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    砂漠の大画廊、莫高窟へ。シルクロードの歴史が息づく千仏洞を巡る旅ガイド

    遥かなるシルクロードの旅路の果て、タクラマカン砂漠の東端に、悠久の時を刻み続ける聖地があります。その名は、莫高窟(ばっこうくつ)。切り立った断崖に蜂の巣のように掘られた無数の石窟は、見る者を圧倒し、その内部に広がる色彩豊かな仏教芸術の世界は、訪れる人々の心を千年の時を超えて揺さぶります。ここは、東西文明が交差したシルクロードの喧騒と、篤い信仰心が結晶となった「砂漠の大画廊」。かつてキャラバンが行き交い、多様な文化が花開いたオアシス都市・敦煌の魂そのものと言えるでしょう。

    こんにちは、旅するライターのさくらえみです。これまで30カ国以上を巡ってきましたが、この莫高窟ほど、その場所に立つだけで歴史の重みと壮大な物語を感じられる場所はそう多くありません。この記事では、なぜ人々がこれほどまでに莫高窟に惹きつけられるのか、その歴史的背景から、壁画や仏像が語りかける物語、そして、この偉大な世界遺産を訪れるための具体的な方法まで、私の旅の経験を交えながら、余すところなくお伝えしていきます。この記事を読み終える頃には、あなたもきっと、砂漠の風が運ぶ古代の祈りの声に耳を澄ませる旅に出たくなるはずです。

    この壮大な歴史の旅に魅せられたなら、同じく世界遺産の街として知られる泉州を訪れ、灼熱のシルクロードで歴史の深淵に触れる旅もおすすめです。

    目次

    悠久の時を刻むシルクロードの十字路、敦煌

    莫高窟の物語を語り始める前に、まずその舞台となる「敦煌」という都市について少しだけ触れておきたいと思います。莫高窟の壮麗さを理解するには、この土地が持つ特別な意味合いを知ることが欠かせません。

    敦煌は、中国の甘粛省の西端に位置するオアシス都市で、その名前には「大きく栄える」という意味が込められています。西には灼熱のタクラマカン砂漠が広がり、南には雪を頂く祁連山脈がそびえ立ち、古くからシルクロードの要衝として繁栄してきました。長安(現在の西安)を出発した隊商(キャラバン)は、この敦煌で休息を取った後、天山山脈の北側を通る「天山北路」と南側の「天山南路」という二つの道に分かれて、西域へと旅立っていきました。反対に、西から訪れた商人たちにとっては、敦煌が初めて目にする中華文明の入り口でもありました。

    まさに東西文明の交差点であり、ここでは人々が行き交い、物資が運ばれ、さらには文化や宗教が混ざり合う場所でした。中国の絹や陶磁器は西方へと流通する一方で、西域からは優れた馬や宝石、香辛料、そして仏教が中国にもたらされました。多彩な民族が共存し、多様な言語が飛び交う国際都市、それが古代の敦煌の姿だったのです。

    このような地理的かつ歴史的な背景が、莫高窟というかけがえのない文化遺産を生む土壌となりました。旅の安全を願う商人たち、仏教の教えを広めようとする僧侶たち、そしてこの地を治める権力者たち。彼らの篤い信仰心と、シルクロードがもたらす富や文化が重なり合い、敦煌郊外の鳴沙山の断崖において、1000年以上にもわたって石窟が掘り続けられ、華麗に装飾されるという壮大な計画が実現しました。敦煌を知ることは、莫高窟の真髄に触れるための第一歩なのです。

    莫高窟とは何か?「砂漠の大画廊」の誕生秘話

    では、いよいよ莫高窟そのものに迫ってみましょう。敦煌市の中心部から南東へ約25km、鳴沙山の東麓に広がる断崖に、南北に約1.6kmにわたって無数の洞窟が穿たれています。これが、ユネスコ世界遺産にも登録されている莫高窟です。現在確認されている洞窟数は735にのぼり、そのうち492の洞窟内には、合計約45,000平方メートルに及ぶ壁画と2,400体を超える彩色塑像が保存されています。まさに「砂漠の大画廊」と称されるにふさわしい、世界屈指の仏教芸術の宝庫なのです。

