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    アフリカの観光開発と富裕層誘致の光と影 – 持続可能な旅のために私たちが考えるべきこと

    サバンナを駆ける野生動物の群れ、燃えるような夕日、そして大地に根ざした多様で豊かな文化。アフリカという大陸の名を聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、そんな生命力に満ち溢れた光景ではないでしょうか。その壮大な自然と文化に魅せられ、世界中から多くの旅行者がこの地を訪れます。近年、その中でも特に注目を集めているのが、「ハイエンド・ツーリズム」、すなわち富裕層をターゲットにした観光です。

    プライベートジェットで国立公園に降り立ち、専属ガイドと共に誰にも邪魔されないサファリを楽しむ。夜はシャンパンを片手に、満点の星空の下、豪華なロッジでシェフ特製のディナーに舌鼓を打つ。こうした贅沢な旅は、一人当たりの消費額が非常に高く、観光客の数を抑えながらも大きな経済効果を生む「低インパクト・高付加価値」な観光モデルとして、多くのアフリカ諸国の政府や観光業界から大きな期待を寄せられています。実際に、その収益の一部が絶滅危惧種の保護活動や、地域住民の雇用創出に繋がっているという「光」の側面があることは紛れもない事実です。

    しかし、その煌びやかな光の裏側で、深い影が落ちていることも見過ごしてはなりません。高級ロッジ建設のために、先祖代々の土地を追われる人々。観光ブームから取り残され、貧困にあえぐ地域社会。そして、観光客向けに「演じられる」ことで、本来の意味を失っていく伝統文化。富裕層誘致という名の開発は、時として地域社会に深刻な亀裂を生み、環境に静かな、しかし確実な負荷をかけています。

    この記事は、アフリカの富裕層向け観光を単純に「善」か「悪」かで断罪するために書かれたものではありません。その複雑な実態を多角的に見つめ、光と影の両方を理解すること。そして、遠い大陸で起きていることが、実は旅行者である私たち自身の選択と無関係ではないという事実に気づくこと。その先に、アフリカーそして私たち自身にとって、より良い「旅」のあり方が見えてくるはずです。さあ、一緒にその深淵を覗いてみましょう。

    目次

    富裕層誘致がもたらす「光」:経済発展と自然保護への貢献

    アフリカにおける富裕層向け観光を語る際、まず注目すべきはそのもたらすポジティブな側面です。多くの国にとって観光業は貴重な外貨を獲得し、国家経済を支える重要な柱の一つとなっており、その中でもハイエンド・ツーリズムは「金の卵」として特別な存在とされています。

    経済的インパクトという推進力

    多数の観光客を安価なパッケージツアーで呼び込むマスツーリズムは、大規模なインフラ整備が必要であり、環境への負荷も大きくなる傾向があります。一方で、ハイエンド・ツーリズムは一人当たりの旅行費用が数百万円、場合によっては一千万円を超えることも珍しくありません。これは、少数の観光客でありながらマスツーリズムに匹敵する、あるいはそれ以上の経済効果を生み出せることを示しています。

    この「低インパクト・高付加価値」という考え方は、特に未開発の自然環境を最大の観光資源とする国々にとって非常に魅力的です。ボツワナはその代表例と言えるでしょう。同国は早くから「High Value, Low Volume(高価値・低訪問者数)」の戦略を掲げ、オカバンゴ・デルタなどの貴重な自然環境への入域を厳格に制限しつつ、一泊数十万円以上の高級ロッジの建設を認め、富裕層向け観光を積極的に推進してきました。その結果、環境負荷を最小限に抑えつつ、観光業を国家の主要産業へと育て上げることに成功しています。

    この種の観光開発は、現地に直接的な雇用をもたらします。サファリガイドやレンジャー、ロッジのシェフやハウスキーパー、ドライバー、さらには工芸品製作者など、多様な職種が生まれ、これまで現金収入の機会が限られていた人々の生活基盤を支えています。また、観光客が利用する道路や通信、空港といったインフラ整備は、地域住民の生活利便性向上にも寄与します。さらに、観光収益の一部が税収として国に還元され、教育や医療といった公共サービスの充実に活用される点も見逃せない大きな効果です。

