漆黒のアンデス山脈を越える夜間飛行の窓から見下ろす街の灯りは、まるで闇に散らばった無数のダイヤモンドのようだった。眠らない街、メデジン。かつてこの街の名は、恐怖と暴力の代名詞として世界に轟いていた。その中心にいたのが、パブロ・エスコバル。Netflixの傑作シリーズ「ナルコス」によって、その狂乱の時代は再び世界中の人々の記憶に生々しく刻み込まれた。
私はミッドナイト・ウォーカー。人々が寝静まった深夜に活動を開始し、昼間とは違う都市の素顔を探し求める夜行性のライターだ。今宵、私が降り立ったのは、そのエスコバルの帝国が築かれ、そして崩壊した土地、コロンビア。目的はただ一つ。「ナルコス」が描いた世界の残像を追いながら、血と硝煙の匂いが消えた現代のコロンビアが、深夜にどんな表情を見せるのか、この目で見届けるためだ。
この旅は、単なるドラマのロケ地を巡る「聖地巡礼」ではない。フィクションのレンズを通して描かれた過去の影と、力強く未来へ向かう現在の光が交錯する、複雑で魅力的なこの国の魂に触れるための、真夜中の紀行である。さあ、夜が更ける前に、物語の舞台へと足を踏み入れよう。まずは、この旅の中心地となるメデジンの地図を広げることから始めたい。
まずは、この旅の中心地となるメデジンの地図を広げることから始めたい。そして、この国にはメデジンから足を延ばして訪れたい色彩豊かなグアタペと巨岩ピエドラ・デル・ペニョールのような魅力的な場所も多いことを覚えておいてほしい。
深夜のメデジンに降り立つ:喧騒と静寂の狭間で

ホセ・マリア・コルドバ国際空港から市街地へ向かうタクシーの窓外に広がる風景は、終始穏やかなものだ。アブラ渓谷に囲まれたメデジンの夜景は息を呑むほど美しく、かつてこの街が「世界で最も危険な都市」と称された過去が、まるで遠い昔話のように感じられる。しかし、灯りのひとつひとつには、誰にも語られることのない数多くの物語が秘められている。静けさの中に、消えることのない過去の余韻が微かに響いてくるようだった。
現代のメデジンは、「南米で最も革新的な都市」として知られている。ケーブルカー「メトロカブレ」はかつてスラムだった丘陵地帯を縦断し、図書館や公園が次々と整備され、街は劇的な変貌を遂げた。特に、外国人観光客が多く訪れるエル・ポブラド地区の夜は、洗練されたレストランやバーが軒を連ね、活気にあふれている。深夜まで響く陽気なサルサのリズムは、この街の生命力を象徴しているようだ。
だが、その光輝の裏側には、なおも細心の注意を払って歩かねばならない影が存在している。深夜のメデジンを歩くことは、この街の光と影、両面を身をもって感じることに他ならない。だからこそ、訪れる者には十分な準備と覚悟が求められるのだ。
真夜中の散歩者への心得
この街の夜を安全に楽しむためには、いくつかの心得を胸に刻むことが肝要だ。まず服装について。派手な宝石や高級腕時計は、夜の闇において格好の標的になりかねない。ミッドナイト・ウォーカーの流儀は「闇に溶け込むこと」。高価なものはホテルのセーフティボックスに預け、シンプルで動きやすい服装を心がけたい。Tシャツとジーンズ、そして夜の冷え込みに備えて羽織るものがあれば十分だ。
持ち物も必要最低限に抑えるのが賢明だ。パスポートの原本は持ち歩かず、コピーやスマートフォンの写真で代用しよう。現金は最低限の小額紙幣をいくつかポケットに忍ばせ、残りはクレジットカードで支払いを済ませるのが望ましい。スマートフォンは便利な旅の相棒だが、路上で不用意に取り出して操作するのは避けたい。ひったくりは一瞬の出来事だからだ。地図の確認などは、カフェや店の軒先など、少し落ち着ける場所で行うとよい。
そして最も重要なのは移動手段だ。深夜に流しのタクシーを捕まえるのは、コロンビアでは推奨されていない。安全確保のため、配車アプリの「Uber」や「Cabify」、「DiDi」などを利用することを強く勧める。アプリならドライバーの評価や車両情報を事前に確認でき、料金も明瞭だ。目的地をスペイン語で伝える煩わしさも省ける。もしアプリを使えない場合は、ホテルのフロントやレストランのスタッフに信頼できるタクシーを手配してもらうのが確実だ。
