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    三国志とパンダ、そして美食の桃源郷。悠久の都・成都を味わい尽くす完全ガイド

    悠久の歴史と最先端の活気が交差し、愛らしいパンダがのんびりと笹を食み、しびれるような麻婆豆腐の香りが路地裏から漂ってくる。そんな五感を揺さぶる街が、中国・四川省の省都、成都です。三国志の英雄たちが駆け抜けた蜀の国の中心地であり、「天府の国」と称えられるほど豊穣な大地に恵まれたこの場所は、ただの観光地ではありません。人々が「慢生活(マンシェンフオ)」と呼ばれる、ゆったりとした時間の流れを慈しむ、心地よい生活の舞台でもあります。

    喧騒のイメージがある中国の大都市とは一線を画し、公園の茶館では人々がお茶をすすりながら語らい、耳かき師が巧みな技を披露する。かと思えば、一歩足を踏み出すと、洗練されたブティックが並ぶモダンなストリートが広がる。この古くて新しい、刺激的でありながらどこか懐かしい魅力こそが、世界中の旅人を惹きつけてやまない成都の魔法なのです。

    この記事では、そんな成都の魅力を余すところなくお伝えします。絶対に外せない王道スポットから、あなたの舌を唸らせる絶品グルメ、この地ならではのディープな文化体験まで。さあ、読むだけで旅が始まる、成都の奥深い世界へご案内しましょう。この記事を読み終える頃には、きっとあなたの心は、遥か成都の空の下へと飛んでいっているはずです。

    目次

    なぜ今、成都なのか? – 四川省の都が放つ唯一無二の魅力

    数多ある中国の都市の中で、なぜ今、成都がこれほどまでに注目を集めているのでしょうか。それは、この街が持つ多層的な魅力と、現代人が求める「豊かさ」が見事に調和しているからに他なりません。

    成都は、四川盆地の西部に位置し、古くからその肥沃な土地と温暖な気候により「天府の国」と呼ばれてきました。豊かな水資源をもたらす都江堰(とこうえん)という古代の水利施設のおかげで、この地は旱魃や水害を知らず、常に豊かな食糧を産出してきました。この物質的な豊かさが、人々の心に余裕をもたらし、成都独特の文化を育んできたのです。

    その象徴が「慢生活(マンシェンフオ)」、つまりスローライフという考え方です。成都の人々は、急ぐことを良しとせず、日々の暮らしの中に楽しみを見出す達人。公園のベンチで日向ぼっこをしたり、お気に入りの茶館で何時間もおしゃべりに興じたり、気の置けない仲間と麻雀に熱中したり。その光景は、時間に追われる現代の私たちにとって、どこか眩しく、そして心の琴線に触れるものがあります。

    しかし、成都はただのんびりしただけの街ではありません。近年は中国西部の経済・文化・交通のハブとして目覚ましい発展を遂げています。きらびやかなショッピングモール「太古里(たいこり)」には世界のトップブランドが軒を連ね、高層ビルが次々と建設されています。地下鉄網は都市の隅々まで延び、移動は驚くほど快適です。

    この最先端の都市機能と、何百年も変わらない伝統的な生活様式が、まるでグラデーションのように自然に溶け合っているのが成都の最大の魅力と言えるでしょう。古い寺院のすぐ隣にスタイリッシュなカフェがあったり、歴史的な街並みの中で若者が最新のファッションに身を包んで闊歩していたり。この新旧のコントラストが、街歩きを一層面白くしてくれます。

    三国志の歴史ロマン、パンダの愛くるしさ、四川料理の刺激的な美食、そして人々が紡いできた穏やかな生活文化。これらすべてが渾然一体となり、訪れる者に忘れられない体験を約束してくれる。それが、私たちが今、成都へと旅すべき理由なのです。

    絶対に外せない!成都観光の王道スポット

    成都には、悠久の歴史と豊かな自然が育んだ、魅力的な観光名所が数多く存在します。初めて訪れるなら、まずはここから。あなたの成都旅行を彩る、必見の王道スポットをご紹介します。

