MENU

    山水画の世界へようこそ!水墨画の絶景が広がる桂林、感動の旅ガイド

    「桂林の山水は天下一」。古くから中国の詩人や画家たちを魅了し、数多の作品の源泉となってきた場所、それが桂林です。まるで水墨画から抜け出してきたかのような奇岩の峰々が、エメラルドグリーンの漓江(りこう)の流れに沿ってどこまでも連なる。その風景は、一度見たら決して忘れることのできない、圧倒的な美しさを湛えています。

    ここは、ただ景色を眺めるだけの場所ではありません。悠久の時が創り出した大自然の造形美に抱かれ、ゆったりと流れる時間の中で心と体を解き放つ、特別な旅が待っています。漓江の船旅で風を感じ、少数民族の素朴な暮らしに触れ、夜には幻想的なショーに心を奪われる。そして、旅の合間には、素朴ながらも奥深い味わいの地元グルメが疲れた体を癒やしてくれるでしょう。

    この記事では、そんな桂林の魅力を余すところなくお伝えします。定番のハイライトから、一歩踏み込んだディープなスポット、旅を彩るグルメ情報、そして実践的な旅のプランニングまで。あなたが桂林を訪れるとき、最高の思い出を作れるように、旅のプロが魂を込めてご案内します。さあ、私たちと一緒に、一生心に残る山水画の世界への旅を始めましょう。

    目次

    桂林とは? – 天下第一の山水が待つ場所

    中国南部に位置する広西チワン族自治区。その北東部に、世界中から旅人を惹きつけてやまない桂林はあります。亜熱帯モンスーン気候に属し、年間を通して温暖で湿潤。特に春から夏にかけては雨が多く、霧や靄が立ち込めることで、あの幻想的な水墨画のような風景が生まれるのです。

    桂林の代名詞ともいえるユニークな地形は、「カルスト地形」と呼ばれます。遥か昔、この一帯は海の底でした。地殻変動によって隆起した後、石灰岩でできた大地が、雨水によって長い時間をかけて侵食されていきました。その結果、硬い部分だけが残り、天を突くような鋭い岩山や、地下に広がる巨大な鍾乳洞が形成されたのです。桂林の風景は、まさに地球の営みが創り出した、壮大な芸術作品といえるでしょう。

    「桂林山水甲天下」という言葉は、今から約800年前、南宋の詩人、王正功がこの地を訪れた際に詠んだ詩の一節に由来します。「桂林の山水は天下一である」という意味のこの言葉は、桂林の美しさをあまりにも的確に表現していたため、今日まで語り継がれ、桂林のキャッチフレーズとして広く知られています。桂林市内の独秀峰には、この句が刻まれた石碑が今も残っており、歴史の重みを感じさせてくれます。

    桂林という地名は、「金木犀(キンモクセイ)の林」を意味します。その名の通り、秋になると街の至る所で金木犀が咲き誇り、甘く芳しい香りが街全体を包み込みます。この香りに誘われて街を散策するのも、桂林の秋の楽しみ方の一つです。

    自然の美しさだけでなく、この地にはチワン族、ヤオ族、ミャオ族、トン族といった多様な少数民族が暮らしており、彼らが育んできた独自の文化や伝統も、桂林の旅に深い彩りを加えてくれます。絶景、歴史、文化、そして美食。桂林は、訪れる人々の五感を刺激し、尽きることのない魅力で満ちあふれているのです。

    桂林観光のハイライト!絶対外せない漓江下り

    桂林を旅する上で、これなくしては始まらないのが「漓江下り」です。桂林市内から陽朔までの約83キロメートルの川旅は、まさに動く山水画。ゆっくりと進む船のデッキから眺める景色は、次から次へと姿を変え、片時も目を離すことができません。川面に映る奇岩のシルエット、のどかに草を食む水牛の群れ、岸辺で暮らす人々の営み。そのすべてが一体となって、完璧な調和を生み出しています。

