迫る新システム導入、欧州の空港に緊張走る
2026年4月10日に本格導入が予定されている欧州の新しい生体認証出入国管理システム(EES)。この新システムが、夏の旅行シーズンに深刻な混乱を引き起こす可能性があるとして、欧州の旅行業界から強い懸念の声が上がっています。国際空港評議会(ACI Europe)をはじめとする業界団体は、空港が大混雑に陥った場合にシステムを一時的に停止できるよう、欧州委員会に柔軟な対応を求めました。
simvoyageをご利用の皆様にとっても、今後の欧州旅行の計画に大きく関わるこの問題。背景と予測される影響について詳しく解説します。
EESとは? – 欧州の国境管理が変わる
EES(Entry/Exit System)は、シェンゲン協定加盟国に出入りする非EU加盟国の渡航者を対象とした、新しい自動出入国管理システムです。
EESの目的と仕組み
このシステムの主な目的は、シェンゲン協定域内の国境管理を強化し、セキュリティを向上させることです。これまで行われてきたパスポートへのスタンプ押印に代わり、渡航者の出入国記録を電子的に管理します。
対象となるのは、日本からの旅行者のように、短期滞在ビザが免除されている国籍の人々も含まれます。初めてシェンゲン協定加盟国に入国する際、空港などの国境で以下の生体認証情報を登録する必要があります。
- 指紋データ(4本指)
- 顔画像
一度登録すれば、データは3年間有効です。しかし、この「初回登録」プロセスに時間がかかることが、大きな懸念点となっています。
対象となる国
EESは、フランス、ドイツ、イタリア、スペインといった主要な観光国を含むシェンゲン協定加盟国29カ国で導入されます。
なぜ旅行業界は警鐘を鳴らすのか?
旅行業界がEESの導入に神経を尖らせているのには、明確な理由があります。
「2〜3時間待ち」の現実味
一部の空港で行われたEESの試験運用やシミュレーションでは、出入国審査の待ち時間がこれまでより大幅に長くなる可能性が示唆されています。ニュースサマリで触れられているように、一部では「2〜3時間待ち」という報告もあり、これが現実となれば空港の機能は麻痺しかねません。
国際空港評議会(ACI Europe)の分析によると、EES導入により、ピーク時の旅行者一人当たりの審査時間が平均で2分以上長くなる可能性があるとされています。これが数千、数万人の旅行者に適用されれば、行列が空港ターミナルの外まで続くような事態も十分に考えられます。
インフラと人員の不足
特に懸念されているのが、EESに対応するためのインフラ、つまり自動化ゲートや登録用キオスク端末の不足です。すべての空港が十分な数の端末を設置できるわけではなく、また操作に不慣れな旅行者をサポートする人員も必要になります。これがボトルネックとなり、全体の流れを著しく遅くする恐れがあります。
夏のピークシーズンという最悪のタイミング
EESの導入が、航空需要が年間で最も高まる夏の旅行シーズンと重なることへの懸念は深刻です。多くの家族連れや観光客が欧州を訪れる時期にシステムを本格稼働させれば、その影響は計り知れません。業界は、このままではフライトの遅延や乗り継ぎ失敗が多発し、旅行者の体験を大きく損なう「旅行の夏」ならぬ「混乱の夏」になりかねないと警告しています。
業界の提案:混乱を避けるための「セーフガード」
こうした事態を避けるため、ACI Europeや欧州の航空会社団体などは、欧州委員会に対して「セーフガード措置」の導入を強く要請しています。
これは、空港で許容範囲を超える長い行列が発生した場合など、あらかじめ定められた条件の下で、加盟国当局が一時的にEESの生体認証登録要件を停止できる権限を与えるものです。つまり、状況に応じて従来のパスポート審査に戻すことで、空港のオペレーションが完全に停止するのを防ぐという、いわば「緊急停止ボタン」の役割を求めています。
今後の見通しと旅行者が備えるべきこと
欧州委員会がこの要請にどう応えるか、現時点では不透明です。セキュリティ強化を最優先する立場と、経済活動や市民の自由な移動を重視する旅行業界の立場との間で、難しい判断が迫られます。
私たち旅行者への影響は?
もしEESが現在の計画通りに導入された場合、私たち旅行者は以下の点に注意する必要があります。
- 空港へは時間に十分な余裕を持つ: 特にEES導入後の初回渡航時は、これまで以上に早く空港に到着することが推奨されます。乗り継ぎ時間も、余裕を持ったフライトを選択するのが賢明でしょう。
- 事前登録アプリの活用: EESでは、渡航前に個人情報の一部を登録できるスマートフォンアプリの提供が計画されています。このアプリを事前に利用することで、空港での手続きを少しでも簡略化できる可能性があります。アプリのリリース情報は、今後simvoyageでもお伝えしていきます。
- 最新情報のチェック: EESの導入は過去に何度も延期されています。渡航前には、必ず外務省や利用する航空会社、目的地の空港の公式サイトなどで最新の情報を確認するようにしてください。
欧州連合(EU)が進める国境管理のデジタル化は、長期的にはより安全で効率的な出入国をもたらすかもしれません。しかし、その移行期には大きな混乱が伴う可能性があります。私たち旅行者も、この変化に適応し、賢く備えることが求められています。