    「保護のための観光」という新たな潮流

    富裕層向け観光の恩恵は経済面だけにはとどまりません。その真価はむしろ自然保護への貢献にこそあると言っても過言ではありません。

    多くの高級サファリロッジは国立公園や私営保護区内、あるいは隣接地に建てられており、観光客が支払う高額な賃借料や入園料は、公園の運営費用や密猟監視のレンジャーの給与、保護活動に必要な装備購入費に直接充てられています。つまり、観光収益がそのまま自然保護の重要な資金源となっているのです。

    このモデルの最も著名な成功例が、ルワンダのマウンテンゴリラ・トレッキングです。絶滅の危機にあったマウンテンゴリラを守るため、ルワンダ政府はトレッキング許可証(パーミット)を2024年現在で一人当たり1500ドルという高価格に設定し、トレッキング人数も厳しく制限しています。この価格政策によってゴリラの生息地への過度な人の立ち入りを防ぎ、ストレスを与えることなく、保護活動に必要な多額の資金を確保することに成功しました。

    さらに重要なのは、収益の一部がゴリラ生息地周辺に住む地域コミュニティへ還元される仕組みが整備されている点です。かつては害獣としてゴリラを敵視していた住民たちが、ゴリラが地域の生活を豊かにする存在であると認識を改め、コミュニティ自らが保護活動に積極的に関与し、密猟の監視や情報提供に協力するようになりました。まさに「保護のための観光」が地域に根付いた瞬間といえます。

    また、観光客やサファリ車両が常にエリア内を巡回している事実自体が密猟者に対する強力な抑止力をもたらしています。人目のある場所では密猟が行いにくいためです。中には元密猟者を雇い、彼らの知識や経験を生かしてトラッキングガイドや密猟対策のレンジャーとして活用する先進的な取り組みも存在します。これは観光が単に自然保護に寄与するだけでなく、地域社会が抱える複雑な問題解決にも寄与し得ることを示しています。

    このように、富裕層向け観光は経済成長の原動力となるだけでなく、持続可能な自然保護の仕組みを構築する上で強力な手段となりうるのです。その明るい光は、多くのアフリカ諸国にとって未来への希望を照らすものと言えるでしょう。しかし、その光が強ければ強いほど、影の部分もまた深く濃くなることを忘れてはなりません。

    見過ごされる「影」:地域社会からの叫びと環境への懸念

    豪華なロッジから望む夕日は、確かに見事なものです。しかし、そのロッジが建てられた土地に、かつて誰かが暮らしていたとしたら、その美しい景色は私たちに何を語りかけるのでしょうか。これまで富裕層観光の「光」の側面を見てきましたが、今度はその裏側に潜む問題、つまり「影」の部分に深く切り込む必要があります。

    土地収奪と強制立ち退きに伴う苦痛

    アフリカでの観光開発、特に保護区の設置や高級ロッジの建設において、最も重大で根深い課題の一つが土地をめぐる争いです。観光客が憧れる「手つかずの自然」や「野生動物の楽園」とされる場所は、多くの場合、先住民族や地域住民が何世代もにわたり牧畜や狩猟、採集を続けてきた暮らしの場そのものです。

    しかし、政府や海外の投資家がその土地を「観光資源」と見なすと、状況は一変します。これらの土地は「国立公園」や「動物保護区」に指定され、住民たちは「自然保護」や「国の発展」という大義名分のもと、強制的な立ち退きを強いられるケースが後を絶ちません。

    その典型例が、タンザニア北部のマサイ族に関わる問題です。彼らは伝統的に牛を連れて広大な土地を移動しながら暮らす半遊牧民でしたが、セレンゲティ国立公園やンゴロンゴロ保全地域の設置により、自由な移動が厳しく制限されました。近年では、アラブの王族向けの狩猟場や高級サファリ会社のために、マサイ族の村が焼き払われ、暴力的に追い出される事件が相次いでいます。国際人権団体サバイバル・インターナショナルは、そのような行為を「保全の名を借りた土地収奪」として厳しく批判しています。

    住民たちは十分な説明を受けることなく、わずかな補償金と引き換えに、水や牧草地が乏しい不毛の地へと追いやられます。伝統的な生業を失い、コミュニティは崩壊、多くの人々が貧困に陥るのです。彼らが喪失したのは単なる土地以上のものであり、それは文化であり、アイデンティティであり、先祖から引き継いだ歴史そのものなのです。私たちがサファリカーの窓から感動を胸に眺める雄大な風景は、誰かの犠牲の上に成り立っている可能性があることを、決して忘れてはなりません。