    漓江下りのクルーズは、通常、桂林市郊外の竹江埠頭から出発し、4〜5時間かけて陽朔へと向かいます。船には大きく分けて、食事や設備が充実した「豪華船」と、よりリーズナブルな「普通船」があります。どちらを選ぶかによって快適さは異なりますが、窓の外に広がる絶景の価値は変わりません。旅のスタイルや予算に合わせて選ぶと良いでしょう。チケットは市内のホテルや旅行代理店で手配するのが一般的です。個人で直接埠頭へ行って購入することも可能ですが、特に観光シーズンは混み合うため、事前予約が安心です。

    船が出航し、しばらくすると、いよいよ山水画の世界が幕を開けます。ガイドブックで何度も見たあの風景が、パノラマとなって目の前に広がる瞬間の感動は、言葉では言い尽くせません。

    漓江下りの見どころたち

    漓江下りの航路には、それぞれ名前が付けられた見どころが点在しています。船内アナウンスやガイドが教えてくれますが、事前に知っておくと楽しみが倍増します。

    • 楊堤(ヤンディ)

    漓江下りの前半のハイライトエリア。ここから興坪までの区間は、特に景色の美しい場所として知られています。奇岩が密集し、変化に富んだ景観が続きます。

    • 九馬画山(きゅうばがさん)

    巨大な一枚岩の山肌に、まるで9頭の馬が描かれているように見えることから名付けられた、漓江下り最大の見どころの一つです。自然が作り出した濃淡の模様が、馬の様々な姿を思わせます。目を凝らして9頭すべてを見つけ出すことができれば、科挙(昔の中国の官僚登用試験)に合格できるという言い伝えも。あなたは一体、何頭の馬を見つけることができるでしょうか。

    • 黄布倒影(こうふとうえい)

    穏やかな川面に、岸辺の7つの峰が鏡のようにくっきりと映り込む絶景ポイントです。その美しさは、中国の20元紙幣の裏面のデザインにも採用されているほど。多くの人が紙幣を片手に、本物の景色と見比べる光景が見られます。まさに桂林を象徴する風景と言えるでしょう。

    • 興坪(シンピン)

    古い漁村の面影を残す小さな町。20元札の景色がある場所として有名で、近年は古鎮(古い町)としての魅力も注目されています。多くのクルーズ船はここを通過しますが、興坪で下船し、この静かな町に滞在するのも一興です。

    船上では、ビュッフェ形式の簡単な昼食が提供されるのが一般的です。豪華な食事ではありませんが、絶景を眺めながらいただくごはんは格別な味わい。また、船のデッキに出て、頬をなでる川風を感じながら、刻一刻と変わる景色を写真に収めるのも最高の時間です。雨が降れば、山々は霧に包まれ、より一層幽玄な雰囲気に。晴れれば、太陽の光が川面に反射し、きらきらと輝く。どんな天気でも、漓江は私たちに最高の表情を見せてくれます。

    約4時間の船旅は、あっという間に過ぎていきます。陽朔の埠頭に船が着く頃には、誰もがその圧倒的な美しさの余韻に浸り、心からの満足感を覚えていることでしょう。漓江下りは、単なる移動手段ではありません。それ自体が、桂林の旅の目的であり、クライマックスなのです。

    漓江の終着点・陽朔の魅力に浸る

    漓江下りの船がたどり着く場所、陽朔(ようさく)。多くの旅行者にとって、陽朔は単なる旅の終着点ではありません。むしろ、ここからが新たな旅の始まり。桂林市内とはまた違う、のどかで開放的な雰囲気が漂う陽朔は、滞在型の観光地として世界中のバックパッカーから愛されてきました。雄大な自然に囲まれながら、アクティブに過ごしたり、のんびりとカフェで時間を過ごしたり。人それぞれのスタイルで楽しめるのが陽朔の魅力です。

    西街(ウェストストリート)の喧騒と異文化交流

    陽朔の中心部に位置するのが、約1キロメートルにわたって続く「西街」です。石畳の道が続くこの通りは、1400年以上の歴史を持つ陽朔で最も古いストリート。しかし、その雰囲気は古風というより、むしろインターナショナル。通りの両脇には、お洒落なカフェ、各国の料理を提供するレストラン、賑やかなバー、そして少数民族の工芸品やユニークなお土産を売る店が所狭しと軒を連ねています。

