山形と宮城の県境に雄大にそびえる蔵王連峰。その西斜面に広がるのが、日本を代表するマウンテンリゾート「蔵王温泉スキー場」です。世界的に有名な樹氷原「スノーモンスター」を抱き、1900年以上の歴史を誇る名湯が湧き出るこの地は、単なるスキー場という言葉では語り尽くせない、深い魅力と物語に満ちています。
子育てが一段落し、夫婦でのんびりと過ごす時間を大切にするようになった私たちにとって、蔵王は特別な場所。ただ滑るだけではなく、その土地の歴史や文化に触れ、豊かな自然に心癒される。そんな大人のための贅沢な時間を過ごせるのが、蔵王の最大の魅力だと感じています。今回は、スキー場の楽しみ方はもちろん、その背景にある蔵王の豊かな歴史を紐解きながら、シニア世代にも安心していただけるような、ゆとりある旅のプランをご提案します。さあ、歴史とロマンに彩られた白銀の世界へ、一緒に旅立ちましょう。
旅の移動時間をより豊かにするために、日本の新幹線の奥深いトリビアを知っておくのも一興です。
蔵王の歴史 – 信仰の山からスキーの聖地へ

蔵王温泉スキー場の物語を語るには、この土地に根付く奥深い歴史を避けて通ることはできません。現在の賑わいからは想像しにくいかもしれませんが、蔵王は古くから人々の畏敬を集める「信仰の山」として崇められてきました。その歴史を理解することで、目の前に広がるゲレンデの景観にもまた違った味わいが加わることでしょう。
古代より山岳信仰の場として
蔵王連峰は、古来より山岳信仰の対象として敬われてきました。その歴史は西暦110年頃、日本武尊(やまとたけるのみこと)が東征の際に訪れたという伝説にまで遡ります。過酷な自然環境は人々の暮らしを脅かす一方で、多くの恵みも与えてきました。人々は荒ぶる神を鎮め、五穀豊穣や家内安全を祈るために、山自体を神格化して祀ったのです。
蔵王という名称の由来もこの山岳信仰と密接に関わっています。奈良時代に役小角(えんのおづぬ)が開いた修験道の蔵王権現(ざおうごんげん)がこの地に祀られたことから、「蔵王山」と呼ばれるようになったと言われています。翡翠色に輝く火口湖「御釜(おかま)」は、その神秘的な美しさから蔵王権現信仰の中心地として位置づけられ、多くの人々が訪れるパワースポットとなっています。スキー場の山頂からも、天候に恵まれればこの神秘的な御釜を望むことができ、滑走の合間に古代の信仰に思いを馳せることも趣深いものです。
スキー伝来と蔵王の関係
信仰の山であった蔵王がスキーの聖地へと変わるきっかけは、明治時代にスキーが日本に伝わったことに始まります。1911年、オーストリア=ハンガリー帝国の軍人、テオドール・フォン・レルヒ少佐が新潟県高田(現在の上越市)の陸軍歩兵第13師団で、日本で初めて本格的なスキー指導を行ったのです。この出来事が日本のスキー史を切り開く種となりました。
その波は山形にも素早く広がりました。降雪の多い山形では、スキーが冬季の移動手段や軍事技術だけでなく、新たなスポーツやレクリエーションとして注目されました。山形市の若者たちを中心にスキー熱が高まり、1920年代には山形市スキー倶楽部が結成されるなど、その情熱は次第に蔵王へと波及していきました。当時のスキーは現代の高性能な用具とは異なり、一本の長い木製の杖(シュトック)を用いてバランスを取りながら滑るものでした。人々は試行錯誤を繰り返しながら、新しい冬の楽しみを模索し開拓していったのです。
