カンボジアの広大な大地に静かに佇む、巨大な石造りの寺院。水面に映るその荘厳な姿は、見る者の心を捉えて離さない「アンコールワット」。一生に一度は訪れたいと世界中の旅人が憧れるこの場所は、クメール王朝が遺した人類の至宝であり、カンボジアの人々の誇りの象徴でもあります。朝日に染まる神秘的なシルエット、回廊を埋め尽くす精緻なレリーフ、天空にそびえる中央祠堂。そのすべてが、私たちを遥か昔の壮大な物語へと誘ってくれます。
しかし、その壮大さゆえに「どうやって行けばいいの?」「チケットはどこで買うの?」「どんな服装で行けばいいの?」といった疑問や不安を感じる方も少なくないでしょう。特に初めて訪れる方にとっては、広大な遺跡群を前にどこから手をつけていいか迷ってしまうかもしれません。
ご安心ください。この記事では、世界30カ国を旅した私が、アンコールワット観光のすべてを、初心者の方にも分かりやすく、そして具体的にお伝えします。出発前の準備から、現地の移動手段、必見の見どころ、そして心に残る旅にするためのモデルコースまで、この一本でアンコールワット旅行のすべてが分かるように、心を込めて執筆しました。この記事を読み終える頃には、あなたのアンコールワットへの旅は、もう始まっているはずです。さあ、一緒に時を超えた冒険へ出かけましょう。
アンコールワットでの時を超えた冒険の先に、もし他の壮大な遺跡にも興味があれば、世界三大仏教遺跡の一つであるミャンマーのバガン遺跡もおすすめです。
アンコールワットとは?まずは基本情報を押さえよう

壮大な旅のプランを練る前に、まずアンコールワットがどのような場所であるか、その歴史的な背景や基本情報を把握しておきましょう。知識は旅を何倍も豊かで魅力的にする最高のスパイスだからです。
壮大なクメール王朝の遺産、その歴史と背景
アンコールワットは、12世紀前半に東南アジアを支配した強大なクメール王朝の王、スーリヤヴァルマン2世によって建立されました。建造の目的は、ヒンドゥー教のヴィシュヌ神に捧げる寺院として、そして自身の霊廟としての役割を果たすことでした。サンスクリット語で「アンコール」は「王都」、「ワット」は「寺院」を意味し、その名の通り「都の寺院」として当時のクメール建築の集大成がここに結実しています。
約30年の歳月をかけて築かれたこの寺院は、宇宙の中心とされる須弥山(しゅみせん)を中央の祠堂に見立て、その周囲の回廊はヒマラヤ山脈、環濠は大海を象徴していると伝えられています。まさに神々の住む世界を地上に再現した、壮麗かつ宗教的意味合い深い建築物です。
15世紀にクメール王朝が衰退し、都がプノンペンへ移ると、アンコールワットは密林の中にひっそりと忘れられていきました。しかし19世紀にフランスの探検家アンリ・ムーオによって「発見」され、その壮大な姿が西欧社会に紹介されるや否や、世界中の注目を一気に集めました。その後、長引く内戦期を経て、1992年にアンコール遺跡群はユネスコの世界遺産に認定され、国際的な支援のもと修復が続けられています。ヒンドゥー教寺院としての始まりから仏教寺院へと変遷しつつ、現在もカンボジアの人々の熱い信仰の対象であり続けています。
シェムリアップはもうすぐ目の前!場所とアクセスについて
アンコールワットはカンボジア北西部、シェムリアップという街の郊外に位置しています。このシェムリアップがアンコール遺跡群を訪れる際の拠点となります。
2024年現在、日本からシェムリアップへの直行便は運航されていません。そのため、タイのバンコクやベトナムのハノイ・ホーチミン、シンガポールなどアジアの主要都市を経由して向かうのが一般的です。乗り継ぎ時間も含めると所要時間は約8〜10時間ほど見ておくと安心でしょう。
シェムリアップ国際空港から市街地までは車でおよそ20分です。タクシーやトゥクトゥク、ホテルの送迎サービスなどを利用して移動できます。
また、シェムリアップ市内からアンコールワットを含む遺跡群へのアクセス方法の選択は、観光スタイルを決定づける重要なポイントとなります。
- トゥクトゥク(Tuk-Tuk)
