「楽園」という言葉を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、おそらく真っ白な砂浜とターコイズブルーの海が広がるザンジバルでしょう。タンザニア連合共和国に属するこの美しい島は、世界中の旅人を魅了し続けています。しかし、そのザンジバルのすぐ北に、まるで時が止まったかのような、もう一つの楽園が静かに横たわっていることをご存知でしょうか。その名は、ペンバ島。
アラビア語で「緑の島(Al Jazeera Al Khadra)」と呼ばれるペンバは、その名の通り、豊かな緑の丘陵と深い渓谷に覆われ、クローブやマンゴー、ココナッツの木々が生い茂る、生命力に満ちた場所です。隣のウングジャ島(一般的にザンジバル島と呼ばれる島)に比べて観光開発がほとんど進んでおらず、手つかずの自然と、そこに根ざした人々の素朴な暮らしが今も色濃く残っています。
我が家が次の冒険の地にペンバ島を選んだのは、小学生の息子たちが、教科書やテレビで見るのとは違う「本物の世界」に触れる機会を作ってあげたかったから。観光客向けに整えられたリゾートではなく、海と共に生き、自然の恵みに感謝する人々の日常の中に身を置くこと。それは、子供たちの心に、そして私たち親の心にも、きっと忘れられない何かを刻みつけてくれるはずだと信じていました。
この記事では、ザンジバルの陰に隠れた秘島・ペンバの魅力と、家族でこの島を旅するための具体的な情報をお伝えします。世界屈指のサンゴ礁が眠る海洋保護区、神秘的な原生林、そしてスパイスの香りに満ちた村々へ。さあ、まだ見ぬ楽園への扉を、一緒に開けてみませんか。
なぜ今、ペンバ島なのか? ザンジバルとの違い

多くの旅人がタンザニアの「楽園」に惹かれるとき、その訪問先はウングジャ島、すなわちザンジバルとなります。ストーンタウンの迷路のような路地や、ヌングイやパジェの息を呑むほど美しいビーチは、確かに訪れる価値がある素晴らしいスポットです。しかし近年、その人気が急速に高まり、特にハイシーズンには観光客で溢れかえり、かつての静けさが徐々に薄れているのも事実です。ビーチではアクティビティの勧誘や土産物の販売の声が絶えず、リゾートエリアは洗練されている一方で、どこか画一的な印象を受けることもあります。
これに対して、ペンバ島はまるで別の世界のようです。ウングジャ島との間には深い水深を誇るペンバ海峡が横たわり、地理的にも文化的にも独自の歩みを続けてきました。ここには大型のリゾートホテルはほとんどなく、舗装されていない道も多く残っています。しかし、それがまさにペンバ島の最大の魅力となっています。
ペンバ島が「緑の島」と呼ばれるのは、その地形に由来します。ウングジャ島が比較的平坦であるのに対し、ペンバ島は起伏に富んだ丘陵地帯が島全体に広がっているため、年間を通して降雨量が豊富で、島は常に瑞々しい緑に包まれています。この肥沃な大地こそが、世界最高品質と称されるクローブ(丁子)をはじめ、さまざまなスパイスを育む豊かな土壌となっているのです。
さらにペンバ島のもう一つの宝は、その手つかずの海です。特に島を取り囲むサンゴ礁は、ダイバーやシュノーケラーにとっての聖地です。観光による影響が少ないため、非常に健全な生態系が保たれており、多彩な色彩のサンゴと無数の海洋生物が訪れる人々を圧倒します。
ペンバ島への旅は、完成されたリゾートでの快適な滞在とは一味違います。それは、ありのままの自然や文化に身を投じ、現地で暮らす人々の息遣いを肌で感じる、より深く本質的な体験と言えるでしょう。便利さや快適さよりも、静けさや本物、冒険を求める旅人にとって、ペンバ島はインド洋に残された最後の秘宝なのです。
ペンバ島への旅支度 – 計画から出発まで