    ジャイアントパンダ繁殖研究基地 – 愛くるしい国宝との出会い

    成都に来て、パンダに会わないという選択肢はありません。世界中のパンダファンが憧れる聖地、それが「成都ジャイアントパンダ繁殖研究基地」です。ここは単なる動物園ではなく、絶滅の危機に瀕するジャイアントパンダの保護と繁殖を目的とした世界トップクラスの研究施設。広大な敷地内では、パンダたちが自然に近い環境でのびのびと暮らしています。

    この基地を訪れるなら、絶対に午前中、できれば開園と同時に到着することをおすすめします。なぜなら、パンダが最も活発に活動するのは朝の食事の時間だからです。笹やタケノコを夢中で頬張る姿、木に登ってじゃれ合う子パンダたち、ゴロゴロと寝転がる愛嬌たっぷりの仕草。そのすべてが、訪れる人々の心を鷲掴みにします。特に「幼年園」では、よちよち歩きの赤ちゃんパンダたちが集められており、その可愛らしさは筆舌に尽くしがたいものがあります。

    敷地は非常に広大なので、効率よく回るなら電動カートの利用が便利です。しかし、時間に余裕があれば、竹林が美しい遊歩道をゆっくりと散策するのも一興。鳥のさえずりを聞きながら歩いていると、ふと目の前の木の上でパンダが昼寝をしていた、なんていう嬉しいサプライズに出会えるかもしれません。

    レッサーパンダも忘れてはならない存在です。ジャイアントパンダのエリアとは別に、愛らしいレッサーパンダたちが駆け回るエリアもあり、こちらも見応え十分。彼らが頭上を渡っていく姿を見られることもあります。

    基地内にはパンダに関する博物館や、可愛らしいパンダグッズが揃うショップ、さらにはパンダをテーマにした郵便局まであります。ここから手紙を出せば、特別なパンダの消印が押され、旅の素敵な記念になることでしょう。成都パンダ基地は、ただ動物を見るだけでなく、生命の尊さと自然保護の大切さを感じさせてくれる、感動的な場所なのです。

    武侯祠博物館 – 三国志の英雄たちに想いを馳せる

    日本の多くの人々を魅了してやまない「三国志」。その物語の中心人物である蜀の丞相・諸葛孔明と、その主君・劉備を祀るのが「武侯祠(ぶこうし)」です。ここは、中国で唯一、君臣を合祀する祠であり、全国に数ある武侯祠の中でも最も影響力のある聖地とされています。

    一歩足を踏み入れると、樹齢数百年の楠が天を覆い、都会の喧騒が嘘のような静寂に包まれます。厳かな空気が漂う中、参道をゆっくりと進んでいきましょう。まず目に入るのは、文武官の廊下。そこには、関羽や張飛をはじめとする蜀の武将・文官たちの像がずらりと並び、まるで今にも動き出しそうな迫力で訪れる者を出迎えてくれます。一体一体の表情や出で立ちを見ながら、彼らが繰り広げた物語に想いを馳せる時間は、三国志ファンにとって至福のひとときです。

    中心にある劉備殿には、威厳に満ちた劉備玄徳の金色の像が鎮座しています。そしてその奥、一段と静かで神聖な雰囲気が漂うのが諸葛亮殿です。中央に座す諸葛孔明の像は、知性に溢れ、それでいてどこか憂いを帯びた表情をしています。「出師の表」を胸に、蜀の未来を案じ続けた彼の苦悩と忠誠心が伝わってくるようです。

    敷地内には、劉備の墓である「恵陵」や、唐の時代に作られ、見事な文章・書・彫刻から「三絶碑」と称される石碑など、歴史的な見どころが点在しています。これらを一つひとつ見て回ることで、約1800年前の英雄たちの息遣いを、よりリアルに感じることができるでしょう。

    武侯祠は、ただの史跡ではありません。それは、義と忠誠に生きた人々の魂が今もなお宿る場所。歴史の重みとロマンを感じながら、心静かに英雄たちと対話する。そんな贅沢な時間を過ごせるのが、この武侯祠なのです。

    杜甫草堂 – 詩聖が暮らした静寂の地

    中国文学史に燦然と輝く大詩人、「詩聖」と称される杜甫。彼が安史の乱を逃れ、成都で約4年間を過ごしたのが、この「杜甫草堂」の地です。ここは、杜甫が数々の名作を生み出した場所であり、中国文学を愛する人々にとってはまさに聖地と言えるでしょう。