    昼間は、比較的落ち着いた雰囲気。散策を楽しみながらお土産を探したり、オープンテラスのカフェで漓江の景色を眺めながらくつろいだりするのに最適です。しかし、陽が落ちてネオンが灯り始めると、西街はその表情を一変させます。どこからともなく音楽が流れ、世界中から集まった旅人たちの笑い声が響き渡る。その活気と喧騒は、まるで毎日がお祭りのようです。バーで一杯傾けながら、隣り合った旅行者と旅の話に花を咲かせる。そんな異文化交流が自然に生まれるのも、西街ならではの体験です。

    レンタサイクルで巡る田園風景

    陽朔のもう一つの大きな魅力は、その周辺に広がる牧歌的な田園風景です。この美しい景色を堪能するのに最適な方法が、レンタサイクル。西街周辺にはたくさんのレンタルショップがあり、手軽な料金で自転車を借りることができます。

    ペダルを漕ぎ出すと、町の喧騒はすぐに遠のき、静かで穏やかな風景が広がります。道の両脇には青々とした田んぼが広がり、その向こうには、まるで屏風のように奇岩の峰々がそびえ立つ。農作業に勤しむ人々の姿や、のんびりと草を食む水牛の群れ。聞こえてくるのは、鳥のさえずりと風の音だけ。そんな風景の中を自転車で駆け抜ける爽快感は、何物にも代えがたいものです。

    特におすすめのサイクリングコースが「十里画廊」です。陽朔の町から南に延びるこの道は、その名の通り、約10里(5キロメートル)にわたって絵画のような美しい景色が続くことから名付けられました。

    • 大榕樹(だいようじゅ)

    樹齢1400年以上といわれる巨大なガジュマルの木。その枝は広範囲に広がり、まるで一つの森のようです。映画『劉三姐』のロケ地としても知られ、多くの観光客で賑わっています。その生命力の強さに、きっと圧倒されることでしょう。

    • 月亮山(げつりょうざん/ムーンヒル)

    山の頂上付近に、三日月のような形をした大きな穴が開いていることからその名がついた奇岩。麓から見上げるだけでもそのユニークな形を楽しめますが、体力に自信があれば、山頂まで登ってみるのもおすすめです。約30〜40分の登山でたどり着く山頂からは、陽朔のカルスト地形と田園風景が織りなす360度の大パノラマを望むことができます。

    サイクリングに疲れたら、道端の小さな食堂で地元の料理を味わったり、農家のおばあさんが売る新鮮なフルーツで喉を潤したり。そんな気ままな寄り道も、自転車旅の醍醐味です。

    印象・劉三姐 – 壮大な自然劇場

    陽朔の夜を彩るエンターテイメントとして、絶対に外せないのが野外ショー「印象・劉三姐(いんしょう・りゅうさんしゃ)」です。これは、世界的に有名な映画監督、張芸謀(チャン・イーモウ)が演出を手掛けた、壮大なスペクタクルショー。

    驚くべきは、その舞台です。劇場は、なんと本物の漓江。幅2キロメートルにわたる川面をステージに、背景にはライトアップされた12の峰々がそびえ立つ。自然そのものを借景にした、世界最大の自然劇場なのです。

    物語は、この地に伝わる歌姫・劉三姐の伝説をベースに、少数民族の暮らしや愛、労働といったテーマを、歌と踊り、そして光と影で表現していきます。出演者は、プロの俳優ではなく、地元の漁師や農民たち総勢600人以上。彼らが小舟を巧みに操り、水上で繰り広げるパフォーマンスは、素朴ながらも力強く、観る者の心を揺さぶります。