手つかずの楽園への旅は、その準備段階からすでに始まっています。特に子連れでの旅行の場合、綿密な計画が旅の成功を左右すると言っても過言ではありません。ここでは、ペンバ島へ行くための具体的な手順と、知っておくべき実用的な情報を詳しくご案内します。
ペンバ島へのアクセス方法について
ペンバ島へは、空路と海路のどちらかでアクセスするのが一般的です。それぞれにメリットとデメリットがあるため、ご自身の旅のスタイルや予算に合わせて選択しましょう。
空路:時間と快適さを重視する方向け
最も早く、かつ快適に移動できるのが飛行機の利用です。タンザニア本土のダルエスサラームやザンジバル島のストーンタウンにあるアビード・アマニ・カルーム国際空港から、ペンバ島のチャケチャケにあるペンバ空港(PMA)への便が運航されています。
運航しているのは、Auric AirやCoastal Aviationなど、国内線に特化した小規模航空会社が中心です。セスナなどの小型プロペラ機によるフライトは、それ自体が冒険となり、眼下に広がるインド洋の青と豊かな緑の島の対比は息をのむほどの美しさです。
- チケットの購入方法と注意点
チケットは各航空会社の公式サイトから直接オンライン予約するのが最も確実です。予約の際には、預け荷物の重量制限に十分注意してください。小型機のため、一人あたり約15kgと国際線よりもかなり厳しい制限が設けられています。超過料金は高額になるケースが多いため、荷物はできるだけコンパクトにまとめることをおすすめします。また、ハードケースのスーツケースよりも柔軟性のあるソフトバッグやバックパックのほうが搭載しやすく便利です。
- トラブル発生時の対応について
タンザニアの国内線は天候や機材の事情により、遅延や欠航が発生することがあります。これも「アフリカンタイム」の一部と捉え、ある程度の心構えが必要です。万が一フライトがキャンセルされた場合は、航空会社のカウンターで代替便の手配を依頼します。英語でのコミュニケーションが求められるため、冷静に状況を説明しましょう。このような予期せぬ事態に備え、海外旅行保険の加入は必須です。特にフライト遅延や欠航による損害を補償するプランを選ぶと安心です。
海路:時間に余裕があり冒険心を満たす旅に
時間に余裕があり、もっとローカルな体験を望む方にはフェリーの利用もおすすめです。ザンジバル島のストーンタウン港からペンバ島のムコアニ港まで、Azam Marineなどの会社が定期便を運航しています。
所要時間はおよそ5時間から8時間と長めで、船の快適さも飛行機に及びませんが、料金が非常にリーズナブルです。甲板から海を眺めたり、地元の乗客と触れ合ったりする船旅は、忘れられない思い出となるでしょう。
- チケットの購入方法と注意点
チケットは港のチケットオフィスやフェリー会社の公式ウェブサイトで購入可能です。特にハイシーズンは混雑するため、事前予約をおすすめします。ペンバ海峡は波が荒くなることもあるため、船酔いが心配な方は酔い止め薬を必ず持参してください。船内のエアコンが効きすぎて寒く感じることもあるため、軽い羽織ものを用意するのがよいでしょう。
滞在に最適なシーズンと日数の目安
ペンバ島を訪れるのに最適な期間は、乾季にあたる6月から10月、そして12月から2月です。この時期は晴天が続き、海の透明度も高くなるためマリンアクティビティに最適とされています。
一方、3月から5月と11月は雨季です。激しいにわか雨が降ることもありますが、そのおかげで島の緑が一層鮮やかになり、旅行者の数も減るため静かに過ごせます。クローブの収穫期は主に7月から12月ですので、この時期に訪れると、島全体がスパイシーな香りに包まれる光景を目にできるかもしれません。
