旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)は、新たに代表取締役社長に就任した澤田秀太氏のもと、AI技術の全面的な活用とグローバル事業の拡大を二本柱とする新経営戦略を発表しました。この戦略は、コロナ禍を経て大きく変化した旅行市場において、同社が再び成長軌道に乗るための重要な羅針盤となります。
AIが変える未来の旅行体験
パーソナライズと効率化の実現へ
新戦略の核となるのが、AI技術の活用です。HISは、AIを用いて顧客一人ひとりの興味や過去の旅行履歴に基づいた旅行プランを自動で提案するシステムの開発を進めます。これにより、膨大な選択肢の中から自分に最適な旅を簡単に見つけられるようになり、旅行計画の体験そのものが向上することが期待されます。
また、予約や問い合わせといったカスタマーサポート業務にもAIチャットボットなどを導入し、24時間365日対応可能な体制を構築。これにより、利用者の利便性を高めると同時に、社内の業務効率を大幅に改善し、スタッフはより創造的な企画業務などに注力できる環境を目指します。
背景にある業界の課題
この動きの背景には、旅行業界が直面する二つの大きな課題があります。一つは、顧客ニーズの多様化・個別化です。パッケージツアーだけでなく、より自由でユニークな体験を求める旅行者が増える中、個々の要望にきめ細かく応える必要性が高まっています。もう一つは、業界全体の人手不足です。AIによる業務自動化は、この課題を解決し、少ない人員でも質の高いサービスを維持するための鍵となります。
グローバルネットワークを武器に再成長へ
回復が期待される海外旅行市場
澤田新社長は、日本人の海外旅行需要の本格的な回復を見据え、グローバル事業の拡大に改めて注力する方針を明確にしました。日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2023年の日本人出国者数は約962万人で、コロナ禍前の2019年(約2,008万人)と比較すると依然として半分以下の水準に留まっています。しかし、これは裏を返せば、今後の大きな伸びしろを意味します。HISは、この回復局面を捉えるための準備を加速させます。
HISの強みとインバウンド戦略
HISの最大の強みは、世界中に張り巡らされた拠点網です。このネットワークを活用し、現地の最新情報を反映した魅力的な旅行商品を造成するだけでなく、訪日外国人旅行(インバウンド)の取り込みも強化します。
記録的な円安は、海外へ行く日本人にとっては逆風ですが、外国人旅行者にとっては日本を訪れる絶好の機会となっています。実際に、2024年の訪日外客数はコロナ禍前を上回るペースで推移しており、市場は活況を呈しています。HISは海外拠点を現地の旅行者を日本へ誘致するセールス拠点として機能させ、アウトバウンド(日本人の海外旅行)とインバウンドの両輪で収益拡大を目指す考えです。
旅行業界に与えるインパクトと今後の展望
HISが打ち出した「AI活用」と「グローバル展開の再強化」という戦略は、同社だけでなく、日本の旅行業界全体の未来を占うものとなるでしょう。AIによるパーソナライズ競争は今後さらに激化し、顧客データをいかに活用して付加価値の高いサービスを提供できるかが、企業の競争力を左右することになります。
HISの挑戦は、テクノロジーとグローバルな視点を融合させることで、旅行が持つ本来の楽しさや発見の喜びを、より多くの人々に、より最適な形で提供することを目指しています。この新たな航海が、旅行業界にどのような変革をもたらすのか、今後の動向から目が離せません。

