長年、タイ人の海外旅行先として絶大な人気を誇ってきた日本。しかし、最新の動向ではその勢力図に大きな変化が起きています。タイ旅行代理店協会(TTAA)の予測によると、2024年、タイ人の海外旅行先として中国が日本を抜き、トップに立つ見通しであることが明らかになりました。
この歴史的な逆転劇の背景には何があるのでしょうか。今回は、その理由を深掘りし、今後の観光市場に与える影響を考察します。
なぜ中国がトップに?加速する人気の背景
これまでも中国は人気の旅行先の一つでしたが、ここへ来て急浮上したのには、複数の要因が戦略的に絡み合っています。
最大の追い風「相互ビザ免除」
最も大きな要因は、2024年3月1日から施行されたタイと中国の「恒久的な相互ビザ免除措置」です。これにより、タイ国民はビザなしで最大30日間中国に滞在できるようになりました。
これまで必要だったビザ申請の手間と費用が完全になくなったことで、旅行への心理的・経済的ハードルは劇的に低下。「思い立ったらすぐ行ける」手軽さが、特に若者や短期旅行を好む層の心を掴みました。
バーツ高と驚きのコストパフォーマンス
現在の為替市場では、タイバーツが対人民元で比較的強い状況にあります。これにより、タイ人旅行者にとって中国での買い物や食事が非常に割安に感じられるようになっています。
加えて、中国国内の物価は、都市部であっても日本の主要観光地と比較して安価な場合が多く、航空券、宿泊、現地での滞在費を含めたトータルコストを大幅に抑えることが可能です。この圧倒的なコストパフォーマンスが、多くの旅行者を引きつける強力な磁石となっています。
手軽さが魅力の低価格ツアーと航空便の回復
ビザ免除と円滑な航空便の回復を受け、タイの旅行会社は次々と魅力的な低価格の中国向けパッケージツアーを造成しています。中には、3泊4日で1万バーツ(約4.2万円)を切るような驚きの価格で提供されるツアーも登場しており、これが爆発的な人気を後押ししています。
また、新型コロナウイルスの影響で減少していた両国間のフライトも急速に回復・増便されており、渡航の選択肢が広がったことも、人気を支える重要な基盤となっています。TTAAは、2024年に中国を訪れるタイ人観光客が100万人に達すると予測しており、これは日本への予測である80万人を上回る数字です。
王座を明け渡した日本の現状
一方、これまで不動の人気を誇っていた日本は、なぜ2位に後退したのでしょうか。
円安でも追いつかない物価上昇
タイ人にとって円安は訪日の追い風であることに変わりはありません。しかし、日本のホテル宿泊費や交通費、観光施設の入場料などの価格は上昇傾向にあります。円安のメリットを、日本の物価高が相殺してしまい、以前のような「圧倒的な割安感」が薄れつつあるのが現状です。
観光客の急増と体験価値の変化
世界中から観光客が殺到する日本の有名観光地では、オーバーツーリズムによる混雑が深刻化しています。静かな環境で文化を楽しみたい、あるいは快適に買い物をしたいと考えるタイ人リピーター層などが、混雑を避けて他の目的地を検討し始めている可能性も指摘されています。
今後のアジア観光市場の行方と予測
このランキングの変動は、今後のアジア全体の観光市場に大きな影響を与える可能性があります。
中国人気は定着するか
ビザ免除が継続する限り、手軽さとコストパフォーマンスを武器にした中国の人気は、今後も高水準で推移する可能性が高いでしょう。特に、これまで海外旅行に馴染みのなかった新しい層を取り込み、定番の旅行先として定着していくことが予測されます。
日本の観光業界に求められる次の一手
日本の観光業界は、単なる価格競争ではなく、「日本でしかできない体験」という付加価値をより一層磨き上げる必要に迫られます。質の高いサービス、豊かな自然や地方の文化、季節ごとの特別なイベントなど、価格以外の魅力を強力に発信し、リピーターや富裕層を確実に惹きつける戦略がこれまで以上に重要となるでしょう。
東南アジア全体の旅行トレンドへの影響
今回の動きは、タイに限らず、ビザ緩和が進む他の東南アジア諸国にも波及する可能性があります。中国がインバウンド大国であると同時に、近隣諸国へのアウトバウンド(海外旅行)のハブとしての存在感を高めていくことは間違いありません。
今回のランキング変動は、単なる順位の入れ替わりではなく、アジアの観光市場が新たな時代に突入したことを示す象徴的な出来事と言えるでしょう。simvoyageでは、今後も最新の国際旅行ニュースを注視し、皆様にお届けしていきます。