    武侯祠の荘厳さとは対照的に、杜甫草堂は緑豊かな庭園のような趣で、心安らぐ空気に満ちています。梅や楠の木々が茂り、美しい池や小川が配された園内を散策していると、まるで杜甫が生きていた時代にタイムスリップしたかのような錯覚に陥ります。

    中心的な建物である「大雅堂」には、杜甫をはじめとする歴代の偉大な詩人たちの巨大な肖像が飾られ、中国文学の壮大な歴史絵巻を目の当たりにすることができます。そして、この草堂のハイライトとも言えるのが、当時の彼の住居を再現した「茅屋故居」です。藁葺き屋根の素朴な家は、華やかさとは無縁ですが、ここで杜甫が家族と暮らし、国の行く末を憂い、人々の苦しみを詩に詠んだのかと思うと、胸に迫るものがあります。

    「春望」の「国破れて山河在り」という有名な一節を思い出しながら、この静かな場所で彼の人生に触れるとき、私たちは詩というものが持つ普遍的な力を改めて感じることでしょう。杜甫草堂は、詩的なインスピレーションに満ちた、成都で最も心洗われる場所の一つ。文学に詳しくなくとも、その美しい庭園と静寂は、旅の疲れを優しく癒してくれるはずです。

    寬窄巷子 – 古き良き成都と現代が交差する場所

    成都の今を体感したいなら、「寬窄巷子(クアンザイシャンズ)」は外せません。清の時代に作られた古い街並みをリノベーションしたこのエリアは、伝統的な建築美とモダンなセンスが融合した、成都で最もお洒落なスポットの一つです。

    「寬巷子(広い路地)」「窄巷子(狭い路地)」「井巷子(井戸の路地)」という3本の通りから構成されており、それぞれに異なる魅力があります。

    • 寬巷子: その名の通り、広々とした通りで、成都の古き良き生活を再現したような、どこか懐かしい雰囲気が漂います。伝統的な四合院(しごういん)建築を改装したレストランや茶館が並び、ゆったりとした時間を過ごすのに最適です。
    • 窄巷子: こちらは若者向けのショップやカフェ、バーが多く集まる、よりモダンで洗練された雰囲気の通りです。お洒落なブティックで買い物を楽しんだり、デザイン性の高いカフェで一休みしたり。成都のトレンドを感じることができます。
    • 井巷子: 昔ながらのレンガの壁に、成都の歴史や文化をテーマにしたアートが描かれており、フォトジェニックなスポットとして人気です。昔の井戸も残されており、庶民の暮らしの息吹を感じられます。

    寬窄巷子の魅力は、ただ歩くだけでも楽しいその建築美にあります。美しい彫刻が施された門や窓、青みがかったレンガ造りの壁など、一つひとつの建物に歴史の物語が刻まれているようです。

    また、ここには成都名物の「三大炮」という餅菓子を売るパフォーマンスや、飴細工、似顔絵描きなど、様々なストリートアートや屋台があり、散策を一層楽しくしてくれます。夜になると提灯に明かりが灯り、昼間とはまた違った幻想的な雰囲気に包まれます。古い街並みと現代の活気が見事に調和した寬窄巷子は、成都の縮図とも言える場所。お土産探しにも、グルメを楽しむにも、そしてただ散策するだけでも、尽きない魅力があなたを待っています。

    錦里古街 – 赤提灯が灯る幻想的な夜景

    武侯祠のすぐ隣に広がる「錦里(きんり)」は、三国時代の蜀の街並みを再現した、賑やかな古街です。日中も多くの観光客で賑わいますが、錦里の真骨頂は夜にあります。日が落ちると、軒先に吊るされた無数の赤い提灯に一斉に明かりが灯り、通り全体が幻想的な光に包まれるのです。その光景は、まるで映画のセットの中に迷い込んだかのよう。

    錦里の魅力は、なんといってもその食べ歩きグルメの豊富さです。通りの両脇には、様々な屋台がずらりと並び、食欲をそそる香りを漂わせています。甘辛いタレで煮込んだ串料理「鉢鉢鶏(ボーボージー)」、ピーナッツの粉をまぶした餅菓子「三大炮」、ピリ辛のタレがかかった餃子「鐘水餃(ジョンシュイジャオ)」など、成都ならではの小吃(シャオチー、軽食)が目白押し。あれこれ少しずつ試しながら歩くのが、錦里の正しい楽しみ方です。