    赤い衣装をまとった乙女たちが水面を舞う幻想的なシーン、無数の漁火が川面を埋め尽くす感動的なフィナーレ。自然と人間が見事に融合した、まさに夢のような70分間です。ショーが終わる頃には、きっと誰もが深い感動に包まれていることでしょう。陽朔の夜は、この壮大な自然劇場で締めくくるのが最高の選択です。

    桂林市内の見どころを巡る

    漓江下りや陽朔の魅力に目を奪われがちですが、旅の拠点となる桂林市内にも、訪れる価値のあるスポットが数多く存在します。時間をかけてじっくりと市内を巡れば、桂林の歴史や文化をより深く理解することができるでしょう。

    象鼻山 – 桂林のシンボル

    桂林の街のシンボルといえば、この「象鼻山(ぞうびざん)」をおいて他にありません。漓江と桃花江の合流点に位置するこの岩山は、まるで巨大な象が長い鼻を川に浸して水を飲んでいるかのような、非常にユニークな形をしています。

    公園として整備されており、中に入って間近でその姿を眺めることができます。象の鼻と体の間には「水月洞」と呼ばれる洞窟があり、夜、月が昇ると、水面に映る月影と洞窟が重なり合い、幻想的な光景を生み出すと言われています。

    公園内には、象の背中にあたる部分に登る遊歩道も整備されています。頂上には明代に建てられた普賢塔があり、ここからは桂林市内と漓江の流れを一望することができます。また、川の対岸から象鼻山の全景を写真に収めるのが定番の撮影スポット。桂林に来た記念に、ぜひ一枚撮っておきたい風景です。

    芦笛岩 – 地下の芸術宮殿

    桂林のカルスト地形が創り出した奇跡は、地上だけではありません。市の北西部に位置する「芦笛岩(ろてきがん)」は、地下に広がる巨大な鍾乳洞で、「大自然の芸術宮殿」との呼び声も高い、必見のスポットです。

    洞窟の入口に、笛を作るのに適した芦が生えていたことからその名が付けられました。一歩足を踏み入れると、そこは別世界。何億年もの歳月をかけて、水滴が一滴一滴つくりあげた鍾乳石、石筍、石柱が、摩訶不思議な形で林立しています。ライオン、キノコ、滝など、様々なものに見立てられた奇岩には、それぞれ名前が付けられています。

    洞窟内は色とりどりのライトで照らし出されており、その光景は非常に幻想的。特に、洞窟内で最も広い空間である「水晶宮」は圧巻です。かつては湖の底だったというこの場所は、鏡のように静かな水面にライトアップされた鍾乳石が映り込み、天地の境がわからないほどの神秘的な美しさに包まれています。ガイド付きのコースを約1時間かけて巡りますが、その間、飽きることなく驚きと感動の連続です。夏の暑い日には、天然のクーラーとして涼むのにも最適な場所です。

    独秀峰・王城景区 – 歴史と絶景の融合

    桂林の中心部に位置する「独秀峰・王城景区」は、美しい自然景観と、明代の歴史が融合したユニークな場所です。

    「独秀峰」は、平地に一本だけ、天を突くようにそびえる孤峰です。「南天一柱」とも称されるその姿は、周囲のどの山とも違う、圧倒的な存在感を放っています。山の麓には、「桂林山水甲天下」の有名な句が刻まれた石碑があり、この言葉が生まれた場所としての歴史を感じさせます。体力があれば、300段以上の石段を登って山頂へ。頂上からは、桂林の街並みと、それを取り囲むように連なる山々を360度見渡すことができ、まさに絶景です。

    この独秀峰を取り囲むように広がっているのが「王城」です。ここは、明の初代皇帝・朱元璋が、甥の朱守謙を靖江王としてこの地に封じた際に造営された王府の跡地。北京の紫禁城よりも古い歴史を持つと言われ、壮麗な門や宮殿が復元されています。かつての王族の暮らしに思いを馳せながら、広大な敷地を散策するのも良いでしょう。科挙の試験会場跡などもあり、中国の歴史に触れることができる貴重な場所です。

