香港と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、ヴィクトリア・ハーバーを彩る100万ドルの夜景、狭い路地にひしめくネオンの看板、そして湯気の立つ点心ではないでしょうか。もちろん、それらも香港の紛れもない魅力です。しかし、アジアを代表するこの国際都市には、喧騒とは無縁の、静寂と歴史に包まれたもう一つの顔が存在します。今回は、そんな香港の奥深い魅力を体感できる場所、香港島の西端にそびえる「摩星嶺(マウント・デイビス)」の完全ガイドをお届けします。
ここは、かつて英国軍の要塞が築かれた歴史の舞台であり、今ではハイカーや写真愛好家たちが集う絶景のビュースポット。苔むした砲台跡、暗闇に続く謎の地下通路、そして360度見渡せる息をのむようなパノラマが、あなたを待っています。私、翔太も、普段は車と共に大陸を駆け巡っていますが、自身の足で大地を踏みしめ、歴史の痕跡を辿るこの旅には、また違った興奮と発見がありました。
この記事を読み終える頃には、あなたの次の香港旅行のプランに「摩星嶺ハイキング」という新しい選択肢が加わっているはずです。アクセス方法から、詳細なルート解説、安全のための準備、そしてハイキング後の楽しみ方まで、あなたの冒険を成功させるための全てをここに詰め込みました。さあ、地図を片手に、時が止まった天空の要塞へと、一緒に旅立ちましょう。
摩星嶺の歴史散策を楽しんだ後は、香港のもう一つの静かな顔、時が止まった客家集落「荔枝窩」を訪れてみるのもおすすめです。
摩星嶺(マウント・デイビス)とは?時が止まった天空の要塞

香港島の最西端、標高262メートルの場所に位置する摩星嶺。この山は訪れる人々に二つの異なる名前で呼ばれています。一つは広東語で「摩星嶺」、もう一つは英語で「マウント・デイビス」。この二つの名称は、この地が持つ豊かな歴史と多様な文化背景を象徴しているかのようです。単なるハイキングスポットにとどまらず、香港の近代史を静かに伝える生きた博物館でもあるのです。
名前が伝える歴史の一端
「摩星嶺」という名前には、どこか詩的な響きがあります。文字通りに解釈すると、「星に触れるほど高い嶺」という意味合いになります。夜になると、まるで手を伸ばせば星々に触れられそうな美しい情景が浮かんできます。昔は街の明かりが現在ほど多くなかったため、ここから見上げる星空はまさに自然のプラネタリウムだったことでしょう。このロマンチックな名前は、この土地が昔から人々の想像力を刺激し続けてきた証とも言えます。
一方、英語名の「マウント・デイビス」にはより具体的な歴史的背景があります。この名称は、英国統治時代の第二代香港総督、サー・ジョン・フランシス・デイビスに由来します。彼は1844年から1848年まで香港を統治しました。彼の名前がこの山に冠されたことは、摩星嶺が英国統治期においても早い段階から重要な場所として認識されていたことを示しています。中国の伝統的で詩的な呼称と英国統治時代の行政的名称が共存していること自体が、東洋と西洋の文化が融合してきた香港の独特な歴史を物語っているのです。
なぜここに要塞が築かれたのか?摩星嶺の軍事的重要性
摩星嶺の価値は美しい名前や眺望だけにとどまりません。この山の本質には、20世紀初頭の国際的緊張の中で築かれた強固な軍事要塞としての役割があります。なぜ香港島の西端にこれほど大規模な要塞が必要だったのか、その理由を探ってみましょう。
答えは地図を見ればすぐに分かります。摩星嶺は、香港の中心であるヴィクトリア・ハーバーの西側入口を押さえる、まさに要衝の位置にあります。西側を見ると、中国大陸へと広がる珠江デルタの大地が広がっています。東側には香港の経済活動の中心地である港湾施設が広がり、その重要性は明らかです。この場所を支配する者は、香港の海上交通の要所を完全に掌握できるのです。敵の艦隊が西から侵入しようとすると、摩星嶺の砲台が真っ先にそれを捉え、ヴィクトリア・ハーバーに達する前に強力な砲撃を加えることが可能でした。