カンボジアの風を感じながら移動できる三輪タクシーで、最もポピュラーな手段です。ドライバーと交渉して一日または半日の貸切にするのが一般的です。小回りコース(後述)なら15〜20ドルが相場で、朝日や夕日を鑑賞するために加算料金が発生することもあります。英語が話せるドライバーも多く、おすすめの撮影スポットを教えてくれることもあります。料金交渉は乗車前に必ず行いましょう。
- 自動車(チャーターカー)
エアコン完備の快適な車で移動したい方や、家族連れ、グループ旅行におすすめです。トゥクトゥクより費用は高めで1日あたり30〜40ドル程度かかりますが、強い日差しや雨季の移動において体力の消耗を抑えることができます。ホテルや旅行代理店を通じて手配するのが安心です。
- レンタサイクル
体力に自信があり、自分のペースで自由に巡回したい方には自転車も有力な選択肢です。シェムリアップには多くのレンタルショップがあり、1日2〜5ドル程度で借りられます。ただしカンボジアは日差しが非常に強く、遺跡間の距離も思いのほかありますので、水分補給や日焼け対策は必須です。特に乾季は体力消耗が激しくなるため注意しましょう。
どの交通手段を選ぶかによって、旅の快適さや体験内容が大きく変わります。自身の体力や予算、天候に応じて最適な方法を選んでください。
出発前に知っておきたい!アンコール遺跡群のチケット「アンコールパス」完全攻略
広大なアンコール遺跡群を訪れるには、専用の入場券「アンコールパス」が必須です。このチケットの購入が観光のスタートラインとなります。事前に内容をよく理解しておけば、現地で慌てることなくスムーズに遺跡巡りを始められます。
どのチケットを選ぶ?種類と料金の概要
アンコールパスは滞在期間や観光プランに合わせて、3つのタイプがあります。料金は変更されることもあるため、渡航前に公式サイトで最新情報を必ず確認しましょう。
- 1日券:37米ドル
購入日当日のみ有効です。短期間の旅行者や、アンコールワットやアンコールトム周辺の主要遺跡だけを効率よく回りたい方に向いています。
- 3日券:62米ドル
購入日から10日間のうち好きな3日間に使えます。連続で使用しなくてもよく、例えば観光の1日目、3日目、5日目に利用することも可能です。主要スポットをじっくり楽しみたい人や、小回り・大回りコースを余裕を持って回りたい方に最も人気のあるチケットです。
- 7日券:72米ドル
購入後1ヶ月間の間に、好きな7日間利用可能です。郊外のバンテアイ・スレイやベンメリアまで足を伸ばしたり、特定の遺跡へ何度も訪れて時間帯による景色の変化を楽しみたい研究者や写真愛好家、リピーターにおすすめです。
料金は米ドルで設定されており、支払いは現金(米ドル)またはクレジットカードが使えます。12歳未満の子どもはパスポートの提示で無料入場できるため、忘れずに持参してください。
購入方法は?オンラインと現地での購入手順
アンコールパスは主に2つの方法で購入できます。それぞれのメリットや注意点を理解し、自分に合った手段を選びましょう。
公式サイトでのオンライン事前購入
最も推奨されるのが、公式チケット販売サイト「[Angkor Enterprise](https://www.angkorenterprise.gov.kh/)」からオンライン購入する方法です。
オンライン購入の流れ:
- 公式サイトにアクセスし、希望するチケット(1日、3日、7日)と利用開始日を指定します。
- パスポートの表記と同じ名前など、個人情報を正確に入力します。
- 顔写真をアップロードします。背景は白、顔がはっきりわかる証明写真スタイルの画像を用意しましょう。スマートフォンで撮影した写真でも問題ありませんが、帽子やサングラスは外してください。
- クレジットカードで決済を完了します。
- 購入完了後、QRコード付きの電子チケットが発行されます。スマートフォンに保存し、念のため印刷もしておくと安心です。
オンライン購入の最大の利点は、現地でのチケットセンターに並ぶ時間を節約できること。特に早朝の朝日鑑賞に向かう際、チケット購入のために列に並ばなくて済むのは大きなメリットです。
現地のチケットセンターで直接購入