    その起源は、西暦366年に遡ると伝えられています。ある僧侶、楽僔(らくそん)がこの地を訪れた際、夕焼けに照らされた対岸の三危山が、まるで千の仏が光を放っているかのように見えたといいます。この神秘的な光景に深く感銘を受けた楽僔は、自ら石窟を掘り修行に励むことを決意しました。これが莫高窟の最初の洞窟となりました。

    この逸話により、莫高窟は「千仏洞(せんぶつどう)」という別名でも呼ばれるようになりました。楽僔の掘削による一つの洞窟から始まった石窟造営は、その後、北涼、北魏、西魏、北周、隋、唐、五代、宋、西夏、元といった約1000年にわたる歴代王朝に引き継がれていきました。特に、シルクロード貿易が最も盛んで国際色豊かな文化が栄えた唐の時代には、莫高窟の造営が最盛期を迎え、その規模と芸術性が頂点に達しました。

    なぜこんなにも長期間、多くの人々が石窟の造営を続けたのでしょうか。それは、仏の功徳を得るための「作善(さぜん)」という行為でした。皇族や貴族、役人、裕福な商人、さらには一般の人々までもが、自身の信仰心や現世の願い、来世の幸福を託して、仏像を壁に描き、塑像を制作したのです。それぞれの石窟は、寄進者(パトロン)たちの祈りの結晶であり、時代ごとの人々の想いが詰まったタイムカプセルのような存在となっています。

    しかし、14世紀以降、海上交通路が主流となりシルクロードが衰退するとともに、敦煌は次第に忘れられた土地となり、莫高窟もまた砂漠の中で静かに眠りにつきました。その静寂が破られるのは20世紀初頭のことで、歴史を揺るがす大発見がこの地でなされることになるのです。

    莫高窟の至宝 – 壁画と塑像が語る物語

    莫高窟の扉を開けて一歩踏み入れると、そこはまるで異世界のようです。ガイドの持つ専用懐中電灯の光が壁面を照らすたびに、色鮮やかな仏像や菩薩、天女たちが暗闇から浮かび上がり、訪れる者を圧倒します。ここでは、莫高窟の芸術的価値の中核である「壁画」と「塑像」、そして歴史的な大発見「蔵経洞」について、その魅力を詳しくご紹介します。

    壁画:壁面全体に広がる仏教の世界とシルクロードの暮らし

    莫高窟の壁画の総面積は約45,000平方メートルにも及びます。これは一般的な25メートルプール約100個分に匹敵する広さです。洞窟の壁から天井にかけて、隙間なく描かれた絵画群は、訪れる人を仏教の壮大な宇宙観へと誘います。

    壁画のテーマは多彩です。

    • 仏伝図:釈迦の誕生から涅槃に至るまでの生涯を物語ったもの。
    • 本生図:釈迦の前世、菩薩としての修行時代の物語。たとえば「サッタ太子本生図」では、飢えた虎の親子を救うために自己を犠牲にする逸話が有名です。
    • 経変図:阿弥陀経や法華経など難解な経典の内容を視覚的にわかりやすく表現したもので、壮大な浄土世界がパノラマのように描かれ、当時文字を読めなかった人々にも仏教の教えが伝わる工夫がされています。

    これらの仏教画は単なる宗教画にとどまらず、当時の人々の生活や文化、シルクロードを通じた東西交流の様子が生き生きと表現されています。例えば、天井を優雅に舞う「飛天(ひてん)」は、インドの神々と中国の仙人が融合した姿とされ、時代を経るごとに変容しました。特に唐代の飛天は、躍動感にあふれ自由闊達な姿で描かれています。

    また、壁画の片隅にはラクダを連れたソグド人の商人や異国の楽器を奏でる楽団の姿も確認できます。彼らの着衣や携えている商品、使われている道具の一つ一つが、当時のシルクロードのリアルな風景を伝える貴重な史料となっています。

    これらの壁画が千年以上経った現在もなお鮮やかな色彩を保っている秘密は顔料にあります。赤は辰砂、緑は孔雀石、そして特に貴重な青は、遠くアフガニスタンから運ばれたラピスラズリを砕いて作られました。ラピスラズリは当時、金と同等の価値を持っていたとされ、シルクロードがもたらした富がこの砂漠の地に不朽の色彩をもたらしたのです。

