ローマと聞いて、何を思い浮かべますか?コロッセオの壮大な姿、トレビの泉の美しい彫刻、それとも映画「ローマの休日」で描かれたロマンチックな街並みでしょうか。数々の歴史と芸術が息づくこの永遠の都には、もう一つ、世界中の人々を虜にしてやまない魅力があります。それが、パスタの王様とも称される「カルボナーラ」です。
とろりとした濃厚なソースがパスタに絡みつき、口に運べば豊かなチーズの香りと塩気の効いた豚肉の旨味が広がる一皿。日本でもイタリアンレストランの定番メニューとして、また家庭料理としても絶大な人気を誇ります。しかし、私たちが普段食べているカルボナーラと、本場ローマのカルボナーラには、実は大きな違いがあることをご存知でしょうか。
そして、この美味しさの裏には、意外な誕生秘話が隠されています。炭焼き職人の賄い料理だったという説、第二次世界大戦中のアメリカ兵が関わっていたという説…。諸説あるその起源は、今なお多くの食通たちの間で議論が交わされる、まさに食のミステリーなのです。
この記事では、世界30か国を旅してきた私が、あなたをローマのカルボナーラの奥深い世界へとご案内します。その歴史の謎を紐解きながら、本場の味を心ゆくまで楽しむためのレストラン選びのコツ、注文時のマナー、さらには日本で本場の味を再現するためのレシピまで、余すところなくお伝えします。この記事を読み終える頃には、きっとあなたはカルボナーラの新たな魅力に気づき、次の旅行先にローマを選びたくなるはずです。さあ、一緒に美味しい歴史探訪の旅に出かけましょう。
ローマの食文化の深みをさらに知りたい方は、パスタを通したローマの食の歴史もご覧ください。
カルボナーラとは?日本と本場の劇的な違い

本格的に歴史探訪を始める前に、まずは「カルボナーラ」という料理そのものに関して、少し認識を共有しておきましょう。実は、日本で親しまれているカルボナーラと、ローマで伝統的に愛されているカルボナーラは、似ているようでまったく異なるものだと言っても過言ではありません。
日本で親しまれる「カルボナーラ」の特徴
日本のカフェやレストランで「カルボナーラ」を注文すると、どんな一皿が出てくるでしょうか。多くの場合、生クリームや牛乳をたっぷり使った、白くてクリーミーなソースが印象的です。具材には薄切りのベーコンが使われ、卵は全卵が一般的です。マイルドで食べやすく、子どもから大人まで幅広い層に人気の、親しみやすい味わいが特徴です。
この「生クリームを使う」スタイルは、おそらく戦後に日本でイタリア料理が広まる中で、日本人の嗜好に合わせたり、調理の簡便さから独自にアレンジされ定着したものと考えられます。生クリームはソースが分離しにくく、クリーミーさを保ちやすいため、大量調理や家庭料理に適した素材です。私たちにとって「カルボナーラ=クリームソースのパスタ」というイメージが強いのは、この日本ならではの進化が背景にあるのです。
ローマで愛される「本物のカルボナーラ」
一方、ローマのトラットリア(大衆食堂)でカルボナーラを注文すると、日本人の旅行者はその見た目に驚くことでしょう。そこには私たちが知る白いソースは存在せず、黄金色に輝くソースがパスタ一本一本を包み込んでいます。外見はシンプルですが、その一口がもたらす衝撃は計り知れません。
本場ローマのカルボナーラの材料は非常にシンプルで、基本的にたった4つの食材だけを使います。
- グアンチャーレ (Guanciale):豚の頬肉を塩漬けして熟成させたものです。ベーコンやパンチェッタとは異なり、低い融点の上質な脂と濃縮された深い旨味が特徴で、カルボナーラの味の核となる最重要食材と言えます。
- ペコリーノ・ロマーノ (Pecorino Romano):羊乳から作られる硬質チーズで、ローマ近郊が産地です。「ペコリーノ」は羊、「ロマーノ」はローマを意味します。パルミジャーノ・レッジャーノよりも塩味が強く、独特のコクと風味がソースに鮮明な輪郭を与えます。