    両江四湖 – 夜のライトアップクルーズ

    桂林市内の夜の楽しみ方として人気なのが、「両江四湖(りょうこうしこ)」のナイトクルーズです。これは、桂林市内を流れる二つの川「漓江」「桃花江」と、四つの湖「榕湖(ようこ)」「杉湖(さんこ)」「桂湖(けいこ)」「木龍湖(もくりゅうこ)」を船で巡るというもの。

    かつては分断されていたこれらの水系が、運河によって結ばれ、一周約90分の壮大な周遊コースが生まれました。夜になると、湖畔の建物や橋、塔などが色鮮やかにライトアップされ、街は昼間とは全く違う幻想的な表情を見せます。

    クルーズのハイライトは、榕湖と杉湖に立つ「日月双塔」。金色の太陽の塔と、銀色の月の塔が水面に美しい姿を映し出し、ロマンチックな雰囲気を醸し出します。また、世界各国の名橋を模した様々なデザインの橋をくぐり抜けていくのも楽しみの一つ。船上では、少数民族の伝統的な鵜飼いのパフォーマンスが披露されることもあります。

    漓江の雄大な自然とはまた違う、洗練された都市の夜景を楽しめる両江四湖クルーズ。桂林での滞在の夜に、ぜひ体験してみてはいかがでしょうか。

    もう一歩先へ – 桂林周辺の秘境と少数民族文化

    桂林の魅力は、漓江と陽朔だけにとどまりません。もし旅の日程に余裕があるなら、少し足を延ばして、よりディープな桂林の姿に触れてみることを強くお勧めします。そこには、息をのむような絶景と、今もなお受け継がれる少数民族の豊かな文化が待っています。

    龍脊棚田 – 天国への階段

    桂林市内から北へ車で約2〜3時間。龍勝各族自治県に、天国へと続く階段と称される「龍脊棚田(りゅうせつたなだ)」の壮大な風景が広がっています。龍の背骨のように見えることから名付けられたこの棚田は、山の麓から頂上まで、曲線を描きながら幾重にも重なり、見る者を圧倒します。

    この棚田は、元代から始まり、清代に完成したと言われ、この地に暮らすチワン族やヤオ族の人々が、何世代にもわたって険しい山の斜面を切り拓いてきた、血と汗の結晶です。そのスケールと美しさは、まさに人間と自然が共同で創り出した芸術作品。

    龍脊棚田の魅力は、季節によってその表情をがらりと変えることです。

    • 春(4月〜5月): 田んぼに水が張られ、一枚一枚が空を映す鏡となります。夕日が沈む時間帯には、棚田全体がオレンジ色に染まり、幻想的な光景が広がります。
    • 夏(6月〜8月): 植えられた稲が生長し、山全体が鮮やかな緑の絨毯で覆われます。生命力にあふれた、最もエネルギッシュな季節です。
    • 秋(9月下旬〜10月上旬): 稲穂が実り、棚田は黄金色に輝きます。収穫を待つ一面の金色の波は、豊穣のシンボルであり、一年で最も美しい季節とも言われます。
    • 冬(12月〜2月): 運が良ければ、雪景色に出会えることも。白い雪が棚田の輪郭をくっきりと浮かび上がらせ、静謐で水墨画のような世界が広がります。

    棚田エリアにはいくつかの展望台があり、そこから見下ろす景色は格別です。特に「平安壮寨(へいあんそうさい)」の「九龍五虎」や、「大寨(たいさい)」の「西山韶楽」からの眺めは必見。展望台までは麓の村から徒歩で登る必要がありますが、その苦労が報われるだけの絶景が待っています。

    また、この地を訪れることは、チワン族やヤオ族の文化に触れる貴重な機会でもあります。特に、髪を一生切らず、長く美しい黒髪を保つことで知られる「紅ヤオ族」の女性たちの姿は印象的です。村には民宿(農家楽)も多く、棚田の景色を望む部屋に宿泊し、素朴な民族料理を味わうという、特別な体験も可能です。