シェムリアップ市街とアンコールワットのほぼ中間地点にある「アンコール・チケットセンター(Angkor Ticket Center / Angkor Enterprise)」で購入する方法です。
現地での購入手順:
- トゥクトゥクやタクシーでチケットセンターへ向かいましょう。「チケットセンター」とドライバーに伝えればほぼ確実に連れて行ってくれます。
- チケットの種類ごとに窓口が分かれているので、希望する券種の列に並びます。
- 順番になったら窓口で希望券種を伝え、料金を現金(米ドル)またはクレジットカードで支払います。
- その場で顔写真を撮影されます。帽子やサングラスは外しましょう。
- 発行された写真付きチケットに名前や有効期限に誤りがないか必ず確認してください。
現地購入の利点はインターネット環境がなくても取得可能な点ですが、早朝や観光シーズンのピーク時は窓口が混み合い、30分以上待つこともあります。営業時間は通常午前5時~午後5時半なので、余裕を持って訪れることをおすすめします。
チケット利用時に押さえておきたいポイント
アンコールパスは、遺跡観光の「通行証」としての役割を担います。以下の点を必ず把握しておきましょう。
- 紛失は絶対に避けること
アンコールパスは再発行されません。紛失すると再度購入が必要になるため、観光中はパスポートと同様に大切に保管してください。首から下げられるパスケースに入れると提示もスムーズで、紛失予防にも効果的です。
- 譲渡や貸与は禁止
チケットには顔写真が印刷されており、本人以外の使用はできません。遺跡の入口で係員が写真と本人を照合してチェックします。
- 常に携帯してすぐ提示できる状態に
主要遺跡の入口だけでなく、園内でもチケット提示を求められる場合があります。取り出しやすい場所に携帯しましょう。電子チケットの場合はスマートフォンの充電切れに備え、モバイルバッテリーを持参したり、紙に印刷して持ち歩くと安心です。
- 郊外遺跡の利用範囲に注意
アンコールパスは、アンコールワット、アンコールトム、タ・プロームなど考古学公園内のほとんどの遺跡で有効です。ただし郊外のベンメリアやプノン・クレンなどは別途入場料が必要な場合もあります。訪問予定がある際は事前に確認しておきましょう。
服装と持ち物はこれで完璧!アンコールワット観光の準備リスト

アンコールワットは単なる観光名所にとどまらず、今なお多くの人々が祈りを捧げる神聖な場です。訪れる際は敬意を込めた服装で臨むことが、旅人としての重要なマナーとなります。また、熱帯の気候の中で遺跡を快適に見学するための持ち物準備も欠かせません。
最優先!ドレスコードを必ず遵守しよう
アンコール遺跡群、特にアンコールワットの第三回廊(中央祠堂)など神聖視されているエリアでは、厳格な服装規則があります。これに違反すると入場を拒否される場合もあるため、事前にしっかり確認し、適切な服装で訪れるようにしましょう。
守るべき服装のポイント:
- 肩を出さない: タンクトップやキャミソール、ノースリーブのトップスは避け、袖のあるTシャツやブラウスを着用してください。
- 膝を出さない: ショートパンツやミニスカートは不可。膝が隠れる長さのズボンやロングスカート、キュロットなどを選ぶようにしましょう。
これらのルールは男女問わず適用されます。特に女性は注意が必要で、単に薄手のストールやパレオを羽織るだけでは不十分とされ、入場を断られるケースもあります。布を被せるだけではなく、「服として」肩と膝がしっかり覆われていることが求められます。
おすすめの服装例:
- トップス: 速乾性のあるTシャツやポロシャツ、通気性に優れた薄手の長袖シャツやブラウスがよいでしょう。日焼け対策にも長袖は効果的です。
- ボトムス: ゆったりしたコットンパンツや麻素材のワイドパンツ、足首丈のロングスカートなどが適しています。ジーンズは暑さのためあまりおすすめできません。涼しく動きやすいタイパンツも良い選択です。
- 羽織りもの: 寺院に入る際にさっと羽織れるカーディガンやシャツは便利ですが、先述の通り羽織るだけでは規則を満たさない場合もあるため、基本は袖付きのトップス着用を心がけましょう。
シェムリアップ市内の市場では、これらのタブーに配慮した涼しいパンツやシャツがリーズナブルに購入できます。準備を忘れても現地で入手可能なので安心してください。