    グルメだけでなく、伝統工芸品やユニークなお土産を売る店もたくさんあります。蜀錦(しょっきん)と呼ばれる美しい絹織物や、パンダをモチーフにした可愛らしい雑貨、影絵の人形など、見ているだけでも飽きません。

    また、通りの中ほどには昔ながらの芝居小屋があり、タイミングが合えば川劇の一部を鑑賞することもできます。錦里は、成都の食と文化、そして活気を一度に体験できる、まさにテーマパークのような場所。武侯祠で歴史に触れた後、そのまま錦里の賑わいと幻想的な夜景に身を任せる。これは、成都観光のゴールデンルートと言えるでしょう。

    食は成都にあり!本場の四川料理を心ゆくまで味わう

    「食は広州にあり」という言葉がありますが、現代の中国では「食は成都にあり」と言われるほど、この街は美食の都として世界的に知られています。2010年には、アジアで初めてユネスコの「食文化創造都市」に認定されたことからも、その食文化の豊かさと奥深さがうかがえます。成都を旅する醍醐味の半分は、この食にあると言っても過言ではありません。

    麻辣だけじゃない!四川料理の奥深い世界

    四川料理と聞くと、多くの人が唐辛子の「辣(ラー)」と花椒(ホアジャオ)の痺れるような「麻(マー)」を合わせた「麻辣(マーラー)」味を思い浮かべるでしょう。確かに麻辣は四川料理の魂とも言える味付けですが、それは数ある味のバリエーションの一つに過ぎません。

    実は、本場の四川料理には「二十四味型」と呼ばれる、24種類もの基本の味付けが存在すると言われています。例えば、甘酢あんかけのような「荔枝(ライチ)味」、ニンニクと唐辛子、酢、醤油などが絶妙に組み合わさった「魚香(ユーシャン)味」、そして様々な調味料が複雑に絡み合った「怪味(グァイウェイ)」など、その味わいは驚くほど多彩です。

    成都のレストランでは、辛い料理だけでなく、全く辛くない優しい味付けの料理も豊富にあります。例えば、鶏の出汁が効いたスープ料理や、あっさりとした炒め物など、辛いものが苦手な人でも心から楽しめるメニューがたくさんあるのです。成都での食事は、麻辣の刺激的な世界を探求する冒険であると同時に、四川料理の知られざる奥深さに触れる文化体験でもあります。先入観を捨てて、様々な味に挑戦してみてください。きっと、あなたの食の世界が大きく広がるはずです。

    絶対に食べたい!成都名物グルメ図鑑

    成都には、絶対に味わっておきたい名物料理が星の数ほどあります。ここでは、その中でも代表的なものをいくつかご紹介しましょう。

    火鍋(フオグオ)

    成都の食文化を語る上で、火鍋は絶対に外せません。街の至る所に火鍋店があり、夜になると多くの人々が鍋を囲んで賑やかな宴を楽しんでいます。成都の火鍋は、牛脂をベースにした真っ赤なスープが特徴で、数十種類のスパイスや漢方が溶け込んでいます。そのスープは、ただ辛いだけでなく、複雑で豊かな香りと深いコクがあり、一度食べたら病みつきになること間違いなしです。

    鍋は中央で二つに仕切られた「鴛鴦鍋(ユアンヤンゴー)」が一般的。片方には激辛の麻辣スープ、もう片方には鶏や豚骨で出汁をとった辛くない白湯(バイタン)スープが入っているので、辛いものが苦手な人でも一緒に楽しめます。

    具材は、薄切りの羊肉や牛肉、センマイやハチノスといったモツ類、キノコ、野菜、豆腐、練り物など、実に様々。自分で好きな具材を選んで注文するスタイルが主流です。タレもまた重要で、ごま油にニンニク、パクチー、ネギなどを混ぜて作るのが成都スタイル。このごま油が、麻辣の刺激を和らげ、風味を一層豊かにしてくれます。仲間と鍋を囲み、汗をかきながら食べる本場の火鍋は、最高の旅の思い出になるでしょう。