20世紀初頭、世界は帝国主義の激しい競争に揺れていました。大英帝国は世界に広大な植民地を持ち「日が沈まぬ国」と称されていましたが、その覇権は常に多方面からの脅威にさらされていました。極東においては、南進を続ける帝政ロシアや急速に軍事力を強化する大日本帝国が、英国にとって潜在的な対立相手と見なされていました。英国にとって、アジアにおける貿易と金融の拠点である香港の防衛は、帝国全体の威信を守る上で最優先の課題だったのです。
この背景から、香港の防衛体制を根本的に見直す計画が持ち上がり、摩星嶺に最新鋭の要塞を建設する中心的計画が立てられました。工事は1911年から始まり、第一次世界大戦の期間を挟みながら段階的に進められました。そして完成したのが、「摩星嶺要塞(Mount Davis Battery)」と呼ばれる5基の巨大砲台や司令部、観測所、弾薬庫、兵舎などを備えた複合施設です。
特筆すべきは、ここに配備された主砲の性能です。当時の英国海軍戦艦に搭載されていた9.2インチ(約234ミリ)の沿岸防衛砲が設置されました。この大砲は最大射程が20キロメートル以上に及び、厚い装甲を備えた軍艦さえも貫通できる強力な威力を誇っていました。この規模の大砲が5基も集中的に配備された要塞は、英国の植民地の中でも極めて稀であり、香港防衛に向けた英国の強い決意を物語っています。これらの砲台はヴィクトリア・ハーバー西側の入口のみならず、南シナ海から接近する敵に対しても威圧的な存在でした。
しかし、皮肉にもこの強固な要塞が実戦でその力を完全に発揮する機会は限られていました。1941年12月、太平洋戦争の開戦に伴い日本軍が予想外の戦術で攻撃してきたのです。海路ではなく中国大陸側から陸路を通って香港に侵入したため、摩星嶺の砲台は陸上目標に対する攻撃に限定された役割しか果たせませんでした。香港防衛戦の終盤、要塞は英国軍自身によって敵の利用を防ぐため爆破され、その歴史に幕を閉じました。現在、私たちが目にする遺構は、戦火の記憶と70年以上という長い時の風雪を経てひっそりと佇んでいます。この香港政府の古物古蹟弁事処のサイトでは、その歴史的背景について詳しく紹介されています。
摩星嶺への冒険が始まる!パーフェクト・アクセスガイド
歴史が息づく舞台へ足を踏み入れる準備はできていますか。摩星嶺は香港島の中心エリアからやや離れていますが、アクセスは決して難しくありません。ここでは、旅のスタイルや体力に合わせて選べる最適なアクセス方法を、元自動車整備士の視点も交えながら詳しくご案内します。
あなたに合うルートは?出発地点へのアクセス方法
摩星嶺ハイキングの主要なスタート地点は、山のふもとにある「摩星嶺径(Mount Davis Path)」の入口です。まずは、そこを目指すための交通手段について見ていきましょう。
- MTR(港鐵)で行く場合
香港全域をカバーするMTRは、最も確実で分かりやすい交通手段です。最寄りの駅は港島線(Island Line)の終点「堅尼地城(ケネディタウン)駅」。A出口を出るとミニバスターミナルがあり、ここから摩星嶺の登山口方面へ向かうことができます。駅周辺は近年再開発が進み、洗練されたカフェが増えているため、ハイキングの前後に立ち寄るのもおすすめです。MTRは本数が多く、時間の読みやすさが最大のメリットと言えます。
- バスを利用する場合
香港の街並みを肌で感じたい方には、二階建てバスがおすすめです。中環(セントラル)や金鐘(アドミラルティ)などの主要エリアから堅尼地城方面へ向かうバス路線は多くあります。例えば、中環のバスターミナルからは5B、10、1番などの路線が利用可能です。目的地は「堅尼地城總站(Kennedy Town Terminus)」もしくはその周辺のバス停です。バスの運行状況は「CitybusNWFB」アプリやGoogle Mapsでリアルタイムに確認できるので非常に便利です。運賃はMTRより安く、車窓からの景色も楽しめるのが魅力です。
