どうも、翔太です。30代、元自動車整備士。今は世界中を相棒のレンタカーで駆け巡る旅の途中ですが、今回は車を降りて、公共交通機関が血管のように張り巡らされた都市、香港に降り立ちました。僕の旅のテーマは、いつも「その土地のリアルな空気を感じること」。観光客向けのきらびやかな場所もいいですが、本当に心惹かれるのは、地元の人々の生活が息づく場所なんです。
今回僕が目指したのは、香港島の東端に位置する「筲箕湾(シャウケイワン)」。多くの観光客が中環(セントラル)や尖沙咀(チムサーチョイ)のネオンに目を奪われる中、あえてこのエリアを選んだのには理由があります。そこには、ガイドブックの1ページ目には載らない、本物の香港の「味」と「匂い」、そして「熱気」が渦巻いているからです。ここは、かつて漁村として栄え、今もなお、その面影と活気ある市場、そして地元民に愛される絶品グルメがひしめく、まさに香港の日常を体感できるエリア。車のエンジン音とは違う、人々の活気が僕の旅心をくすぐります。
この記事では、僕が実際に歩き、食べ、感じた筲箕湾の魅力を、12000字を超えるボリュームで徹底的にお届けします。MTRの乗り方から、ローカル食堂での注文のコツ、歴史的な廟での作法まで、この記事さえ読めば、あなたも明日から筲箕湾マスター。さあ、僕と一緒に、香港のディープな食文化と歴史の旅に出かけましょう。
香港のディープな魅力を求めるなら、電子街と路地裏グルメで知られる深水埗も、リアルな日常を感じられるおすすめのエリアです。
筲箕湾とはどんな場所? – 喧騒の都に息づく漁村の記憶

香港と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ビクトリア・ハーバーに煌めく100万ドルの夜景や、所狭しと軒を連ねるショッピングモールかもしれません。しかしながら、香港の魅力はそれだけにとどまりません。MTR港島線の東の終点、筲箕湾に足を踏み入れると、まったく異なる表情の香港が広がっています。
名前の由来と歴史的背景
筲箕湾という地名は、広東語で「米を研ぐための竹製のざる(箕)」を意味しています。その名前は、入り江の形状がまさにその「箕」に似ていたことから付けられたと言われています。かつてこの場所は、自然の良港として、多くの漁師が暮らす小さな漁村でした。特に台風の際には、漁船を守る「避風塘(ベイフォントン)」すなわち台風シェルターとして重要な役割を果たしてきました。現在も筲箕湾の避風塘には多くの船が停泊し、かつての漁村の趣を色濃く残しています。近代的な高層マンション群と、水面に揺れる小さな漁船との対比は、筲箕湾ならではの独特な光景といえるでしょう。
地理的な位置と現代の様子
地理的に見ると、筲箕湾は香港島の北東部に位置し、東側は鯉魚門(レイユームン)の海峡を隔てて九龍半島の油塘(ヤウトン)と向かい合っています。この戦略的な場所ゆえ、イギリス統治時代には沿岸防衛の拠点とされ、その痕跡は現在も香港海防博物館にて伝えられています。
今の筲箕湾は、活気あふれるローカルな住宅地域です。中心地のような華やかさはないものの、その分、人々の生活の息遣いが肌で感じられます。主要な通りである東大街(Main Street East)には、朝から夜まで賑わう飲食店が並び、少し路地に入ると新鮮な食材から日用品まで揃うウェットマーケット(街市)が広がります。古い建物と新しい建物が混在し、路上を走るトラムの「叮叮(ディンディン)」という音が響き渡る。この風景こそが、私が求めていた「リアルな香港」の姿なのです。
なぜ今、旅のプロは筲箕湾を目指すのか?