滞在日数は移動時間を考慮して最低でも3泊4日を確保し、できれば5泊以上滞在すると、ゆったりと島の魅力を堪能できます。
家族旅行に役立つ持ち物リスト
しっかり準備することで、旅の快適さは格段に向上します。特に子連れの場合、日本で簡単に手に入るものが現地では入手困難なこともあります。以下に我が家が実際に用意したおすすめの持ち物リストをまとめました。
- 重要書類類
- パスポート(残存有効期間は6ヶ月以上必須)
- タンザニアのビザ(詳細は後述)
- 航空券(eチケットの控え)
- 海外旅行保険証書
- 黄熱病予防接種証明書(イエローカード):黄熱病が流行する国や経由地から入国する際に必要です。日本からの直行便やヨーロッパ・中東経由の場合は不要ですが、最新の情報は外務省海外安全ホームページで必ず確認しましょう。
- 衣類について
ペンバ島はイスラム文化が色濃く根付いています。リゾート内では比較的自由な服装が許されますが、村や町を訪れる際には現地の文化への配慮が欠かせません。
- 村歩き用:肩や膝を覆う服装が必須です。男性はTシャツと長ズボン、女性は長袖のブラウスやチュニックに、ロングスカートやゆったりしたパンツが好ましいです。加えて女性は頭を覆うスカーフやショールを1枚持つと、モスク訪問時などに役立ちます。
- ビーチやアクティビティ用:水着、ラッシュガード(子供の肌を強い日差しやクラゲから守るために特に有効です)、ビーチサンダル。
- その他:速乾性のTシャツ、朝晩の冷え込みや冷房対策として薄手のパーカーやカーディガン、森を歩く予定がある場合はトレッキング用スニーカーも用意してください。
- 健康・衛生用品
- 虫除け対策:マラリアやデング熱のリスクを考慮し、DEET配合の強力な虫除けスプレーは必ず持参しましょう。長袖長ズボンの着用も効果的です。マラリア予防薬の服用に関しては、渡航前にトラベルクリニックなどで専門医に相談してください。
- 日焼け対策:赤道に近いペンバの紫外線は強烈です。SPF50+かつPA++++の高性能日焼け止め、つばの広い帽子、サングラスを忘れずに持参しましょう。
- 常備薬:普段服用している薬に加え、解熱鎮痛剤、胃腸薬、絆創膏、消毒液などを準備してください。子供用の薬は現地で入手困難なので必ず持参しましょう。
- その他:携帯用手指消毒ジェル、ウェットティッシュ、ポケットティッシュもあると便利です。
- その他の持ち物
- カメラ:防水性能を備えたアクションカメラ(GoProなど)があれば、シュノーケリング時の美しい水中世界を撮影できます。
- 電子機器:モバイルバッテリー、変換プラグ(タンザニアではBFタイプが主流)。
- 現金:クレジットカードの利用は高級ホテルや一部ツアー会社に限定されます。米ドル(USD)と現地通貨のタンザニア・シリング(TZS)の両方を用意しましょう。特に小規模店や市場、チップの支払いにはシリングの小額紙幣が重宝します。米ドルは2009年以降に発行された新札を用意してください。古い紙幣は受け取りを拒否されることがあります。
ビザ、通貨、通信環境について
- ビザ取得について
日本国籍の旅行者はタンザニア入国に際しビザが必要です。従来は空港でのアライバルビザ取得も一般的でしたが、混雑と手続きの煩雑さを避けるため、渡航前にオンラインでe-Visaを申請・取得することを強く推奨します。タンザニア移民局公式サイトから申請可能で、発給まで数週間かかることがあるため、余裕をもって申請してください。
- 通貨および両替のポイント
現地通貨はタンザニア・シリング(TZS)です。ペンバ空港やチャケチャケの町に両替所や銀行が点在しますが、本土やザンジバルに比べてレートが悪い場合もあります。ある程度まとまったシリングは、ダルエスサラームやザンジバルの空港で両替しておくのが賢明です。1,000、2,000、5,000シリング紙幣の小額紙幣を多めに用意すると便利です。