- タクシーを使う場合
グループでの移動や時間を節約したいときは、タクシーが便利です。香港島のタクシーは赤い車体で「赤的(ホンディッ)」と呼ばれます。乗車時には、登山口の目印「摩星嶺青年旅舍(YHAマウントデイビス・ユースホステル)」と伝えるのが最も確実です。広東語の発音が難しい場合は、紙に「摩星嶺青年旅舍 (Mount Davis Youth Hostel)」と書いて渡すと良いでしょう。中環からの所要時間は交通状況により約15〜20分、料金は80〜100香港ドル前後が目安です。香港のタクシーはメーター制で明朗ですが、トンネル通行料や荷物代が別途かかることがあります。
- 元整備士からのワンポイントアドバイス
香港でレンタカーを運転するのはあまりおすすめできません。日本と同様の右ハンドル・左側通行ですが、道幅が狭く交通量も非常に多いのが実情です。特に坂道や一方通行が多く、ナビがあっても迷いやすいでしょう。加えて駐車場が見つかりにくく費用も高額です。公共交通機関が充実しているため、MTRやバス、タクシーを利用するのが賢い選択です。
登山ルートを詳しく紹介!初心者から体力自慢まで
登山口に到着したら、いよいよハイキングが始まります。摩星嶺には複数のルートがありますが、ここではもっとも代表的なものと、冒険心を刺激する多少の挑戦も含めた二つのルートをご紹介します。
- 基本ルート:摩星嶺径(Mount Davis Path)
このルートは最も一般的で、初心者にも安心して歩ける道です。堅尼地城の西側、ビクトリア・ロードから分岐する「摩星嶺径」という名前の坂道を登っていきます。道は完全に舗装されており、急な斜面も少ないため、体力に自信がない方でも自分のペースで登れます。途中には目的地である「YHAマウントデイビス・ユースホステル」があり、ここを過ぎれば山頂はもうすぐです。
このルートを歩くと、緑豊かな木々の合間から時折、青く輝く海やコンテナターミナルの眺めが広がります。単調な坂道ではありますが、徐々に標高が上がる実感と開けていく視界が、心地よい疲れを忘れさせてくれます。所要時間は麓の入口から砲台跡の山頂までゆっくり歩いて約45分から1時間。道に迷う心配もほぼなく、安全に登りたい方に最適です。ただし日陰が少ない区間もあるため、帽子の着用やこまめな水分補給をお忘れなく。
- 探検ルート:ビクトリア・ロードからの直登
廃墟の雰囲気を楽しみつつ、少しスリリングな体験を望む冒険家には別のルートもあります。YHAユースホステルを過ぎたあたりのビクトリア・ロード沿いには、森の中へ続く細い小道や階段がいくつかあり、かつて要塞の兵士が使っていた道の名残と考えられています。舗装されておらず、急な階段や根が張り出した足元の悪い箇所もありますが、そのぶん手つかずの自然と突如現れるトーチカや塹壕跡に出会えて、探検気分を味わえます。
このルートを選ぶ際は準備が不可欠です。単独行動は避け、必ず複数人で安全を確認しながら進みましょう。滑りにくいトレッキングシューズは必須で、道もわかりづらいためスマートフォンのGPSアプリやオフラインマップが役立ちます。事前に地図をダウンロードし、常に現在地を把握できるようにしましょう。より深く摩星嶺の歴史を感じたい上級者向けのコースです。
どちらのルートを選んでも、冒険は始まります。整備された道を歩くか、それとも少し険しい道に挑むか。その選択そのものが、このハイキングの楽しみの一つなのです。
廃墟と自然のコントラスト。摩星嶺の見どころを巡る

山頂エリアに足を踏み入れると、まるで時が止まったかのような神秘的な空間が広がっています。近代的な高層ビル群を見下ろすこの場所には、緑に覆われた巨大なコンクリート構造物が点在しているのです。これこそが、摩星嶺要塞の遺構であり、自然の力と人間の歴史が交錯して独特の風景を作り出しています。ここでは、摩星嶺の見どころをじっくり巡ってみましょう。