必携&あると便利な持ち物リスト
熱帯の気候の中、広大なアンコールワットを歩き回る観光は快適さと安全面に配慮した持ち物選びが重要です。以下のリストを参考に準備を整えましょう。
必ず持参すべき基本アイテム
- アンコールパス: これがなければ入場できません。
- パスポートまたはコピー: チケット購入や年齢確認、身分証明に必要です。原本の持ち歩きが不安な場合は、顔写真ページとビザのページのコピーを用意し、スマホにも保存しておくと安心です。
- 現金(USドル): カンボジアではリエルもありますが、観光地ではUSドルが主流です。トゥクトゥクの支払いや飲食、お土産購入に備え、小額紙幣(1ドル、5ドル、10ドル札)を多めに用意してください。
- クレジットカード: ホテルや大型レストラン、チケット窓口での支払いに利用できます。VISAとMasterCardが一般的です。
- 歩きやすい靴: 遺跡内は未舗装の道や急な石段が多く、必ず履き慣れたスニーカーやウォーキングシューズを選びましょう。サンダルやヒールは足元が不安定で疲れやすいため避けてください。
- 日焼け対策用品: つばの広い帽子、サングラス、日焼け止めは必需品。カンボジアの日差しは非常に強烈です。
- スマートフォンとモバイルバッテリー: 写真撮影や地図の確認、電子チケットの利用に欠かせません。バッテリー切れには十分ご注意を。
持っていると快適さがグッとアップするアイテム
- ミネラルウォーター: 熱中症予防のため小まめな水分補給が欠かせません。遺跡付近でも購入できますが割高なので、ホテルから持参するのがおすすめです。凍らせておくと長時間冷たく快適です。
- 虫よけスプレー: 特に朝夕や森に囲まれた遺跡(例:タ・プローム)では蚊が多く、デング熱のリスクもあるため肌の露出部分にしっかり使いましょう。
- ウェットティッシュ・除菌ジェル: 食事前や遺跡の石に触れた後など、衛生面で役立ちます。
- 汗拭きシート: 長時間歩き回ると大量に汗をかくため、リフレッシュに便利です。
- 携帯扇風機(ハンディファン): 日陰で休む際など、体感温度を下げるのに効果的です。
- 雨具(折りたたみ傘やレインコート): 5月から10月の雨季に訪れる場合は必須。スコールは急に降って短時間でやむことが多いです。
- 常備薬: 胃腸薬、頭痛薬、絆創膏など、普段使い慣れた薬を携帯すると安心です。
なお、ドローンの持ち込みと遺跡内での無許可飛行は禁止されています。くれぐれもルールを守り、安全な旅を心がけてください。
感動を最大化する!アンコールワット観光のおすすめモデルコース
広大なアンコール遺跡群を効率的かつ感動的に巡るためには、事前のルート設計が非常に重要です。ここでは、特に観光客に人気の代表的な3つのコースをご紹介します。ご自身の体力や関心に応じて、オリジナルプランを作成してみてください。
初めてならこれがおすすめ!定番の小回りコース(Small Circuit)
アンコール観光の見どころが凝縮された、最も人気の高い王道コースです。初めてアンコール遺跡を訪れる方や、1日で主要スポットを効率よく巡りたい方にぴったり。トゥクトゥクをチャーターして回るのが一般的で、休憩も含めて5〜7時間ほどかかります。
典型的なルート例: アンコールワット → アンコールトム(南大門 → バイヨン → バプーオン → 象のテラス → ライ王のテラス) → タ・ケウ → タ・プローム
- アンコールワット: クメール建築の最高傑作にまず足を踏み入れます。朝日を鑑賞した後は、そのまま内部を見学する流れが効率的です。壮大な規模と精巧なレリーフに圧倒されることでしょう。
- アンコールトム: 「大きな都」を意味する、城壁で囲まれた都市遺跡です。ユニークな人面像が並ぶ南大門をくぐり、中心に位置するバイヨン寺院へ向かいます。千を超える観世音菩薩の四面像は「クメールの微笑み」と呼ばれ、見る角度によって表情が変わる不思議な魅力を放っています。
