大陸をレンタカーで横断する旅の途中、僕は今、香港という巨大な都市の片隅に立っています。鉄とコンクリートがひしめき合い、ネオンの光が湿度を帯びた空気に滲む街。元自動車整備士として、機械や構造物には人一倍の愛着がありますが、この街の複雑なメカニズムは、どんなエンジンよりも僕の心を惹きつけました。特に心に残ったのが、九龍半島の東側に位置する観塘(クントン)地区です。ここは、香港の高度経済成長を支えた工業地帯の心臓部であり、今まさに、巨大な再開発の波に飲み込まれようとしている場所。古いものと新しいものが衝突し、火花を散らしながらも共存する、そのダイナミックな光景は、まるでクラシックカーに最新のEVユニットを無理やり押し込んだような、危うさと魅力を同時に放っていました。この記事では、そんな観塘の今を、僕自身の足で歩き、五感で感じ取ったありのままの姿を、12000字を超えるボリュームでお届けします。再開発されたきらびやかな顔と、路地裏に息づくローカルな魂。その両方を感じる旅へ、さあ、一緒に出かけましょう。
香港のローカルな魅力をさらに探求したい方は、MTRと徒歩で巡る筲箕湾(シャウケイワン)のリアルな食文化と歴史探訪ガイドもご覧ください。
香港のエンジンルーム:観塘の歴史と再開発の胎動

観塘の歴史を紐解くには、まずこの地域が香港にとってどのような役割を果たしてきたかを理解する必要があります。第二次世界大戦後、香港は急速に工業化が進み、その中心地として観塘が選ばれました。1950年代から政府の主導で、香港初の大規模工業地帯として発展が始まり、繊維やプラスチック、電子部品など、多様な製品を生み出す「工廠(コンチョン)」と呼ばれる工場が立ち並びました。「メイド・イン・ホンコン」の製品が世界市場を席巻した時代、その原動力となっていたのは、観塘の工廠で働く人々の努力と情熱でした。私が古いエンジンを分解して一つ一つの部品に歴史を感じるように、観塘の街を歩くと、古びた工業ビルの壁に刻まれた無数の傷やシミから、かつての賑わいが聞こえてくるかのようです。
しかし時代は変遷を遂げます。1980年代以降、中国本土での改革開放政策により、多くの工場は安価な労働力を求めて大陸へと移転しました。観塘は「産業の空洞化」という深刻な課題に直面したのです。エンジンのない車体のように、街から活気は失われ、老朽化した工業ビルだけが取り残されていきました。こうした状況に対し、香港政府は大規模な再開発計画を打ち出しました。特に「起動九龍東(Energizing Kowloon East)」というプロジェクトは、観塘を含む九龍東一帯を香港の新たな中核ビジネス地区(CBD2)へと再生する壮大な構想です。この計画に従い、古い建物は次々と取り壊され、ガラス張りのスマートなオフィスビルや巨大なショッピングモールが建設されています。MTR観塘駅に降りると、新旧の対比に誰もが驚かされるでしょう。駅に直結する豪華なショッピングモール「apm」を一歩出ると、現役で稼働する無骨な工業ビルがそびえ立ち、その足元では人々が昔ながらの市場で買い物をしている。この混沌とした光景こそが、現在の観塘を象徴しています。まるで最新のインジェクションシステムと歴戦のキャブレターが一つのエンジンルームに共存しているかのような、不思議な風景が広がっているのです。
未来都市の光と影:再開発エリア「apm」と「裕民坊 YM²」を歩く
現在の観塘を象徴する存在として真っ先に挙げられるのは、MTR観塘駅A2出口に直結する大型ショッピングモール「apm」でしょう。「am + pm」をコンセプトに、数多くの店舗が深夜まで営業していることからこの名前が付けられました。中に足を踏み入れると、まるで未来都市のような雰囲気が広がります。吹き抜けの開放感ある空間には、世界的に有名なブランド店や最新のコスメ専門店、ガジェットショップ、多国籍レストランがぎっしりと並んでいます。元整備士の立場から見ると、その巧みに計算された動線設計や効率的な空間活用には感嘆させられます。週末には多くの若者や家族連れで賑わい、そのエネルギーはかつての工廠を凌ぐほどかもしれません。