- 卵 (Uova):新鮮な卵、特に卵黄が使われます。卵黄がソースの濃厚さやクリーミーさを生み出しますが、全卵を使う場合もあります。よりリッチな味わいを求めるなら卵黄のみが好まれます。
- 黒コショウ (Pepe Nero):粗挽きの黒胡椒を大量に加え、そのスパイシーな香りが、濃厚なソースにアクセントをつけて味を引き締めます。
実は、本場ローマのレシピには生クリームも牛乳も一切使いません。クリーミーさは、グアンチャーレから溶け出した脂、卵黄、そしてパスタの茹で汁が混ざり合って乳化することで生じる、素材本来の力によるものなのです。初めて本場の味を経験すると、そのストレートな旨味の強さ、チーズの塩気、黒胡椒のパンチに驚かされるでしょう。これは私たちが知るまろやかなカルボナーラとはまったく異なる、力強く潔い味わいの料理なのです。
ローマでカルボナーラが生まれた歴史の謎を追う
これほどまでにシンプルでありながら完成度の高い料理が、いつ、どこで、どのような経緯で誕生したのか、その起源については複数の説が存在し、歴史家や料理人の間で現在も活発に議論されています。ここでは代表的な三つの説を取り上げ、その謎に迫ってみましょう。
最も有力な説:「炭焼き職人(カルボナーロ)風パスタ」説
「カルボナーラ(Carbonara)」の名前の由来として最も広く知られ、信憑性が高いのが「炭焼き職人風」という説です。イタリア語で炭焼き職人は「Carbonaro(カルボナーロ)」、炭焼き小屋を「Carbonara」と呼びます。
舞台はローマ近郊のアペニン山脈。そこで働く炭焼き職人たちが、仕事の合間に手早く栄養補給できる料理として考案したのが、このパスタの起源だとされます。彼らは長期間の山篭りに備え、保存性の高い食材を携えていました。それが、塩漬けの豚肉(グアンチャーレ)、熟成の進んだ硬いチーズ(ペコリーノ)、そして栄養豊富な卵でした。
火をおこし鍋ひとつでパスタを茹で、持参したグアンチャーレを炒めて脂を出し、そこにパスタ、チーズ、卵を絡める。手間がかからず、高カロリーで塩分も補給できるこの料理は、過酷な労働環境の彼らにとって理想的な食事でした。さらに、仕上げにたっぷりとかけた粗挽きの黒胡椒がちょうど作業着に付いた炭の粉のように見えたため、「カルボナーラ(炭焼き職人風)」と名付けられた、という情緒あふれる物語です。
この説は非常に説得力があり、多くのイタリア人に広く信じられています。使われる素材の合理性や名前の由来の分かりやすさ、そしてイタリアの食文化が人々の生活や労働と密接に結びついている背景が、この説を強く支持しているのです。炭焼き職人が山の中で作った素朴で力強い味が、今もローマの食卓に受け継がれていると思うと感慨深いですね。
第二次世界大戦とアメリカ軍の関与説
しかし、この話は決して単純ではありません。近年になって注目されているのが、第二次世界大戦、とくに1944年のローマ解放とアメリカ軍の関わりを指摘する説です。実は「カルボナーラ」という料理名やレシピが文献に初めて登場するのは戦後の1950年代に入ってからであり、炭焼き職人説のようにもっと古くから文献に残っているとは限りません。そこで、この歴史的な空白期にアメリカ軍の存在が関連していると考えられています。
1944年6月、連合国軍としてアメリカ軍がローマに進駐しました。当時のイタリアは食糧難に苦しんでいましたが、アメリカ軍は本国から送られてくる豊富な物資を持っていました。その中には、イタリア人には馴染みの薄い「ベーコン」や「粉末卵」が含まれていました。
ローマの料理人たちは、進駐したアメリカ兵をもてなすために、彼らの好む食材で新しい料理を考案しようとしました。アメリカ兵の朝食でお馴染みの「ベーコン&エッグ」から着想を得て、イタリアの代表的なパスタと組み合わせることを思いついたのです。さらに地元産のペコリーノチーズと黒胡椒を加え、手元にある材料で兵士たちを満足させる一品を作り出しました。これがカルボナーラの原型だと言われています。
