「ティエラ・イ・リベルタード(土地と自由を)」
この言葉と共に、口髭をたくわえ、ソンブレロを被り、弾帯を肩からかけた男の肖像を、あなたも一度は目にしたことがあるかもしれません。彼の名は、エミリアーノ・サパタ。20世紀初頭のメキシコ革命において、農民たちの権利のために立ち上がった不屈の英雄です。彼の生涯は、理想と裏切り、そして民衆の希望が交錯する激動のドラマそのものでした。
こんにちは、亜美です。普段はアパレルの仕事をしつつ、長期休暇を見つけては世界の街角へ飛び出しています。私の旅は、ただ美しい景色を眺めるだけでは終わりません。その土地が持つ歴史の匂いや、人々の記憶に触れることで、初めて旅が完成すると信じています。今回は、そんな私がずっと心惹かれていたメキシコの英雄、エミリアーノ・サパタの足跡を辿る旅へと皆さんをご案内します。
この旅は、メキシコシティの喧騒から始まり、サパタが生まれ、戦い、そして散っていったモレロス州の乾いた大地へと続いていきます。それは、単なる史跡巡りではなく、一世紀以上たった今もなお、メキシコの人々の心に深く刻まれている「サパティスモ」の精神に触れる、時を超えた対話の旅。この記事を読み終える頃には、きっとあなたも、革命の魂が宿るメキシコの新たな魅力に気づき、次の旅の計画を立て始めているはずです。さあ、一緒に歴史の扉を開きましょう。
旅の準備として、メキシコを訪れる際の喫煙ルールを事前に確認しておくと、スマートな旅が楽しめるでしょう。
旅の始まりは首都から〜メキシコシティで革命の息吹を感じる〜

私たちの旅は、ラテンアメリカ最大級のメガシティであるメキシコシティからスタートします。アステカ帝国の首都テノチティトランの遺跡の上に築かれたこの都市は、古代文明の神秘、スペイン植民地時代の華麗な建築、さらに現代アートが見事に融合し、歴史の交差点として知られています。サパタ自身も革命軍を率いてここへ入城しました。まずは、首都に刻まれた革命の記憶を解き明かしていきましょう。
国立宮殿の壁画が物語る歴史
メキシコシティの中心部、巨大なソカロ(憲法広場)の東側に位置する壮麗な建物が国立宮殿です。ここは現在も大統領府としての役割を果たす国家の中枢ですが、観光客にとって最大の見どころは、内部中庭を飾るディエゴ・リベラの壮大な壁画群『メキシコの歴史』でしょう。
リベラは、フリーダ・カーロの夫としても知られ、メキシコ壁画運動の代表的な芸術家です。この壁画には、アステカの伝説からスペインの征服、独立戦争、メキシコ革命に至るまで、国の波乱に満ちた歴史が壮大なスケールで描かれています。階段をのぼりながら壁面を見上げると、その圧倒的な情報量と力強いエネルギーに息を呑むことでしょう。
私たちの目的はもちろんエミリアーノ・サパタを探すこと。中央階段の正面、一番目を引く位置に彼は描かれています。白馬にまたがり、農民兵士たちを率いるサパタ。その鋭い視線は、不正義に対する憤りと土地を取り戻そうとする強い決意を語りかけてくるかのようです。リベラはサパタを単なる軍事指導者としてだけでなく、民衆の希望を体現した象徴として描き出しました。壁画の中の英雄たちのなかでも、彼の存在感は一際際立っています。この壁画の細部をじっくり読み解くことだけで、メキシコ史の教科書を何冊も読んだかのような深い理解が得られるでしょう。
実際に訪問する際のポイント
アクセス方法: 国立宮殿はソカロに面し、メトロのZócalo駅からすぐの場所にあります。入場は無料ですが、入り口で身分証明書の提示が必要です。パスポートの原本か鮮明なコピーを必ず持参してください。セキュリティチェックを終えたのち、中庭へ入場可能です。壁画は非常に大きいため、全体を見渡せるスポットを見つけたり、細部を堪能したりするためにも、最低1時間半は時間をとるのが望ましいです。
持ち物と準備: 歩きやすい靴を選びましょう。宮殿内は広く、石畳の場所も多いためです。また、屋外に日差しを遮る場所が少ないので、帽子やサングラス、日焼け止めなどの準備も忘れずに。水分補給のための飲み物も持参すると安心です。