蔵王に本格的なスキー場が開設されたのは昭和初期のことです。温泉が滞在拠点として存在し、さらに広大で変化に富んだ斜面を持つ蔵王は、スキー場として理想的な環境でした。地元の熱意ある人々の努力によって徐々にコースが整備され、スキーヤーが集う場としての基盤が築かれていきました。当初はリフトもなく、自らの足で斜面を登り滑り降りるという、まさに山と一体となるスキーが楽しまれていたでしょう。その時代のスキーヤーたちの息遣いが、今日もこの山のどこかに残っているように感じさせられます。
皇族も訪れた格式あるスキー場
蔵王スキー場が全国的に名を馳せたのは、皇族の方々が訪れたことが大きな契機となりました。昭和天皇の弟である秩父宮殿下や高松宮殿下がこの地でスキーを楽しまれたのです。皇族の来訪は、そのスキー場が日本を代表する場所である証しであり、蔵王は一気に日本有数の格式高いスキーリゾートとしての地位を確立しました。
戦後の復興期、日本にスキーが国民的なレジャースポーツとして爆発的に広がると、その波に乗り蔵王温泉スキー場も大きく発展しました。1951年にはリフトが導入され、人々は自分の足で斜面を登る苦労から解放されました。そして1963年には、山麓から地蔵山頂駅までをつなぐ「蔵王ロープウェイ山麓線・山頂線」が全線開業。これにより、誰もが気軽に世界に誇る樹氷原の間近までアクセスできるようになりました。このロープウェイの開通は画期的であり、蔵王は単なるスキー場から冬の絶景を楽しめる総合観光地へと格上げされたのです。さらに新たなリフトやコースが次々に整備され、ゲレンデは拡大を続け、現在の日本最大級のスノーエリアが築かれていきました。
このように蔵王温泉スキー場の歴史は、古代の山岳信仰に始まり、スキー伝来という近代化の流れ、戦後のレジャーブームという時代の変化と強く結びついています。私たちが今、快適なリフトに乗って滑り降りる斜面は、かつて修験者が祈りを捧げ、スキーの先駆者たちが情熱を注いだ歴史の舞台そのものなのです。
現代の蔵王温泉スキー場 – その全貌と楽しみ方
長い歴史を重ねて発展してきた蔵王温泉スキー場は、現在では国内外から多くのスキーヤーやスノーボーダーが訪れる、日本有数のスノーリゾートとなっています。その圧倒的な規模と、ここでしか見ることのできない唯一無二の自然が織り成す芸術作品は、訪れるたびに新たな感動を与えてくれ、決して飽きることがありません。
圧倒的な広さを誇るゲレンデ
蔵王温泉スキー場の最大の魅力は、その広大なエリアにあります。総滑走面積は約305ヘクタールに及び、これは東京ドーム約65個分の広さに相当します。ゲレンデは大きく14のエリアに分かれており、全コース数は26本。初心者から上級者まで、あらゆるレベルのスキーヤーが満足できる多彩なコースが揃っています。
特に知られているのは、山頂からスキー場の最下部まで続くロングコースです。樹氷原コースからユートピアゲレンデ、そして上の台ゲレンデへと滑り繋げば、その滑走距離は約10kmに達します。標高差800m以上を一気に滑り降りる爽快感は格別で、変化に富んだ雪質や景色を楽しみながら、「山を滑り降りる」という醍醐味を満喫できます。私たちのようなシニア世代には、一気に滑り切るよりも途中のレストランで休憩を取りつつ、ゆったり景色を眺めながらのんびり滑ることをおすすめします。
一方、蔵王には挑戦心を刺激する難関コースも存在します。最大斜度38度を誇る「横倉の壁」は、その名の通り、壁のように急な斜面がスキーヤーに立ちはだかります。深く刻まれたコブと非圧雪のバーンは、経験豊富なスキーヤーでも緊張を強いられる蔵王で最も難易度の高いコースです。かつては何度も挑戦しましたが、今では麓からその急斜面を見上げ、果敢に挑む滑り手たちに拍手を送るのが楽しみの一つとなっています。