この説を支持する形で、イタリアの食文化研究者ルカ・チェザリ氏は著書『La vera storia della pasta alla carbonara』(カルボナーラ・パスタの真実の歴史)において、カルボナーラが文献に初めて登場するのが1950年の新聞記事であることなどを指摘しています。この「アメリカ軍関与説」は、炭焼き職人説の情緒やロマンにはやや欠けるかもしれませんが、文献上の年代との整合性が高く、現在では非常に説得力のある仮説として広く受け入れられています。
もしかすると、真実はこの二つの説が融合したものかもしれません。すなわち、もともとアブルッツォ地方などでグアンチャーレと卵を使ったパスタ料理(カチョ・エ・オーヴォに近いもの)が存在し、それがローマに伝わり、戦時中にアメリカ軍の持ち込んだ食材と結びついて「カルボナーラ」という名前とレシピが確立した可能性も考えられるのです。
秘密結社「カルボナリ」由来説
最後に紹介するのは、最も謎めいていて少し変わった説です。19世紀初頭にイタリアの統一と独立を目指して活動した秘密結社「カルボナリ(Carbonari)」に由来するとされています。「カルボナリ」とはイタリア語で「炭焼き職人たち」を意味し、彼らが森の奥で開かれていた集会の際にこのパスタを食べていたのではないか、という憶測です。
あるいは、彼らのシンボルや儀式に、このパスタの食材が関係していた可能性も指摘されています。しかし、この説を裏付ける具体的な証拠や文献はほとんどなく、歴史的な信頼性は低いのが現状です。おそらく「カルボナーラ」と「カルボナリ」という名称の似通いから生まれたロマンチックな俗説の一つでしょう。とはいえ、イタリア統一を目指した闘士たちが密かにこの料理を囲んでいたかもしれないと想像するのは、歴史好きには魅力的なエピソードです。
このように、カルボナーラの起源はひとつの簡単な答えでは括れない、複雑で興味深い謎に満ちています。どの説が真実であったとしても、この一皿がローマの歴史や文化、日常生活の中から生まれ育まれたものであることは疑いありません。
本場のカルボナーラをローマで味わう!実践ガイド

さて、カルボナーラの歴史を振り返ったところで、いよいよ実践編に移ります。永遠の都ローマで、本物のカルボナーラに出会うための具体的な方法を詳しく解説します。この記事を読めば、自信を持ってローマのレストランの扉を開けられることでしょう。
ローマのレストラン選び:失敗しないための3つのポイント
ローマには無数のレストランがあり、多くの店で「カルボナーラ」が提供されています。しかし、本当に美味しい一皿に出会うには、少しだけ賢く選ぶことが必要です。観光客向けの味付けのお店もあれば、地元の人々に愛される本物の名店も存在します。
ポイント1:観光地の中心部をあえて避ける勇気
コロッセオやトレビの泉のすぐ近くにあるレストランは、ロケーションは申し分ないものの、必ずしも味が一流とは限りません。もちろん素晴らしいお店もありますが、中には観光客相手に高価格で味は凡庸というケースも少なくありません。ほんの少し歩き、メインストリートから一本外れた小道や、地元の人が多く住むエリアを訪れてみましょう。
特におすすめしたいのが、テヴェレ川を渡った先に広がる「トラステヴェレ地区」と、古代ローマ時代から食の中心地として知られる「テスタッチョ地区」です。これらの地域には、家族経営の温かな雰囲気が漂うトラットリアや、食通もうならせる名店が数多く点在しています。石畳の路地を散策しながら、お気に入りの店を探すのもローマ旅行の醍醐味の一つです。
ポイント2:「Spaghetti alla Carbonara」という表記を探す