注意事項: 大きなリュックサックやスーツケースは館内への持ち込みが禁止されており、入り口近くのクロークに預ける必要があります。壁画保護のため、フラッシュ撮影は固く禁じられています。規則を守り、貴重な芸術作品をゆっくり鑑賞しましょう。
革命記念塔(Monumento a la Revolución)に登る
レフォルマ通りの近くにそびえ立つのは、アールデコ様式の堂々としたアーチを持つ革命記念塔です。もともとはポルフィリオ・ディアス独裁政権時代に国会議事堂として建設が始まりましたが、革命の影響で工事が中断。その後、メキシコ革命を記念するモニュメントとして生まれ変わりました。
この塔が特別なのは、その柱の内部に革命の英雄たちの霊廟があること。パンチョ・ビリャ、ベヌスティアーノ・カランサ、フランシスコ・マデロら著名な革命家とともに、エミリアーノ・サパタも祀られています(遺骨の真偽に関しては諸説あるものの)。塔の基部に位置する革命博物館では、当時の写真や武器、資料が豊富に展示され、革命の全体像を深く知ることができます。
そして、最大の魅力はガラス張りのエレベーターで昇る展望台。地上65メートルの高さから眺めるメキシコシティのパノラマはまさに圧巻です。広大な都市の広がりと、これから向かう南のモレロス州の方角を見つめつつ、サパタが夢見た国の未来に思いを馳せるひとときは、他では味わえない貴重な体験となるでしょう。
展望台と博物館を楽しむための実践ポイント
アクセス方法: チケットは塔の地下にあるカウンターで購入可能です。博物館のみ、展望台のみ、セット券など複数の種類があります。週末や観光シーズンは混雑が予想されるため、公式サイトを通じたオンライン予約が便利でおすすめです。エレベーターで一気に展望台まで上り、360度の眺望を満喫した後は、ドーム内部を階段で散策しながら降りるルートが一般的です。その後、地下の博物館見学で理解を深めましょう。
持ち物と服装: 展望台は風通しがよく、特に夕方以降は冷たい風が吹くこともあるため、一枚羽織るものがあると安心です。高所が苦手な方はガラス張りのエレベーターに不安を感じるかもしれませんが、絶景を楽しむにはぜひ挑戦してみてください。
トラブル時の対処: 強風や雷雨など悪天候の際は、展望台が一時的に閉鎖されることがあります。チケット購入前に必ず天候を確認してください。もしオンライン予約日の利用ができなくなった場合は、チケットの振替が可能か公式サイトのFAQを確認するか、現地スタッフに問い合わせてみましょう。
公式情報の確認: 最新の営業時間、料金、特別展の案内などは公式サイトでチェックするのが確実です。訪問前に必ずご確認ください。革命記念塔公式サイトで詳細をご覧いただけます。
サパタの故郷へ〜モレロス州を巡る心の旅〜
メキシコシティで革命の概要を理解したら、ついに物語の核心部分へと進みます。バスに乗り込み、南へ約90キロの距離を移動し、サパタが生まれ育ったモレロス州へ向かいます。この「常春の州」と呼ばれる地域は、豊かな緑と温暖な気候に恵まれていますが、その美しい風景の背後にはかつて大農園(アシエンダ)の支配に苦しんだ農民たちが、サパタと共に激しく闘った歴史が刻まれています。
メキシコシティの南バスターミナル(Taxqueña)からモレロス州の州都クエルナバカ行きの高速バスが頻繁に運行されており、およそ1時間半の快適な旅です。車窓の景色が都会の高層ビル群から、徐々にサボテンが生い茂る乾燥した山腹へと変わっていく様子を見ると、これから始まる旅への期待が一層高まります。
モレロス州へのアクセスガイド
移動手順: メキシコシティの南バスターミナル(Terminal Central del Sur Taxqueña)は、メトロ2号線の終点Taxqueña駅と直結しており便利です。ターミナル内には多数のバス会社が入っていますが、モレロス州方面にはADO社やPullman de Morelos社が大手で、便数も多く安心です。窓口で目的地と時間を伝えればチケットが購入できますが、スペイン語に自信がなければ、事前に公式ウェブサイトやアプリからオンライン予約して座席指定を済ませておくとスムーズです。