もちろん、初心者や家族連れが安心して滑れる緩やかな斜面も豊富に用意されています。スキー場の玄関口である「上の台ゲレンデ」や「中森ゲレンデ」は、コース幅が広く斜度も穏やかで、スキーデビューやブランクのある方の足慣らしに最適です。スクールも充実しており、基礎から丁寧に指導してもらえるため、安心して滑り始めることができます。
世界に誇る自然の芸術「樹氷」
蔵王の名を世界に知らしめているのが、自然が作り出す氷と雪の芸術、「樹氷」です。地元では「スノーモンスター」とも呼ばれ、その巨大で奇怪な姿は見る者を圧倒します。この珍しい自然現象は、蔵王ならではの特別な気象条件から生まれます。
樹氷が形成されるためにはいくつかの条件があります。まず、基盤となる常緑針葉樹のアオモリトドマツが群生していること。そして日本海側からやってくる湿った季節風が、山を越える際に過冷却水滴(0℃以下でも凍らない水の粒)となること。この過冷却水滴がアオモリトドマツの枝葉に吹き付けられて凍結し、「着氷」が発生します。さらにその上に雪が積もり、再び着氷が繰り返される。このプロセスが何度も繰り返されることで、木は次第に巨大な雪と氷の塊へと変わり、独特のモンスターのような形状に成長していくのです。
樹氷の見頃は例年1月下旬から2月下旬の最寒期です。蔵王ロープウェイ山頂線で地蔵山頂駅(標高1,661m)に降り立つと、そこは別世界が広がっています。見渡す限りに白い巨大な「モンスター」が林立し、幻想的な風景が目の前に広がります。晴れた日には、青空と白い樹氷のコントラストが目を奪い、その美しさに息を呑むほどの感動を覚えます。
昼間の美しさもさることながら、夜の樹氷もまた格別です。シーズン中の特定日には「蔵王樹氷まつり」の一環として、樹氷のライトアップが開催されます。色鮮やかな光で照らされた樹氷は、昼間とは全く異なる幻想的で妖艶な姿を見せます。漆黒の闇に浮かび上がるカラフルなモンスターたちの姿は、まるで異世界に迷い込んだかのようです。山頂は氷点下10度以下になることも珍しくありませんが、その寒さを忘れるほどの感動体験が待っています。
スキーだけではない、蔵王の冬の楽しみ方
蔵王の魅力はスキーやスノーボードだけにとどまりません。滑るのが苦手な方や、少し違う形で冬の自然を楽しみたい方にも、多彩なアクティビティが用意されています。
近年、人気が高まっているのが、スノーシューを履いて樹氷原を歩く「スノーシュートレッキング」です。専門のガイド付きツアーに参加すれば、スキーでは立ち入れない静かな森の中を散策し、間近で迫力ある樹氷を体感できます。ふかふかの新雪の上を歩く独特の感覚は、一度体験するとクセになります。動物の足跡を探したり、野鳥のさえずりに耳を傾けたりと、自然との一体感を深く味わうことができるのも魅力です。体力に自信のない方向けに短いコースも用意されており、安心して参加可能です。
また、蔵王ロープウェイや蔵王中央ロープウェイは、スキーをしない方でも観光目的で利用できます。山頂駅の展望台からは、朝日連峰や月山、遠くは飯豊連峰まで360度の大パノラマが広がります。空気が澄んだ日には、日本海まで見渡せることもあります。暖かいレストランで絶景を眺めながら一杯のコーヒーを楽しむのは、まさに贅沢なひととき。壮大な景色を前にすると、普段の悩みごとが小さく思えるのが不思議です。
旅の準備と実践ガイド – 安心して蔵王を満喫するために

蔵王は素晴らしい体験が待っていますが、冬の山を訪れる際は十分な準備が不可欠です。特にシニア世代の私たちにとっては、無理せず安全に楽しむための計画が大切になります。ここでは、アクセス方法から持ち物、服装のポイントまで、具体的な準備内容をお伝えします。