    麻婆豆腐(マーボードウフ)

    日本でもお馴染みの麻婆豆腐ですが、その発祥の地はここ成都です。ぜひ元祖の味を体験してみてください。本場の麻婆豆腐は、日本のものとは一線を画します。まず、見た目からして油がたっぷりと浮いていて、見るからに辛そう。そして一口食べると、唐辛子の燃えるような辛さ(辣)と、花椒の舌が痺れる感覚(麻)が口の中いっぱいに広がります。

    しかし、その刺激の奥には、豆板醤や豆豉(トウチ)の深いコクと旨味、そして豆腐の優しい甘みがしっかりと存在しています。この複雑な味のハーモニーこそが、本場の麻婆豆腐の真髄。「陳麻婆豆腐」という発祥の店は今も健在で、多くの観光客や地元民で賑わっています。白飯との相性は言うまでもなく抜群。あまりの美味しさに、痺れる舌のもどかしさも忘れ、夢中でご飯をかきこんでしまうはずです。

    担担麺(タンタンメン)

    日本のラーメン店でも人気の担担麺。しかし、これもまた本場のものとはスタイルが異なります。成都の担担麺は、基本的に「汁なし」です。小さな碗の底に、醤油、ラー油、花椒、ゴマだれ、そして豚肉のそぼろなどが入っており、その上に茹でたての麺が乗せられています。食べる前によくかき混ぜると、濃厚なタレが麺に絡みつき、食欲をそそる香りが立ち上ります。

    その名の由来は、天秤棒(担担)で道具を担いで売り歩いていたことから来ています。そのため、一杯の量は少なめ。軽食やおやつ感覚で食べられるのが特徴です。濃厚でピリ辛、そして痺れる味わいは、少量でも満足感たっぷり。街角の小さなお店で、地元の人に混じってすする一杯は格別です。

    龍抄手(ロンチャオショウ)

    「抄手」とは、四川でのワンタンの呼び名です。つるりとした薄い皮で豚肉の餡を包んだもので、日本のワンタンよりも大きく、食べ応えがあります。成都で最も有名な店が「龍抄手」で、もはやこの料理の代名詞となっています。

    龍抄手の魅力は、そのスープのバリエーションの豊かさにあります。あっさりとした清湯(チンタン)スープ、ピリ辛の紅油(ホンヨウ)スープなど、好みに合わせて選べます。特に紅油抄手は、ラー油ベースのタレが抄手によく絡み、食欲を刺激します。プリプリの皮とジューシーな餡、そして風味豊かなタレが三位一体となった美味しさは、成都を訪れたら必ず試してほしい一品です。

    串串香(チュアンチュアンシャン)

    火鍋をもっと手軽に、カジュアルに楽しみたいなら「串串香」がおすすめです。これは、竹串に刺した様々な具材を、自分で好きなだけ選び、火鍋のスープで煮て食べるスタイル。肉、野菜、練り物など、数十種類もの串が冷蔵ケースにずらりと並んでいる光景は圧巻です。

    会計は、最後に食べた串の数(あるいは重さ)で計算される明朗会計。一人でも気軽に楽しめ、色々な具材を少しずつ試せるのが魅力です。火鍋店よりも庶民的で活気のある雰囲気の中、ビール片手に串を頬張れば、すっかり成都人気分を味わえるでしょう。

    美食街と老舗レストラン – 食い倒れの旅へ

    成都には、上で紹介した名物料理を味わえる店が至る所にあります。特定の店を目指すのも良いですが、美食街をぶらぶらと歩き、気になるものを試してみるのも楽しいものです。

    • 錦里寬窄巷子は、観光客向けではありますが、成都の様々な小吃(軽食)を手軽に楽しめる絶好の場所です。雰囲気も良く、食べ歩きには最適。
    • 地元の若者に人気のエリアとしては、建設路が挙げられます。ここは夜になると屋台がひしめき合い、最新のB級グルメから伝統的な小吃まで、ありとあらゆるものが揃う食の天国となります。
    • よりディープな食体験を求めるなら、大学周辺のエリアや、昔ながらの住宅街に隠れた「蒼蠅館子(ハエが集まるほど美味しい、安くて旨い大衆食堂の意)」を探してみるのも一興です。