メニュー選びの際に見逃しがちな、しかし重要なポイントです。本物のカルボナーラに自信のある店は、メニューに堂々と「Spaghetti alla Carbonara」や「Rigatoni alla Carbonara」と記載しています。一方で、「Creamy Carbonara」などと表記されていたり、生クリームを使ったような真っ白なソースの写真がある場合、それは伝統的なレシピとは異なる可能性が高いです。もちろん、それも美味しいかもしれませんが、「本物」を求めるならば、伝統に忠実な店を選ぶのが賢明です。
ポイント3:口コミサイトと予約を賢く活用
現代の旅では、インターネットが心強い味方です。Googleマップのレビューや、ヨーロッパで広く使われているレストラン予約サイト「TheFork」などを活用して、事前にお店の評判を調べましょう。特にイタリア語のレビューを読むと、地元の人たちのリアルな評価が分かり参考になります。
行きたい店が決まったら、必ず予約を入れることをおすすめします。ローマの人気店はディナータイムに予約で満席になるケースがほとんどです。公式サイトの予約フォームや、先述のTheFork、あるいは電話で予約を済ませましょう。簡単な英語で「A table for two, at 8 p.m. tonight, please. My name is ○○.」と言えば、多くの場合伝わります。
服装については、いわゆる「ドレスコード」を設けている高級リストランテを除き、スマートカジュアルで問題ありません。ただし、タンクトップや極端に短いショートパンツ、ビーチサンダルのようなあまりにラフな格好は、特に夜の食事時には避けるほうが無難です。お店への敬意として、襟付きシャツや上品なワンピースなどを用意しておくと安心です。
いざ注文!知っておきたいローマの食文化とマナー
無事に店内に入ったら、いよいよ注文の段階です。イタリアの食事の流れを少し理解しておくだけで、よりスムーズに楽しい食事ができます。
注文の流れ
イタリアのディナーは基本的にいくつかのコースで構成されています。
- アンティパスト (Antipasto):前菜。生ハムやチーズの盛り合わせ、ブルスケッタが一般的です。
- プリモ・ピアット (Primo Piatto):第一皿。パスタやリゾット、スープなどが当てはまります。カルボナーラはこのプリモ・ピアットのカテゴリーです。
- セコンド・ピアット (Secondo Piatto):第二皿。肉料理や魚料理のメインディッシュです。
- ドルチェ (Dolce):デザート。ティラミスやパンナコッタなどが代表例です。
すべてのコースを注文する必要はありません。旅行であまりお腹が空いていない場合や軽く済ませたい時は、アンティパストとプリモ・ピアットだけ、あるいはプリモ・ピアットのみでも問題ありません。ゆっくり自分のペースで食事を楽しみましょう。一皿の量は日本のものより多いことが多いため、注文のし過ぎには注意してください。
テーブルマナー
堅苦しく考える必要はありませんが、知っているとスマートな印象を与えるマナーをいくつか紹介します。
- パスタを食べる際はスプーンは使わない:日本ではスパゲッティを食べるのにスプーンを使うことがありますが、イタリアでは基本的にフォークだけで食べます。フォークを皿の端で支え、くるくるとパスタを巻いていただきましょう。
- カルボナーラに粉チーズの追加は控えめに:多くのレストランでは、テーブルにパルミジャーノ・レッジャーノの粉チーズが置かれていますが、カルボナーラには既にペコリーノ・ロマーノが使われており、塩加減と風味のバランスが絶妙に調整されています。シェフの意図を尊重し、まずはそのままの味を楽しんでから、どうしても必要な場合にだけ少しだけかけるようにしましょう。これはシェフへの敬意の表れでもあります。
- コペルト (Coperto) の理解:イタリアのレストランでは、会計時に「Coperto」という料金が加算されることが一般的です。これは席料やパン代のようなもので、チップとは異なります。通常、一人当たり2〜3ユーロ程度です。会計に含まれているため基本的にはチップを別に用意する必要はありませんが、素晴らしいサービスを受けた場合はお釣りの小銭を残すと喜ばれます。
