欧州連合(EU)が、域外の優秀なリモートワーカーを惹きつけるための新たな一手として、シェンゲン圏共通で利用可能な「デジタルノマドビザ」の導入に向けた本格的な検討に入りました。この構想が実現すれば、一度のビザ取得でヨーロッパの広大なエリアを自由に移動しながら働けるようになり、私たちの旅と仕事のスタイルに革命をもたらすかもしれません。
なぜ今、EUは「統一ビザ」を目指すのか?
点在するビザ制度と複雑さ
近年、リモートワークの普及を受け、エストニア、ポルトガル、クロアチア、スペインなど、多くのEU加盟国が独自のデジタルノマドビザや長期滞在ビザを導入してきました。実際、EU加盟国のうち十数カ国がすでに同様の制度を設けています。しかし、これらの制度は国ごとに申請要件(最低収入額、保険加入義務など)や滞在可能期間が異なり、申請者にとっては非常に複雑で分かりにくいのが現状でした。
例えば、ある国では月収2,500ユーロが求められる一方、別の国では3,500ユーロ以上が必要となるなど、その基準はバラバラです。この「制度の分断」が、EU全体としての人材誘致の足かせになっていると指摘されていました。
深刻化する労働力不足への対策
この動きの背景には、EU域内、特にテクノロジー分野における深刻な労働力不足があります。欧州委員会(Eurostat)のデータによると、2023年のEU全体の求人欠員率は2.7%前後で推移しており、多くの企業が必要なスキルを持つ人材の確保に苦労しています。
EUは、域外から高度なスキルを持つ人材を呼び込むことで、この労働力不足を解消し、経済のデジタル化とイノベーションを加速させたい考えです。国境を越えて才能が自由に流動する環境を整えることで、EU全体の競争力を高める狙いがあります。
統一ビザがもたらす未来と影響
リモートワーカーにとっての革命
シェンゲン圏共通のデジタルノマドビザが実現すれば、リモートワーカーにとってのメリットは計り知れません。
- 手続きの劇的な簡素化: 一度の申請で、シェンゲン協定に加盟する29カ国をビザの心配なく移動できるようになる可能性があります。これにより、ベルリンで数ヶ月プロジェクトに集中し、その後はリスボンの海岸で新しいアイデアを練る、といった柔軟な働き方が現実のものとなります。
- 機会の最大化: 複数国での生活や仕事を経験することで、多様な文化やビジネス環境に触れることができ、個人のキャリアやスキルセットを大きく向上させる機会が生まれます。
欧州経済への新たな活力
この制度は、EU経済にも大きなプラスの影響をもたらすと予測されています。
- 人材獲得競争での優位性: 世界中で繰り広げられている高度人材の獲得競争において、欧州は「大陸全体がワークスペース」という強力な魅力を打ち出すことができます。
- 地域経済の活性化: デジタルノマドは単なる労働者ではなく、滞在先で生活する消費者でもあります。彼らが各地を訪れることで、宿泊施設、飲食店、コワーキングスペース、さらには地方の観光業に至るまで、幅広い分野に新たな需要が生まれ、地域経済の活性化に貢献することが期待されます。
今後の展望と注目すべきポイント
EUは今後数ヶ月以内にビザ要件の草案を提出するとしており、その内容が大きな焦点となります。特に、以下の点が注目されます。
- 最低収入要件: 全加盟国が納得する水準の設定。
- 有効期間と更新条件: 長期的な滞在をどの程度認めるか。
- 税金の取り扱い: 複数の国に滞在する場合、どこに税金を納めるのかという複雑な問題。
全加盟国の合意形成が必要なため、実現までにはまだ時間と議論を要する可能性があります。しかし、この動きは、パンデミックを経て確立された「場所に縛られない働き方」という新しい潮流に、EUが本格的に対応しようとしている明確なシグナルです。
私たち旅行者、そして未来のリモートワーカーにとって、ヨーロッパがこれまで以上に身近で、魅力的な選択肢となる日もそう遠くないかもしれません。今後の動向から目が離せません。