- タ・プローム: 巨大なガジュマルの樹木が遺跡に絡みつき、まるで飲み込もうとしているかのような神秘的な光景が印象的です。映画『トゥームレイダー』のロケ地としても有名で、自然の生命力と人工物が融合した、少し退廃的な雰囲気が漂います。
これら3つのスポットは小回りコースの主役格で、訪れるだけでアンコール遺跡の多彩な魅力を十分に味わえます。
もっとじっくりと!深堀り大回りコース(Grand Circuit)
小回りコースの外周を大きく一周するルートで、多様な趣を持つ遺跡を訪れることができます。観光客の混雑を避け、静かな環境の中で遺跡をじっくり堪能したい方や、2日以上かけてアンコール遺跡をより深く知りたい方におすすめです。所要時間はおよそ5〜6時間です。
代表的なルート例: プリア・カン → ニャック・ポアン → タ・ソム → 東メボン → プレ・ループ
- プリア・カン: 「聖なる剣」を意味する広大な仏教寺院です。東西に長く伸びる参道や、ギリシャ神殿を思わせる二層構造の石造建築など、見どころが豊富。迷路のような回廊を探検する楽しみもあります。
- ニャック・ポアン: 中央に大きな池、その周りに4つの小さな池が配置された独特の構造を持つ寺院。かつては治療の沐浴場とされ、中央の祠堂には絡みつく2頭のナーガ(蛇)が安置されています。
- プレ・ループ: レンガとラテライトを使ったピラミッド型ヒンドゥー教寺院で、夕日の名所としても知られています。夕焼けに染まる赤土の寺院は格別で、急な階段を登ると周囲のジャングルが一望できます。
大回りコースは個々の遺跡は小規模ながらも個性豊かで、クメール建築の変遷を肌で感じられます。小回りコースと組み合わせることで、アンコール遺跡群の全体像をより立体的に理解できるでしょう。
時間に余裕があれば行きたい!郊外の遺跡への小旅行
シェムリアップから少し足を伸ばすだけで、アンコールワットとはまた異なる独特の魅力を持つ貴重な遺跡を訪れることができます。時間が許せば、ぜひ訪れてほしい珠玉のスポットです。
- バンテアイ・スレイ: 「女の砦」を意味する小型のヒンドゥー教寺院で、シェムリアップから車で約1時間。赤みを帯びた砂岩に彫られた彫刻は繊細で、まるで象牙や木彫りのような仕上がりです。「東洋のモナリザ」と称される美しいデヴァター(女神)像が必見。規模は小さいものの、その芸術性はアンコール遺跡群でも最高峰と言われています。
- ベンメリア: 森に埋もれた巨大な寺院で、「天空の城ラピュタ」のモデルとも噂されています。シェムリアップから車で約1時間半。発見当時の姿をほぼ保っており、崩れた石材に苔が生え、大樹が遺跡を覆い尽くす光景は圧巻。整備された木道を歩きながら、まるで冒険家気分で探索が楽しめます。こちらはアンコールパスとは別に、入場料5ドルが必要です。
郊外遺跡は距離があるため、トゥクトゥクよりも車のチャーターが便利です。バンテアイ・スレイを大回りコースに加えたり、ベンメリアだけで半日を使ったり、ご自身のプランに合わせて自在に組み合わせてみてください。
見どころ徹底解剖!アンコールワットで絶対に見逃せないポイント

数あるアンコール遺跡のなかでも、やはりその中心に輝くのはアンコールワットです。その広大な敷地内には、見逃せない感動的なスポットが数多く点在しています。ここでは、アンコールワットを訪れた際にぜひ体験していただきたい3つのハイライトを詳しくご紹介いたします。
息をのむ絶景「朝日鑑賞」
アンコールワット観光の最大の見どころといえば、やはり朝日鑑賞です。漆黒の闇から荘厳な中央祠堂のシルエットが徐々に浮かび上がり、空がオレンジやピンク、紫へと刻々と色彩を変えていく様子は、まさに神聖そのもの。一生心に残る光景となることをお約束します。
- ベストシーズンと時間帯:
空気が澄みわたる乾季(11月〜2月頃)が、最も美しい朝日を拝める確率が高い時期です。日の出時間は季節によって異なりますが、おおよそ午前5時半から6時頃となります。最高の鑑賞スポットを確保するには、遅くとも午前5時には現地に到着しておくことが望ましいです。トゥクトゥクのドライバーには、前日までに「明日はアンコールワットのサンライズへ行きたい」と予約しておきましょう。
- おすすめの鑑賞場所:
