倉庫が、驚くほどスタイリッシュな空間に生まれ変わっています。歴史が刻まれた壁や柱を眺めながら、美味しいコーヒーをいただく時間は格別です。
時が止まったような美しさ – Baan 2459
ひときわ目を引くコロニアル様式の美しい建物、それがブティックホテル「Baan 2459」です。その一角がカフェとして開放されており、宿泊者でなくても利用することができます。建物が建てられたのは、その名の通り1916年(仏暦2459年)。かつては裕福な商人の邸宅でした。高い天井、アンティークの家具、そして中庭の緑。一歩足を踏み入れただけで、まるで100年前にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。ここでは、ぜひタイティーを使ったスイーツやドリンクを試してみてください。クラシカルで優雅な空間で過ごすティータイムは、ヤワラートの喧騒を忘れさせてくれる、贅沢なひとときです。
花と緑に埋もれる隠れ家 – Wallflowers Cafe
路地裏にひっそりと佇む、秘密の花園のようなカフェが「Wallflowers Cafe」です。1階は「Oneday Wallflowers」という名のフラワーショップになっており、その奥の階段を上っていくと、ドライフラワーや観葉植物に埋め尽くされた、幻想的な空間が広がります。薄暗い照明の中に浮かび上がる植物のシルエット、むき出しのコンクリートの壁、そして使い古された木のテーブル。その退廃的でありながらも美しい世界観は、唯一無二です。ここで提供されるケーキは、エディブルフラワー(食用花)で飾られており、見た目も芸術的。コーヒーを片手に、この独特の雰囲気に浸っていると、現実世界から切り離されたような不思議な感覚になります。夜はルーフトップバー「Wallflowers Upstairs」として営業しており、昼と夜で違った表情を楽しめるのも魅力です。
本格派コーヒーを倉庫で味わう – CHATA Specialty Coffee
こちらも古い倉庫をリノベーションした、インダストリアルな雰囲気が魅力のカフェ。ガラス張りの建物からは、たっぷりと自然光が差し込み、開放感あふれる空間になっています。店名に「Specialty Coffee」とある通り、コーヒーへのこだわりは本物。世界中から厳選した豆を使い、一杯一杯丁寧にハンドドリップで淹れてくれます。コーヒー好きなら、ぜひ訪れてほしい場所です。コンクリート打ちっぱなしの壁と、緑豊かな中庭のコントラストが美しく、どこを切り取っても絵になります。美味しいコーヒーを片手に、少しだけ仕事や読書をするのにも最適な、落ち着いた大人の空間です。
路地裏に潜むストリートアートを探して
ヤワラートの魅力は、メインストリートだけではありません。一歩路地裏に入ると、そこには色鮮やかなストリートアートの世界が広がっています。特に、ヤワラートの南西に位置する「タラートノイ」地区は、アート好きなら必見のエリア。古い町工場や自動車の解体部品屋が並ぶ、昔ながらの街並みの壁に、突如として巨大な壁画(ミューラル)が現れるのです。
散策しながら、お気に入りのアートを探すのは、まるで宝探しのよう。有名なアーティストが描いた作品から、地元の若者が描いたであろうグラフィティまで、そのスタイルは様々です。錆びついたトタンの壁に描かれた少女の瞳、古いレンガの壁を突き破って飛び出してきそうな鯉の絵。街の歴史とアートが融合した風景は、非常にフォトジェニック。カメラ片手に、自分だけの「映え」スポットを見つけるのも、ヤワラートの新しい楽しみ方です。タラートノイ地区は、迷路のように入り組んでいるので、地図を見ずに、気の向くままに歩き回るのがおすすめです。思わぬ場所で、心揺さぶるアートとの出会いが待っているかもしれません。
ヤワラートを120%楽しむためのヒント&注意点
最後に、このエネルギッシュな街を最大限に楽しむための、ちょっとしたコツと注意点をお伝えします。ほんの少しの準備で、ヤワラートの旅はもっと快適で、もっと安全なものになりますよ。
ベストな時間帯はいつ?
ヤワラートは、訪れる時間によって全く違う顔を見せます。もし時間に余裕があるなら、ぜひ昼と夜の両方を体験してみてください。 昼間(午前10時〜午後4時頃)は、サンペーン市場やタラート・マイといった市場が最も活気づく時間帯です。ローカルの生活感を味わい、ディープな買い物を楽しみたいなら、この時間帯がベスト。ただし、日差しが非常に強いので、暑さ対策は万全に。 夜(午後6時〜深夜)は、ヤワラート通りが主役になります。ネオンが灯り、ストリートフードの屋台が一斉にオープンし、街は最高潮の賑わいを見せます。食べ歩きや、きらびやかな夜景を楽しみたいなら、絶対に夜の訪問は外せません。
服装と持ち物で快適に
ヤワラート散策で最も重要なのは「足元」です。とにかくよく歩くので、履き慣れた歩きやすいスニーカーは必須。おしゃれなサンダルで行くと、人混みで足を踏まれたり、汚れたりする可能性があるので避けた方が賢明です。服装は、通気性の良い、動きやすいものがおすすめ。寺院を訪れる予定がある場合は、肩や膝が隠れる服装を心がけましょう。羽織れるストールなどを一枚持っていると便利です。 持ち物としては、汗を拭くためのタオルやウェットティッシュ、日差し対策の帽子やサングラス、そして買ったものを入れるためのエコバッグがあると重宝します。
値段交渉と支払いについて
ヤワラートの屋台や市場では、基本的に定価表示がないお店も多いです。特にサンペーン市場などで雑貨を買う際は、値段交渉が一般的。ただし、しつこい交渉は禁物です。笑顔で、スマートに行いましょう。複数の商品を買うから少し安くして、といった形がスムーズです。 一方、食べ物の屋台では、値段交渉はほとんどしません。メニューに価格が書いてあることがほとんどなので、注文前に確認しましょう。支払いは、現金が基本です。特に屋台では、高額紙幣だとお釣りがない場合もあるので、100バーツ札や20バーツ札などの細かいお金を多めに用意しておくと非常にスムーズです。最近はQRコード決済(タイの銀行アプリ)が使えるお店も増えていますが、旅行者にはまだハードルが高いので、現金主義でいるのが安心です。
意外と重要、トイレ事情
散策中に困るのがトイレです。ヤワラートの路上には公衆トイレはほとんどありません。MRTのワット・マンコン駅のトイレは清潔で使いやすいので、散策の拠点として覚えておくと良いでしょう。また、レストランやカフェに入った際に、済ませておくのが賢明です。一部の市場や古い建物の中には有料のトイレもありますが、清潔さはあまり期待できません。ティッシュが備え付けられていないことも多いので、ポケットティッシュは常に携帯しておくことを強くおすすめします。
安全に楽しむために
ヤワラートは非常に活気があり、基本的には安全な場所ですが、人が密集する場所ではスリや置き引きに注意が必要です。バッグは必ず体の前で抱えるように持ち、貴重品は内ポケットなど、分かりにくい場所に入れておきましょう。リュックサックを背負う場合は、人混みでは前に抱えるのが安全です。また、夜間に一人で細すぎる路地に入るのは避けた方が無難です。熱気と楽しさに夢中になりすぎず、最低限の注意を払うことで、嫌な思いをすることなく、この素晴らしい街の魅力を満喫できるはずです。あなたのヤワラートの旅が、最高に刺激的で、美味しくて、心に残るものになることを願っています。









