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東京から箱根へ。夫婦で巡る、五感を癒やす大人の日帰り旅

子育てという大きな仕事を終え、ふと自分たちの時間を見つめ直したとき。私たちはそれまで慌ただしく通り過ぎてきた「日常」から少し距離を置き、静かに語らい、美しい景色を愛でる時間を求めるようになりました。ヨーロッパの古い街並みを歩く長期滞在も私たちのライフスタイルの一つですが、日本国内にもまだまだ、大人の感性を優しく刺激してくれる場所はたくさんあります。その筆頭が、都心からわずか1時間半ほどで別世界へと連れて行ってくれる、箱根です。

箱根は、単なる観光地ではありません。かつては東海道の要衝として旅人が草鞋を脱ぎ、近代には政財界の要人や文化人が静養に訪れた、日本屈指の保養地。その歴史の重みが、街のあちこちに心地よい気品として漂っています。今回の旅は、せわしない観光スタンプラリーではなく、風の音を聞き、季節の移ろいを感じ、お互いの歩幅を合わせながら歩く、ゆとりある日帰りの旅をご提案します。慌てなくても大丈夫。箱根は、静かに私たちを迎え入れてくれます。

東京でのゆったりとした休日を求めるなら、ドラマ「ひらやすみ」のロケ地巡りもおすすめです。

目次

旅の始まりは特急ロマンスカーから

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朝、新宿駅の喧騒を離れて小田急線のホームに降り立つと、鮮やかな赤い「GSE」やスタイリッシュな流線形の「MSE」が迎えてくれます。ロマンスカーという言葉だけで、旅への期待が一気に膨らみます。私たち夫婦がこの列車を選ぶのは、単に移動時間が短縮できるからだけではありません。都会のビル群から徐々に住宅街、そして厚木の豊かな緑へと変わっていく車窓の風景を、ゆったりと座席に腰を下ろしながら楽しむ、その「過程」自体を大切にしたいからです。

50代を過ぎてからの旅は、いかに体力を温存しつつ心の充足を得るかが重要になります。新宿から箱根湯本へ直通で行ける利便性は、足腰への負担を軽減し、旅の終わりまで笑顔を保つための貴重なポイントです。展望席が予約できれば理想的ですが、通常の座席も十分な広さがあり、会話も弾みやすいです。車内での軽食は控えめにし、箱根湯本での本格的な昼食に備えて胃を整えておくのも、大人の賢い工夫と言えるでしょう。

箱根湯本で歴史の風に吹かれる

箱根の玄関口である箱根湯本。駅を出るとすぐに、早川のせせらぎが耳に届きます。土産物店が軒を連ねる通りを歩くのも楽しいですが、私たちはあえて少し脇道に入って、昔ながらの建物を眺めながら散策するのをおすすめします。この地域は箱根で最も古い温泉地であり、江戸時代から受け継がれてきた伝統があちこちに息づいています。

日帰りの旅でも、まずは深呼吸をして、この場所の「気」を感じ取ることが重要です。観光客で賑わうメインストリートの活気を楽しみつつ、一歩奥へ進めば、静かな水の流れや苔むした石垣といった趣のある風景に出会えます。シニア世代の旅では、この「静」と「動」の切り替えを意識することで、疲れを感じにくくなる効果があります。まずは駅近くの観光案内所で最新の散策マップを入手し、その日の体調に応じて歩くルートを調整しましょう。無理に急な坂を登る必要はありません。箱根湯本の街並みは、ただ歩いているだけでどこか懐かしい気持ちにさせてくれます。

箱根登山鉄道でスイッチバックを体感する

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箱根湯本駅から強羅駅まで走る箱根登山鉄道は、その名の通り「山を登るための鉄道」と言えます。日本で最も急な勾配を登る列車として知られ、急斜面を走るために「スイッチバック」という珍しい走行方法を採用しています。進行方向を何度も切り替えながらジグザグに高度を上げていくその光景は、鉄道ファンのみならず誰の心も惹きつけます。特に、季節ごとに線路脇を彩る花々の美しさは見事です。初夏のあじさいや秋の鮮やかな紅葉がその代表例です。車窓から流れ込む空気の涼しさが標高の上昇とともに徐々に感じられるでしょう。