準備するもの: バス車内は冷房が強く効いていることが多いため、長袖のカーディガンやストールを持参することをおすすめします。また、簡単なスペイン語のフレーズ帳やスマートフォンの翻訳アプリがあれば、チケット購入時や改札でのやり取りが安心です。例えば、「¿A qué hora sale el próximo autobús para Cuernavaca?(次のクエルナバカ行きのバスは何時ですか?)」といった基本的な表現を覚えておくと、旅の心強い助けになるでしょう。
トラブル時の対応方法: メキシコのバスは比較的正確ですが、交通渋滞などで遅れる場合もあります。乗り継ぎなどを予定している場合は、時間に充分な余裕を持つことが重要です。もしバスを乗り過ごしてしまっても、クエルナバカ行きの便は多いため、新しいチケットを購入することが可能です。慌てず窓口で相談してみてください。
革命の聖地クエルナバカ〜コルテス宮殿に刻まれた歴史の絵巻〜
モレロス州の州都クエルナバカは、その温暖な気候により、昔からアステカの皇帝や植民地時代のスペイン人征服者エルナン・コルテス、現代に至るまで数多くの人々を魅了し続けてきたリゾート地です。しかしこの優雅な街もまた、サパタの闘争にまったく関係がなかったわけではありません。
市の中心部に堂々と建つコルテス宮殿は、アメリカ大陸に現存する最古の植民地時代の民間建築の一つです。現在はクアウナワック博物館として利用され、モレロス州の歴史を伝える貴重な資料を収蔵しています。そして、この宮殿のテラスには、ディエゴ・リベラによる壁画が飾られています。
メキシコシティ国立宮殿の壁画が国全体の歴史を描くものであるのに対し、こちらの壁画はモレロス州の歴史、特にサパタの闘争を中心に描かれています。サトウキビ農園での過酷な労働、アシエンダ所有者による搾取、それに反抗するサパタと農民軍の姿が力強く生々しく表現されています。白い衣に身を包んだ農民たちが、農具を武器に変えて立ち上がる場面は見る者の心に強く響きます。サパタの故郷でこの壁画を目にすることは、彼の闘争がこの地の人々にとっていかに切実であったかを肌で感じる特別な体験となるでしょう。
博物館見学のポイント
訪問手順: 博物館はクエルナバカの中心広場(ソカロ)近くに位置します。開館時間や入館料は事前に確認してください。壁画は2階のテラスにあります。案内に沿って進み、壁画前の解説パネル(スペイン語)を参考にしながら、一つひとつの場面をじっくりと鑑賞しましょう。
持ち物と注意点: クエルナバカは強い日差しで知られています。「常春」と称されますが、日中の直射日光はかなり強烈です。帽子やサングラスは必ず持参し、こまめな水分補給も欠かせません。館内は比較的涼しいですが、壁画のあるテラスは屋外のため、日除け対策が必要です。
生誕の地アネネクイルコ〜サパタの生家博物館を訪れる〜
クエルナバカからさらに東へ進みます。コレクティーボ(乗り合いバン)やタクシーを乗り継いで向かうのは、英雄が誕生した村、アネネクイルコです。観光化された場所とは違い、非常に静かで素朴な村ですが、こここそがサパティスタ運動の起点となった場所です。
村の中心には、サパタの生家跡に建てられた「エミリアーノ・サパタ生家博物館(Museo Casa de Emiliano Zapata)」があります。日干しレンガ(adobe)で造られた質素な家のレプリカ、彼が使っていた農具や生活用品、そして生涯を辿る写真パネルなどが展示されています。派手さはありませんが、展示品の一つ一つから、彼が特権階級出身ではなく、私たちと同じように人間として暮らしていたことが伝わってきます。
博物館の敷地内には、村の土地権利を守るためにサパタが隠したとされる木の根も保存されており、若くして村のリーダーとして信頼されていた彼の姿が窺えます。ここで過ごす時間は、栄光の裏にある一人の人間としてのエミリアーノ・サパタの素顔に触れ、静かに深く思索する貴重な時間となるでしょう。
アネネクイルコ訪問の実践ガイド