最も人気が高く、象徴的な写真が撮れるのは西参道から向かって左手に位置する「聖池(North Reflecting Pool)」前です。風がなければ、水面にアンコールワットが鏡のように映り込む「逆さアンコール」を鑑賞できます。ここは世界中の観光客が押し寄せるため、早めの場所取りが不可欠です。また、少し違った視点を楽しみたい場合は右手の聖池や、参道途中からの眺めもおすすめです。
- 朝日鑑賞のコツ:
早朝はまだ暗いため、足元を照らす小型懐中電灯やスマホのライトがあると安心です。日の出を待つ間は肌寒く感じることもあるので、薄手の羽織物を一枚持っていくと重宝します。鑑賞後は多くの人が一度ホテルへ戻って朝食を取るため、そのタイミングで空いているアンコールワット内部を見学すると、混雑を避けてゆったりと観光できます。
壁画が語る壮大な叙事詩「第一回廊のレリーフ」
アンコールワットの第一回廊は、外周約800メートルにわたり、古代インドの叙事詩やクメール軍の戦闘を描いた壮大なレリーフ(浮き彫り)で覆われています。まるで「石に刻まれた絵巻物」と称されるこの壁画の緻密さとスケールの大きさには、誰もが感嘆の声を上げることでしょう。
- 注目のレリーフ:
特に有名なのが、東面南側にある「乳海攪拌(にゅうかいかくはん)」の場面です。これはヒンドゥー教の天地創造神話の一場面で、神々と阿修羅(アスラ)が大蛇ナーガを綱代わりにして海をかき混ぜ、不老不死の霊薬「アムリタ」を生み出そうとする壮大な物語が描かれています。中央で指揮をとるヴィシュヌ神や、楽しげな表情の神々、苦悶の表情を浮かべる阿修羅たちの細かな表情までが生き生きと彫られており、見飽きることがありません。
他にも、古代インドの叙事詩『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』の戦闘シーン、アンコールワット建設者であるスーリヤヴァルマン2世の軍隊進軍の様子など、多彩な見どころが満載です。反時計回りに進むのが一般的な見学ルート。物語の詳細を深く知りたい方は、現地の公認ガイドを手配すると、レリーフに込められた意味や面白いエピソードを教えてもらえ、感動がいっそう深まります。
天空へと続く神々の領域「第三回廊」
アンコールワットの中心にそびえる中央祠堂の基壇にあたるのが、第三回廊です。ここは地上から約42メートルの高さにあり、かつては王と高僧だけが立ち入ることを許された、最も神聖な空間でした。
- 急峻な階段と辿り着いた先の絶景:
第三回廊へは、最大傾斜70度とも言われる非常に急な階段を登る必要があります。これは、神々と対面する道のりが簡単ではないことの象徴とされています。観光客向けに後付けされた木製の階段が設置されていますが、手すりにつかまりながら慎重に一歩ずつ登ることが求められます。
けれども、その苦労の先には言葉を失うほどの壮大な眺望が待っています。眼下に広がるのはアンコールワットの全景と果てしなく続くカンボジアの豊かな密林。まさに天空の回廊と呼ぶにふさわしい場所です。ここで静かに風を感じていると、かつてのクメール王朝の王たちも同じ景色を眺めていたのだろうと、遥かな時代に思いを馳せることができます。
- 第三回廊の利用上の注意点:
この神聖な空間にはいくつかの厳しい規制があります。まず服装チェックが特に厳しく、肩と膝を完全に覆っていない服装の場合には、階段の下で入場を拒否されます。また安全確保のため、一度に入場できる人数に制限が設けられており、混雑時は30分から1時間程度の待ち時間が生じることもあります。さらに、12歳未満の子どもの入場は禁止されている他、仏教の祝日など特定の日は終日入場不可となる場合もあるため、訪問前に最新の情報を確認してください。
知っておくと安心!現地でのトラブル対策と豆知識
素晴らしい遺跡群を心から満喫するためには、現地の文化や習慣を理解し、トラブルを未然に防ぐための知識を備えておくことが重要です。ここでは、旅をより快適で安全に過ごすためのポイントをいくつかご紹介します。
トゥクトゥクドライバーとの上手な交渉方法
シェムリアップでの移動に欠かせないトゥクトゥク。ほとんどのドライバーは親切かつフレンドリーですが、料金に関するトラブルを避けるために以下の点を押さえておきましょう。