    もちろん、ゆっくりと腰を据えて四川料理のフルコースを堪能できる高級レストランや、特定の料理を専門とする老舗も数多く存在します。例えば、麻婆豆腐の「陳麻婆豆腐」、担担麺の「小名堂担担甜水面」、龍抄手の「龍抄手」などは、その料理を食べるならまず名前が挙がる名店です。

    成都の食の探求は、一度の旅では決して終わりません。訪れるたびに新しい発見があり、あなたの食の記憶に鮮烈な一ページを加えてくれることでしょう。

    成都ならではの文化体験 – 旅の思い出をより深く

    観光地を巡り、美味しいものを食べるだけが旅ではありません。その土地ならではの文化に触れることで、旅の思い出はより一層深く、色鮮やかなものになります。成都には、この街の気質を体現するような、ユニークで魅力的な文化体験が待っています。

    茶館文化と「掏耳(耳かき)」体験

    成都の人々の生活と切っても切り離せないのが「茶館(ちゃかん)」の存在です。成都には、街の至る所に数え切れないほどの茶館があり、それは人々にとって単にお茶を飲む場所ではなく、社交場であり、憩いの場であり、情報交換の場でもあります。

    特に有名なのが「人民公園」の中にある屋外の茶館です。湖のほとりにずらりと並べられた竹の椅子に腰かけ、蓋付きの茶碗「蓋碗(がいわん)」でジャスミン茶などを注文するのが成都スタイル。お湯は何度でも注ぎ足してくれるので、何時間でものんびりと過ごすことができます。友人とおしゃべりする人、一人で本を読む人、トランプや麻雀に興じるグループ。そこには、成都の「慢生活」の精神が凝縮されています。

    そして、この茶館でぜひ体験してみたいのが、成都名物の「掏耳(タオアール)」、すなわち耳かきです。専門の耳かき師が、様々な道具を巧みに使い分け、耳の中を丁寧に掃除してくれます。頭にライトをつけ、細長い道具を耳に入れる姿は少しドキドキするかもしれませんが、その技術はまさに職人芸。最後に行う音叉のような道具での仕上げは、振動が頭蓋骨に響き、何とも言えない心地よさと快感をもたらします。施術が終わった後の爽快感は格別です。

    茶館のざわめきの中で、お茶をすすりながら受けるプロの耳かき。これは、他では決して味わえない、成都ならではのディープで心地よい文化体験と言えるでしょう。

    川劇「変面」の衝撃 – 一瞬の芸術に息をのむ

    四川省の伝統芸能である「川劇(せんげき)」。その中でも、観客の度肝を抜くスペクタクルとして世界的に有名なのが「変面(へんめん)」です。役者が顔に当てた手をさっと下ろしたり、マントを翻したりしたその一瞬で、顔の隈取(マスク)が次々と変わっていく摩訶不思議な芸。その早業は、まるで魔法を見ているかのようで、観客は息をのむしかありません。

    この変面の技術は、一子相伝の秘伝とされ、その仕掛けはトップシークレット。どのようにして瞬時に面を変えているのか、様々な憶測が飛び交っていますが、その謎に包まれた部分もまた魅力の一つです。

    変面だけでなく、火を噴く「噴火」や、コミカルなアクロバットなど、川劇には見どころがたくさんあります。物語は中国語で進行しますが、言葉がわからなくても、その派手な衣装や立ち回り、そして何より変面の衝撃的なパフォーマンスだけで十分に楽しむことができます。

    成都には、川劇を鑑賞できる専門の劇場や、食事をしながらショーを楽しめるレストラン、そして寬窄巷子や錦里にある茶館など、様々な場所があります。特に、お茶を飲みながら間近で鑑賞できる茶館での公演は、役者の息遣いまで感じられるほどの臨場感がありおすすめです。成都の夜を、この驚きと興奮に満ちた伝統芸能で締めくくってみてはいかがでしょうか。

    青城山と都江堰 – 世界遺産で感じる自然と古代の叡智

    成都の市内観光を満喫したら、少し足を延ばして、日帰りで訪れることができる世界遺産にもぜひ訪れてみてください。「青城山(せいじょうざん)」と「都江堰(とこうえん)」は、2000年にユネスコの世界複合遺産に登録された、自然と文化が融合した素晴らしい場所です。