移動方法: クエルナバカのバスセンターや市場周辺から、アヤラ(Ayala)やクアウト(Cuautla)方面行きのコレクティーボが出ています。運転手に「アネネクイルコ、ムセオ・サパタ(Anenecuilco, Museo Zapata)」と伝えれば、博物館近くで降ろしてもらえます。小さな村なので、帰りの足(コレクティーボが通る幹線道路までの道順や流しのタクシーの有無など)を事前に把握しておくと安心です。
持ち物と準備: 博物館の入場料や交通費のために、メキシコペソの小銭や少額紙幣を多めに持っておきましょう。クレジットカードはほとんど使えません。また、郊外のため虫除けスプレーもあれば快適です。
服装とマナー: 村を訪れる際は、地元住民への敬意を忘れずに。露出の多い服装は避け、控えめで落ち着いた服装を心がけましょう。博物館スタッフや村の人には「¡Hola!」や「Buenos días!」など簡単な挨拶をすると、温かく迎えてもらえることが多いです。スペイン語が話せなくても、笑顔や挨拶は世界共通のコミュニケーション手段です。
悲劇の舞台チナメカ〜アシエンダ・デ・チナメカ〜
光があれば影があるように、英雄の物語には往々にして悲劇的な結末もつきものです。アネネクイルコの近くにあるアシエンダ・デ・チナメカは、サパタが政府軍の裏切りにより暗殺された悲劇の現場です。
1919年4月10日、政府軍に投降を装った将軍ヘスス・グアハルドの罠にかかり、サパタはこのアシエンダの門をくぐった瞬間、待ち伏せていた兵士たちの銃撃を受けて命を落としました。享年39歳でした。
現在、このアシエンダの門には、悲劇の瞬間を記した記念プレートが設置されています。門の先には広大な敷地が広がり、馬に乗った勇ましいサパタの像が立っています。まるで今もこの土地と農民を守っているかのようです。壁に残る弾痕を探しながら100年以上前の出来事を想像すると、胸が熱くなります。悲劇の英雄が眠るこの場所は、サパタの旅の中でも特に心を揺さぶるスポットと言えるでしょう。メキシコ政府公式記録にもこの日の詳細が記されています。
チナメカ訪問時の注意点
移動方法: アネネクイルコやクアウトからタクシーをチャーターするのが最も確実かつ安全です。乗車前に料金交渉を済ませておきましょう。公共交通はアクセスが少し複雑なため、時間に余裕がなくスペイン語に不安がある場合はツアーの利用も検討すると良いです。
安全面の配慮: この地域はメキシコシティやクエルナバカ中心部とは異なり、観光客が少ないエリアです。訪問の際は明るい日中の時間帯を選び、特に女性の単独行動は十分注意してください。治安情報を事前に調べ、高価なアクセサリーの着用は避けるなど、自己の安全管理を徹底しましょう。
サパティスモの精神は今〜現代に息づく革命の魂〜

エミリアーノ・サパタの肉体は、100年以上前にチナメカの地で消え去りました。しかし、彼の思想「サパティスモ」は決して廃れることがありませんでした。「土地と自由」を掲げ、農民の権利や共同体の自治を訴えたその精神は、時代を超えて受け継がれ、現在でもメキシコ社会に大きな影響を及ぼしています。
その象徴的な存在が、1994年1月1日に北米自由貿易協定(NAFTA)が発効したのと同日に、メキシコ南端のチアパス州で突如として蜂起した「サパティスタ民族解放軍(EZLN)」です。彼らは覆面を纏った副司令官マルコスの名で世界中に知られるようになりました。EZLNはサパタの名を冠し、その思想を現代に蘇らせたのです。彼らは新自由主義の波が先住民の生活や文化を脅かすとして、武力蜂起によって抗議の声を上げました。その後は武力闘争から対話路線に転換し、現在もチアパス州の一部地域で自治を維持しています。
私たちの旅では、安全面や政治的な配慮からサパティスタの自治コミュニティを訪れることは現実的ではありません。しかし、サパタの足跡を辿る旅の最後に、彼の思想が現代にどのように息づいているのかを知ることは非常に意義深いことです。サパタの闘いは単なる過去の歴史ではなく、現在も続く物語なのです。
知識を深め、旅をより充実させるために
サパタやサパティスモについてもっと知りたい場合は、日本でも関連書籍や映画を通じて学ぶことができます。