- 料金は乗車前に必ず確認し、合意する:
最も重要なポイントです。目的地を伝えたら「How much?」と料金を尋ね、提示された金額に同意してから乗り込みましょう。可能なら紙に目的地と料金を書いてお互いに確認すると、より確実です。相場が分からない場合は、ホテルスタッフにおおよその料金を尋ねておくのがおすすめです。参考までに、市内からアンコールワットへの片道は3〜5ドル程度、短距離の1日チャーターなら15〜20ドル、長距離コースなら20〜25ドル前後が一般的です。朝日や夕日鑑賞が含まれると、数ドルの追加料金が発生します。
- 信頼できるドライバーを探す:
ホテルで紹介してもらうのが最も安心です。多くのホテルは信頼できるドライバーと提携しており、リストを用意しています。一度利用して気に入ったドライバーがいれば、連絡先を交換し、滞在中の移動すべてをお願いするのも良いでしょう。観光に慣れており、おすすめのレストランや写真スポットも教えてくれる頼もしい存在です。
- お釣りの用意を忘れずに:
ドライバーは細かいお釣りを持っていないことが多いため、1ドル札や5ドル札を多めに用意して支払い時に困らないようにしてください。
しつこい物売りや子どもたちへの対処法
アンコールワットなどの主要な遺跡周辺では、お土産や冷たい飲み物を売る大人や子どもたちに声をかけられることがよくあります。
- 不要な場合は、はっきりとしかし優しく断る:
興味がなければ「No, thank you.」と笑顔で明確に断りましょう。曖昧な態度だと、しつこくついてこられることがあります。断ったらそのまま気にせず歩き続けることが大切です。
- 子どもの物売りや物乞いについて:
ポストカードやブレスレットを売る子どもたちを見ると、つい同情して購入したくなるかもしれません。しかし、多くの場合、物売りをすることで学校に通えない現実があります。彼らの未来を本当に考えるなら、直接お金や物を渡すのではなく、在カンボジア日本国大使館でも推奨されているように、信頼できるNGOや支援団体を通じての支援が最善です。もし購入するなら、きちんと働いている大人のお店から買うようにしましょう。
体調不良や緊急事態への備え
慣れない土地での旅行中は、思わぬ体調不良やトラブルが起こることもあります。万が一に備えておきましょう。
- 熱中症や食中毒の予防:
カンボジアは年間を通じて高温多湿の気候です。観光中はこまめな水分補給を心掛け、常にミネラルウォーターを携帯しましょう。体調が悪くなったら日陰で休むことも大切です。食事は十分に火が通った清潔なものを選び、生野菜やカットフルーツ、氷の使用には注意してください。
- 病院情報の把握:
シェムリアップには外国人観光客向けの病院が複数あり、特に「ロイヤルアンコール国際病院」では日本語通訳サービスが利用でき安心です。緊急時に備え、あらかじめ病院の所在地や連絡先を控えておくと安心です。
- 海外旅行保険の加入:
海外での医療費は高額になることがあるため、出発前に必ず海外旅行保険に加入してください。キャッシュレス対応の保険だとさらに安心です。クレジットカード付帯の保険もありますが、補償内容を事前に十分確認することが重要です。
- 盗難や紛失への対策:
貴重品はホテルのセーフティボックスに預け、観光の際は必要最低限の現金とカードのみ持ち歩きましょう。バッグは体の前で抱えるように持つと安全です。万が一パスポートを紛失した場合は、すぐに警察で紛失証明書を発行してもらい、プノンペンの日本大使館で再発行の手続きを行う必要があります。パスポートのコピーや証明写真の予備を持っていると、手続きがスムーズに進みます。
アンコールワット観光をさらに楽しむための+α

壮大な遺跡巡りの合間や夜には、カンボジアならではの文化に触れる楽しみが待っています。グルメやショッピング、伝統芸能の体験を通じて、旅がいっそう鮮やかに彩られることでしょう。
味覚の探求:奥深いクメール料理を堪能する
カンボジア料理(クメール料理)は、タイ料理やベトナム料理の影響を受けつつも、豊富なハーブ使いが特徴で、マイルドで優しい味わいが魅力です。遺跡巡りで疲れた体を、美味しい料理でしっかり癒やしましょう。