苔に覆われた砲台跡 ― 歴史の語り部たち
摩星嶺の中心には、なんと5基の9.2インチ砲の砲台跡(Battery)が存在します。山頂の開けた場所に点在する半円形の巨大なコンクリート窪みは、それぞれにかつて鋼鉄の大砲が据え付けられ、海へと睨みを効かせていたことを想像させ、その迫力に圧倒されます。各砲台は配置や形状が微妙に異なっており、じっくり見学するだけでも飽きることがありません。
第一砲台と第二砲台は、山頂のもっとも開けた場所にあり、アクセスも比較的容易です。コンクリート部分は厚い苔やツタに覆われ、その鮮やかな緑が無機質な灰色の構造物に命を吹き込んでいるかのようです。砲台の中央には大砲を旋回させるための軸受けが残っており、その巨大さから当時の様子を垣間見ることができます。兵士たちはこの場所でどんな思いを胸に訓練し、戦火に臨んだのでしょうか。静かに佇む砲台は言葉を発さなくとも、その存在自体が雄弁な歴史の証人となっています。
第三、第四、そして第五砲台は、やや離れた場所や藪の中に隠れるように佇んでいます。これらを見つけ出すのは、まるで宝探しのような楽しさがあります。特に一部の砲台地下には弾薬庫へ続く階段が残されており、探検心を刺激します。ただし、こうした遺構に立ち入る際には細心の注意が必要です。足元は非常に悪く、崩落の危険性もあります。懐中電灯でしっかり足元を照らし、決して無理をせず安全を第一に、歴史の痕跡に敬意を示しながら散策を楽しんでください。
地下司令部への道 ― 闇に眠る秘密の通路
摩星嶺のもう一つの魅力として、砲台、観測所、司令部を繋いでいた広大な地下ネットワークがあげられます。山頂周辺のあちこちに、暗い地下へと誘うトンネルの入り口が口を開けています。一歩足を踏み入れれば、ひんやりとした湿った空気が肌を撫で、外の喧騒が嘘のように遠ざかります。スマートフォンのライトでは頼りなく、真の闇が広がっています。
この地下通路は、敵の砲撃から身を守りながら要塞各所の機能を連携させる重要な神経網でした。壁から滴る水音と自分の足音の反響だけが響く空間は、日常から隔絶された別世界。迷路のように入り組んだ通路を進むのはスリリングな冒険体験です。壁に残る落書きや部屋のような空間の跡から、過去にここで活動した人々の息遣いを感じ取れるかもしれません。
ただし、こうした地下探検には相応の覚悟と準備が欠かせません。観光地として整備された場所ではないため、自己責任で行動する必要があることを肝に銘じてください。
【読者が実際にできること】安全な探検のための心得
- 単独行動は絶対に避けること: 必ず信頼できる仲間と複数人で行動しましょう。不測の事態に備え、互いの存在が最大の安全対策となります。
- 十分な光源の準備: 強力なヘッドライトや懐中電灯を必ず持参し、一人に一つは必要です。また予備の電池も忘れず用意しましょう。スマートフォンのライトはあくまで緊急用の補助光源として考え、メインの光源には適しません。
- 適切な足元の装備: 地下は常に湿ってぬかるんでおり、瓦礫も散乱しています。グリップ力が高く、防水性のあるトレッキングシューズが最適で、サンダルやスニーカーは大変危険です。
- 野生生物への配慮: 暗く湿った環境はコウモリなどの生息地である可能性があります。生物を驚かせたり刺激したりしないよう、静かに行動しましょう。
- 危険を感じたら勇気ある撤退を: 少しでも危険を感じたり迷ったりしたら無理をせず即座に引き返す勇気を持つこと。探検の目的は安全に帰ることです。
これらのルールを守れないと感じた場合は、地下通路の立ち入りは控えましょう。地上の砲台跡のみでも、十分に摩星嶺の魅力を味わうことができます。
360度の展望!山頂から眺める絶景