    青城山

    「青城天下幽(青城は天下の幽玄)」と称される青城山は、中国四大道教名山の一つに数えられる聖地です。一年を通して緑深い木々に覆われ、静かで神秘的な雰囲気が漂っています。山は、道教寺院が点在する「前山」と、より自然が豊かでハイキングに適した「後山」に分かれています。

    道教文化に触れたいなら前山がおすすめです。ロープウェイで中腹まで登り、そこから「上清宮」や「老君閣」といった主要な道観(道教寺院)を巡るのが一般的なルート。苔むした石段を登り、線香の香りが漂う境内を歩いていると、心が洗われるような清々しい気持ちになります。

    一方、アクティブに自然を満喫したいなら後山へ。美しい渓谷沿いの道を歩き、滝や吊り橋を渡りながら山頂を目指すコースは、本格的なトレッキングが楽しめます。成都の喧騒を離れ、清らかな空気の中で心身ともにリフレッシュできるでしょう。

    都江堰

    都江堰は、今から約2300年前の戦国時代に、蜀の郡守であった李冰(りひょう)親子によって建設された、古代の巨大水利施設です。驚くべきは、この施設がダムではなく、自然の力を巧みに利用して岷江(みんこう)の流れをコントロールし、成都平野に水を安定供給すると同時に、水害を防ぐ仕組みになっていることです。

    中心となるのは、「魚嘴(ぎょし)」「飛沙堰(ひさえん)」「宝瓶口(ほうへいこう)」と呼ばれる3つの主要部分。これらが連携し、水量を自動的に調節し、土砂を排出し、灌漑用水を分配するという、まさに古代人の叡智の結晶です。そして何よりすごいのは、この2300年前に作られたシステムが、今なお現役で機能し、成都平野の豊かさを支え続けているという事実です。

    轟音を立てて流れる川の水、そしてそれを巧みに操る施設の壮大さを目の当たりにすると、人間の知恵と自然への畏敬の念を抱かずにはいられません。成都が「天府の国」と呼ばれる、その原点を肌で感じることができる場所。それが都江堰なのです。青城山と都江堰は、セットで観光するのが一般的で、成都の歴史と文化の奥深さを知る上で欠かせないスポットです。

    旅のプランニング – 賢く楽しむための実用情報

    魅力あふれる成都への旅を最大限に楽しむためには、事前の準備が大切です。アクセス方法から市内の交通、宿泊エリアの選び方まで、あなたの旅をスムーズにするための実用的な情報をお届けします。

    成都へのアクセス

    日本から成都へは、複数の航空会社が直行便を運航しており、東京(成田)、大阪(関西)などからアクセスできます。所要時間は約5〜6時間。直行便がない都市からは、北京、上海、香港などを経由して向かうことになります。

    成都には「成都天府国際空港(TFU)」と「成都双流国際空港(CTU)」の2つの国際空港があります。天府国際空港は2021年に開港した新しいハブ空港で、主に国際線や主要な国内線が発着します。双流国際空港は、一部の国際線と国内線が利用しています。どちらの空港に到着するか、事前に確認しておきましょう。

    両空港から市内中心部へは、地下鉄が非常に便利です。天府国際空港からは18号線、双流国際空港からは10号線が直結しており、渋滞の心配なくスムーズに移動できます。その他、エアポートバスやタクシーも利用可能です。

    市内交通を使いこなす

    成都の市内観光において、最も頼りになる交通手段は地下鉄です。路線網が非常に発達しており、主要な観光スポットのほとんどは地下鉄の駅から徒歩圏内にあります。料金も安く、清潔で快適。券売機は英語表示にも対応しているので、旅行者でも簡単に利用できます。交通カード(天府通)を購入するか、AlipayなどのQRコード決済を利用すると、さらに便利です。

    バス路線も網の目のように張り巡らされていますが、路線が複雑なため、土地勘のない旅行者には少しハードルが高いかもしれません。しかし、乗りこなせれば非常に安く移動できます。

    タクシーも便利ですが、朝夕のラッシュ時は渋滞に巻き込まれることが多いので注意が必要です。また、中国では「DiDi(滴滴出行)」などの配車アプリが主流です。目的地をアプリ上で指定できるため、言葉の心配がなく、料金も事前に確定するので安心して利用できます。利用には中国の電話番号や決済システムの登録が必要になる場合があります。