- アモック(Amok):
雷魚などの白身魚を、ココナッツミルクと「クルーン」と呼ばれるレモングラスやウコンなどのハーブペーストで蒸し上げた、カンボジアの代表的な料理。まろやかでコク深く、ご飯との相性も抜群です。
- ロックラック(Lok Lak):
サイコロ状にカットした牛肉を甘辛いタレで炒めた一品。新鮮なレタスやトマト、タマネギとともに、黒胡椒とライムのソースにつけていただきます。日本人の口にも合う、人気の料理です。
- クメール・カレー:
タイカレーほどの辛さはなく、ココナッツミルクの甘みとスパイスの香りが調和した優しい味わいのカレー。鶏肉や野菜がたっぷりと使われています。
シェムリアップ市内、特にパブストリート近辺には、伝統的なクメール料理を提供するレストランから、モダンなカフェ、世界各国の料理店まで幅広く揃っています。遺跡観光の合間に気軽に立ち寄れる店も多いので、ぜひ本場の味を満喫してください。
幻想の夜:優雅な伝統舞踊アプサラダンスを鑑賞
クメール文化の象徴とも言える「アプサラダンス」は、天女の舞として知られています。アンコールワットのレリーフに刻まれた女神(アプサラ)が、そのまま現実に舞い降りたかのように、華やかな衣装を纏って優雅に踊ります。指先一つひとつに意味が込められ、その幻想的な美しさが観る者を魅了します。
シェムリアップ市内では、ビュッフェ形式のディナーを楽しみながらアプサラダンスを堪能できる「ディナーショー」が人気です。多くのホテルやレストランで開催されており、料金は10ドル台からとリーズナブルなものもあります。事前予約がおすすめです。静謐で気品ある舞踊は、遺跡のレリーフと現実を結びつけ、忘れがたい夜の体験となるでしょう。
お土産探し:ナイトマーケットで宝物を見つける
日が沈むと、シェムリアップの街は活気に満ちたナイトマーケットで賑わいます。お土産選びやローカルな雰囲気を楽しむのにぴったりのスポットです。
- オールドマーケット:
日中は地元の人々の市場ですが、夜にはお土産屋が軒を連ねます。スパイスやコーヒー豆、民芸品など多彩な品揃えが魅力です。
- アンコール・ナイトマーケット:
お土産物屋を中心に、マッサージ店やバーなども集まった観光客向けのマーケット。整然としていて歩きやすく、初心者でも安心して楽しめます。
定番のお土産としては、カンボジアの万能布「クロマー」、コショウなどのスパイス類、ヤシ砂糖、Tシャツ、象をモチーフにしたパンツ(アラジンパンツ)などがあります。値段交渉はマーケットでの醍醐味のひとつですが、過度な値切りは避けましょう。店主との会話も楽しみながら、思い出に残る品を見つけてください。公式な観光情報は、カンボジア政府観光局のウェブサイトもぜひご覧ください。
神々の遺跡があなたを待っている
壮大な歴史とそれを超越する自然の力が織り成す神秘的な光景。アンコールワットは単なる美しい遺跡ではありません。そこにはかつて栄華を誇った王朝の祈りが息づき、人々の日常があり、そして今も続く信仰が根付いています。朝日に照らされて黄金色に輝く祠堂を目の前にした瞬間や、苔むした回廊を歩きながら繊細なレリーフに触れた時、あなたはきっと時の感覚を忘れ、この場所が秘める不思議な力に包まれることでしょう。
本記事では、アンコールワットを訪れるための具体的な方法や準備について、できる限り詳しくご紹介してきました。チケットの購入方法から服装のマナー、モデルコースに至るまで、旅の不安を少しでも和らげ、あなたの背中をそっと押す助けとなれば嬉しく思います。
とはいえ、どんなに詳しいガイドブックや私の言葉も、あなたが実際にその場に立ち、五感で体験することには敵いません。遺跡を吹き抜ける風の香り、石段のひんやりとした触感、遠くから響く僧侶の読経の声。これらすべてが、あなたの特別な旅の記憶を形作っていくのです。
さあ、準備は整いましたか。パスポートと少しの勇気、未知への好奇心をバッグに詰め込んで、神々が眠る土地へ旅立ちましょう。アンコールワットは、その壮大な姿で、いつでも静かにあなたの訪れを待っています。あなたの旅が安全であり、生涯心に残る素晴らしいものになることを心より願っています。