旅の準備:apmを賢く活用するために
旅行者にとって、apmは非常に便利な拠点となっています。まずはインフォメーションカウンターでフロアガイドを入手しましょう。英語と中国語に対応しており、目的の店舗をスムーズに探すことが可能です。また、apmの公式アプリをスマートフォンにダウンロードしておくこともおすすめします。セール情報やイベント情報がリアルタイムで更新されるほか、館内マップとしても活用できます。多くの店舗ではクレジットカードが利用可能ですが、一部の小さな店舗やフードコートでは現金やオクトパスカード(香港の交通系ICカード)のみ受け付けている場合もあるため注意が必要です。館内には無料Wi-Fiがあり、情報収集や連絡が快適に行えます。もしスマホのバッテリーが危なくなった際には、インフォメーションカウンターで有料のモバイルバッテリーレンタルサービスを利用できるか問い合わせてみると良いでしょう。このようなサービスは旅行者にとって頼もしい存在です。
そして、apmから連絡通路でつながるすぐそばには、「裕民坊 YM²(Yue Man Square)」というもう一つの再開発の象徴があります。ここは、かつて観塘で最も混沌と活気に満ちていた「裕民坊」エリアを再開発して誕生した複合施設です。YM²の最大の特徴は、香港最大級の冷房完備屋内公共交通ハブ(バスターミナル)を擁している点にあります。元整備士の私から見ても、この交通ハブの機能美には思わず感嘆しました。バスの路線ごとに乗り場が分かりやすく色分けされ、デジタルサイネージで目的地や発車時刻が明確に示されています。さらに、排気ガスを効率良く排出する換気システムも完備し、快適にバスを待てる環境が整っています。かつて路上にバス停が乱立し、排気ガスと人々の熱気でむせ返った裕民坊の街並みからは想像しにくい、抜本的な進化と言えるでしょう。
利用方法:最新バスターミナルの使い方
YM²のバスターミナルを利用する際は、まず自分の行き先に向かうバスの番号を調べます。ターミナル内の案内表示やGoogleマップなどのアプリで確認可能です。次に、その番号が指定された乗り場(Bay)を確認します。乗り場はアルファベットと数字で表示されており、とても分かりやすい設計です。バスに乗る際は、オクトパスカードをリーダーにかざすか、現金で運賃を支払います。現金の場合はお釣りが出ないため、小銭を用意しておくことが大切です。乗車後は、電光掲示板や車内アナウンスに注意を払い、降りたい停留所が近づいたら車内の赤いボタンを押して運転手に知らせます。この一連の流れは非常にスムーズで、香港の交通システムの洗練ぶりを実感できるでしょう。なお、香港都市更新局(Urban Renewal Authority)の公式サイトでは、再開発プロジェクトの詳細情報が公開されており、街の変遷をより深く理解できます。
YM²の上階部分にはショッピングモールがあり、かつて裕民坊で営業していた店舗の多くが移転しています。また、公共市場(街市)も併設されています。清潔で近代的な空間は利用しやすい一方、かつての雑多で活気溢れる雰囲気を知る人にとってはやや物足りなく感じるかもしれません。利便性と快適性の向上に伴い失われるものもある。再開発とは常にこうした光と影を抱えながら進むものであることを、この場所は静かに語りかけているように思えます。
迷宮への誘い:工業ビルに眠るローカルカルチャーを探せ