    利益の還元先はどこか?構造的な「リーケージ」の問題

    「観光が地域経済に利益をもたらす」という言葉は、しばしば幻想に過ぎない場合があります。その実態を明らかにするキーワードが「リーケージ(Leakage)」、すなわち利益の漏出です。

    アフリカのハイエンド観光市場は、外資系ホテルチェーンや国際的ツアーオペレーターが多くを支配しています。観光客が支払う高額な旅行費用は、予約を受けた本国の旅行代理店や航空会社にまず流れ、現地のホテルやツアー会社にはごく一部が渡される仕組みです。しかもそのホテルが外資系の場合、利益の大半は配当として親会社の所在国へ送金されてしまいます。

    さらに、高級ロッジで使用される食材、ワイン、リネン類、建築資材の多くが輸入品であり、その支払いもまた国外に流出します。そのため、観光によって生み出された富のうち、実際に現地や地域コミュニティに残留するのはごく少量にとどまるのです。世界銀行の調査によると、開発途上国における観光収入のリーケージ率は40%から50%に達すると言われています。

    雇用の面でも問題は根深いです。確かに、清掃員やウェイター、警備員などの職は地域住民に提供される場合もありますが、多くは低賃金で不安定な非正規の仕事です。その一方で、支配人やマネージャーといった高待遇の責任職は、主に本国からの派遣外国人が占めています。これでは地域の人々がスキルを習得し、キャリアアップを目指す道は狭いままです。経済的格差が温存、さらには拡大され、地域社会に新たな不満や分断を生みかねません。

    文化の商業化と失われゆくアイデンティティ

    観光は異文化理解を深める貴重な機会です。しかし、それが一方的な「見る・見られる」という関係にとどまると、文化は本来の意味を失い、「商品」として変質してしまいます。

    たとえば、マサイ族の伝統的なジャンプ「アドゥム」は、もともと戦士としての強さや求愛の意を示す重要な儀式でした。しかし現在、多くの場所で観光客からのチップを得るための「ショー」として何度も繰り返されています。この背景にある文化的意義を理解する観光客がどれほどいるでしょうか。

    聖なる儀式の場が観光客に開放され、神聖さが失われる。伝統工芸品が観光客の嗜好に合わせてデザインを変えられ、安価な素材で大量生産される。このような「文化の商業化」は、地域の人々のアイデンティティを揺るがし、世代を超えた文化の継承を難しくします。自分たちの文化が単なる金銭獲得の道具に消費されていくことへの無力感や憤りは、計り知れないものがあります。

    もちろん、すべての文化交流が否定されるべきではありません。問題は、そこに敬意や対等な関係性が欠けていることです。訪れる側である私たちは、自分たちが知らず知らずのうちに文化の消費者や破壊者になっていないか、常に問い続ける必要があります。

    見えにくい環境への影響

    「低インパクト」を謳う富裕層観光であっても、その環境負荷がゼロではないことは明らかです。むしろ、一人当たりの環境負荷はマスツーリズムを上回るとの指摘もあります。

    豪華なロッジは、ゲストの快適性を維持するために大量の水や電力を消費します。プライベートプールに水を満たし、芝生に水を撒き、部屋をエアコンで冷やす。特に水資源が深刻に不足する乾燥地域では、これが地域住民の生活用水を圧迫する大きな問題となっています。

    また、富裕層の移動手段であるプライベートジェットやサファリに利用される大型四輪駆動車は、多量の二酸化炭素を排出します。観光客の希望に応えてガイドが定められたルートを外れてオフロード走行を行えば、繊細な草原の植生が甚大に損なわれてしまいます。

    野生動物への影響も無視できません。多くのサファリカーがライオンやチーターの周囲に集まると、彼らは強いストレスを抱き、狩りの成功率が低下したり、子育てを放棄したりする場合もあります。私たちの「見たい」という欲求が、知らず知らずのうちに彼らの生存を脅かしている可能性があるのです。

    これらの事象は複雑に絡み合い、一つ一つが深刻な問題を孕んでいます。富裕層観光のもたらす光と影、その両面をしっかりと見据えたうえで、私たちはこう問い直さなければなりません。持続可能で公平かつ敬意に満ちた旅は、本当に実現不可能なものなのでしょうか。

