世界有数の観光大国スペインが、「オーバーツーリズム(観光公害)」対策として大きな一歩を踏み出しました。特に観光客が集中するバルセロナやカナリア諸島などの主要都市で、Airbnbに代表される短期宿泊施設に対する新たな規制を導入、または強化する方針を発表しました。これは、観光客の利便性だけでなく、地元住民の生活環境保護と持続可能な観光の実現を目指す動きであり、今後のスペイン旅行のあり方に大きな影響を与えそうです。
なぜ今、規制強化が必要なのか?
この動きの背景には、長年にわたり深刻化してきた問題があります。
住民の生活を脅かす住宅価格の高騰
スペインは、2023年には過去最高となる約8,510万人の外国人観光客を受け入れるなど、その人気はとどまることを知りません。しかし、その一方で、短期宿泊施設の急増が地元住民向けの賃貸物件の供給を圧迫し、家賃を著しく高騰させる事態を招いています。
特にバルセロナでは、過去10年間で家賃が約68%も上昇。多くの住民、特に若者層が市中心部から転居を余儀なくされる状況が生まれています。観光客向けの短期賃貸は、長期賃貸よりも収益性が高いため、多くの物件所有者がそちらに流れたことが大きな原因とされています。
オーバーツーリズムによる生活環境の悪化
観光客の過剰な集中は、住宅問題だけでなく、騒音、ゴミ問題、公共交通機関の混雑といった形で住民の日常生活に大きな負荷をかけています。今年4月には、カナリア諸島で数万人規模のデモが発生。「観光客は帰れ」といったスローガンが掲げられ、持続不可能な観光モデルに対する住民の不満が爆発しました。このような住民からの強い反発が、行政を動かす大きな力となっています。
具体的に何が変わるのか?
今回の規制は、スペイン全土で一律に行われるものではなく、特に問題が深刻な都市や地域で独自の対策が進められています。
バルセロナ:短期賃貸ライセンスの完全廃止へ
最も抜本的な対策を打ち出したのがバルセロナです。市政府は、現在市内に存在する約10,101件の観光客向けアパートのライセンスを、2028年11月までにすべて廃止する計画を発表しました。これにより、これらの物件が住宅市場に還元され、家賃の高騰を抑制することを目指します。
カナリア諸島:新規制で観光モデルの転換を模索
住民による大規模な抗議活動があったカナリア諸島では、新規の短期賃貸物件の開設を一時停止する法案が検討されています。また、不動産の一定割合を公営住宅に割り当てるなど、より踏み込んだ対策も議論されており、観光開発と住民の福祉のバランスを取るための新たなモデルが模索されています。
マドリードやその他の都市
首都マドリードでも、すでに新規の短期賃貸ライセンスの発行が停止されており、中心部での規制強化が検討されています。セビリア、バレンシア、バレアレス諸島といった他の人気観光地でも、同様の規制強化の動きが広がっています。
旅行者への影響とスペイン観光の未来
この一連の規制は、スペインを訪れる旅行者にどのような影響を与えるのでしょうか。
予測される影響
- 宿泊先の選択肢の変化: Airbnbなどの民泊施設が大幅に減少するため、特にアパートメントタイプの宿泊施設を好む旅行者にとっては選択肢が狭まります。
- 宿泊費の上昇の可能性: ホテルや認可された宿泊施設への需要が集中し、宿泊費が全体的に上昇する可能性があります。特にハイシーズンには、早めの予約がこれまで以上に重要になるでしょう。
- 旅行スタイルの変化: これまでのように都市中心部の安価な民泊を拠点にするスタイルは難しくなるかもしれません。郊外のホテルや、規制の対象外となる宿泊形態を選ぶなど、新たな旅行計画が求められます。
持続可能な観光へのシフト
今回の規制は、短期的に見れば旅行者にとって不便な面もありますが、長期的にはスペインの観光をより持続可能なものへと変える重要な転換点となる可能性があります。
- 「量から質へ」の転換: 過剰な観光客数を追うのではなく、地域文化や環境を尊重し、より高い付加価値を提供する観光へのシフトが期待されます。
- 地方への観光客分散: 主要都市の宿泊施設が減少することで、これまであまり注目されてこなかった地方の魅力的な町や村へ観光客が分散するきっかけになるかもしれません。
- より良い旅行体験: 住民の生活との共存が図られることで、観光客にとっても、より落ち着いてその土地の文化を深く味わえるような旅行体験が生まれる可能性があります。
スペインへの旅行を計画している方は、今後、目的地の宿泊施設に関する最新の規制情報を注意深く確認することが不可欠です。この変化は、私たち旅行者一人ひとりにとっても、訪問する土地への敬意を払い、責任ある旅とは何かを考える良い機会となるでしょう。