煌びやかな再開発地区を離れ、観塘に眠る本当の魅力が息づく場所へ踏み入れてみましょう。それは街のあちこちに立ち並ぶ、古びた工業ビル、通称「工廈(ゴンハー)」です。外観は単なるコンクリートの塊のようで、窓も少なく、壁は汚れ、時折巨大な荷物用エレベーターが露出して動いていることもあります。しかし、その無骨な扉の向こうには、香港の若者文化やクリエイティブなシーンを支える、小規模な店舗が数多く隠されています。
なぜ工業ビルに多くの店が集まるのか。その最大の理由は家賃の安さにあります。世界でも家賃が高い都市のひとつである香港では、路面店を構えるのが非常に困難です。そこで若い起業家やアーティストたちは、空室が増えた工業ビルに注目しました。もとが工場だったことから天井が高く、広いスペースを確保できる点も魅力的でした。こうして、工業ビル内には個性的なカフェ、隠れ家的なレストラン、古着屋、アウトレットショップ、バンドスタジオ、ギャラリーなどが立ち並び、独自のコミュニティが形成されていったのです。これは車のチューニング好きがガレージに集まって独自のカルチャーを育てるのと似ています。外からは見えませんが、中では熱い情熱が渦巻いている。観塘の工業ビル探訪は、まさにそんな宝探しのような体験といえるでしょう。
工業ビル探訪を楽しむためのポイント
工業ビル探訪にはいくつか留意すべき点とコツがあります。まず準備が欠かせません。これらのビルには日本のような親切なフロアガイドがほとんどありません。目当ての店がある場合、事前にInstagramやウェブサイトでビル名、住所、さらに重要な「フロアと部屋番号」を正確にメモしておきましょう。スクリーンショットを保存するのもおすすめです。多くのビルは迷路のように入り組み、案内表示も少ないため、これらの情報がないと目的地に辿り着くのは非常に困難です。
- 持ち物リスト:
- 歩きやすい靴: 必須です。エレベーターの位置が分かりにくく、階段利用が必要となる場面も多いです。
- モバイルバッテリー: スマホで地図や店舗情報を確認しながら歩くため、バッテリー消耗が激しくなります。
- 現金: 小規模な個人店が多く、クレジットカードが使えない場合もあるので、少額の香港ドルを用意しておくと安心です。
- エコバッグ: 魅力的な商品に出会った際のために。特にアウトレットショップは掘り出し物が見つかりやすいです。
服装は動きやすいカジュアルなものが適しています。ビル内部は冷房の効いた場所と、全く効いていない蒸し暑い場所が混在しているため、着脱しやすい薄手の上着があると便利です。また、工業ビルは私有地であることから、オフィスや倉庫として利用している人たちも多くいます。大声を出したり、通路をふさいだりしないよう、マナーを守って行動しましょう。写真を撮る際は、店舗の許可を得ることが望ましいです。
駱駝漆大廈(Hoi Luen Industrial Centre):観塘工廈の代表格
観塘で最も知られ、初心者にもおすすめなのが「駱駝漆大廈(ホイ・ルン・インダストリアル・センター)」です。3つのブロックからなる巨大な工業ビル群で、まるで巨大な秘密基地のように数百ものアウトレットや雑貨店がひしめいています。スポーツブランドのアウトレット、化粧品のディスカウントストア、キャラクターグッズの店、手作りアクセサリーのショップなど、多彩なジャンルが揃っています。エレベーターは常に混雑し、廊下は買い物客で満ち溢れており、その熱気は圧巻です。目的の店舗を探して迷路のような廊下をさまよう体験はまさに冒険そのもの。地図を片手に宝物を探す感覚で、この混沌をぜひ楽しんでください。迷ったときは遠慮せずに周囲の人に尋ねてみましょう。香港の人々は思いのほか親切に案内してくれることが多いです。