- 通信環境について
ペンバ島のインターネット環境はまだ十分に整っていません。ホテルのWi-Fiはロビー限定だったり、速度が遅いことも多いです。常に通信が必要な場合は、空港や町の携帯ショップで現地のSIMカードを購入するのが確実です。データ通信プランを選べば、Googleマップや情報検索がスムーズに行えます。
緑の島が育む生命の輝き – ペンバ島の自然

念入りな準備を終え、ついにペンバ島へと向かいました。飛行機の小さな窓から見えてきたのは、ガイドブックの写真で見たまま、深い緑に包まれた土地でした。その周囲を取り囲むように広がるサンゴ礁と、吸い込まれるかのような鮮やかな深青の海。この島に息づく圧倒的な生命のエネルギーに触れる旅の幕開けです。
海の宝石箱 – ミサリ島海洋保護区
ペンバ島を訪れた目的の一つが、世界的評価を受けるその海を体験することでした。その中でも、島の西岸沖に浮かぶミサリ島は必ず訪れるべき場所です。チャケチャケからボートで約45分。エンジンの音を響かせながら進むと、やがて視界に真っ白な砂浜と緑豊かな小島が見えてきます。ここがミサリ島海洋保護区です。
船から海へと飛び込んだ瞬間、私たちは言葉を失いました。そこはまさに「海の宝石箱」そのものでした。透き通る水中には、テーブルサンゴ、枝サンゴ、ハマサンゴなど多様なサンゴが、まるで巨大な庭園のように広がっています。その間を、目を奪われる美しい色彩の熱帯魚たちが群れを作って泳いでいるのです。
息子たちは、初めて目にする光景に大興奮。シュノーケルマスク越しに聞こえる「うわー!ニモだ!」「カメがいる!」といった歓声が海中に響き渡ります。幸運にも、優雅にサンゴを食べるアオウミガメと出会い、しばらくの間その泳ぎを静かに見守りました。まるで自然のドキュメンタリー番組の中に自分たちが入り込んだかのような、不思議で感動的な体験でした。
- ミサリ島ツアーの予約とルール
ミサリ島ツアーは、宿泊ホテルまたはチャケチャケの町のツアーオペレーターを通じて手配するのが一般的です。予約時には、ボート代や保護区入場料、シュノーケル用具レンタル、ランチや飲み物の有無など、料金に含まれる内容を必ず確認しましょう。 ミサリ島は貴重な生態系を守る環境保護区です。訪れる私たちにも環境保護への配慮が求められます。
- サンゴの上に立ったり手で触れたりしないこと。
- 魚に餌を与えないこと。
- 出したゴミは必ず持ち帰ること。
- サンゴに有害な成分(オキシベンゾンやオクチノキサートなど)を含まない「リーフセーフ」な日焼け止めを使用すること。
これらの小さな配慮が、この美しい海を未来へと継承する鍵となります。島の環境保全の取り組みについては、Friends of Pembaなど現地のNPO団体のサイトで詳しく紹介されています。
神秘の森を歩く – ンゲジ森林保護区
ペンバ島の魅力は海だけにとどまりません。島の北部には、太古の姿を残す「ンゲジ森林保護区」が広がっており、ここはペンバ島固有のペンバ・フライングフォックス(大型コウモリ)の聖域として知られています。
私たちは森林保護区の入り口で公式ガイドを手配し、鬱蒼とした森のなかへ足を踏み入れました。ひんやりとした空気に湿った土と植物の香りが混じり合い、見上げるほどの巨木がそびえ立ち、シダやツタが絡み合ってジュラシックパークの世界に迷い込んだような感覚です。ガイドは薬草として利用される植物や珍しい鳥の名前を教えてくれながら、森の奥へと案内してくれました。