    興坪古鎮 – 古き良き時代の面影

    漓江下りのハイライトの一つとして名前が挙がる「興坪(シンピン)」ですが、クルーズ船で通り過ぎるだけではもったいない、魅力あふれる古い町(古鎮)です。陽朔からバスで1時間弱とアクセスも良く、日帰りでも十分に楽しめますが、できれば一泊して、その静かな魅力に浸ってみることをお勧めします。

    興坪の最大の魅力は、何と言っても中国の20元紙幣の裏面に描かれた風景のモデルとなった場所であること。漓江のほとりにある展望スポットからは、紙幣と全く同じ構図の景色を写真に収めることができます。多くの観光客がこの場所を目指します。

    しかし、興坪の本当の魅力は、観光客が去った後の静かな時間にこそ感じられます。明代から続く古い街並みが残る「興坪古街」をそぞろ歩けば、まるでタイムスリップしたかのような感覚に。石畳の道、黒瓦の屋根、壁に残る革命スローガン。軒先で談笑する老人たちの姿や、路地を駆け回る子供たちの声。そこには、観光地化されすぎていない、ありのままの中国の田舎町の日常が流れています。

    早朝、川霧が立ち込める中、鵜飼いの小舟が静かに出漁していく幻想的な光景。夕暮れ時、対岸の山々が茜色に染まる美しい瞬間。こうした景色は、この町に滞在した者だけが見ることのできる特権です。陽朔の喧騒から離れ、ゆったりとした時間の流れの中で、漓江の原風景に溶け込む。そんな贅沢な時間を過ごしたいなら、興坪古鎮は最高の選択肢となるでしょう。

    桂林の食を味わい尽くす

    旅の喜びは、景色や文化に触れることだけではありません。その土地ならではの食を味わうことも、旅の醍醐味の一つです。桂林には、素朴ながらも奥深い、魅力的なグルメがたくさんあります。辛さと酸味が特徴の広西料理をベースに、この土地ならではの食材を活かした料理の数々。ぜひ、色々試して、お気に入りを見つけてください。

    桂林米粉 – 朝食の定番

    桂林の食を語る上で、絶対に欠かせないのが「桂林米粉(ビーフン)」です。これは、桂林市民のソウルフードであり、朝食の定番。街の至る所に専門店があり、朝早くから多くの地元民で賑わっています。

    米粉とは、米を原料にして作られた麺のこと。店に入ると、まず基本の麺と肉(滷水と呼ばれる秘伝のタレで煮込んだ牛肉や豚肉が一般的)が入った丼を受け取ります。ここからが桂林米粉の楽しいところ。カウンターには、ネギ、パクチー、唐辛子、酸豆角(インゲンの漬物)、カリカリに揚げた大豆やピーナッツなど、様々なトッピングがずらりと並んでおり、これを自分の好きなだけ、好きなようにのせていきます。

    自分好みにカスタマイズした丼に、テーブルに置かれたスープ(豚骨や牛骨で出汁をとったもの)を少し注ぎ、よくかき混ぜてからいただきます。つるつるとした喉ごしの良い麺に、様々なトッピングの食感と風味が絡み合い、絶妙なハーモニーを奏でます。一杯食べ終わったら、残ったタレにスープをたっぷり注いで飲み干すのが、地元流の締め方。一杯10元(約200円)程度と非常にリーズナブルながら、その満足感は絶大です。桂林滞在中、毎朝違う店で食べ比べてみるのも楽しいでしょう。

    陽朔名物・ビール魚

    陽朔を訪れたら、ぜひ挑戦してほしい名物料理が「啤酒魚(ピージョーユー)」、すなわちビール魚です。これは、漓江で獲れた新鮮な鯉などの川魚を、丸ごと一匹、地元のビールを使って豪快に煮込んだ料理。トマトやピーマン、唐辛子などの野菜もたっぷり入っており、彩りも鮮やかです。

    大きな皿に盛られて運ばれてきたビール魚は、見た目のインパクトも抜群。ビールのアルコールは調理の過程で飛んでしまいますが、麦芽の風味が魚の臭みを消し、深いコクと旨味を引き出しています。ピリ辛で濃厚な味わいは、ご飯が進むこと間違いなし。魚の身はふっくらと柔らかく、野菜の甘みと酸味が絶妙なアクセントになっています。