香港のさまざまなエリアの中で、なぜ僕が特に筲箕湾に惹かれたのか。それは、この場所が「観光地」と「日常生活」のバランスが見事に調和しているからです。
アクセスの良さと程よい未開発感の共存
筲箕湾の最大の魅力は、MTR港島線の終着駅であることから、中環や銅鑼湾(コーズウェイベイ)といった中心部から乗り換えなしで約20〜30分で到達できる利便性の高さにあります。アクセスが良好である一方、多くの観光客は手前の駅で降りてしまうため、ここまで訪れる人はまだ少数派。そのため観光地化されすぎることなく、地元価格で食事や買い物を楽しめるのが特徴です。これは長期間の滞在者にとって非常にありがたいポイントと言えるでしょう。
本場の香港ローカルフードの宝庫
筲箕湾は、グルメにこだわる香港人がわざわざ足を運ぶ食の街でもあります。歴史ある老舗の麺粥店や行列の絶えないストリートフードの屋台、新鮮な海鮮が味わえるレストランなど、多彩な選択肢が揃っています。しかも、それらの店は気取ったところは一切なく、地元の人たちが日常的に利用するリーズナブルで美味しい店ばかり。ここで味わう一皿は、まさに香港の食文化そのものを体験する機会なのです。
元整備士が魅了される交通のハブ
個人的な観点から見ると、筲箕湾は交通の要衝としても非常に興味深い場所です。MTRの終点であると同時に、香港島を東西に走る2階建て路面電車・トラムの東端の終着駅でもあります。トラムがループ線を回って折り返す様子は、まるで鉄道模型のようで、乗り物好きにはたまらない光景です。さらにバスやミニバスのターミナルも整っており、ここを起点に東の石澳(セクオー)のビーチや柴湾(チャイワン)の工業地帯へと移動することも可能。多様な交通機関が有機的に結びつき、人々の移動を支えている様子は、まるで都市の血管の流れを見ているかのようで、元整備士として非常にワクワクさせられる一幕でした。
筲箕湾へのアクセス完全ガイド – 迷わずたどり着くための実践テクニック

筲箕湾への旅は、まず移動手段の選択から始まります。目的地へ辿り着くまでの所要時間もまた、旅の楽しみの一つです。ここでは各交通手段の特徴と、私なりのおすすめポイントを紹介します。
MTR(港島線)- 最速かつ確実な定番ルート
最も手軽で時間も安定しているのが、MTR(地下鉄)を利用する方法です。香港島を東西に横断する「港島線(Island Line)」に乗り、東端の「筲箕湾(Shau Kei Wan)」駅を目指すだけ。中環駅からの所要時間は約20分、銅鑼湾駅からなら約15分です。
- 準備と利用方法: 香港での移動に欠かせないのが交通系ICカード「八達通(Octopus Card)」。駅の窓口や自動券売機で購入・チャージが可能です。これ一枚でMTRはもちろん、バスやトラム、フェリー、さらにはコンビニの支払いにも使えるため、到着後すぐ入手するのが断然おすすめです。改札は日本のSuicaやPASMOと同様、カードをリーダーにタッチするだけでスムーズに通過できます。
- 料金: 中環から筲箕湾まで、大人一人あたり約HK$10(オクトパスカード使用時)。料金は距離に応じて変わります。
- 情報源: 最新の路線図や運賃情報は、MTR公式サイトでチェック可能。乗り換え案内も調べられるスマホアプリの事前ダウンロードが便利です。
トラム(叮叮)- 香港の風を感じるレトロな旅
時間に余裕がある場合、私が強くおすすめしたいのはトラムの利用です。2階建てトラムがゆっくりと街中を走る様子は、まさに「動く展望台」。筲箕湾はこのトラム路線の東側終点の一つとなっています。
- 乗車方法のポイント: トラムは後部のドアから乗り、前方のドアから降ります。運賃は降車時に運転席横の運賃箱へ支払う後払い制で、運賃は一律の大人HK$3.0と大変リーズナブルです。お釣りは出ないので、小銭を用意するかオクトパスカードでの支払いが望ましいです。2階席の最前列は景色を独り占めできる特等席です。
- 注意事項: 多くのトラム車両に冷房はなく、夏場はやや暑く感じることもありますが、窓から流れ込む香港の生温かい風を肌で感じながら、街並みの変化を楽しむ時間は格別です。停留所のアナウンスがほとんどないため、Googleマップなどで位置を確認しながら乗るのが安心です。終点は「筲箕湾總站(Shau Kei Wan Terminus)」の表示で判別できます。