映画: マーロン・ブランドがサパタを演じた1952年のハリウッド映画『革命児サパタ』はクラシック作品ですが、彼の生涯をドラマティックに理解する入り口として最適です。
書籍: サパタに関する研究書や、EZLNに関するノンフィクション作品も多数邦訳されています。旅の前に一冊読んでおけば、現地で目にする景色の意味や背景をより深く理解できるでしょう。
情報収集: インターネット上にもメキシコ革命やEZLNに関する信頼性の高い情報源が豊富にあります。大学の研究機関や歴史関連のサイトなどを参考に、多角的な視点から情報を集めてみてください。
歴史を知ることは、旅を何倍も面白くします。それは、単なる点と点だった観光地が、壮大な物語の一部として線で繋がる瞬間を与えてくれるからです。
女性トラベラーのための安全・ファッションTIPS
歴史の深みに触れる旅だからこそ、安心して楽しむための準備は欠かせません。特に女性の一人旅や少人数の旅行では、安全対策と快適さを追求する工夫が重要です。私の視点から、メキシコ旅行のヒントをいくつかお伝えします。
メキシコを安心して旅するための心得
メキシコは陽気で親切な人々が多く、とても魅力的な国です。しかし、日本と同じ感覚でいると危険な場面もあるため、自己防衛の意識をしっかり持つことが楽しい旅の基本となります。
まずは情報収集を徹底: 旅行の計画を始める際には、必ず外務省の海外安全ホームページを確認しましょう。地域ごとの危険情報や最新の犯罪状況を把握し、現地のニュースにも気を配ることで、より安心です。
貴重品の管理は細心の注意を: スリや置き引きは観光客が最も遭いやすいトラブルです。スマホをテーブルの上に放置したり、バッグの口を開けたまま歩いたりするのは避けましょう。現金やカード、パスポートは服の下に隠せるセキュリティポーチ(腹巻きタイプ)に入れるのが最も安全です。バッグは常に体の前で抱えるように持ち、特に混雑した場所では警戒を怠らないでください。
移動は賢く選択する: 市内の移動は、流しのタクシーを利用するより、UberやDiDiなどの配車アプリを使うのが一般的で安全性も高いです。料金があらかじめ決まっており、ドライバー情報も記録されるため、不測のトラブルを防げます。夜間の歩行は短い距離でも避けるのが賢明です。
万が一に備える準備を: 万が一の際に備え、警察(911)や在メキシコ日本大使館の連絡先はスマホと紙の両方に控えておくこと。また、海外旅行保険への加入は必須で、病気や怪我だけでなく盗難にも対応できるプランを選ぶと心に余裕が生まれます。
革命の地で映える旅のファッション
安全対策はもちろん重要ですが、せっかくの旅ならおしゃれも楽しみたいもの。アパレル業に携わる私からは、機能性とファッション性を兼ね備えたコーディネートを提案したいと思います。
基本は「歩きやすさ」と「温度調節」: 遺跡や歴史地区は石畳が多く、長時間歩くため、履き慣れたスニーカーやフラットサンダルが最適です。メキシコは一日の気温差が大きいのも特徴で、日中はTシャツ1枚で快適でも、朝晩や屋内は冷房で肌寒く感じることもあります。リネンシャツや薄手のカーディガン、大判ストールなど、さっと羽織れるものを用意しておくと非常に便利です。
場所に応じた服装選びを: 教会や宗教施設では、タンクトップやショートパンツなどの過度な露出はマナー違反です。先述のストールは肩や足をさっと覆うのに役立ちます。また、サパタの故郷のような素朴な村を訪れる際には、派手な服装よりもシンプルで清潔感のある服装が周囲に溶け込み、地元の方々にも好印象を与えます。
メキシコの伝統的なテキスタイルを活用: 旅の記念として、現地の民芸品を取り入れるのも素敵です。市場(メルカド)にはカラフルな刺繍が施されたブラウス(ウィピル)や、美しい織物のストール(レボソ)が豊富に揃っています。シンプルなコーディネートに一つ加えるだけで、旅ならではの雰囲気が格段にアップ。お気に入りの一枚を見つける楽しみも旅の醍醐味のひとつです。
革命の味を堪能する〜旅の食彩〜