歴史と冒険を満喫したあとは、山頂からのご褒美が待っています。摩星嶺の山頂からは、遮るもののない360度の壮大なパノラマビューが広がります。その眺望は方角ごとに全く異なる表情を見せるのが魅力です。
西側に目を向けると、世界最大級のコンテナターミナルである葵涌貨櫃碼頭(クワイチョン・コンテナターミナル)が広がります。巨大なガントリークレーンが林立し、まるで玩具のようなコンテナ船が絶え間なく行き交う光景は、香港が世界屈指の物流拠点であることを実感させます。その先には、ランタオ島と九龍半島を結ぶ壮麗な吊り橋、青馬大橋(チンマ大橋)の優美な姿も望めます。晴れた日には遠くマカオの島影まで見渡せることもあります。
一方、東側に目を向ければ、私たちにお馴染みの「香港」の街並みが広がります。ヴィクトリア・ハーバーのきらめく水面、対岸にそびえる九龍半島のビル群、そして足元に広がる香港島の高層ビル群。歴史的な要塞跡から現代の繁栄をひと望にできるこの場所は、香港の過去と現在が交わる特別なポイントと言えるでしょう。
この絶景を最も美しく楽しめるのは、やはり夕暮れ時です。太陽が西の海へと沈み始めると、空はオレンジやピンク、紫へと刻々と色を変えていきます。この「マジックアワー」と呼ばれる一日のうち最もドラマチックな瞬間は格別です。やがて太陽が水平線の彼方に隠れると、街に一つまた一つと灯りがともり、眼下の景色はまるで宝石を散りばめたかのような夜景に変化します。この感動的な風景を写真に収めるには、日没の1時間ほど前には山頂へ到着し、広角レンズでパノラマ全体を撮影したり、望遠レンズで特定のビルや橋を切り取ったりするなど、多彩な構図で楽しむことをおすすめします。
冒険を成功させるための準備と心得
摩星嶺ハイキングは手軽に楽しめるコースですが、快適かつ安全に過ごすためにはしっかりとした準備が必要です。香港の気候は日本とは大きく異なるため、ここでは具体的な持ち物から現地でのマナーまで、あなたの冒険を成功に導く実用的な情報をお届けします。
これだけは押さえておきたい!持ち物チェックリスト
出発前に忘れ物がないか、必ず確認しましょう。
- 必須アイテム
- 十分な水分: 最重要アイテムです。特に夏場は脱水症状になりやすいため、一人あたり最低1.5リットルの水を用意しましょう。スポーツドリンクなど、塩分やミネラル補給ができる飲料もおすすめです。
- 動きやすい服装と靴: 吸湿速乾性のあるTシャツやパンツが理想的です。靴は慣れたスニーカーでも構いませんが、地下通路の探検を考えている場合は、足首を保護しグリップ力のあるトレッキングシューズが断然安心です。
- 日除けグッズ: 帽子、サングラス、日焼け止めは必携です。摩星嶺の山頂付近は木陰が少なく直射日光を避けにくいため、万全の対策をしましょう。
- 虫除けスプレー: 湿度の高くなる季節は蚊などの虫が増えます。肌の露出部分にはしっかりとスプレーしておくことが大切です。
- 軽食や行動食: チョコレート、ナッツ、エナジーバーなど、手軽にエネルギー補給できるものがあると安心です。山頂での絶景ランチは格別です。
- ライト類: 懐中電灯やヘッドライトは地下通路探検の命綱となります。予備の電池も忘れずに準備しましょう。
- モバイルバッテリー: 写真撮影や地図アプリの利用でスマートフォンのバッテリーは意外と早く減るため、緊急時の連絡手段確保のためにも持参をおすすめします。
- ゴミ袋: 香港のハイキングコースにはゴミ箱が設置されていないことも多いため、自分で出したゴミは必ず持ち帰るのがハイカーとしてのマナーです。
- あると便利なアイテム
- タオル: 汗拭きだけでなく、日よけや軽いケガの応急処置にも役立ちます。
- 着替えのTシャツ: ハイキングの後にさっぱりとした気分で街に戻るために持っておくと便利です。
- 簡易救急セット: 絆創膏、消毒液、鎮痛剤などがあれば軽いケガや体調不良に対応しやすくなります。
香港の気候とおすすめのシーズン
摩星嶺ハイキングを計画する際は、季節選びが非常に重要です。