    塑像:時代を映し出す仏たちの表情

    莫高窟のもう一つの宝物が、各窟の中心に安置されている塑像です。木材を芯に粘土を盛り上げて形成され、彩色されたこれらの仏像群は、壁画とともに石窟空間を荘厳に彩っています。

    塑像もまた壁画同様、制作された時代の特徴が色濃く反映されています。北魏時代に造られた初期の像は、西域の影響を強く受け、やや異国的な顔立ちで、静けさと瞑想的な雰囲気を漂わせます。隋・唐の時代になると、中国的な様式へと変わり、表情は豊かに、体つきもふくよかで写実的になります。特に唐代の塑像は人間味あふれる温かみと威厳を兼ね備え、その写実性と精神性は中国仏教彫刻の頂点とも称されています。

    中でも見逃せないのが、第96窟にある高さ35.5メートルの巨大な弥勒大仏(通称:北大仏)です。説によれば則天武后をモデルにしたとされ、その壮大な姿は圧巻です。また、第158窟の涅槃仏は全長15.8メートルに及び、釈迦が入滅する姿を表現しています。安らぎに満ちた表情で横たわる釈迦の周囲には、悲しみに暮れる弟子たちが配され、静かな中にも深いドラマが伝わってきます。

    塑像と壁画が一体となることで、それぞれの石窟はひとつの完結した仏教空間を形成しており、訪れる人々はまるで経典の世界に入り込んだかのような深い体験を味わえます。

    蔵経洞の発見と敦煌文献の衝撃

    莫高窟の歴史を語る上で欠かせないのが、第17窟にあたる通称「蔵経洞」の発見です。1900年6月22日、莫高窟を管理していた道士・王円籙(おう えんろく)が、第16窟の壁の亀裂から秘密の小部屋を見つけました。その部屋には4世紀から11世紀にかけての写本や文書、絹織物などがぎっしりと収められていました。

    これが世界を驚かせた「敦煌文献」の発見でした。約5万点にのぼるこれらの資料の多くは仏教経典ですが、道教やマニ教、景教(キリスト教ネストリウス派)の経典のほか、社会や経済に関する契約書や手紙、暦、文学作品など多岐にわたります。使用されている言語も、漢語だけでなくチベット語、サンスクリット語、ソグド語、ホータン語などさまざまでした。

    この発見は敦煌が当時、多様な宗教と文化が共存する国際都市であったことを如実に示しています。なぜこれらの文書が一つの小部屋に封印されたのかは今も謎ですが、11世紀に西夏が敦煌を占領した際、戦乱から貴重な文献を守るために隠されたという説が有力です。

    しかし、この発見は同時に悲劇の始まりでもありました。清朝末期の混乱期、敦煌文献は中国国内で十分に評価されず、その情報を聞きつけたイギリスの探検家オーレル・スタインやフランスのポール・ペリオらが相次いで敦煌を訪れ、道士から安価で大量の文書を購入し国外に持ち出しました。

    結果として、最も価値の高い文献は現在、ロンドンの大英博物館やパリのフランス国立図書館をはじめとする海外の施設に収蔵されています。これは中国にとって大きな文化的損失でしたが、一方で世界中の研究者がこれらの文献を研究できる環境が整い、「敦煌学」と呼ばれる新たな学問分野の発展へとつながりました。蔵経洞の発見は、莫高窟にまつわる光と影の歴史を象徴する出来事なのです。

    いざ、莫高窟へ!旅の準備と実践ガイド

    莫高窟の壮大な歴史と芸術に触れたことで、実際に訪れてみたいという気持ちが強まってきたのではないでしょうか。ここからは、この偉大な世界遺産を訪れるための具体的な手順を、段階を追って詳しくご案内します。憧れの場所だからこそ、しっかりと準備を整え、心からその魅力を味わい尽くしましょう。

    チケット予約は必須!購入方法と種類を詳しく紹介

    まず最も大切なことは、莫高窟の見学は完全予約制であるという点です。特に観光ピークの夏季(5月〜10月頃)には、チケットが数週間前に売り切れることも珍しくありません。思い立って現地に行っても、入場できない可能性が高いと考えておきましょう。旅行計画を立てたら、まず最初にチケット予約を済ませることが何より重要です。