    陽朔の西街やその周辺には、ビール魚を看板メニューに掲げるレストランが数多くあります。店先の水槽で泳いでいる魚を自分で選んで調理してもらうのが一般的。値段は魚の重さによって決まります。少し値段は張りますが、陽朔でしか味わえない、思い出に残る一品となるでしょう。

    油茶 – 少数民族の伝統的なおもてなし

    桂林北部や龍勝などの少数民族が暮らす地域で出会える、非常にユニークな食文化が「油茶(ヨウチャ)」です。これは、お茶という名前がついていますが、私たちが知るお茶とは全くの別物。むしろ、スープに近い飲み物です。

    作り方は、まず茶葉を油で炒め、叩き潰してからお湯を注いで煮出し、塩やニンニク、ショウガなどで味を調えます。この独特の風味を持つお茶を、お椀に注ぎ、炒り米や揚げた豆、ネギなどを入れていただきます。

    初めて口にすると、その香ばしさと塩気、そしてお茶の苦味が混ざり合った、複雑な味わいに驚くかもしれません。正直、好き嫌いがはっきりと分かれる味です。しかし、これが彼らの伝統的なおもてなしの心。何度もおかわりを勧められ、飲み干すたびにお椀に注いでくれます。一杯目は不思議な味、二杯目は慣れてきて、三杯目にはなんだかクセになる。そんな不思議な魅力を持つのが油茶です。龍脊棚田などを訪れた際には、ぜひこの伝統的な味に挑戦し、少数民族の文化に触れてみてください。

    その他のおすすめ料理

    • 荔浦芋扣肉(リープーユートウコウロウ): 桂林近郊の荔浦特産のタロイモと、豚の三枚肉を交互に並べて蒸した、見た目も美しい料理。タロイモはホクホクで、甘辛いタレが染み込んだ豚肉はとろけるように柔らかく、絶品です。
    • 田螺酿(ティエンルオニャン): タニシの身を取り出して、豚ひき肉や香味野菜と混ぜ合わせ、再び殻に詰めて煮込んだ料理。ハッカなどの香草が効いており、タニシの旨味が凝縮された、お酒のつまみにぴったりの一品です。

    桂林の食は、決して派手ではありませんが、その土地の恵みを活かした、滋味深い料理ばかり。旅の思い出を、より一層豊かなものにしてくれるはずです。

    桂林旅行のプランニングガイド

    素晴らしい旅は、良い計画から始まります。ここでは、あなたの桂林旅行が最高のものになるよう、旅の計画に役立つ実践的な情報をお届けします。

    ベストシーズンはいつ?

    桂林は一年を通して訪れることができますが、気候が穏やかで最も快適に過ごせるベストシーズンは、春(4月〜5月)と秋(9月〜10月)です。

    • 春(4月〜5月): 気温が暖かくなり、新緑が美しい季節です。降水量が増え始め、霧や靄が発生しやすくなるため、最も水墨画らしい幻想的な風景に出会える確率が高い時期と言えます。
    • 夏(6月〜8月): 一年で最も暑く、湿度も高くなります。雨量もピークを迎え、漓江の水量が増すため、迫力ある景色が楽しめます。暑さ対策と雨具は必須です。
    • 秋(9月〜10月): 残暑が和らぎ、晴天の日が多くなります。空気は澄み渡り、気候的にも非常に過ごしやすいベストシーズンです。街の金木犀が香り、龍脊棚田は黄金色に輝きます。
    • 冬(11月〜3月): 寒さはそれほど厳しくありませんが、曇りがちの日が多くなります。観光客が少なく、落ち着いて観光できるのがメリット。漓江の水量が減るため、一部区間が運休になる可能性もあります。