アクセス方法と移動のポイント
蔵王温泉スキー場へのアクセスは、公共交通機関の利用が便利かつ安心です。特に雪道の運転に慣れていない方は、無理をせずにバスや電車の利用をおすすめします。
首都圏からのアクセス: 一般的には山形新幹線を使う方法が主流です。東京駅から山形駅までは乗り換えなしで約2時間半〜3時間です。山形駅に着いたら東口のバス乗り場から蔵王温泉行きの路線バスに乗車します。バスの所要時間は約40分で、終点の蔵王温泉バスターミナルまで運行しています。バスはおよそ1時間に1本程度あり、新幹線の到着時間に合わせて接続する便が多いため便利です。往復バス乗車券とロープウェイ券がセットになったお得なチケットも販売されている場合があるので、あらかじめ山交バスの公式サイトを確認すると良いでしょう。
飛行機でのアクセス: 山形空港(おいしい山形空港)を利用する手段もあります。空港からは山形駅行きのシャトルバスが運行されており、それに乗って山形駅で蔵王温泉行きのバスに乗り換えます。冬季限定で、山形空港から蔵王温泉までの直通予約制ライナー「蔵王温泉エアポートライナー」が運行されることもあり、乗り換えなしでスムーズに移動できるので非常に便利です。
車でのアクセス: 自家用車でのアクセスも可能です。東北自動車道から山形自動車道へ入り、山形蔵王ICで下車します。そこから西蔵王高原ライン(有料)または一般道を通り約30分で蔵王温泉に到着します。ただし、冬の蔵王は必ず雪道となるため、スタッドレスタイヤの装着は必須です。4WD車でない場合はタイヤチェーンの携行も必ず行ってください。急な坂道や凍結箇所が多いため、雪道の運転に自信がない場合は無理をしないことが重要です。温泉街には駐車場が点在していますが、宿泊先の旅館の駐車場を利用するのが一般的です。日帰りの場合はゲレンデ近くの有料駐車場を利用することになります。
持ち物リストと服装のポイント
冬の蔵王、特に山頂付近は予想以上に厳しい寒さとなります。快適に過ごすためには、適切な持ち物と服装が不可欠です。
必須の持ち物リスト
- スキー/スノーボードウェア: 防水性・透湿性・防寒性に優れたものを選びましょう。
- インナーウェア: 最も重要な層です。汗かきでもすぐに乾くポリエステルなどの速乾性の高い化学繊維製品を選択してください。綿製シャツは汗で濡れると体温を奪ってしまい、低体温症のリスクがあるため絶対に避けましょう。
- ミドルレイヤー: インナーとアウターの間に着用する中間着で、フリースや薄手のダウンジャケットが適しています。気温に応じて着脱し、体温調整を行いましょう。
- ゴーグル: 紫外線や雪、風からの目の保護に必須です。天候に合わせてレンズの色を使い分けると快適に滑走できます。晴天用と曇天用の2種類があるとベターです。
- グローブ: 防水性と保温性に優れたスキー・スノーボード用のものを用意しましょう。予備があると濡れた時に交換できて安心です。
- 帽子/ヘルメット: 体温の放出を抑え、転倒時の安全を図るために必ず着用してください。近年は安全意識の高まりでヘルメット着用者が増えています。
- 厚手の靴下: 保温性とクッション性の高いスキー・スノーボード専用の靴下がおすすめです。
- ネックウォーマー/フェイスマスク: 顔や首を寒さから守ります。特に風が強い日は体感温度が大きく変わるため、必須アイテムです。
あると便利なもの
- 日焼け止め・リップクリーム: 雪山は紫外線が非常に強く、雪面からの照り返しもあるため、夏以上の日焼け対策が必要です。
- 携帯カイロ: 寒さが苦手な方や冷え性の方には心強いアイテムです。