やがて森の一角が開けた場所で、ガイドが静かに空を指さしました。木の枝には黒いマントのようなものをまとった無数の塊がぶら下がっています。これがペンバ・フライングフォックスです。翼を広げると1メートルを超える巨大なコウモリが、昼間はここで休息を取っているのです。その異様でありながらもどこか神々しい光景に、子どもたちも息を呑んで見入っていました。
ガイドによると、彼らの活動時間は夕暮れ時。日が沈む頃、数千から数万ものオオコウモリが一斉に餌を求めて空へ舞い上がり、空を覆い尽くす壮大な光景は圧巻だといいます。
- ンゲジ森林保護区へ訪れる際の注意事項
- ガイド同行必須: 保護区内を歩くには入り口で登録し公式ガイドを雇うことが義務付けられています。これは訪問者の安全確保と森林の保護を目的としています。
- 服装: 虫刺されや植物による擦り傷を防ぐため、長袖・長ズボンの着用と足元を保護できる歩きやすい靴(スニーカーやトレッキングシューズ)が必須です。
- 持ち物: 虫除けスプレーや飲み水、双眼鏡を持参するとより楽しめます。
生命のゆりかご – マングローブの森
島の海岸線の多くは、複雑に入り組んだ水路と広大なマングローブの森で覆われています。このマングローブ林は、多くの海洋生物の産卵場や稚魚の成育場所「生命のゆりかご」であると同時に、高波や浸食から島の生活を守る天然の防波堤としての役割も果たしています。
私たちは伝統的な木造ダウ船をチャーターし、マングローブの水路を巡る探検ツアーに参加しました。エンジンを止めると辺りに広がるのは完全な静寂。聞こえてくるのはパドルが水をかく音や時折響く水鳥の鳴き声だけです。水面に映る空とマングローブの緑が織りなす対称的な景色は幻想的で、心が洗われるような美しさでした。
船頭の老人はこの森で獲れるカニやエビの話、またマングローブの木材が家の建材や船の材料としていかに重要かを、ゆったりとしたスワヒリ語混じりの英語で教えてくれました。海と森が密接に結びつき、人々の暮らしを支えていることを、私たちは肌で実感できました。カヤックを借りて自分のペースで静かな水路を巡るのもおすすめです。
時が止まったかのような村々 – ペンバ島の人々の暮らし
ペンバ島の旅のもう一つの魅力は、観光地化されていないありのままの村々を訪れ、そこで暮らす人々の日常に触れられる点です。そこには、私たちが忘れかけていたゆったりとした時間の流れと、人と人との温かなつながりが確かに息づいていました。
スパイスの芳香に包まれて
ペンバ島は、かつてオマーン・スルタン国の支配を受けていた時代から、世界に知られるクローブの一大産地として名を馳せてきました。島の経済や文化は、この小さな花の蕾とともに歩んできたと言っても過言ではありません。
私たちは地元のガイドに案内され、「シャンバ」と呼ばれるスパイス農園を訪れました。農園に足を踏み入れた瞬間、甘くて少し刺激的なクローブの香りが鼻をくすぐります。ガイドはクローブの木を指し示し、緑色の蕾が収穫された後、天日で乾燥されることで、私たちがよく知る茶色いスパイスになると説明してくれました。
それだけではありません。農園ではナツメグ、シナモン、カルダモン、バニラ、胡椒など、多種多様なスパイスが実っている様子を実際に見ることができました。子供たちはシナモンの樹皮を少し削ってその香りを嗅いだり、バニラビーンズの甘い香りに驚いたりと、五感をフルに活用して自然の恵みを学んでいました。スーパーマーケットの棚に並ぶスパイスがどうやって私たちの手元に届くのかを知ることは、子供たちにとって絶好の食育体験となったことでしょう。
農園の方々は温かく私たちを迎え入れ、もぎたてのフルーツを振る舞ってくれました。言葉は通じなくとも、その笑顔と心のこもったおもてなしによって、胸の奥がじんわりと温まるのを感じました。
漁村の朝と夕暮れ
ペンバ島の海岸線に点在する小さな漁村の風景は、島の原風景とも言えるでしょう。ある日、私たちは早起きして近隣の漁村の浜辺を訪れました。