    アクセス方法

    日本から桂林へのアクセスは、上海、広州、香港などの主要都市を経由するのが一般的です。これらの都市から桂林両江国際空港へは、中国国内線が多数就航しています。

    桂林両江国際空港から桂林市内へは、エアポートバスを利用するのが最も安くて便利です。市内の主要ホテルや駅近くに停車します。タクシーを利用する場合は、メーターを使っているか確認し、相場を把握しておくと安心です。

    近年、中国国内では高速鉄道網が急速に発達しており、広州、深圳、貴陽などから高速鉄道で桂林へアクセスすることも可能です。時間も正確で快適なため、中国の他の都市と組み合わせて旅をする場合は非常に便利な選択肢となります。

    モデルコース提案

    ここでは、滞在日数に応じたモデルコースをいくつかご紹介します。あなたの興味や時間に合わせて、自由にアレンジしてみてください。

    桂林・陽朔 満喫3泊4日コース

    • 1日目: 桂林到着。市内のホテルにチェックイン後、夜は「両江四湖」のナイトクルーズで幻想的な夜景を楽しむ。
    • 2日目: 午前中、「漓江下り」で陽朔へ。水墨画の世界を堪能。陽朔到着後、ホテルにチェックインし、「西街」を散策。夜は「印象・劉三姐」を鑑賞。
    • 3日目: 午前中、レンタサイクルで「十里画廊」をサイクリング。「大榕樹」や「月亮山」を見学。午後、バスで桂林へ戻る。
    • 4日目: 午前中、桂林のシンボル「象鼻山」と、地下宮殿「芦笛岩」を見学。午後、空港へ向かい帰国の途へ。

    自然と文化に触れる 4泊5日じっくりコース

    • 1日目: 桂林到着。市内を散策し、名物の桂林米粉で腹ごしらえ。「独秀峰・王城景区」で歴史に触れる。
    • 2日目: 専用車またはバスで「龍脊棚田」へ。展望台からの絶景を楽しみ、少数民族の村を散策。棚田の民宿に宿泊。
    • 3日目: 朝、棚田の美しい朝景を堪能。午前中に桂林へ戻り、午後から「漓江下り」で陽朔へ。夜は陽朔名物「ビール魚」に舌鼓。
    • 4日目: 午前中、陽朔で自由時間。ラフティングやサイクリングなどアクティブに過ごす。午後に桂林へ戻り、お土産探し。
    • 5日目: 午前中、「象鼻山」を見学。フライトの時間に合わせて空港へ。

    旅の注意点とヒント

    • 通貨と支払い: 中国の通貨は人民元(RMB)です。都市部ではクレジットカードが使える場所も増えていますが、ローカルな食堂や市場では現金が必要です。近年はAlipayやWeChat Payといったモバイル決済が主流ですが、旅行者が利用するには設定が難しいため、ある程度の現金を用意しておくと安心です。
    • ビザ: 日本国籍の場合、観光目的での15日以内の滞在であればビザは不要です(渡航前に最新情報をご確認ください)。
    • インターネット: 中国ではGoogle、Facebook、Twitter、Instagram、LINEなどが利用できません。これらのサービスを利用したい場合は、VPN(Virtual Private Network)が必要です。日本で契約・設定を済ませておきましょう。
    • トイレ: 公衆トイレは、紙が備え付けられていないことがほとんどです。トイレットペーパーやティッシュは常に携帯しましょう。
    • 服装: 歩きやすい靴は必須です。夏は日差しが強いので帽子やサングラス、日焼け止めを。春や秋は朝晩冷え込むことがあるので、羽織るものを一枚持っていくと便利です。
    • 客引き: 観光地では、しつこい客引きに会うこともあります。興味がなければ、はっきりと「不要(ブーヤオ)」と断りましょう。

    桂林の旅は、きっとあなたの心に深く刻まれる、忘れられない体験となるはずです。ページをめくるように次々と現れる絶景、そこで暮らす人々の温かさ、そして土地の恵みを活かした美味しい料理。さあ、準備はできましたか?山水画の世界が、あなたを待っています。

    よかったらシェアしてね!
    • URLをコピーしました!
    • URLをコピーしました!

    この記事を書いたトラベルライター

    SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

    目次