    チケットは主に莫高窟の公式予約サイトにてオンラインで購入します。サイトは基本的に中国語ですが、ブラウザの翻訳機能を利用すれば操作自体は問題ありません。予約時にはパスポート番号が必要となりますので、手元に用意しておきましょう。

    チケットの種類はいくつかありますが、一般の観光客が主に利用するのは下記の2種類です。

    • A類参観券(旺季:238元 / 淡季:140元)
    • 最も一般的なチケットです。
    • 内容:
    1. 莫高窟数字展示中心(デジタルセンター)でのテーマ映画『千年莫高』およびドームシアターでの球幕映画『夢幻仏宮』の鑑賞。
    2. デジタルセンターから莫高窟までの往復シャトルバスの利用。
    3. 莫高窟現地で、専門ガイドによる8つの石窟見学。
    4. 見学後の自由時間には、第96窟(北大仏)、第148窟(涅槃宮)、第16・17窟(蔵経洞外観)など特定の石窟を見て回れます。
    • 特徴: 映画鑑賞がセットになり、莫高窟の歴史や芸術への理解を深められます。初めての訪問なら、断然このA類チケットがおすすめです。1日の販売数に制限があるため、早めの予約が欠かせません。
    • B類参観券(旺季:100元 / 淡季:50元)
    • 内容:
    1. デジタルセンターでの映画鑑賞は含まれません。
    2. シャトルバスと、第96窟、第148窟、第16・17窟を含む4つの指定石窟の見学のみ。
    3. 専門ガイドによる案内はありません。
    • 特徴: A類チケットが売り切れた場合や、時間に制約がある方向けのチケットです。見学できる石窟と解説が大幅に制限されるため、満足度はA類に劣る場合がありますが、訪問をどうしても実現したいときの選択肢として覚えておくと良いでしょう。

    また、より貴重な石窟を専門家の詳細な解説付きでじっくり見学できる「特別窟」のチケットもありますが、こちらは別料金で現地申し込みとなります。興味がある方はインフォメーションセンターで問い合わせてみてください。

    予約手順(公式サイトの場合):

    1. 公式サイトにアクセスし、希望の見学日と時間を選択。
    2. チケットの種類(A類かB類)を選ぶ。
    3. 見学者全員のパスポート表記の氏名とパスポート番号を入力。
    4. オンライン決済を行う。(WeChat PayやAlipayが主流ですが、国際クレジットカードが使えるケースもあります)
    5. 予約完了後、QRコード付きの予約確認票が表示されるため、スクリーンショットを撮るか印刷して保存します。

    中国語サイトでの予約に不安がある場合は、日本の旅行代理店が催行する敦煌ツアーに申し込む方法もあります。チケット手配をすべて任せられるため、安心です。

    莫高窟見学の心得と守るべきルール

    世界が誇る莫高窟は非常に繊細で貴重な文化遺産です。その価値を末永く守り伝えるために、訪問者は幾つかの厳格なルールを守る必要があります。これらを遵守することは、私たち旅行者の責任かつマナーです。

    • 写真・動画撮影は絶対禁止!
    • 最重要ルールです。洞窟内でのカメラやスマホ等による撮影は一切禁じられています。フラッシュはもちろん、わずかな光や電子機器が放つ熱によっても、1000年以上の歴史を持つ壁画の顔料に取り返しのつかない損傷を与えかねません。美しい壁画を撮影したい気持ちは理解できますが、その感動は目と心に焼き付けてください。その代わり、「デジタル敦煌」プロジェクトの公式サイトで高精細なデジタル画像による石窟内部をオンライン鑑賞できます。予習や復習として活用するのもおすすめです。
    • 大きな荷物、カメラ、飲食物の持ち込み禁止
    • リュックなどの大型荷物や一眼レフカメラ、ビデオカメラ、液体類(水筒など)は洞窟内に持ち込めません。入口付近に無料の荷物預かり所(ロッカー)があるため必ず預けてから入場してください。スマートフォンは持ち込み可能ですが、撮影は禁止です。
    • 懐中電灯の持ち込み禁止
    • 洞窟内は非常に暗いため、専用の懐中電灯を持つガイドが光源を提供します。個人での懐中電灯の持ち込みや使用は厳禁です。
    • 服装について
    • 特別なドレスコードはありませんが、快適かつ安全な見学のために以下を心掛けましょう。
    • 歩きやすい靴: 敷地は広大で、石段や砂地を歩くことが多いので、スニーカーなど慣れた靴が適しています。
    • 羽織りもの: 敦煌の夏は非常に暑いですが、洞窟内はひんやりしています。温度差で体調を崩さないよう、薄手のカーディガンやジャケットを用意するのがおすすめです。
    • 日差し対策: 砂漠地帯の紫外線は強烈です。帽子、サングラス、日焼け止めは必携アイテムです。