夜明け前の薄明かりの中、伝統的なダウ船が次々と沖から戻ってきます。船が着くや否や、村の人々が集まり、一気に活気づきます。男たちは網から魚をはずし、女たちは獲れた魚を大きさや種類ごとに手際よく仕分けていきます。その傍らでは、子供たちが歓声をあげて走り回り、猫たちがこぼれ落ちた魚を狙っています。すべてが何世代にもわたり繰り返されてきた、生命力あふれる日常の光景でした。
夕暮れ時に再び浜辺を訪れると、今度は網を修繕する男たちの姿がありました。彼らは翌日もまたこの海の恵みを受け取るために、黙々と準備を進めています。そこには、自然と共に生きる人々の静かで力強い営みが息づいていました。
- 村を訪れる際の心得
こうした村を訪れる際には、「お邪魔させてもらっている」という意識を強く持つことが大切です。
- 挨拶: 現地の人とすれ違う際には、「ジャンボ!(こんにちは)」「アサンテ・サーナ(ありがとうございます)」など、簡単なスワヒリ語で挨拶してみましょう。それだけで心の距離がぐっと縮まります。
- 写真撮影: 生活の様子や子供たちの写真を撮りたい場合は、必ず事前に「フォト?」と尋ねて許可を得てください。無断でカメラを向けるのは相手への敬意に欠ける行為です。
- 服装: 以前にも述べた通り、肌の露出を控えた服装を心がけましょう。
- お菓子の配布は控える: 子供たちがかわいいからといって安易にお菓子や文房具、お金を渡すのは避けましょう。それは物乞いの習慣を助長し、子供たちの健全な成長に悪影響を及ぼす恐れがあります。支援を希望する場合は、学校や村の代表者を通じて寄付するのが適切です。
島最大の町チャケチャケを散策
ペンバ島の行政と商業の中心地であるチャケチャケは、島内で最も大きな町ですが、それでもどこかのんびりとした雰囲気が漂っています。町の中心に位置する市場は、島の人々の暮らしを垣間見るのに最適な場所です。
鮮やかなカanga(カンガ)やKitenge(キテンゲ)という布を身にまとった女性たちが、野菜や果物、スパイス、干し魚などを売り買いしており、その活気と色彩の豊かさに触れるだけで楽しい気分になります。私たちは市場で見たことのないフルーツや、揚げパンのような「マンダジ」という地元の軽食を味わいました。こうした小さな冒険も旅の醍醐味の一つです。
ペンバ島での滞在 – 旅の拠点選び

ペンバ島の宿泊施設はウングジャ島ほど数は多くありませんが、その分、個々の施設が独自の魅力を放っています。旅の目的や予算に合わせて、最適な滞在先を選びましょう。
贅沢なプライベート空間 – ラグジュアリーロッジ
喧騒から完全に離れ、最高級のサービスと共に自然を満喫したい方には、島の北端や南端に点在するラグジュアリーロッジがおすすめです。
代表的な施設に「The Manta Resort」があります。特に注目されているのが、海に浮かぶプライベートな「水中ルーム」で、ベッドルームの窓越しに色とりどりの魚たちが泳ぐ非日常的な体験を楽しめます。また、「Fundu Lagoon」はボートでしか行けない隠れ家リゾートで、テントスタイルのサファリロッジが特徴的です。
これらのロッジはオールインクルーシブが多く、宿泊費に食事やドリンク、一部のアクティビティが含まれているため、滞在中は何も気にせずリラックスして過ごせます。ファミリー向けのヴィラや子ども向けのアクティビティが充実している施設もあり、特別な記念旅行にぴったりです。
自然と調和する – エコフレンドリーな宿
ペンバ島の自然や地域社会との共生をテーマにしたエコフレンドリーな宿泊施設も増加しています。これらの宿は地元の素材を活用し、太陽光発電や雨水再利用など環境への配慮を重視して建てられています。