トラブル発生?困った時の対処法
旅先でトラブルはつきものです。レストランで問題が起きた時のために、簡単な対処法を知っておくと安心です。
- 味が好みに合わなかった場合:本場のカルボナーラはペコリーノ・ロマーノを使うため塩気が強く、日本人には「塩辛い」と感じることがあります。これは味付けの失敗ではなく、それが本来の味です。文化の違いとして受け入れるのが基本ですが、どうしても耐えられないほど辛い場合は、丁寧に店員に伝えてみましょう。ただし、作り直しや返金に応じてもらえることは稀です。
- 注文した料理と違うものが出てきた時:迷わずはっきり伝えるべきです。勇気を出して「Scusi, non ho ordinato questo. Ho ordinato la carbonara.」(スクージ、ノン・オ・オルディナート・クエスト。オ・オルディナート・ラ・カルボナーラ/すみません、これは注文していません。カルボナーラを頼みました)と伝えましょう。指差しやジェスチャーでも十分に通じます。
- 予約トラブルがあった場合:予約したはずなのに伝わっていなかったり、席が用意されていなかったりしたら、予約確認のメールや予約サイトの画面を見せましょう。ほとんどのケースではこれで解決します。万が一オーバーブッキングで入れなかった場合は、近くのおすすめの店を聞いてみるのも一つの方法です。
ローマっ子に愛されるカルボナーラの名店5選
ここでは、数あるローマのレストランの中から、地元の人々や世界中の食通に絶大な支持を受けているカルボナーラの名店を厳選して5軒ご紹介します。どのお店もそれぞれに個性豊かで、忘れがたい食の体験を提供してくれます。
1. Trattoria Da Enzo al 29(トラットリア・ダ・エンツォ・アル・ヴェンティノーヴェ)
石畳の趣ある街並みが人気のトラステヴェレ地区に位置し、いつも行列が絶えない超人気店です。小規模な家族経営のトラットリアで、温かみと活気のある雰囲気が魅力的です。ここのカルボナーラは、とろりと濃厚な卵黄と風味豊かなペコリーノ、カリカリに炒めたグアンチャーレが見事に調和しています。太めの筒状ショートパスタ「リガトーニ」を使用し、ソースとの絡みも抜群です。予約はできないため、開店前から並ぶ覚悟が必要ですが、その価値は十分にあります。開店の30分前には到着することをおすすめします。
2. Roscioli Salumeria con Cucina(ロショーリ・サルメリア・コン・クチーナ)
カンポ・デ・フィオーリ広場の近くに位置する、高級食材店が運営するレストラン。店内には最高級の生ハムやチーズがずらりと並び、食欲をそそります。ロショーリのカルボナーラは、厳選した食材の質の高さが際立つ一品です。3種類の胡椒をブレンドするなど、細部にまでこだわりが詰め込まれています。濃厚でリッチな旨みはまさに絶品。ワインの種類も豊富で、ソムリエにおすすめを尋ねながら料理とのマリアージュを楽しむのも素敵です。非常に人気が高いため、数週間前からのオンライン予約が必須です。
3. Flavio al Velavevodetto(フラヴィオ・アル・ヴェラヴェヴォデット)
ローマの胃袋とも称されるテスタッチョ地区にある、地元の人々から絶大な信頼を集める名店です。特徴的なのはその立地で、古代ローマ時代にオリーブオイルなどを運んだ壺(アンフォラ)の破片が積み重なってできたテスタッチョの丘の洞窟をくり抜いて作られています。歴史を感じる空間で味わうカルボナーラは格別な味わいです。味はクラシックで王道。自家製パスタと丹念に作られたソースの絶妙なハーモニーが楽しめます。カルボナーラ以外のローマ伝統料理も非常に美味しいので、グループで訪れて様々な料理をシェアするのもおすすめです。
4. L’Arcangelo(ラルカンジェロ)