バス・ミニバス – ローカル感満載のやや上級者向け移動手段
もっと香港の地元感を味わいたいなら、バスやミニバスの利用も一考の価値があります。筲箕湾には大規模なバスターミナルがあり、多彩な路線が発着しています。
- ミニバスの種類: 香港のミニバスは、決まったルートと停留所を走る緑色の「專線小巴(Green Minibus)」と、ルート内ならどこでも乗降可能な赤色の「公共小巴(Red Minibus)」に分かれます。赤色のミニバスは広東語の運用能力が求められ難易度が高いため、旅行者はまず緑色のミニバスを試すのが無難です。
- 乗車方法と注意点: バスは車体前面に行き先を表示。乗車時にオクトパスカードをタッチするか、現金で支払います。降車したい停留所が近づいたら、車内のブザーを押して運転手に知らせましょう。日本と異なり停留所名のアナウンスがほとんどないので、スマートフォンの地図アプリが重要です。
- トラブル対策: もし乗り過ごしても慌てる必要はありません。香港のバス路線は非常に頻繁に運行されているため、次の停留所で降りて反対方向のバスに乗れば、多くの場合元の場所の近くに戻れます。落ち着いてスマホで現在位置を確認しながら対処しましょう。
【午前編】活気あふれる朝市を歩く – 筲箕湾街市(マーケット)探訪
MTR筲箕湾駅のA3出口を出て、人々の流れに身を任せて歩いていくと、やがて蒸し暑い湿気と様々な食材の香り、そして活気あふれる人々の声に包まれます。ここが、筲箕湾の中心とも言える「筲箕湾街市(Shau Kei Wan Market)」です。
香港の台所をのぞいてみる
「街市」とは、公設市場のことを指します。筲箕湾街市は、地上階が生鮮食品を扱うウェットマーケットで、その上の階には衣料品や雑貨、さらに調理済みの料理を販売する「熟食中心(クックドフードセンター)」がある、香港の典型的なマーケットの形態です。観光客向けに整備された市場とは異なり、日常の生活感が色濃く残っています。
- 歩く際のポイントと準備: 地上階のウェットマーケットは、その名の通り床が濡れている場合が多いため、滑りにくく汚れても良い靴を履くのが望ましいです。サンダルは避けたほうが安全です。また、魚介類や肉の独特な匂いが強く漂っているため、匂いに敏感な方は覚悟が必要です。買い物をする場合は、特に小銭や少額の紙幣など現金を用意しておくのがおすすめです。小規模な店ではクレジットカードが使えないことが多いです。エコバッグを持っていくと、購入品をまとめる際に便利です。
- 写真撮影の心得: 活気ある市場の風景は写真映えしますが、ここで働く人たちや買い物客にとっては生活の場です。カメラを向ける際には、一言声をかけるかジェスチャーで許可を得るのがマナーです。特に人物のアップ写真は避け、場の雰囲気を尊重する心遣いが大切です。
五感を刺激する市場探検
一歩市場に足を踏み入れると、そこはまさに食材の宝庫。活気あふれる声で魚を手際よくさばく店主、色とりどりの野菜や南国の果物が山のように積まれ、店先ではローストされたアヒルや豚肉の香ばしい香りが漂います。日本では見かけない巨大なハタや、まだ元気に動くエビ、積み上げられた貝類など、魚屋の眺めだけでも飽きることがありません。
八百屋の前には、空心菜や芥蘭(ガイラン)など中国独特の野菜がみずみずしく並び、豆腐屋からは大豆の甘い香りがふわりと立ち上ります。乾物屋の前には干しエビや干し貝柱、漢方の材料がきれいに並び、これらの食材が香港の家庭料理に豊かな味わいをもたらしていることを実感できるでしょう。
筲箕湾の朝食はここで決まり! – おすすめローカル食堂

市場の活気に圧倒されたら、次は腹ごしらえの時間です。筲箕湾には、地元の人たちが朝から集う手頃で美味しい食堂、「茶餐廳(チャーチャンテーン)」や麺粥の店が数多くあります。観光客向けの店ではなく、地元の味をしっかり味わってみましょう。
伝説の魚蛋粉(フィッシュボールヌードル)- 「安利製麵廠 (On Lee Noodle Shop)」
筲箕湾の名物グルメとして外せないのが、東大街にある「安利製麵廠」です。創業から50年以上、地元の人々に愛され続ける老舗の麺店。看板メニューは、何と言っても「魚蛋粉(ユーダーンファン)」。自家製の魚のすり身団子がたっぷり入った麺料理です。