    これらの規則はすべて文化財保護のために設けられています。理由を理解すれば、自然と協力できます。

    当日の見学の流れ – デジタルセンターから石窟へ

    予約当日は、指定時間の30分から1時間前には敦煌市内の「莫高窟数字展示中心(デジタル展示センター)」に到着しましょう。見学はここから始まります。

    1. チケットの引き換え:
    • デジタルセンターの窓口で、予約時に使用したパスポートとQRコード付き予約確認票を提示し、紙のチケットを受け取ります。身分証明のためパスポートは必ず忘れずに持参してください。
    1. 映画鑑賞(A類チケット所有者のみ):
    • チケットを受け取ったら、館内シアターで2本の映画を鑑賞します。
    • 『千年莫高』: 莫高窟の誕生から興隆、そして一時忘れ去られ再発見されるまでの1000年以上の歴史をドラマチックに描いた作品です。これを観ることで莫高窟の背景を深く理解できます。
    • 『夢幻仏宮』: ドーム型スクリーンに映像が360度映し出され、通常非公開の代表的石窟の内部をまるで体験しているかのように鑑賞できます。色彩や細部が間近で見られ、実物鑑賞への期待が高まります。
    1. シャトルバスで莫高窟遺跡へ:
    • 映画鑑賞後、専用シャトルバスに乗り約20分で現地へ向かいます。車窓に広がる荒涼とした砂漠景観も旅情を掻き立てます。
    1. ガイドツアーの開始:
    • 莫高窟に着くと、中国語や英語など言語別に20〜30人程度のグループに分かれます。残念ながら日本語ガイドは常駐していない場合が多いですが、英語ガイドの説明は丁寧で理解しやすいです。
    • 見学する石窟はその日の状況やガイドにより決定され、自分で選ぶことはできません。これは石窟の保護管理と負担分散のためで、毎回違う石窟に入る楽しみもあります。
    1. 石窟内部見学:
    • ガイドの案内のもと、懐中電灯で壁画や塑像を照らしつつ、時代背景や描かれた物語、美術様式などの解説を受けながら見学します。暗闇に浮かぶ千年の色彩と静かな語りを味わう貴重な時間です。見学時間は約75分です。
    1. 自由見学と帰途:
    • ガイドツアー終了後は解散し自由行動となります。第96窟(北大仏)など指定された石窟を自身のペースで見学可能です。敷地内の博物館では敦煌文献のレプリカや出土品も展示されています。
    • 見学を終えたら再度シャトルバスに乗り、デジタル展示センターに戻ります。

    用意しておきたい持ち物リスト

    • パスポート原本: チケット引き換え・本人確認に必須で、コピーは不可。
    • 予約確認票: スマホのスクリーンショットまたは印刷物。
    • 現金またはスマホ決済手段(Alipay/WeChat Pay): 売店や博物館の特別展で使用することがあります。
    • 歩きやすい靴: スニーカーが最適。
    • 羽織りもの: 夏でも薄手の長袖シャツやカーディガンを用意すること。
    • 帽子、サングラス、日焼け止め: 強烈な砂漠の日差し対策として必須。
    • 水: 熱中症予防に持参しましょう。ただし洞窟内への持ち込みは禁止されているため、シャトルバスの中や見学前に飲むのがおすすめです。
    • モバイルバッテリー: スマホで予約票提示や外での写真撮影時に電池の消耗を抑えるため用意しましょう。

    もしもに備える – トラブルシューティング

    旅にはトラブルがつきものです。特に海外の人気観光地では、予期せぬ出来事が起こることも珍しくありません。ここでは、莫高窟の見学時に起こりやすい「もしもの」ケースと、その対処法をご紹介します。冷静に対応すれば、きっと適切な解決策が見つかるでしょう。