ヴァチカン市国の近く、プラティ地区にある落ち着いた雰囲気のレストラン。シェフのアルカンジェロ・ダンディーニ氏は、カルボナーラのレシピに強いこだわりを持つことで知られています。彼の作るカルボナーラは全卵を使用し、ややクリーミーで上品な口当たりが特徴です。伝統を守りつつも独自の哲学が息づく洗練された味わいは、多くの美食家を惹きつけています。少しフォーマルなディナーにぴったりの一軒です。
5. Luciano Cucina Italiana(ルチアーノ・クチーナ・イタリアーナ)
カンポ・デ・フィオーリ広場の近くにある、新進気鋭の人気店です。シェフのルチアーノ・モンナシーリオ氏は「カルボナーラの王様」とも称されます。彼のカルボナーラは、特別な調理法でグアンチャーレの旨味を最大限に引き出しているのが特徴。ソースの乳化技術も抜群で、なめらかで濃厚な味わいが絶妙に共存しています。ミシュランのビブグルマンにも選ばれており、現代的な手法で伝統料理を昇華させた新たなローマ料理の世界を体験できます。
日本で本場の味を再現!おうちでカルボナーラ・チャレンジ

ローマで味わった感動の食体験を、日本に戻ってからも楽しんでみませんか?本場のカルボナーラは、必要な材料が揃えば、家庭でも意外と簡単に再現可能です。ここでは、失敗を防ぐためのポイントと作り方を丁寧にご紹介します。ぜひ旅の思い出を振り返りながら、キッチンに立ってみてください。
用意すべき「本物」の食材リスト
おいしいカルボナーラは、まず材料選びから決まります。妥協せず、なるべく本場に近い食材を探してみてください。最近は輸入食材店やオンラインショップで手に入りやすくなっています。
- グアンチャーレ:最も重要な食材です。もし手に入らなければ、次善策としてパンチェッタ(ブロックタイプ)を使いましょう。ベーコンでも代用できますが、燻製の香りが強く、本場の味とは少し違ってしまいます。厚切りにして使うのがポイントです。
- ペコリーノ・ロマーノ:味の決め手となるチーズです。独特の塩味と風味が欠かせません。手に入らなければパルミジャーノ・レッジャーノで代用可能ですが、塩味が穏やかなので量を少し多めにしたり、塩を足して調整するとよいでしょう。また、両者を半量ずつ使うと、より深みのある味わいになります。
- 新鮮な卵:できるだけ新鮮で味の濃い卵を選んでください。特に卵黄だけを使うと濃厚さがぐっと増します。
- 黒胡椒:粒のままのホールペッパーを用意し、調理直前に挽くことが必須です。挽きたての胡椒の香りは粉末とは比較にならない香り高さです。
- パスタ:基本はスパゲッティですが、やや太めのスパゲットーニや、ソースがよく絡むリガトーニ、メッツェ・マニケなども相性が抜群です。お好みのものをどうぞ。
失敗を防ぐ調理手順と大切なルール
カルボナーラ作りで最も注意すべきは「熱を入れすぎること」です。卵が加熱されすぎるとパスタとソースが一体化せず、そぼろ状の炒り卵になってしまうのがよくある失敗です。このトラブルを避けるための「黄金ルール」を忘れずに調理しましょう。
ステップ1:ソースの準備とグアンチャーレを炒める
まず大きめのボウルに卵黄、すりおろしたペコリーノ・ロマーノ、そしてたっぷりの黒胡椒を入れてよく混ぜ合わせます。これがソースの基本になります。 次に、フライパンにオリーブオイルを少量だけ熱します(グアンチャーレから脂が出るため、本当に少しで十分です)。拍子木形に切ったグアンチャーレを弱火でじっくり炒め、カリッとした焼き色と旨味が溶け出す脂が出るまで焦らず丁寧に火を通します。炒め終わったらグアンチャーレを取り出し、旨みたっぷりの脂はフライパンに残しておきます。
ステップ2:パスタを茹でる
大きな鍋にたっぷりのお湯を沸かし、塩を加えます(目安はお湯1リットルに対して塩10g)。パスタは指定の茹で時間より1分短めに茹でてアルデンテに仕上げましょう。非常に重要なのが、茹で汁は捨てずに必ず取っておくこと。塩分とパスタから溶け出したデンプンが、ソースを滑らかに乳化させるカギとなるのです。