車内は広々とは言えませんが、木材を多く使用したインテリアや運転士さんの丁寧な案内が旅情を一層深めてくれます。私たちがこの列車に乗る際は、あえて先頭や最後尾の席を選ばずに、中ほどの席でゆったりと左右の景色を交互に楽しむようにしています。急ぐ必要はありません。ガタゴトと揺れる車内のリズムに身を委ねながら、深まる山の風景を味わう時間。ヨーロッパの山岳鉄道を思わせる、ゆったりとした時の流れがここには感じられます。

大涌谷の荒々しい息吹に触れる

早雲山駅でロープウェイに乗り換え、山の尾根を越えた瞬間、目の前に広がるのは白煙が立ち上る迫力満点の大涌谷の絶景です。箱根火山のエネルギーが今なお息づくこの場所は、まさに地球が生きていることを実感できる場所です。硫黄の香りが鼻をくすぐり、荒涼とした大地が広がる光景は、さきほどまでの穏やかな森の風景とは対照的で、その変化に思わず圧倒されることでしょう。

ここでの楽しみのひとつは、やはり名物の「黒たまご」です。一つ食べれば寿命が7年延びると伝えられるこの卵を、夫と分け合って味わう。標高1,000メートルを超える高地で、絶景を眺めながらいただく温かい卵は格別の美味しさです。ただし、大涌谷は火山ガスの影響を受けやすいエリアでもあります。呼吸器系に持病がある方や体調が優れないときは、無理をせず室内の展望施設から風景を楽しむのが賢明です。自然の力を尊重し、自分の体と向き合いながら楽しむ。これこそが、私たちが提唱する箱根の楽しみ方です。

芦ノ湖を渡る海賊船と箱根神社の静寂

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桃源台から芦ノ湖の遊覧船に乗る時間は、旅のハイライトのひとつです。豪華に装飾された「箱根海賊船」のデッキに出ると、吹き抜ける風が非常に心地よく、心と体をリフレッシュさせてくれます。湖面に映る富士山の姿は、何度目にしても飽きることがありません。晴れた日には、青空と湖面、そして真っ白な富士山が織りなすコントラストが、まるで一枚の絵画のような美しさを見せてくれます。

元箱根港で下船後、杉並木を歩いて箱根神社へと向かいます。樹齢数百年にもなる巨大な杉が立ち並ぶ参道は、神聖な雰囲気に包まれており、歩くだけで自然と背筋が伸びる気持ちになります。湖面に建つ平和の鳥居を通して見る景色は、まさに箱根の象徴そのものです。ここでの参拝は、これまでの平穏な日々への感謝と、これからの健康を願う大切なひとときです。神社の境内は広く、段差もあるため、杖を使っている方や足元に不安がある方は、無理をせず平坦な場所からの参拝をおすすめします。神様はきっと、私たちの心の安らぎを見守ってくださることでしょう。

旅を彩る食事と甘味のひととき

箱根を巡る際に欠かせないのは、地元の食材を活かした料理です。お豆腐や湯葉を使った一品や、風味豊かなお蕎麦など、胃に優しく見た目にも美しい料理が揃っています。これらは私たち50代の体にも自然に馴染む味わいです。昼時は混雑しやすいので、少し時間をずらして訪れるのがゆったりと過ごすポイントです。私たちは、庭園を眺めながら食事が楽しめる老舗の旅館やレストランを選ぶことが多いです。食事もまた、旅の大切な風景の一部と感じています。

さらに、歩き疲れた午後に味わう甘味も、日帰り旅の楽しみのひとつです。甘酒茶屋でいただく、砂糖を使わず米麹だけで作られた優しい甘さの甘酒。江戸時代の旅人もここで喉を潤したのだろうと想像しながら味わうと、その美味しさがいっそう深まります。あたたかい飲み物と甘いお菓子は、旅の疲れをほぐし、帰路に向かう力を与えてくれます。