お店の入口は小さいものの、店内に入ると地元客で満席状態。相席は当たり前なので、空いている席があれば遠慮なく座りましょう。メニューは壁に貼られていてほとんどが広東語ですが心配無用。「魚蛋粉」と書かれた文字を指差すか、周囲の人が食べている料理を指して「This one」と伝えれば通じます。
運ばれてきた一杯は見た目こそシンプルですが、透き通ったスープに白い麺、そしてぷりぷりの魚蛋が数個浮かんでいます。まずはスープをひと口。あっさりとしながらも魚介の旨味がしっかりと染み渡り、深い味わいが広がります。そして主役の魚蛋は市販のものとはまるで違い、弾力があり噛むと魚の旨味がじゅわっと溢れ出します。麺は香港特有の細い卵麺で、スープとよく絡みます。卓上の自家製チリオイルを少量加えると味が引き締まり、また違った美味しさが楽しめます。これで一杯30香港ドル程度というのは驚きです。
香港式朝食のマナーと注文のポイント
ローカルの食堂で快適に過ごすために、覚えておきたい作法があります。
- 相席(搭枱): 混雑時は相席が基本です。店員に案内された席や空いている席に座りましょう。広東語で「搭枱呀,唔該(ダーップトイア、ンゴイ)」と言われたら、「相席をお願いします」という意味です。
- 食器洗い(洗杯): 席に着くとお茶と空のボウルが出されることがあります。これは飲むお茶であると同時に、箸やレンゲ、湯呑みをそのお茶で洗い、そのお湯をボウルに捨てるためのものです。香港独特の衛生習慣ですが、必ずしもやらなくても構いません。周囲の人の様子を見て真似してみるのも良いでしょう。
- 注文: メニューが読めなくてもスマホの翻訳アプリのカメラ機能を使ったり、事前に店の看板メニューの写真を保存して見せたりするのが便利です。店員を「唔該(ンゴイ)」と呼んで、指差しで注文しましょう。
- 会計: 食べ終わったら「埋單(マイダーン)」と言えば会計してくれます。伝票をレジに持っていく場合もありますが、多くは席での支払いです。現金を用意しておくと安心です。
【昼食編】筲箕湾グルメの真髄を味わう – 必食の名店リスト
朝食で胃が温まったら、次は筲箕湾が誇るストリートフードやランチの名店を訪ね歩きましょう。この街ならではの食べ歩きの楽しさが、何よりの魅力です。
行列が絶えないエッグワッフルの名店 – 「低調高手大街小食 (Master Low-key Food Shop)」
香港を代表するストリートフードのひとつ、「鶏蛋仔(ガイダンジャイ)」。まるでベビーカステラが連なったような見た目で、外はカリッ、中はもちっとした食感が特徴の人気お菓子です。その超人気店が筲箕湾にあり、店名は「低調高手大街小食」。直訳すると「控えめな達人のストリートフード店」といった意味合いですが、控えめな外観に反して、店の前にはいつも長い行列ができています。
注文を受けてから一つ一つ丁寧に焼き上げるのがこの店のこだわり。列に並びながら漂う甘くて香ばしい香りもまた、期待を高めてくれます。できたての鶏蛋仔は熱々で、外側はパリッとクリスピー、一方で丸い部分の中はしっとりとした半熟状で、まるで濃厚なカスタードクリームのような味わい。食感のコントラストが絶妙です。チョコレート味などのバリエーションもありますが、まずは基本のオリジナルを味わってみてください。一度食べ始めると手が止まらなくなること間違いなしです。
- 注意点: いつでも行列は覚悟しましょう。特に週末や午後は30分以上の待ち時間になる場合もあります。日差しが強い日は帽子や日傘を持参すると便利です。支払いは現金のみ対応です。
香港の庶民派グルメを味わうなら – 「呂仔記 (Lui Chai Kee)」
次にご紹介するのは、香港の伝統ストリートフードを守り続ける老舗店「呂仔記」。ここでぜひ体験してほしいのが、「碗仔翅(ワンジャイチー)」と「魚肉焼売(ユーヨッシューマイ)」です。
「碗仔翅」はフカヒレスープの庶民版とも言える一品。細く裂いた鶏肉やキクラゲ、椎茸などが入ったとろみのある醤油ベースのスープで、フカヒレは使用していませんが、味わいは非常に深みがあり複雑。お好みで赤酢や胡椒を加えていただくのが一般的で、体の芯から温まる優しい味わいです。