    天気の良い日には、シェアサイクルもおすすめです。街の至る所に停められており、短距離の移動に非常に便利。成都の街の空気を肌で感じながら、のんびりと移動するのも楽しい体験です。

    おすすめの宿泊エリア

    成都には、ラグジュアリーホテルからリーズナブルなホステルまで、多種多様な宿泊施設があります。旅の目的やスタイルに合わせてエリアを選ぶのがポイントです。

    • 春熙路・太古里エリア: 成都で最も賑やかな商業エリアです。デパートやショッピングモール、レストラン、バーが集まっており、買い物や食事に非常に便利。交通の便も良く、どこへ行くにもアクセスしやすいのが魅力です。高級ホテルからスタイリッシュなブティックホテルまで選択肢が豊富で、アクティブに楽しみたい方におすすめです。
    • 寬窄巷子周辺: 古い街並みの風情を存分に味わいたいなら、このエリアが最適です。伝統的な四合院をリノベーションした趣のあるホテルが多く、非日常的な滞在が楽しめます。夜は静かで、落ち着いた雰囲気を好む方にぴったりです。
    • 武侯祠・錦里エリア: 三国志ファンや、錦里の幻想的な夜景をゆっくり楽しみたい方におすすめのエリアです。市内中心部からは少し離れますが、その分、比較的リーズナLブルなホテルが見つかりやすい傾向にあります。

    ベストシーズンと服装

    成都は亜熱帯モンスーン気候に属し、四川盆地特有の気候を持っています。特徴は、湿度が高く、霧や曇りの日が多いこと。年間を通して日照時間が短いことから、「蜀犬日に吠ゆ(蜀の犬は珍しい太陽を見て吠える)」ということわざが生まれたほどです。

    旅行のベストシーズンは、気候が穏やかな春(3月〜6月)秋(9月〜11月)です。暑すぎず寒すぎず、快適に街歩きを楽しめます。特に春は花が咲き乱れ、秋は空気が澄んで過ごしやすい季節です。

    夏(7月〜8月)は非常に蒸し暑く、気温も30度を超える日が多くなります。頻繁に雨も降るので、雨具と、通気性の良い服装が必須です。

    冬(12月〜2月)は、気温は氷点下になることは稀ですが、盆地特有の湿気を含んだ寒さが身体にこたえます。日差しが少ないため、体感温度は低く感じられます。ダウンジャケットやヒートテックなど、しっかりとした防寒対策が必要です。

    知っておくと便利なTIPS

    • 通信環境: 中国ではGoogleやLINE、X(旧Twitter)など一部の海外ウェブサービスへのアクセスが制限されています。これらを利用したい場合は、事前にVPN(仮想プライベートネットワーク)サービスを契約しておく必要があります。空港やホテルではWi-Fiが利用できますが、接続が不安定なことも。快適な通信環境を確保するなら、日本の空港でレンタルできるポケットWi-Fiや、中国で利用できるSIMカードを用意するのがおすすめです。
    • 支払い方法: 現在の中国では、現金よりもスマートフォンを使ったQRコード決済(Alipay/支付宝、WeChat Pay/微信支付)が圧倒的に主流です。大きなレストランやホテル以外では、現金が使えない、あるいはお釣りがないと言われるケースも増えています。旅行者向けのAlipay(Tour Passなど)を設定しておくと、非常にスムーズに支払いができます。
    • トイレ事情: 公衆トイレは、ティッシュペーパーが備え付けられていないことがほとんどです。常にポケットティッシュを携帯するようにしましょう。また、トイレットペーパーを流せない(備え付けのゴミ箱に捨てる)タイプのトイレもまだ多く存在します。
    • 簡単な中国語: 「你好(ニーハオ / こんにちは)」「谢谢(シェイシェイ / ありがとう)」「多少钱?(ドゥオシャオチエン? / いくらですか?)」といった簡単な挨拶やフレーズを覚えておくと、地元の人々とのコミュニケーションがぐっと楽しくなります。成都の人々は、外国人に親切でフレンドリーです。ぜひ積極的に話しかけてみてください。
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    この記事を書いたトラベルライター

    SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

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