トラブル発生時の対応策
万が一、工業ビル内でエレベーターに閉じ込められたり、体調不良が生じたりした場合は、落ち着いて対処することが肝要です。エレベーターには必ず緊急連絡用のボタンが設置されています。まずそれを押して、外部に状況を伝えましょう。香港の緊急通報番号は「999」です。言葉に不安があれば、近くの人に助けを求め、代わりに通報してもらうのが良いでしょう。「唔該,幫我打999(ンーゴイ、ボンオーダーガウガウガウ/すみません、999に電話してください)」と伝えれば意思は通じます。観塘の工業ビル探訪は少し冒険心を要しますが、その先には煌びやかな商業施設では味わえない、香港のリアルな魅力が広がっています。
胃袋で感じる観塘の魂:新旧グルメ食べ歩き
旅の醍醐味といえば、やはりその土地ならではの食文化に触れることです。観塘は、最新のレストランから何十年も地元民に愛され続けるローカル食堂まで、新旧の味が共存するグルメの宝庫となっています。再開発が進んだ地域には、世界各国の料理を提供するスタイリッシュなレストランが立ち並びますが、私が特に惹かれたのは、やはり路地裏の昔ながらの店の味わいでした。自動車の世界でも、最新の電子制御エンジンは素晴らしいものの、機械式インジェクションポンプが持つ独特の味わいや鼓動には代え難い魅力があります。観塘のローカルフードには、まさにそんな「生きた味わい」を感じ取ることができるのです。
地元の味わい:茶餐廳と街市
香港の食文化を語るうえで欠かせないのが「茶餐廳(チャーチャンテン)」です。喫茶店と食堂が融合したスタイルの店で、朝食から夕食まで地元の人々の胃袋を支えています。観塘にも多くの茶餐廳があり、早朝から賑わいを見せています。代表的なメニューには、濃厚なミルクティー「港式奶茶(ゴンセッナイチャー)」や、パイナップルパンに厚切りバターを挟んだ「菠蘿油(ボーローヤウ)」、マカロニスープにハムが入った「火腿通粉(フォートイトンファン)」などがあります。メニューが漢字中心で戸惑うこともありますが、写真付きのメニューを用意している店も多いほか、周囲の人が食べている料理を指さして「呢個,唔該(ニーゴ、ンーゴイ/これをください)」と注文するのもおすすめです。茶餐廳では基本的に相席が一般的で、混雑時には見知らぬ人とテーブルを共有することもありますが、これも香港の日常風景。お互いに干渉せず、黙々と自分の食事を楽しむのが暗黙のルールです。
さらにより深い食体験を求めるなら、「瑞和街街市(Shui Wo Street Market)」のような公設市場を訪れてみましょう。新鮮な野菜や果物、肉や魚が所狭しと並び、威勢のいい店主の掛け声が飛び交っています。その一角には「熟食中心」と呼ばれるフードコートが併設されており、手頃な価格で美味しいローカルフードが堪能できます。ここでの人気メニューには、土鍋で炊いた「煲仔飯(ボウジャイファン)」や、練り物を麺状にした「魚蛋粉(ユーダンファン)」などがあります。衛生面が気になる方もいるかもしれませんが、多くの客で賑わっている店を選べば、まず安心して楽しめるでしょう。
ローカルフードを楽しむためのポイント
- 支払い: 茶餐廳や熟食中心では現金払いが基本ですが、オクトパスカードが使える店も増えてきました。とはいえ、少額の現金は必ず用意しておくのが無難です。
- マナー: 食事の前に席で出される熱いお茶で食器を軽く洗う「洗杯(サイブイ)」という習慣があります。衛生面から始まったもので、必須ではありませんが、周りの人の真似をしてみるのも面白い体験です。
- 注文: 広東語が話せなくても問題ありません。メニューや周囲の料理を指差せば通じます。注文が決まったら店員さんを「唔該(ンーゴイ)」と呼びかけましょう。これは「すみません」と「ありがとう」の両方の意味で使える便利な言葉です。