    チケットが取れない!そんなときの代替策

    最もよくあるトラブルは、「公式サイトで予約しようとしたら希望日がすでに満席だった」という状況です。特に7月から8月の夏休み期間や、中国の国慶節(10月上旬)など大型連休の時期には、チケット獲得が非常に困難になります。しかし、あきらめるのはまだ早いです。いくつかの代替案を検討してみましょう。

    • B類チケットを狙う:
    • A類チケットが完売している場合でも、映画鑑賞が含まれないB類チケットには空きが残っていることがあります。見学できる石窟は限られますが、「まったく見られない」よりはずっと良い選択肢です。公式サイトをこまめに確認してみてください。
    • キャンセル待ちをチェックする:
    • 予約サイトではキャンセルが出るとその分のチケットが再販されます。訪問日直前にサイトを改めて確認すると、運よく空きが出ていることがあります。根気よくアクセスする価値はあります。
    • 周辺の石窟群を訪れる:
    • 敦煌には莫高窟以外にも素晴らしい石窟群があります。莫高窟のチケットがどうしても入手できない場合は、行き先を変更してこれらの場所を訪れるのも貴重な体験になるでしょう。
    • 榆林窟(ゆりんくつ / 楡林窟): 敦煌から車で約2〜3時間の場所にあり、「莫高窟の姉妹窟」とも称される石窟です。莫高窟同様、精巧で美しい壁画が多数残されており、特に西夏時代の壁画は必見です。観光客が少ないため、静かな環境でじっくり鑑賞できるのが魅力です。
    • 西千仏洞(せいせんぶつどう): 敦煌市の西、陽関付近にある比較的小規模な石窟群です。党河の断崖に彫られ、北魏時代の貴重な壁画が見られます。

    これらの石窟も敦煌芸術の重要な一部です。たとえ莫高窟が見られなくても、これらの場所を訪れることで旅の目的を十分に果たせるでしょう。

    • 現地の旅行会社に相談する:
    • 敦煌市内のホテルや旅行会社では、団体客向けにチケット枠を確保している場合があります。個人で予約が取れなくても、半日ツアーなどのプランに申し込めば見学できる可能性があるため、少々割高でも最後の手段として検討するとよいでしょう。

    予約のキャンセルや変更について

    旅行の計画は変わることが少なくありません。予約した日に訪問できなくなった場合、キャンセルや変更は可能なのでしょうか。

    • 公式サイトでの手続き:
    • 基本的には、公式サイトの予約システムからキャンセル手続きが可能です。見学日の数日前までであれば、手数料を差し引いた額が返金されることが多いですが、キャンセルポリシーは随時変更されることがあるため、予約時に必ず内容を確認してください。
    • 日程変更の場合は、一度キャンセルをしてから、新たに予約を取り直すのが基本です。希望日の空き状況がポイントとなります。
    • 天候不良などによる閉鎖:
    • 敦煌では、まれに砂嵐などの荒天が発生し、莫高窟が安全確保のため臨時閉鎖される場合があります。その際は、基本的にチケット代金が全額返金されます。閉鎖情報は公式サイトで告知されるため、天気が悪そうな日には出発前に必ず確認しましょう。代替の見学日を設定してもらえるかは状況次第なので、現地の指示に従うことが重要です。

    トラブルが生じた場合は、まず落ち着いて公式情報を確認することが大切です。莫高窟のチケットセンターのスタッフは外国人の対応に慣れているため、不安なことがあればパスポートと予約情報を持って窓口で相談してみてください。

    莫高窟の未来へ – 保存と研究の最前線

    私たちが今、千年以上も昔の芸術作品を直接目にできるのは、乾燥した砂漠の気候という好条件がもたらしたまさに奇跡と言えるでしょう。しかし、その奇跡が永遠に続くわけではありません。現在、莫高窟は深刻な危機に直面しています。

    壁画にとって最大の脅威は湿気と二酸化炭素です。多くの観光客が洞窟内に入ることで、呼吸や汗から放出される水分が壁画の顔料を剥がし、二酸化炭素が化学反応を起こしてしまいます。さらに、砂漠から吹く風による風化や塩分の浸透も絶え間なく進んでいます。