もう一つの名物「魚肉焼売」は、日本の豚肉焼売とは異なり、魚のすり身を使ったシンプルな焼売。もっちりとした食感と魚の旨味がぎゅっと詰まっています。甘い醤油とチリソースをかけて食べるのが香港流。十個ずつ串に刺して販売されていることが多く、手軽なおやつとして地元の人たちに親しまれています。
潮州スタイル魚蛋粉の老舗 – 「王林記潮州魚蛋粉麵 (Wong Lam Kee Chiu Chow Fish Ball Noodles)」
朝食で紹介した「安利」が広東式魚蛋粉の代表であるのに対し、こちらは潮州式魚蛋粉の名店として知られています。同じ魚蛋粉でも、全く異なるスタイルが楽しめます。
潮州式の特徴はスープの風味と魚蛋の種類にあります。魚出汁に加え、干しエビや香味野菜の風味が効いた、よりパンチのあるスープが魅力です。また、魚蛋のほかに、魚の皮で作られたワンタン風の「魚皮餃(ユーペイガウ)」や揚げ魚のすり身など、多彩な練り物を一度に味わえます。一杯の丼で多様な食感と味の変化を楽しめるのが醍醐味です。麺は平打ちの米粉麺「河粉(ホーファン)」を選ぶのがおすすめ。つるっとしたのど越しが、濃厚なスープによく合います。
「安利」と「王林記」二つの名店を食べ比べて、自分のお気に入りを見つけるのも、筲箕湾ならではの楽しみ方。旅のプランを立てる際には、ぜひ香港政府観光局公式サイトもあわせてチェックし、最新のグルメ情報を確認してください。
歴史と文化に触れる – 筲箕湾のパワースポット巡り

お腹が満たされたら、少し足を伸ばして筲箕湾の歴史や文化に触れてみましょう。この地域には地元の人々の信仰を集める廟が点在しており、街の喧騒を離れて静かなひとときを過ごせます。
地域の守護神を祀る「城隍廟(Shing Wong Temple)」
東大街の突き当たりにある「城隍廟」は、筲箕湾で最大かつ最も重要な廟のひとつです。城隍神とは、その街を守護するとされる道教の神様で、この廟は筲箕湾だけでなく香港島全体の守り神として人々から厚く信仰されています。
廟の入口をくぐると、渦巻状の大きな線香が天井からいくつも吊るされており、独特な香りが漂っています。これらの線香は願いが天に届くよう長く燃えることを願って焚かれています。本堂には城隍神のほか、財運を司る神や縁結びの神である月下老人など、多様な神々が祀られており、訪れる多くの人々が熱心に祈りを捧げています。
- 廟を訪れる際の心得: 廟は神聖な場所なので、訪問時は静かに行動し、大声での会話は控えましょう。服装に厳しい決まりはありませんが、タンクトップやショートパンツなど過度に肌を露出する服装は避けたほうが良いでしょう。写真撮影は許可されていることが多いですが、フラッシュの使用は控え、祈祷中の方の邪魔にならないよう配慮してください。お線香を焚きたい場合は入り口近くの売店で購入可能で、作法がわからなければ周囲の人の真似で問題ありません。
航海の女神を祀る「天后廟(Tin Hau Temple)」
漁村として発展してきた筲箕湾では、航海安全の女神「天后(ティンハウ)」、別名「媽祖(マソ)」が特に篤く信仰されています。天后廟は海のすぐそばに建てられることが多く、筲箕湾の天后廟も避風塘の近くにひっそりと佇んでいます。
城隍廟に比べると規模は小さいものの、漁師たちの暮らしとの結びつきが強く感じられます。屋根には龍や伝説の生き物の精緻な装飾が施され、中国伝統の建築美が楽しめます。また、中には古い漁船の模型が奉納されていることもあり、海の民の祈りが今もこの場所で息づいているのを実感できるでしょう。
ぶらり散歩で発見する筲箕湾の素顔
ガイドブックに掲載されている名所を巡るだけが旅の全てではありません。目的も定めずに路地を歩き、ふと目に留まった風景に心を動かされる。そのような時間こそが、旅の思い出をより一層豊かにしてくれます。
新旧が入り混じる「東大街(Main Street East)」
筲箕湾のメインストリートである東大街は、この街のカオスな魅力を凝縮した場所と言えます。通りの両側には、先ほど紹介した老舗の飲食店がひしめき合う一方、モダンなカフェやタピオカティーのスタンド、日本のラーメン店も続々と進出しています。古い唐樓(トウラウ)と呼ばれる低層集合住宅と、そびえ立つ近代的な高層マンションが隣接している光景は、まさに香港ならではの特徴です。通りの上をゆっくりとトラムが走り抜ける様子は、何度見ても飽きることがありません。