歴史を辿る旅は、頭や心だけでなく、身体もフル活用します。そして、その旅の活力を支えてくれるのは、何と言っても現地の美味しい食べ物です。サパタが生き抜いたモレロス州、さらに革命の舞台でもあるメキシコシティには、私たちの味覚を魅了する豊かな食文化が根付いています。
モレロス州の郷土料理
サパタも味わったに違いない、モレロス州特有の料理をぜひ味わってみてください。
Cecina de Yecapixtla(セシーナ・デ・ジェカピストラ):モレロス州のジェカピストラ村で有名な、塩漬けして乾燥させた牛肉の薄切りです。軽く焼き上げてから、ワカモレやフリホーレス(豆のペースト)、トルティーヤと一緒に食べるのが一般的。シンプルながら肉の旨味がぎゅっと詰まっており、一度味わえば忘れがたい味わいです。クエルナバカの多くのレストランで楽しむことができます。
Pozole Blanco(ポソレ・ブランコ):豚肉や鶏肉と、特別な処理を施した大粒が特徴のトウモロコシをじっくり煮込んだ、メキシコを代表するスープ料理。特にモレロス州のものは「白ポソレ」として知られ、すっきりとしたやさしい風味が魅力です。食べる直前にレタス、玉ねぎ、ラディッシュ、揚げたトルティーヤなどの薬味をたっぷり加え、ライムを搾っていただきます。見た目も楽しく、栄養満点の一品です。
市場(メルカド)での食の冒険:地元の人々の活気を感じるなら、市場を訪れるのが最適です。新鮮なフルーツを使ったジュース(フゴス)、日本ではなかなか見ることのない珍しい食材、さらには安くて美味しい屋台料理の数々。衛生的で賑わっているお店を選ぶのがポイントです。勇気を出して地元の人たちと一緒に食事をする体験は、一生の思い出になるでしょう。
メキシコシティのガストロノミー
首都メキシコシティは、まさに食のるつぼ。古くからの食堂から、世界的に評価される最先端のレストランまで、多彩な選択肢が揃っています。
タコスの奥深い世界:メキシコ料理の象徴であるタコスですが、その種類は数えきれないほど多彩です。特に豚肉を何層にも重ねて回転させながら焼く「タコス・アル・パストール」は絶対に外せません。薄く削ぎ落とした肉とパイナップルを小さなトルティーヤにのせ、好みでコリアンダーや玉ねぎ、サルサをかけて頬張る瞬間は至福そのもの。店によって味が異なるため、タコス屋をはしごする楽しみもあります。
複雑な味わいのソース、モレ:チョコレートや唐辛子、ナッツ、スパイスなど数十種類の材料をすり潰して作る、深みと複雑さを持つソース「モレ」。鶏肉や七面鳥にかけていただくのが一般的で、祝宴には欠かせない一品です。特にプエブラ風のモレ・ポブラーノや、オアハカの黒いモレ・ネグロが有名です。革命時代から続く老舗のレストランで、歴史の重みを感じながら味わうのもおすすめです。
旅の終わりに想う、サパタが遺したもの
メキシコシティの喧騒から始まり、クエルナバカの壁画に心を動かされ、アネネクイルコの土の香りを感じ取り、そしてチナメカの悲劇に静かに涙する。エミリアーノ・サパタの足跡を辿る旅は、単なる観光地を巡るスタンプラリーではありませんでした。それは、一世紀以上前の人々の叫びや祈り、絶望と希望に触れる、時を超えた対話の旅だったのです。
彼が命を懸けて守ろうとした「土地と自由」。この言葉は現代を生きる私たちにも、深く問いかけてきます。グローバル化の波の中で失われていく地域の文化や共同体。経済的効率が優先され、弱い立場の人々が置き去りにされる社会。サパタの闘いは、決して昔の遠い異国の話ではないのかもしれません。
この旅で私が見たのは、英雄の肖像画だけに留まりません。市場で力強く働く人々の表情、サパタの名を誇らしげに語る村の老人、そして歴史の重みを背負いながらも未来へ向かってたくましく生きるメキシコの姿そのものでした。サパタの魂は、壮大な壁画の中だけでなく、この国に生きる一人ひとりの心のなかに、いまも確かに息づいているのです。
もしあなたが、ただ美しいだけでなく心に深く刻まれる旅を求めているのなら、ぜひエミリアーノ・サパタの足跡を辿る旅へ出かけてみてください。そこにはきっと、あなたの価値観を揺さぶるような、本物の出会いが待っていることでしょう。