    私たちは「責任ある旅行者」になれるか?:持続可能な観光への道筋

    富裕層観光が抱える多くの課題に直面すると、私たちは無力感を感じるかもしれません。しかし、そこで思考を止めるのは早すぎます。問題の本質は、富裕層観光そのものが全て悪いわけではなく、その「あり方」にこそ問題が潜んでいるからです。搾取的で一方的な観光から、共存共栄を目指す観光への転換。それを後押しするために、私たち旅行者にできることは意外に多いのです。

    もうひとつの選択肢「コミュニティ・ベースド・ツーリズム」

    「観光の利益を地域に還元する」というシンプルな考え方を具現化したのが「コミュニティ・ベースド・ツーリズム(Community-Based Tourism、CBT)」です。これは、地域の住民が観光事業の企画・運営・管理を主体的に行い、その利益が直接コミュニティ全体に戻る仕組みの観光形態を指します。

    CBTのスタイルは多様です。村が共同で運営する小規模なロッジやキャンプ場、地元住民がガイドとなって村の暮らしや文化を案内するウォーキングツアー、伝統料理を一緒に作る料理教室、ホームステイなどもあります。高級ロッジのような豪華さや洗練さには劣るかもしれませんが、そこにはお金では買えない真の出会いと温かな交流があります。

    ナミビアはCBTの先進国として知られています。同国には「コンサーバンシー(Communal Conservancy)」と呼ばれる、地域住民が土地の野生動物や自然環境を共同管理する仕組みが数多く存在します。彼らは自然資源を生かした観光事業(ロッジ経営や狩猟ツアーなど)を展開し、その収益は学校や診療所の建設、水道整備、さらには家計への現金分配に充てられています。こうして人々の生活向上と自然保護を両立させる成功モデルを築いています。

    CBTは、旅行者を単なる「消費者」から「地域のパートナー」へと変えることを促します。自分たちが支払ったお金が誰の暮らしを支え、何を守るために使われるのか。その過程を見届ける旅は、私たちの世界観をより深く、豊かなものに変えてくれるはずです。

    信頼の証「エコツーリズム認証」を目安に

    「環境に配慮し、地域に貢献する旅をしたい」と願っても、数多くのツアーやロッジのなかから、本当に理念を実践している事業者を見極めるのは簡単ではありません。そんなとき頼りになるのが、第三者機関の「認証制度」です。

    国際エコツーリズム協会(The International Ecotourism Society)は、エコツーリズムを「環境保全と地域住民の生活向上を両立させる、自然地域での責任ある旅行」と定義しています。この理念に基づき、世界各地には多様な認証制度が存在しています。

    南アフリカを中心に広く認知されている「Fair Trade Tourism」は、公正な賃金支払い、安全な労働環境、従業員の権利尊重、地域社会への貢献、環境保護といった厳格な基準を満たす事業者に付与される認証です。また、ケニアの「Ecotourism Kenya」では、環境・社会・経済への貢献度を金・銀・銅の3段階で評価しており、旅行者が事業者のレベルを判断する際のわかりやすい指標となっています。

    これらの認証マークは、多くの場合、事業者のウェブサイトやパンフレットに表示されています。予約前にこうした「信頼のシンボル」を探すことは、責任ある旅行者としての第一歩です。認証があるということは、その事業者が透明性を持ち、外部からの評価を積極的に受け入れていることの証でもあります。

    今すぐ始められる「旅の準備」と「現地での心得」

    持続可能な旅は、計画の段階からスタートします。また、現地での一つ一つの行動が、その地域への影響を左右します。ここでは、具体的にどのような行動を取るべきか、段階ごとに見ていきましょう。