漁村の面影を残す「筲箕湾避風塘(Shau Kei Wan Typhoon Shelter)」
東大街を海側へ向かって歩くと、視界が開け、無数の船が停泊する避風塘にたどり着きます。ここは、高層ビルが立ち並ぶ香港の中心部とは全く異なる、穏やかな時間が流れる場所です。いまだに船の上で生活する「水上生活者」もおり、洗濯物を干したり食事の支度をしている様子を見ることができます。彼らの生活の場であるため、敬意を持って遠くから静かに見守るのが望ましいでしょう。
また、ここでは「街渡(カイト)」と呼ばれる小さな渡し舟が、対岸の三家村(サムガーチュン)などとを結んでいます。時間があれば、この街渡に乗って短い船旅を楽しむのもおすすめです。海の上から眺める筲箕湾の街並みは、また違った顔を見せてくれます。
元整備士の視点で巡る路地裏
私個人の楽しみは、メインストリートから一本入った路地裏を探索することです。そこには、小さな自動車修理工場や金属加工の町工場がひっそりと営まれていることがあります。油の匂い、高く響く金属を削る音、年季の入った工具の数々。そこで働く職人たちの真剣なまなざしを見ると、かつて自分が整備士だった頃を思い出し、心が落ち着くのです。エアコンの室外機が壁一面に無秩序に取り付けられた建物の配管の独特な美しさや、複雑に絡み合った電線など、機能性から生まれた偶然の造形に都市の生命力を感じます。こうしたマニアックな視点で街を歩くことで、他の人とは違う新たな発見があるかもしれません。
【夕食・夜編】一日の締めくくりは海鮮料理で乾杯!

筲箕湾で過ごす一日の締めくくりには、やはり新鮮なシーフードが欠かせません。避風塘周辺には、水槽に活きの良い魚介類を並べた海鮮レストランが数軒点在しています。
水槽から選んで楽しむオーダーメイドの海鮮ディナー
これらのレストランの魅力は、何と言っても「自分の目で選べる」点にあります。店頭に並ぶ大小さまざまな水槽には、大きなハタやシャコ、ロブスター、アサリやホタテといった貝類が活発に泳いでいます。食べたい魚介類を指し示し、好みの調理方法を指定して注文するスタイルです。
- 注文の流れとトラブルを防ぐポイント:
- まずは水槽の前で食材を選びます。店員が網ですくって見せてくれるので、大きさや鮮度をしっかり確認しましょう。
- 次に調理方法を伝えます。広東語がわからなくても、「Steam(蒸す)」「Fried(炒める)」「Deep Fried(揚げる)」などの簡単な英語で問題ありません。おすすめの調理法を尋ねる「How to cook?」も活用すると便利です。代表的なのは、魚の場合は醤油ベースのタレで蒸す「清蒸(チンジェン)」、エビやカニはニンニクと唐辛子で炒める「避風塘(ベイフォントン)」スタイルです。
- 何より重要なのは料金の確認です。ほとんどの場合、魚介類は時価(時價/Market Price)なので、注文前に食材と調理法による料金を必ず確認しましょう。「How much?」と尋ねて、紙に記載してもらうのが確実です。これを怠ると、会計時に高額な請求をされることもあるため十分注意が必要です。事前に価格を把握しておけば安心して食事を楽しめます。
絶対に味わいたいおすすめメニュー
- 避風塘炒蟹(ベイフォントンチャウハイ):揚げた大量のニンニクと唐辛子とともに炒めたピリ辛のカニ料理。香ばしいガーリックの風味が食欲を刺激し、ビールとの相性は抜群です。
- 蒜蓉粉絲蒸帶子(スュンヨンファンシージンダイジ):ホタテの上に刻んだニンニクと春雨をのせて蒸した一品。ホタテの旨味を吸収した春雨が絶妙で、ニンニクのアクセントは効いているものの、繊細な味付けで素材の良さがしっかりと伝わります。
- 清蒸海上鮮(チンジェンホイションシン):「海上鮮」とはその日獲れた新鮮な魚のこと。ネギと生姜とともに蒸し、熱した油と甘い醤油ベースのタレをかけるシンプルな料理ですが、新鮮な魚の鮮度を最も引き立てる調理法です。