- 小さなリュックサック: 飲み物や予備のグローブ、軽食などを入れておけるので便利です。
- 健康保険証: 万が一のケガや体調不良に備え、必ず携帯してください。
服装のポイントと禁止事項
服装の基本は「レイヤリング(重ね着)」です。インナー、ミドルレイヤー、アウターの3層を基本に、運動量や気温に応じてミドルレイヤーを上手に調整しましょう。また、ゲレンデ内にはいくつかのルールがあり、これらを守ることで安全に楽しむことができます。
- 指定区域外の滑走禁止: ロープなどで区画されたコースの外は雪崩や遭難の危険が高いので、絶対に滑走しないでください。バックカントリースキーは十分な知識と装備、ガイドの同行がなければ非常に危険です。
- ドローンの使用禁止: 他の利用者の安全を脅かす恐れがあるため、無許可でゲレンデ内でドローンを飛ばすことは禁止されています。
- リフト乗車中の注意点: 物を落とさない、セーフティーバーを確実に下ろすなど基本的なルールを守りましょう。
レンタルも上手に利用しよう
スキー用具一式やウェアは、すべて現地でレンタル可能です。蔵王温泉スキー場には多くのレンタルショップがあり、最新モデルの用具も揃っています。手ぶらで訪れて気軽にスキーを楽しめるのは大きな利点です。特に年に数回しか滑らない方や、用具の管理が面倒な方にはレンタルが便利です。スキー・スノーボードセットで1日あたり5,000円前後、ウェア上下は4,000円前後が相場です。ウェブサイトから事前予約をしておくと当日スムーズに借りられたり、割引を受けられたりすることがあるので、ぜひ活用してください。
ゲレンデを120%楽しむための実践情報
準備が整ったら、いよいよゲレンデへ出発です。広大な蔵王温泉スキー場を効率的かつ安全に楽しむための具体的な手順や、知っておくと役立つ情報をご案内します。
チケット購入からロープウェイ乗車まで
蔵王温泉スキー場を満喫するには、まずリフト券の入手が必要です。リフト券には多様な種類があるため、ご自身の滞在日数や滑り方に応じて選ぶことをおすすめします。
リフト券の種類: 一般的な「1日券」のほか、「2日券」「3日券」など連続利用できるチケット、また「5時間券」のような時間制の券や、ナイター営業に利用できる「ナイター券」もあります。長期滞在やシーズン中に何度も訪れる方向けに「シーズン券」も販売されています。
購入場所と方法: リフト券は各ゲレンデの麓にあるチケットセンター窓口で購入可能ですが、週末や祝日などは窓口が混雑することもあります。そこでおすすめなのがオンラインでの事前購入です。蔵王温泉スキー場公式サイトなどで電子チケットを先に購入すれば、現地の自動発券機にQRコードをかざすだけでリフト券をスムーズに入手できます。現地での待ち時間を減らすだけでなく、オンライン限定の割引を利用できる場合もあるので、ぜひ活用してみてください。
ICカード式リフト券: 蔵王のリフト券はICカード形式となっており、購入時に保証金(デポジット)として500円が必要ですが、返却時には返金されます。ICカードはウェアのポケット(特に左腕付近のポケットがおすすめ)に入れておくと、リフト乗り場のゲートが自動で認証され、スムーズに通過可能です。スタッフにチケットを提示する手間が省け、快適に利用できます。
ロープウェイの利用: 蔵王の広大なエリアを移動し、樹氷原へアクセスする際はロープウェイが欠かせません。主に「蔵王ロープウェイ」と「蔵王中央ロープウェイ」の2つがあります。樹氷が広がる山頂エリアへは、「蔵王ロープウェイ」の山麓線と山頂線を乗り継いで地蔵山頂駅を目指します。各乗り場は少し離れているため、ゲレンデマップで場所を事前にチェックしておきましょう。リフト券はこれらロープウェイにも乗車できる共通券となっています。