- 春(3月〜5月): 過ごしやすい気温ですが、非常に湿度が高く霧が発生しやすい時期です。視界が悪い日もありますが、霧の中に浮かぶ廃墟は幻想的な風景を楽しめます。
- 夏(6月〜8月): 最も過酷な季節です。気温は30度を超え、湿度80%以上となることも。急なスコールや台風の影響を受けやすいため、天気予報はこまめにチェックしましょう。ハイキングは早朝の涼しい時間帯に行い、熱中症対策を万全にすることが必要です。
- 秋(9月〜11月): ハイキングに最適なシーズンです。台風シーズンが終わり、気温や湿度が下がり始め、晴天の日が多く空気も澄んでいます。山頂からの眺めが抜群で、多くのハイカーで賑わいます。
- 冬(12月〜2月): 涼しく乾燥していて歩きやすい季節です。気温は15度前後まで下がることがあり、風が強い日は体感温度がさらに下がります。フリースやウィンドブレーカーなど、軽く羽織るものを持参すると良いでしょう。
ハイキング時の禁止事項とマナー
美しい自然や貴重な史跡を後世に残すため、訪れるすべての人がルールとマナーを守ることが大切です。香港政府農漁自然護理署(AFCD)も、郊野公園での行動指針を定めています。
- 火気の使用禁止: 指定のバーベキューサイトやキャンプ場以外での火の使用は法律で厳しく禁止されています。タバコのポイ捨ても絶対にやめましょう。乾燥した季節は山火事の原因となり、取り返しのつかない事態を招きます。
- 動植物の保護: 道端で美しい花や珍しい植物を見つけても採取してはいけません。写真に収めるだけにとどめてください。野生動物に餌を与えることも禁止されています。
- 史跡の尊重: 砲台跡や建物の壁への落書きや一部を削り取る行為は、貴重な文化遺産を傷つける行為で許されません。敬意を持って静かに見学しましょう。
- 他のハイカーへの配慮: 狭い道で対向者とすれ違う際は挨拶を交わし、譲り合うのがマナーです。大声で騒いだり大音量で音楽を流すのは控え、自然の静けさをみんなで楽しみましょう。
もしもの時のために。トラブルシューティング

万全の準備をしていても、予想外のトラブルは起こりうるものです。慌てず冷静に対応できるよう、いざという時の対処法を把握しておきましょう。
もし道に迷ってしまったら?
摩星嶺のメインルートは比較的わかりやすいですが、脇道に入ったり廃墟の探索に夢中になるあまり、方向感覚を見失う可能性は否定できません。
- まずは落ち着くこと: パニックになると最も危険です。まずその場で立ち止まり、深呼吸をして冷静さを取り戻してください。
- 来た道を戻る: これが基本中の基本です。闇雲に進んだり急な斜面を下ったりせず、記憶のある安全な地点まで引き返しましょう。
- 現在地の把握: スマートフォンのGPSやオフラインマップアプリは、このような状況で非常に役立ちます。今いる場所と本来通るべきルートとの位置関係を確認してください。
- 助けを求める: どうしても道に迷った場合は、無理に動くのは避けて体力を温存し、その場で救助を待つことが大切です。香港の緊急通報番号は「999」で、警察・消防・救急すべてにつながります。オペレーターに現在地を正確に伝えるため、近隣の建物や特徴的な地形(砲台跡や送電線など)を覚えておきましょう。
怪我や体調不良が生じた場合
転倒による捻挫や切り傷、あるいは夏季の熱中症など、様々な健康トラブルに注意が必要です。
- 応急処置: 軽い擦り傷や小さな切り傷は、持参の救急セットで洗浄、消毒を行い、絆創膏などで保護しましょう。
- 熱中症のサイン: めまいや頭痛、吐き気、過度の発汗、逆に汗が止まるなどの症状は熱中症の兆候です。すぐに日陰の涼しい場所へ移動し、服をゆるめて体温を下げてください。水分と塩分の補給を忘れず、十分に休息を取りましょう。症状の改善が見られない場合は速やかに救助を要請してください。