美術館で感性を研ぎ澄ます

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箱根は「美術館の宝庫」としても広く知られています。ポーラ美術館や彫刻の森美術館、箱根ラリック美術館など、世界的に高く評価されるコレクションを誇る施設が数多く点在しています。私たちは日帰りの旅であっても、必ずどこか一つの美術館を訪れるようにしています。自然の中でアートに触れる時間は、日常では味わえない贅沢なひとときです。

例えば、森の中に溶け込むように建てられたポーラ美術館は印象派の絵画を中心に、美しいガラス工芸品なども展示されています。その洗練された空間に身を置くだけで心が満たされるのを感じます。施設内には遊歩道も整備されており、作品鑑賞を終えた後に森の新鮮な空気を吸いながら散策するのも魅力的です。美術館は単に作品を見る場ではなく、自分の内面と向き合い、静かな対話を楽しむ場所でもあります。ゆったりとしたソファに腰をかけ、一枚の絵をじっくり見つめる。こうした時間の過ごし方は、子育てを終えた私たちの世代ならではの贅沢な楽しみ方かもしれません。

旅の準備と知っておくべきこと

箱根の旅を充実させるためには、事前の準備が非常に重要です。まずはチケットの購入方法についてご案内します。新宿から出発する場合、小田急電鉄が提供する「箱根フリーパス」の購入をおすすめします。このパスひとつで、箱根登山鉄道や箱根登山バス、箱根ロープウェイ、箱根海賊船などが自由に乗り降りできるだけでなく、多数の施設で割引も受けられます。購入は新宿駅の自動券売機や、小田急の公式ウェブサイト「EMot」からデジタルチケットとして手軽に行えます。また、駅の窓口でスタッフに相談しながら購入すれば安心です。なお、特急ロマンスカーを利用する際は、別途特急券が必要となるためご注意ください。

服装は基本的に重ね着を心がけましょう。箱根は標高が高いため、都市部に比べて気温が5度から10度ほど低い場合があります。特に大涌谷や芦ノ湖の周辺は風が強く、急に肌寒く感じることも珍しくありません。脱ぎ着がしやすいカーディガンやウインドブレーカーをバッグに入れておくと非常に便利です。足元については、石畳や坂道が多いため、履き慣れたスニーカーやウォーキングシューズを選ぶことが大切です。おしゃれを楽しみたい気持ちも理解できますが、足元の安定が一日を快適に過ごすための重要なポイントとなります。

現地でのルールとマナーを守る

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美しい箱根の自然環境を守るためには、私たち観光客一人ひとりの協力が欠かせません。持ち込み禁止物に関しては特段厳しい規制はありませんが、国立公園内であることから動植物の採取は厳重に禁止されています。また、大涌谷など火山ガスが発生している場所では、立ち入り禁止区域を絶対に越えないよう注意してください。ドローンの飛行についても、事前に許可を得ていない限り、基本的に禁止されています。

公共交通機関を利用する際は、周囲への配慮を忘れずに利用しましょう。特に、登山鉄道やバスは混雑することがあるため、大きな荷物は駅のロッカーに預けて身軽に移動するのがおすすめです。また、温泉施設を利用する際は、日本独自の入浴マナーをしっかり守ることが大切です。脱衣所でのスマートフォンの使用を控えたり、浴槽にタオルを入れないといった、一見当たり前に思えるものの案外忘れがちなルールを再確認しておきましょう。こうした気配りがあってこそ、すべての利用者が快適に過ごせる環境が保たれるのです。

トラブルへの備えと安心の医療情報

旅には予期せぬトラブルがつきものです。例えば悪天候や強風でロープウェイが運休した場合、多くの場合は代行バスが運行されますので、落ち着いて係員の案内に従いましょう。無理に移動しようとせず、近くのカフェで天候の回復を待つのも、ひとつの旅の思い出として楽しめます。運行状況はスマートフォンの「箱根ナビ」でリアルタイムに確認できるため、事前にブックマークしておくと便利です。