万が一に備えて – 安全対策とトラブル時の対応
どんなに注意していても、自然の中でのスポーツでは思わぬトラブルが起こることがあります。万が一の事態に備え、対応方法を知っておくことが安心して楽しむための重要なポイントです。
ゲレンデでの怪我や体調不良: 滑走中に転倒して怪我をしたり、急に体調が悪くなった場合は無理をせず、近くの人に助けを求めてください。リフト乗り場の係員に伝えれば、スキーパトロールへ連絡してもらえます。自分や同行者が動けない場合は、付近の方に助けを求めてパトロールを呼んでもらいましょう。各ゲレンデにはパトロール詰所があり、応急処置を受けることが可能です。また、蔵王温泉街には診療所がありますが、重傷の場合は山形市内の病院へ搬送されることもあります。特にシニア世代の方は持病の薬を忘れずに携帯し、無理のない滑走ペースを心がけてください。
リフト券の紛失: ICカードタイプのリフト券を紛失してしまった場合、基本的には再発行されませんので、新たに購入が必要となります。落とさないよう必ずファスナー付きのポケットに入れて管理しましょう。紛失に気づいた際は、念のためチケットセンターに相談してみることをおすすめします。
悪天候による運休: 蔵王は標高が高く、天候が急変しやすい地域です。特に山頂付近は強風が吹きやすく、ロープウェイやリフトが安全確保のため予告なく運休になることがあります。運休に伴うリフト券の払い戻しはスキー場の規定によりますが、基本的には一度もリフトを利用していない場合を除き、返金は難しいケースが多いです。運行状況は公式サイトや各乗り場の掲示板で随時確認し、悪天候の日は無理せず温泉街の散策に切り替えるなど、柔軟なプランを立てることが旅をより充実させます。
公式情報の確認: ゲレンデコンディションやリフトの運行状況、イベント情報など最新情報は必ず公式サイトでチェックする習慣をつけましょう。情報が多様化している現代だからこそ、信頼できる一次情報にあたることが、安全で快適なスキー旅行の第一歩です。
滑った後は極上の癒しを – 蔵王温泉の魅力

スキーで適度に疲れた体を癒してくれるのは、蔵王が誇るもう一つの宝物である、1900年以上の歴史を誇る名湯「蔵王温泉」です。この温泉こそが、蔵王を単なるスキー場以上の特別な場所としている大きな要因かもしれません。
1900年以上の歴史を持つ名湯
蔵王温泉の開湯は伝説によると西暦110年に遡り、日本武尊の東征に同行した吉備多賀由(きびのたがゆ)が発見したと伝えられています。それ以来、奥羽三高湯の一つに数えられ、長い間湯治場として多くの人々に親しまれてきました。最大の特徴は、全国的にも珍しい強酸性の硫黄泉である点です。温泉街を歩くだけで、硫黄の独特な香りが漂い、温泉地に来たことを実感させてくれます。
この強酸性の泉質は高い殺菌効果を有し、「肌と血管の若返りの湯」「美肌の湯」として知られています。肌の角質を柔らかくし、新陳代謝を促す効果が期待されているのです。スキーで冷えきった身体が、温泉に浸かることで内側からじんわりと温まる感覚はまさに至福の時間。筋肉疲労の回復にも効果的で、翌日も元気にゲレンデへ向かう活力を与えてくれます。私たち夫婦も、この温泉の存在があるからこそ、毎年欠かさず蔵王を訪れていると言っても過言ではありません。
風情豊かな共同浴場で湯めぐりを楽しむ
蔵王温泉の楽しみの一つに、温泉街に点在する3つの共同浴場を巡る「湯めぐり」があります。それぞれ異なる趣があり、地元の人々の生活に根ざした素朴な魅力が感じられます。