ステップ3:和える【黄金のルール】
ここが作り方の最も重要な場面です。茹で上がったパスタをグアンチャーレの脂が残るフライパンに移します。このとき、フライパンの火は必ず消してください。コンロから外すのが最も安全です。
パスタと脂をよく絡ませたら、先ほど混ぜておいた卵とチーズのボウルに移すか、フライパンの温度が少し下がったのを確認してからソースを加えてもかまいません。
そこに熱々の茹で汁を少しずつ(お玉半分程度から)加え、素早く混ぜ合わせるのがポイントです。パスタの余熱と茹で汁の温度で卵が絶妙な加熱を受け、チーズと脂と一体化してとろりとしたクリーム状のソースになります。これが「乳化」です。ソースの濃度を見ながら茹で汁を足し、好みのとろみを調整してください。最後に、カリカリに炒めたグアンチャーレを戻して混ぜ合わせます。
ステップ4:盛り付け
皿に盛りつけたら、仕上げにペコリーノ・ロマーノと黒胡椒をさらに振りかけて完成です。できたての熱いうちに、素早くお召し上がりください。
カルボナーラだけじゃない!ローマで味わうべき絶品パスタ
カルボナーラを極める旅は、あなたをローマの食文化のさらに深奥へと誘います。カルボナーラに使用される食材であるグアンチャーレやペコリーノは、他のローマ伝統パスタでも欠かせない存在です。せっかくローマを訪れたなら、ぜひこれらと親戚のような関係にあるパスタ料理も味わってみてください。
アマトリチャーナ (Amatriciana)
カルボナーラと並ぶ、ローマを代表する人気パスタのひとつです。グアンチャーレとペコリーノ・ロマーノを使う点はカルボナーラと共通していますが、そこにトマトソースが加わるのが特徴です。グアンチャーレの旨みと脂分が溶け込んだトマトソースは、酸味とコクの絶妙なバランスが魅力で、一度食べればやみつきになる味わい。カルボナーラが濃厚な「白」のパスタであるなら、アマトリチャーナは情熱的な「赤」のパスタと言えます。ブカティーニという中心に穴があいた太麺で供されることが多いのも特徴です。
カチョ・エ・ペペ (Cacio e Pepe)
極めてシンプルな構成を誇るパスタです。「カチョ」はチーズ(この場合、ペコリーノ・ロマーノ)、「ペペ」は胡椒を意味します。その名の通り、使われるのはパスタ、ペコリーノ、黒胡椒、そして茹で汁だけ。シンプルゆえにごまかしがきかず、料理人の技量が問われる一品です。茹で汁とチーズを完璧に乳化させて作るクリーミーなソースは、シンプルながらも驚くほど深みがあります。チーズと胡椒の香りがダイレクトに口に広がる、ローマっ子の夜食として親しまれているソウルフードです。
グリーチャ (Gricia)
アマトリチャーナからトマトソースを取り除いたもので、「白いアマトリチャーナ」とも呼ばれています。使うのはグアンチャーレ、ペコリーノ・ロマーノ、黒胡椒のみ。構成はカルボナーラから卵を抜いたものと非常に似ており、多くの食文化研究家はグリーチャこそがカルボナーラの直接的な祖先であると考えています。グアンチャーレの塩気と旨み、ペコリーノの濃厚なコク、そして黒胡椒のピリッとした刺激がストレートに感じられる、力強くも素朴な味わいを楽しめます。このパスタを味わうと、ローマのパスタ料理の歴史と進化が舌を通じて伝わってくるかのようです。
ローマへの旅は古代遺跡を訪れるだけではありません。一皿のパスタの中に秘められた歴史の謎を解き、人々の暮らしに根ざした本物の味覚に出会う、味わい深く知的な冒険でもあります。次にローマを訪れた際には、ぜひこの記事を手にあなた自身のお気に入りのカルボナーラを探す旅に出かけてみてください。きっと忘れがたい一皿があなたの旅をより豊かに彩ってくれることでしょう。Buon viaggio e buon appetito!(良い旅を、そして美味しく召し上がれ!)