「Pemba Lodge」や「Gecko Nature Lodge」などが代表例で、豪華さよりも自然との一体感や素朴な心地よさを大切にしています。地元スタッフが多く、アットホームな雰囲気の中でペンバ島の文化に深く触れられるのも魅力です。レストランでは地元のシャンバで収穫された新鮮な野菜や近海の魚介類を使った料理が味わえます。
地元に溶け込む – ゲストハウス
予算を抑えつつ現地の暮らしを肌で感じたいなら、チャケチャケなどの町にあるゲストハウスが適しています。設備はシンプルながら清潔に保たれており、宿のオーナーや他の旅行者との交流も楽しめます。町のレストランでローカルフードを満喫したり、市場で買い物をしたりすることで、より自由に島の日常に溶け込めるでしょう。ただし、英語が通じにくいこともあるため、簡単なスワヒリ語のフレーズを覚えておくと、コミュニケーションがよりスムーズになります。
持続可能な楽園のために – 旅人ができること
ペンバ島で過ごした日々は、私たち家族に自然の壮大さと、それと共に暮らす人々の豊かな暮らしを教えてくれました。この島が持つ「手つかずの魅力」は、かけがえのない宝物です。しかし、その宝は非常に繊細でもあります。ペンバ島を訪れる人々が増えれば増えるほど、その魅力が失われる危険性も否定できません。
この美しい楽園を未来の世代や現地に暮らす人々のために守り続けるためには、私たち一人ひとりの意識と行動が欠かせません。
- 地域経済への意識ある貢献
旅行の楽しみの一つに、現地でのお金の使い方があります。可能な限り、地元の人が営む小規模な商店やレストランを利用しましょう。ツアーを申し込む際も、地元のガイドを雇うことで観光収益が直接コミュニティに還元されます。お土産には、村の女性たちが手作りした工芸品や、農園で販売されているスパイスを選ぶのも素敵な選択です。
- 環境負荷の最小化を心がける
ペンバ島には十分なゴミ処理施設がまだ整っていません。特にプラスチックごみは、美しい自然を汚す大きな要因となっています。旅行中はマイボトルやマイバッグを持参し、できるだけゴミを減らす努力をしましょう。ホテルの滞在時には、水や電気を節約することも重要です。サンゴ礁保護のためにリーフセーフの日焼け止めを使うのは、今や常識とも言えます。
- 文化への深い敬意を忘れずに
ペンバ島では私たちは「訪問者」であることを意識し、その土地の文化や宗教、習慣を尊重する姿勢を常に持ちましょう。特に服装や写真撮影のマナーは、現地の人々と良好な関係を築くうえで非常に大切です。イスラム教のラマダン(断食月)に滞在する場合は、日中の公共の場での飲食を控えるなどの配慮も必要となります。
- 学びを深め、伝える努力をする
ペンバ島が直面している環境問題や社会課題について知ることも、責任ある旅の一環です。例えば、African Impactのような団体が実施する海洋保全のボランティアプログラムについて調べたり、地域の環境保護活動に少額でも寄付をしたりすることも、旅人にできる支援の一つです。そして帰国後は、この島の素晴らしさと守るべきものを、周囲の人たちにぜひ伝えてください。
ペンバ島への旅は、単なるリゾートでの休暇ではありません。それは、自分自身の生き方や世界との関わり方を見つめ直す、深い学びの旅でもあります。手つかずの自然、温かな人々、そしてゆったりと流れる時間。島が私たちに与えてくれた感動と気づきを胸に、また日常へと戻りますが、その心の中には、緑豊かな島の景色や澄んだ青い海がいつまでも鮮やかに刻まれていることでしょう。
この島の未来は、ひょっとすると私たちの旅のあり方にかかっているのかもしれません。次に楽園への旅行を計画する際には、その候補のひとつとしてぜひペンバ島の名前を思い出していただければ幸いです。