- 重症時の対応: 動けないほどの怪我や意識障害など重篤な症状がある場合は、迷わず「999」に通報しましょう。現在地と状況を正確に伝え、救助隊の指示に従ってください。
公式情報と緊急連絡先について
旅行前に以下の情報をスマートフォンに保存したり、スクリーンショットを撮影しておくと安心です。
- 在香港日本国総領事館: パスポート紛失など緊急時の相談に対応しています。連絡先をあらかじめ控えておきましょう。
- 香港政府観光局: 公式サイトには観光情報や緊急連絡先が掲載されています。
- MyMapHK: 香港政府公式の地図アプリです。ハイキングコースの詳細情報もあり、大変便利です。
事前の備えが、あなた自身と仲間の安全を守る最大の力となります。
摩星嶺の周辺も楽しむ!寄り道スポットとグルメ
摩星嶺でのハイキングと歴史散策を終えた後でも、冒険はまだ続きます。山の麓に広がる魅力的な場所で、疲れを癒しながら旅の思い出を語り合う時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。
ハイキングの後に訪れたい堅尼地城(ケネディタウン)
摩星嶺の最寄り駅のひとつである堅尼地城(ケネディタウン)は、ハイキング後のリラックスタイムにぴったりのエリアです。かつてはMTR終着駅として知られ、どこか昔ながらの落ち着いたローカル感が漂っていましたが、近年はおしゃれなカフェやレストラン、バーが次々とオープンし、伝統と現代が見事に融合した魅力溢れる街へと変貌を遂げています。海沿いのプロムナードをただ歩くだけでも心地よさを感じられるでしょう。
汗をかいた後にまず欲しくなるのは、やはり冷たいドリンクかもしれません。海の景色を望むテラス席のあるカフェで、クラフトビールやフレッシュジュースを片手に、登ってきた摩星嶺の風景を眺める時間は格別です。さらに、このエリアには昔ながらの「茶餐廳(チャーチャンテーン)」と呼ばれる香港スタイルのカフェレストランも健在で、濃厚なミルクティー(奶茶)とバターがとろけるパイナップルパン(菠蘿油)を味わいながら、ほっとする甘いひとときを過ごせます。
しっかりと食事を楽しみたい場合も、選択肢は豊富にあります。点心の名店や新鮮なシーフード料理のレストラン、本格的なタイ料理やイタリアンと、その日の気分に合わせた様々なグルメが揃っています。特に海沿いの新海旁街(New Praya)には、夕日を眺めながら食事ができるレストランが軒を連ねており、ロマンチックなディナーシーンを演出してくれます。ハイキングの疲れを癒やしつつ、香港の多彩な美食を心ゆくまで満喫しましょう。
YHAマウントデイビス・ユースホステル
摩星嶺の魅力をより深く味わいたい、ひとり占めしたいと感じたら、山の中腹に位置する「YHAマウントデイビス・ユースホステル(賽馬會摩星嶺青年旅舍)」への宿泊がおすすめです。かつては英軍の兵舎だった建物をリノベーションして生まれたユニークな宿泊施設で、その場所からの眺望は何物にも代えがたい価値があります。
このホステルに泊まる最大の魅力は、静寂に包まれた環境のなかで、摩星嶺の日の出や夜景を独り占めできることです。日中のハイカーたちが去った後、山は本来の静けさを取り戻し、夜には眼下に広がるコンテナターミナルの機能的な灯りや、遠くで輝く街の夜景がまるでプライベート展望台のように楽しめます。早朝には鳥のさえずりとともに目覚め、東の空が白みはじめ、朝日に照らされる香港の街並みを眺める体験は、一生の思い出になることでしょう。
宿泊施設はドミトリータイプから個室まで幅広く用意されており、宿泊者以外も利用できるカフェも併設されています。ハイキングの途中で気軽に立ち寄り、コーヒーを一杯味わいながら素晴らしい風景と雰囲気を楽しむことも可能です。世界各国から訪れる旅人たちと交流できるのも、ユースホステルならではの魅力です。摩星嶺の歴史に抱かれて迎える一夜は、あなたの香港旅行をよりいっそう特別なものにしてくれるでしょう。