インダストリアル系カフェの魅力
一方、工業ビルの中には、古い工場の無骨な空気感を生かしたおしゃれなカフェが点在しています。コンクリート打ちっぱなしの壁、むき出しの配管、大きな窓から差し込む自然光。そんなインダストリアルな空間で、こだわりのスペシャルティコーヒーや手作りのケーキを楽しめます。これらのカフェは、街の喧騒から離れて静かなひとときを過ごしたい若者やクリエイティブな仕事をする人たちにとっての隠れ家のような存在です。活気あふれるローカル食堂とは対照的に、落ち着いた雰囲気が魅力。コーヒーを味わいながら窓の外に広がる新旧入り混じる観塘の街並みを眺めると、この街が持つ多面的な魅力を改めて感じられます。こうしたカフェは、Instagramで「#観塘cafe」や「#KwunTongCafe」といったハッシュタグを活用すると効率よく見つけることができます。旅の合間の休憩に、ぜひお気に入りの一軒を訪れてみてください。なお、香港政府観光局の公式サイトでも観塘のおすすめグルメスポットが紹介されていますので、参考にすると良いでしょう。
港の風に吹かれて:観塘海浜花園で見る新旧のパノラマ

工業地帯の喧騒や人々の熱気あふれる街を歩き疲れた際には、少し足を伸ばして「観塘海浜花園(Kwun Tong Promenade)」を訪れることをぜひおすすめします。ここは、かつて観塘が工業地域として繁栄していた時代に、紙のリサイクル工場などが立ち並ぶ貨物の積み下ろし場所(ワーキングエリア)として使われていた場所でした。その跡地を整備し、全長約1キロメートルにわたる美しい遊歩道へと生まれ変わらせたのがこの公園です。元自動車整備士として、古い車が再生され新しい命を吹き込まれる様子を好む私にとって、この公園はまさしく「土地のレストア」と呼べるプロジェクトに感じられました。
この公園の最大の魅力は、何と言ってもその開放的な眺望です。遊歩道からは、ヴィクトリア・ハーバー越しに香港島の高層ビル群や、かつての啓徳空港跡地に建てられた大規模な啓徳クルーズターミナルが一望できます。特に夕暮れから夜にかけての風景は圧巻で、対岸のビル群が徐々に灯りを灯し始め、香港名物のシンフォニー・オブ・ライツ(毎晩8時開催)の際にはここからもレーザー光線が空を彩る様子を遠くに見ることができます。貿易船やスターフェリーがゆったりと港を行き交う光景を眺めていると、時間の流れが穏やかに感じられ、歩き疲れた心身を癒してくれます。
園内には、かつてのワーキングエリアの記憶を残すアート作品が点在しています。中でも象徴的なのは、積み重ねられたリサイクルペーパーを模した高さ約3メートルの巨大なオブジェで、夜になると内側から多彩な色にライトアップされ、幻想的な雰囲気を演出します。これは、この土地が持つ「産業遺産」としての歴史を後世に伝えようとする意図が込められており、単なる美しい公園以上の深い意味を感じさせます。
観塘海浜花園での過ごし方
- アクセス: MTR観塘駅から海側へ徒歩約15分。やや距離はありますが、道は平坦で歩きやすいです。ほかに、牛頭角(Ngau Tau Kok)駅からもアクセス可能です。バスを利用する場合は、「観塘碼頭(Kwun Tong Ferry Pier)」行きのバスが便利です。
- 施設: 公園内には清潔なトイレや自動販売機があります。週末にはキッチンカーが出店することもあり、広々とした芝生エリアが整備されているため、近隣のショップでテイクアウトしたものをここで楽しむのも快適です。
- アクティビティ: 音楽と連動して水が舞う噴水ゾーンがあり、特に暑い日には子どもたちの歓声が響きます。ジョギングや散歩を楽しむ地元の人々も多く、落ち着いた雰囲気が漂っています。三脚を使った本格的な夜景撮影にも最適なスポットです。