    Do: 旅行前の準備

    • 徹底した情報収集: 訪れる国や地域の歴史・文化・社会情勢、そして現在抱える環境問題や人権課題について事前に学びましょう。外務省の海外安全情報だけではなく、現地のニュースサイトや、先に紹介したサバイバル・インターナショナルのようなNGOのウェブサイトも貴重な情報源です。問題の背景を理解することで、現地での体験への理解が飛躍的に深まります。
    • 事業者を賢く選ぶ: 「価格が最も安いから」という理由だけでツアーやロッジを選ぶのは避けましょう。安さの裏に、人・環境への負担が隠れていることがあります。事業者のウェブサイトをしっかり読み込み、地域社会や環境保護に具体的に取り組んでいるか(例えば、スタッフの何%が地元出身か、利益の何割をコミュニティへ還元しているか、再生可能エネルギーを使用しているかなど)を確認してください。CBTやエコ認証を取得している事業者は、非常に信頼できる選択肢です。疑問があれば、予約前に直接メールで問い合わせるのも良いでしょう。誠実な事業者なら親切に応えてくれるはずです。
    • 持ち物の工夫: マイボトルや携帯用カトラリーを持参し、ペットボトルなどプラスチックごみを減らす努力をしましょう。シャンプーや石鹸は環境に優しい生分解性の製品を選ぶとさらに良いです。また、現地で手に入るものは極力現地で購入しましょう。そうすることで地域経済への支援につながります。子どもたちへのお菓子や文房具の無計画な配布は、物乞いを助長したり、子ども間で不公平感を生む恐れがあります。支援をしたい場合は、地元の学校や地域リーダーを通じた寄付が最も適切で確実な方法です。

    Do: 現地での行動

    • 敬意を払った服装とマナー: 特にイスラム圏や保守的な農村部を訪れる際は、現地の文化や習慣を尊重し、肌の露出を控えた服装(長袖・長ズボンなど)を心がけましょう。寺院やモスクなど宗教施設を訪れる際は、特に注意が必要です。事前にガイドに適切な服装を確認しておくと安心です。
    • 写真撮影の許可: 人々の暮らしや笑顔は魅力的な被写体ですが、特に子どもを撮影する際は必ず一言声をかけて許可を得るのが最低限の礼儀です。言葉が通じなくても、カメラを示して微笑めば相手の意思は伝わります。無断撮影や、それをSNSに投稿する行為は、相手の尊厳を傷つけるだけでなく、肖像権の侵害になる可能性もあります。
    • 野生動物への配慮: サファリツアーでは必ずガイドの指示に従いましょう。動物を驚かせないよう、車内では静かにし、フラッシュ撮影は絶対に避けてください。動物に餌を与える行為は、生態系を破壊し、人間への依存を高める危険な行為です。どんなに近づきたくても、動物とは安全かつ敬意のある距離を保つことが、お互いを守ることにつながります。
    • 賢く、公正な買い物: 象牙や特定の動物の皮製品、べっ甲製品など、ワシントン条約で国際取引が規制されている動植物由来の製品は絶対に購入しないでください。そうしたものを買うことは、違法な密猟を助長することになります。市場で工芸品を買う際は、不当に値切るのではなく、手間や技術を尊重し、作り手が正当な対価を得られるような価格交渉を心がけましょう。

    Do: トラブルが起きたときの対応

    • 予約に関するトラブル: 予約したツアーや宿泊施設で内容が異なったり、過剰請求されたりした場合は、まずは冷静になり、事業者の担当者と話し合いましょう。感情的にならず、予約確認書などの証拠を提示しながら問題点を具体的に伝えます。それで解決しない場合は、旅行代理店や予約サイト(Booking.comやExpediaなど)のカスタマーサポートに連絡しましょう。担当者名ややり取りの記録、写真などの証拠を保存しておくことが後々役立ちます。
    • 緊急時への備え: パスポートの紛失・盗難、事故、病気など不測の事態に備え、現地の日本大使館・総領事館の連絡先、加入している海外保険の24時間対応デスク、クレジットカード会社の緊急連絡先などをスマートフォンだけでなく紙にも書き出し携帯しましょう。外務省海外安全ホームページでは、各国の最新安全情報や緊急連絡先の確認ができます。渡航前には必ずチェックし、「たびレジ」への登録も強く推奨します。

    これらの行動は一つひとつは小さなことかもしれません。しかし、多くの旅行者が意識と行動を変えることにより、それは大きな潮流となって観光業界全体のあり方を変える力となるのです。

    アフリカ観光の未来:対話と共存のモデルを求めて

    アフリカの観光には明暗が共存しています。その極端な現実を直視してきた私たちは、今まさに重要な分岐点に立たされています。一部の人々だけが利益を得続け、地域社会や環境が犠牲になる状況を見過ごすのか。それとも対話を重ねて理解を深め、人と自然、訪れる人々と迎える人々が共に共存できる新たな観光のあり方を模索していくのか。未来は私たちの選択に委ねられているのです。