上湯(かみゆ)共同浴場: 温泉街の中心にある高湯通り沿いで、最も古い歴史を持つ共同浴場です。こぢんまりとした木造の湯小屋は昔の湯治場の趣を色濃く残しています。お湯はやや熱めで、ピリッとした肌触りが特徴的です。
下湯(したゆ)共同浴場: 上湯から少し坂を下った場所に位置し、上湯より広めで地元の方も多く利用するアットホームな雰囲気が魅力です。湯温は比較的入りやすく、ゆっくりと体を温めることが可能です。
川原湯(かわらゆ)共同浴場: 名の通り川のほとりに建つ味わい深い共同浴場です。足元から源泉がぽこぽこと湧き出す珍しい「足元湧出」のお風呂で、新鮮なお湯を直接楽しめます。湯船は二つに分けられており、お好みの温度で入浴できるのも嬉しいポイントです。
これらの共同浴場は入浴料が200円と非常にリーズナブルです。ただし、石鹸やシャンプーは設置されていないため、持参するか近隣の店で購入する必要があります。また、強酸性の泉質のため指輪やネックレスなどの貴金属は変色の恐れがあるため、入浴前には必ず外すようにしてください。
蔵王名物グルメで心も満足させる
旅の楽しみは温泉やスキーだけにとどまらず、その土地ならではの美味しい食べ物を味わうことも重要な魅力です。蔵王には、冷えた体を温めてくれる名物料理が豊富にあります。
ジンギスカン: 蔵王温泉の名物料理として多くの人に親しまれているのがジンギスカンです。なぜ山の温泉地でジンギスカンかと不思議に思うかもしれませんが、一説にはかつてこの地で羊の飼育が盛んだったことや、モンゴル出身の力士が広めたとも言われています。新鮮なラム肉を特製のタレで味わうジンギスカンは、スキー後の空腹を満たすのにぴったりの一品です。
玉こんにゃく: 山形名物の玉こんにゃくは蔵王でも人気のソウルフードです。醤油だしをしっかり染み込ませた熱々のこんにゃくに和からしをつけていただきます。スキーの合間の小腹が空いた時に、ゲレンデ内のレストランや温泉街の店先で手軽に味わえるのが嬉しいですね。1本100円前後で体も心も温まります。
稲花餅(いがもち): 温泉街の餅店で販売されている、笹の葉に包まれた愛らしいお餅です。もち米でこし餡を包み、色付けした黄色い米粒を上に乗せており、その見た目が稲の花のように見えることからこの名が付けられました。素朴で優しい甘さは散策途中の休憩に最適です。
時代を超えて愛される蔵王の未来へ
古代の人々が神々の棲む場所として畏敬の念を抱いた信仰の山、蔵王。その険しい斜面は、近代に入りスキーという新しい文化を受け入れ、日本を代表するスキーの聖地へと姿を変えました。そして現代、その壮大な自然は世界中の人々を惹きつける国際的なマウンテンリゾートとなり、冬の季節に一層の輝きを放っています。
リフトに乗って山頂をめざすと、眼下に広がる温泉街の湯けむりや遠く連なる山々の稜線を眺めながら、この地が刻んできた長い歴史に思いを馳せることがあります。ただ滑る技術を競うだけでなく、この土地が持つ歴史や文化を感じながら滑ることで、蔵王の風景はより深く、豊かなものへと映るのです。
樹氷は、自然の偶然が織りなす奇跡のアート。1900年もの長い間、人々の身体を癒し続けてきた強酸性の名湯。そして、この素晴らしい環境を守り、育んできた地元の人々の情熱。これらが一体となって、蔵王温泉スキー場という唯一無二の場所が創り上げられています。私たち夫婦も、これから先もこの素敵な地を訪れ、その魅力をゆっくりと味わい続けていきたいと願っています。この感動がまた次の世代へと大切に受け継がれていくことを願いながら、今日も私たちは白銀のシュプールを描いているのです。