- 禁止事項: 公園内でのバーベキューやドローンの飛行は原則的に禁止されています。掲示板の指示に従い、ほかの利用者に迷惑をかけないようマナーを守って楽しみましょう。
再開発により誕生したこの公園は、新たな憩いの場であると同時に、観塘の歴史と未来をつなぐ架け橋のような場所でもあります。かつて轟音を響かせていた工場の跡地で、今は子どもたちの笑い声がこだまし、恋人たちが語り合い、年配の人々が穏やかに海を見つめています。その光景は、変わり続ける香港という都市のダイナミズムと、そこに暮らす人々の普遍的な営みを、静かに物語っているように思えました。
未来へ走り続ける街、観塘(クントン)が教えてくれたこと
今回の観塘訪問は、単なる観光地巡り以上の特別な体験となりました。元自動車整備士の視点からすると、私は常に事の構造や仕組み、そしてその変遷に強い関心を抱いてきました。古びたエンジンがオーバーホールされ性能を取り戻すこともあれば、全く新しいハイブリッドシステムに刷新されることもあります。それは単純にどちらが良いという話ではなく、時代背景や技術進歩、そして製作者の理念が色濃く反映されているのです。
観塘という街は、まさに大型エンジンの載せ替え作業が進行中のようでした。「起動九龍東」という壮大なプロジェクトのもとで、古いパーツ(建物)は撤去され、新しく洗練されたパーツ(商業施設や交通拠点)がどんどん組み込まれています。その結果、街はより快適で安全になり、経済的価値も高まっていることでしょう。最新のバスターミナルやショッピングモールの利便性は、多くの人々に確かな恩恵をもたらしています。公式サイト起動九龍東を訪れれば、その壮麗な未来像に心を奪われるはずです。
一方で、取り壊された古い建物が醸し出していた独特の趣や、長い年月を経て刻まれた歴史の足跡は、永遠に失われてしまうのかもしれません。薄暗い工業ビルの廊下に響くミシンの音、賑やかな街市で交わされる広東語の会話、そして茶餐廳に漂う濃厚なミルクティーの香り。これら「ノイズ」や「非効率」とも称される細やかな要素こそが、その場所の魂が宿る証だと、私は感じました。
この旅を通じて私が最も強く実感したのは、変化の「過程」を自らの目で見る意味の大きさです。完成された未来都市もあれば、過去の面影だけが残る街も世界には多々あります。しかし、観塘のように、新旧が激しく交差し、街全体が巨大な移行期にある場所はめったにありません。ガラス張りのビルの隣で、半世紀以上前の工業ビルがいまだに現役で稼働している。そのアンバランスさ、不安定さこそが、今の観塘の最大の魅力と言えるでしょう。
この記事を読んでくださったあなたに、ぜひ伝えたいことがあります。もし香港を訪れる機会があるなら、観塘にぜひ足を運んでみてください。そしてこの記事で紹介した「実際にできる行動」を参考に、自らの足でこの街を歩いてみてほしいのです。最新のショッピングモールで買い物を楽しみ、工業ビルに佇む隠れ家カフェでひと息つき、地元の食堂で熱々の煲仔飯を味わい、海浜公園で香港の夜景に心を奪われてみてください。こうした体験を通じて、きっとあなたもこの街が持つ複雑で混沌としながらも力強い生命力を感じ取れるはずです。
旅は単に地図上の場所を訪れることではありません。変わりゆく風景の中に、変わらぬ人々の営みを見つけ出し、その営みと自分自身の思いを重ね合わせる行為そのものです。観塘は私に、そのことを改めて教えてくれました。大陸横断の旅はまだ続きますが、この街で感じた熱量と、新旧が織り成す独特のリズムは、これからの旅の力強いBGMとなるでしょう。さあ、次はあなたの番です。観塘という未来へ向かって走り続ける街の、今の鼓動を感じに出かけてみませんか。