健康面に関する不安も、事前に情報を把握しておくことで安心感が増します。箱根町内にはいくつか診療所がありますが、重症の場合や夜間・休日は隣接する小田原市の医療機関が中心となります。50代を過ぎると急な血圧の変動や体調不良が気になることも多いです。万が一に備えて健康保険証やお薬手帳のコピーは必ず携帯しましょう。また、持病をお持ちの方は、かかりつけ医の連絡先をメモしておくと、緊急時にスムーズな対応が可能です。無理をせず「疲れたら休む」を徹底することが、最大のトラブル回避のコツです。

旅の終わりに、自分へのご褒美を

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夕暮れが近づき、再び箱根湯本駅へ戻ると、街の灯りが柔らかく輝き始めます。最後の楽しみは、やはりお土産選びでしょう。定番の温泉饅頭も魅力的ですが、私たちが特に好むのは、地元の伝統工芸である「寄木細工」です。色鮮やかな木材を組み合わせて作られる幾何学模様は、一つひとつに職人の丁寧な技が込められており、日常生活の中に箱根の思い出を彩ってくれます。また、鈴廣のかまぼこといった小田原の名産品も、駅の中で手軽に買えるのが嬉しいポイントです。

帰りのロマンスカーでは、車内販売(現在は縮小傾向にありますが、事前に駅で購入した駅弁などを楽しみながら)、その日一日の出来事をゆっくり振り返ります。撮った写真を二人で見返したり、次の旅行の計画を話し合ったり。よく「家に着くまでが遠足」と言われますが、大人にとっての帰路は、旅の余韻に浸る贅沢な時間なのです。箱根は何度訪れても、そのたびに新たな表情を見せてくれます。次は桜の季節か、あるいは静かな冬の箱根かといった話を楽しみながら、やがて都心の灯りが見えてくるのを待ちます。

行動するための公式リンク集

今回の旅を計画する際に役立つ、信頼性の高い情報源をご案内します。出発前には必ずこれらを確認し、最新情報を入手してください。

小田急電鉄 特急ロマンスカー 公式サイト ロマンスカーの予約や時刻表はこちらで確認できます。展望席の予約は早めに行うことをおすすめします。

箱根ナビ(小田急箱根グループ公式サイト) 箱根フリーパスの詳細や、交通機関のリアルタイム運行情報を網羅しています。

箱根町公式サイト 医療機関・救急情報 現地で体調を崩した際に備え、診療所や休日当番医の情報を事前にチェックしておけます。

持ち物チェックリストと心構え

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最後に、大人の箱根日帰り旅を完璧にするためのチェックリストをご紹介します。これを用意すれば、当日の朝に慌てることはありません。

・健康保険証とお薬手帳(コピーでも可) ・履き慣れたウォーキングシューズ ・調節しやすい防寒具(ストールやカーディガンなど) ・モバイルバッテリー(写真撮影や運行情報の確認に欠かせません) ・除菌ウェットティッシュと予備のマスク ・水分補給用の飲み物(高地の乾燥対策に) ・「急がない、比べない、無理をしない」という心の余裕

箱根は急ぎ足で巡るのはもったいない場所です。もし天候が悪ければ、美術館でゆっくり過ごしてもよいですし、疲れたら温泉だけを楽しんで帰っても構いません。そんな「何もしない贅沢」を受け入れられるのが、大人の旅の醍醐味です。日常の喧騒から少し距離を置き、大切な人とともに箱根の穏やかな空気に包まれてみてはいかがでしょうか。そこには、きっと明日からの毎日を少し豊かにしてくれる、新たな気づきが待っています。

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この記事を書いたトラベルライター

子育てひと段落。今は夫と2人で「暮らすように旅する」を実践中。ヨーロッパでのんびり滞在しながら、シニアにも優しい旅情報を綴ってます。

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