    この貴重な人類の文化遺産を次世代へ継承するため、「敦煌研究院」の研究者たちは日々、保存と修復に全力を尽くしています。壁画の剥落を防ぐための継続的な修復作業や、洞窟内環境のモニタリングに最新技術を導入するなど、多岐にわたる取り組みが進められています。

    特に重要なプロジェクトの一つが「デジタル敦煌」です。これは全ての石窟、壁画、塑像を高解像度のデジタルデータとして記録し、永続的に保存しようという壮大な挑戦です。このおかげで、現地に足を運ばなくともインターネットを通じて、実物さながらの鑑賞が可能になりました。研究者にとっても、貴重な資料となるだけでなく、文化財への負担を軽減しつつ、多くの人々に莫高窟の魅力を広める画期的な方法となっています。

    私たちが「撮影禁止」や「入場制限」といったルールを守るのは単なる規則の遵守ではありません。それは、このかけがえのない繊細な宝物を守るための、小さくとも最も大切な協力なのです。私たちのほんの少しの気遣いが、未来の誰かが同じ感動を味わうことにつながっていると思うと、訪問時のマナーにより一層の思いが込もるのではないでしょうか。

    敦煌の風を感じる、周辺の見どころ

    莫高窟の感動を胸に抱きつつ、ぜひ敦煌の町が持つ魅力もしっかり味わってみてください。シルクロードのロマンは、この街のいたるところに息づいています。

    鳴沙山と月牙泉

    敦煌の象徴ともいえる美しい景色がここに広がっています。終わりなく続く砂の丘「鳴沙山(めいささん)」と、その砂漠の中で奇跡のように絶え間なく湧き出る三日月型の泉「月牙泉(げつがせん)」。風が吹くと砂が「サラサラ」と音を立てて鳴る様子から、この名がつけられました。

    夕暮れどき、ラクダに揺られながら砂丘を登り、頂上から夕陽に染まる砂漠とオアシスの絶景を眺める時間はまさに至福のひととき。砂丘を滑り降りるサンドボードなどのアクティビティも楽しめます。莫高窟で歴史の重みを感じた後には、雄大な自然の中で心を解き放つ、最高のコントラストが味わえる場所です。

    陽関と玉門関

    唐代の詩人・王維が詠んだ「西のかた陽関を出ずれば故人なし」という有名な詩に登場する「陽関」、そしてその北に位置する「玉門関」。これらはかつてシルクロードの西の玄関口を守っていた関所の跡地です。

    現在では風化した土壁の遺構が広大な大地にひっそりと残るのみですが、その現地に立つと、故郷を後に未知の西域へ旅立った人々や、辺境を守った兵士たちの想いが砂漠の風と共に聞こえてくるような気がします。果てしない地平線を見つめながら、シルクロードの歴史に思いを馳せるのに最適な場所です。

    敦煌夜市(沙州市場)

    旅の夜のお楽しみには、活気あふれるナイトマーケット「敦煌夜市」へ足を運んでみてください。通りの両側には、地元のグルメを味わえる屋台やレストラン、そして民芸品や土産物を売る店がずらりと並びます。

    名物の「驢肉黄麺(ろにくこうめん)」や、香ばしい羊肉の串焼き「羊肉串(ヤンロウチュアン)」を味わい、キンと冷えた地元特産の杏皮水(あんずジュース)で喉を潤すのは至福の時間。旅人同士や地元の人たちとの交流もまた、旅の醍醐味のひとつです。莫高窟の壁画をモチーフにしたお土産や、夜光杯(ぎょこうはい)と呼ばれる玉製の杯など、ここでしか手に入らない品を探す楽しみも味わえます。

    莫高窟への旅は単なる観光巡りに留まりません。それは、砂漠の細かな砂粒に刻まれた人々の祈りと交流の歴史をたどる、時空を超えた旅でもあるのです。壁画の一筆一筆や仏像の穏やかな微笑みの中に、シルクロードを生きた人々の息吹を感じ取ることができるでしょう。その感動はきっとあなたの心に深く刻まれ、人生の忘れ得ぬ一ページとなるはずです。さあ、準備は整いましたか?千年の祈りが眠る砂漠の大画廊が、あなたの訪れを待っています。

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    この記事を書いたトラベルライター

    旅行代理店で数千人の旅をお手伝いしてきました!今はライターとして、初めての海外に挑戦する方に向けたわかりやすい旅ガイドを発信しています。

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