    求められる政府と企業の改革

    持続可能な観光への転換は、個々の旅行者の努力だけでは限界があります。根本的な問題を解決するためには、政府の政策変更と企業の行動変革が不可欠です。

    政府には、観光開発の計画段階から地域住民や先住民族の代表を議論に参加させ、彼らの声を政策に反映する仕組みを整えることが強く求められています。土地の権利を法的に守り、無理な強制移住を決して許さない断固とした姿勢も必要です。さらに、観光収益が透明なプロセスのもと地域社会の教育・医療・インフラ整備に確実に還元されるよう、効果的な税制や分配システムを構築しなければなりません。

    一方、企業、特に大手のホテルチェーンやツアーオペレーターには、CSR(企業の社会的責任)を単なるスローガンに終わらせず、実際の行動として示す責任があります。地元農家からの食材調達や、地域の職人による工芸品をロッジの装飾や土産物に採用するなど、利益の「リーケージ」を防ぎ地域経済の循環を促進することが可能です。また、従業員の育成に注力し、現地スタッフがマネジメント層へと成長できるキャリアパスを確立することは、長期的に企業の競争力強化にも繋がるでしょう。

    私たちの「一票」が未来を変える

    何より重要なのは、私たち旅行者の役割です。私たちは消費者として、市場に影響を及ぼす「一票」を持っています。

    私たちが環境や社会に配慮した事業者を選び、そうでない事業者を避ける選択をするならば、企業の姿勢は変わらざるを得ません。私たちの需要が市場の供給を動かすのです。「安ければそれでいい」という思考を脱却し、多少費用がかかっても、その価格の背景にある理念やストーリーに共感できるサービスを選ぶ。こうした小さな選択の連続が、業界全体のスタンダードを押し上げていきます。

    旅が終わった後も、私たちの役割は終わりません。素晴らしいコミュニティ・ロッジやエコツアーについては、SNSやレビューサイトを通じて積極的に情報を発信しましょう。あなたのポジティブな体験談は、次の旅行者が「責任ある選択」をするための貴重な手がかりとなります。一方で、問題点を感じた場合には感情的な非難を避け、具体的な改善点を丁寧に事業者へフィードバックすることが重要です。建設的な対話が、より良いサービス向上の糸口となるのです。

    すでに芽生えている希望の芽

    悲観的な状況ばかりではありません。アフリカ各地や世界で、確かな希望の芽が育ちつつあります。

    世界観光機関(UNWTO)など国際機関は、持続可能な観光開発目標(SDGs)と観光を結びつけ、具体的なガイドラインや成功例を世界に発信しています。環境や人権意識の高い若い世代を中心に、サステナブルな旅への関心はグローバルな流れとなっています。

    また、アフリカ現地でも変革が進んでいます。海外で教育を受けた若者たちが故郷に戻り、自分たちの文化や自然に誇りを持ちながら新しい観光ビジネスを創出しています。IT技術を駆使して仲介業者を介さず、世界中の旅行者と直接つながり、公正な価格で独自の体験を提供するという力強い動きが各地で生まれているのです。

    彼らの目指すのは、単なる物見遊山の旅ではありません。訪れる側と迎える側が互いに学び合い、刺激を与え合い、共に成長していく、深い人間的なつながりを築く旅。それこそが、アフリカが世界に提供しうる最も価値ある「体験」なのかもしれません。

    壮大な自然、豊かな文化、そしてそこで暮らす人々の温かさ。アフリカの魅力は決して尽きることがありません。そのかけがえのない宝を次世代へと継承するために、私たちはもっと賢明に、もっと思いやりをもって、より責任ある旅行者となる必要があります。

    次に旅の計画を立てるときは、少しだけ立ち止まって考えてみてください。 その旅は誰の、そして何の未来につながっているのか。 あなたの一歩一歩が、アフリカそして世界の観光の未来をよりよい方向へと導く力を持っていることを、どうか忘れないでください。

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    この記事を書いたトラベルライター

    SimVoyage編集部は、世界を旅しながら現地の暮らしや食文化を体感し、スマホひとつで快適に旅する術を研究する旅のプロ集団です。今が旬の情報から穴場スポットまで、読者の「次の一歩」を後押しするリアルで役立つ記事をお届けします。

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