地元のビール「藍妹啤酒(Blue Girl Beer)」を片手に、採れたての海の幸を味わうひととき。これ以上の贅沢はありません。一日の冒険話に花を咲かせながら、筲箕湾の夜はゆっくりと更けていきます。
旅の達人が教える!筲箕湾を楽しむための実践的アドバイス
最後に、筲箕湾の旅をより快適かつ安全に楽しむための実用的な情報をまとめました。旅の準備や万が一の際に、ぜひ覚えておいてください。
準備・持ち物リスト
筲箕湾の散策を存分に楽しむために、私が「これは必携だ」と感じたアイテムを挙げています。
- 歩きやすい靴: 何よりも重要なアイテムです。市場や路地を歩き回るなら、スニーカーが最適です。
- 現金(香港ドル): 地元の飲食店や市場ではクレジットカードが使えないことが多いので、100ドル以下の紙幣や硬貨を多めに用意すると支払いがスムーズです。
- 八達通(オクトパスカード): MTRやバス、トラムなどの公共交通機関を利用する際に欠かせません。チャージは駅やコンビニで手軽にできます。
- ポケットティッシュ・ウェットティッシュ: ローカルの飲食店ではティッシュが置かれていない場合が多いため、持参すると何かと便利です。
- モバイルバッテリー: 地図や翻訳アプリの多用でスマートフォンのバッテリーはすぐ減るので、予備バッテリーがあると安心です。
- 翻訳アプリ: 広東語が分からなくても、音声入力やカメラ翻訳があると頼もしい味方になります。
- エコバッグ: 市場でフルーツなどを買う際に重宝します。また、香港ではレジ袋が有料なので節約にもなります。
- 羽織りもの: 屋外は高温多湿な一方、地下鉄やショッピングモールは冷房が強いため、薄手のカーディガンやシャツを一枚持つと体温調節がしやすいです。
トラブルシューティング
慣れない場所ではトラブルが起きやすいですが、事前に対処法を知っていれば落ち着いて対応できます。
- 道に迷った場合: まずは落ち着いて、近くのMTRの駅を目指しましょう。駅は街の目印になり、そこを基点に現在地を把握しやすくなります。Googleマップなどの地図アプリは、オフラインで使えるように旅行前に地図をダウンロードしておくと、通信状況が悪い場所でも安心です。
- 注文ミスがあったとき: 注文したものと違う料理が届いたら、慌てずに店員に伝えましょう。伝票やメニューを指で示すと大抵理解してもらえます。言葉に自信がなければ、スマホの翻訳アプリを見せるのも効果的です。
- 体調が悪くなったとき: 香港の街には「屈臣氏(Watsons)」や「萬寧(Mannings)」といったドラッグストアが多数あります。軽い症状ならここで薬を買えます。症状が重い場合は、ホテルのフロントに相談して近隣の病院を教えてもらいましょう。海外旅行保険には必ず加入しておくことを強くおすすめします。
- 公式情報の確認: 信頼できる最新情報を入手することが安全な旅行の基本です。交通機関の情報は、先に紹介したMTR公式サイトやバス会社のBravo Bus公式サイトなどで確認できます。観光全般の情報は、香港政府観光局のウェブサイトが最も信頼されています。
元整備士・翔太の旅の終わりに – 筲箕湾で見つけた「都市の鼓動」

レンタカーを相棒に大陸を横断する旅とは対照的に、自分の足と公共交通機関だけを頼りに歩く香港・筲箕湾の旅は、都市の細部に深く触れる貴重な体験でした。トラムの車輪がレールを擦る音、市場の売り子の張りのある声、食堂で響く食器の音と人々の談笑が混ざり合い、筲箕湾という街の心地よいBGMを奏でています。それは、僕が普段耳にするエンジンの響きとは異なる、そこで暮らす人々の生活から湧き上がる「都市の鼓動」そのものでした。
煌びやかな観光名所を巡るだけでは見えてこない、香港の素顔を感じられます。汗を拭いながら熱々の麺をすすり、行列に並んで焼きたての菓子を頬張り、路地裏の風景に心を奪われる。そうした一つひとつの体験が、旅の思い出を忘れがたいものにしてくれます。
この文章を読んで少しでも筲箕湾に興味を持っていただけたなら、それ以上の喜びはありません。次回の香港旅行ではぜひMTR港島線に乗り、終点まで足を伸ばしてみてください。そこには、あなたが知らなかったけれどどこか懐かしい香港の暮らしが、温かく迎え入れてくれることでしょう。さあ、次はあなたがこのディープな街の探検者となる番です。