エル・ポブラドのような観光客向けのエリアは比較的安全だが、一歩路地に入ると雰囲気は一変する。特にセントロ(旧市街)や、観光地化されていないコミューナ(スラム地区)での夜間の単独行動は絶対に避けなければならない。この街の地理に不慣れなうちは、自身の足や感覚を過信してはならない。危険を冒すことと、冒険は全く別物だからだ。
パブロ・エスコバルの影を追う:ナルコ・ツーリズムの現在地
メデジンには、「ナルコ・ツアー」と称されるパブロ・エスコバルゆかりの地を巡る観光ツアーがある。このツアーは世界中から「ナルコス」ファンを集める一方で、多くの地元住民にとっては複雑な感情を呼び起こすものでもある。麻薬王をまるで英雄のように扱う観光は、街が抱える深い傷を掘り起こす行為だと捉える人も少なくないのだ。
私が求めるのはドラマのヒーローの痕跡ではない。歴史の事実として、この地で何が起こり、人々がどのようにそれを乗り越えたのか、その断片を深夜の静寂のなかで拾い集めることだ。それは称賛でも非難でもなく、ただ静かに過去と向き合うための旅である。ツアーに参加するにしても、個人で巡るにしても、訪れる場所の歴史やそこで命を落とした人々への敬意を忘れてはならない。それこそが、この地を訪れる者の最低限の礼儀と言えるだろう。
モナコ・ビル(Edificio Mónaco)の跡地:爆破と再生の象徴
深夜、タクシーを降りたのは、エル・ポブラド地区の閑静な高級住宅街の一角だった。かつてここには、エスコバルの権力を象徴した8階建ての豪華な白亜のマンション「モナコ・ビル」がそびえていた。その建物には彼の家族が暮らし、敵対組織のカリ・カルテルが仕掛けた自動車爆弾が爆発し、血生臭い抗争の舞台となった。ドラマでも、この爆破事件は彼の家族に対する脅威として、大きな転機として描かれている。
しかし、現在そのモナコ・ビルは存在しない。建物は長年放置された後、2019年にメデジン市により爆破解体され、その跡地は麻薬暴力の犠牲者を追悼する「インフレクシオン記念公園(Parque Conmemorativo Inflexión)」として生まれ変わった。
公園に足を踏み入れると、夜の冷気が肌を撫でる。中央には穴の開いた黒い壁が静かに佇んでいる。その壁には46,612個もの穴が空けられており、1983年から1994年までのメデジンにおける麻薬暴力犠牲者の数を象徴している。壁の向こうには、犠牲者の氏名や、彼らが描いた未来への願いが刻まれていた。深夜の静寂のなか、壁と向き合うと一つひとつの穴が失われた命の叫びのように感じられてくる。
ここはエスコバルの栄光を讃える場ではない。彼の暴力によって奪われた未来を思い、その痛みに寄り添い、この街が二度と過ちを繰り返さぬと誓う場所である。訪れる際は静かに敬意をもって時を過ごしてほしい。華やかな記念撮影や大声での会話は、この場所の意味を損ねてしまう。闇に包まれた公園内を歩きながら、私は「ナルコス」が描いた華やかな暴力の裏に潜む、数えきれぬ悲しみの物語に思いを巡らせた。
ラ・カテドラル(La Catedral):自身が築いた豪華絢爛な「牢獄」
メデジンの南東、エンビガドの町を見下ろす山中に、エスコバルが自ら建設した「牢獄」、ラ・カテドラルが存在した。政府との司法取引の末、彼が収監された場所だが、その実態は牢獄の名を冠した要塞にしてリゾートのような空間だった。サッカー場やバー、ジャグジーや滝も備え、内部から麻薬ビジネスを指揮し続けていたと伝えられる逸話は、「ナルコス」でも詳しく描かれている。彼の傲慢さと当時のコロンビア政府の無力さを象徴する場所といえる。
現在、ラ・カテドラルはベネディクト派修道院および高齢者施設として利用され、その姿は大きく変わっている。メデジン市内からタクシーで1時間ほど山道を登る必要があり、その道程自体が一種の探訪体験となるだろう。霧がかかる山道を進むとまるで異世界に迷い込んだような気分になる。
施設の一部は見学ツアーとして一般公開されている。参加にはメデジン市内のツアー会社を通し事前予約するのが最もスムーズだ。いくつかの会社が「パブロ・エスコバル・ツアー」の一環としてこの訪問を組み込んでいるため、オンラインで内容や料金、レビューを比較し、自らの目的に適したツアーを選ぶとよい。個人での訪問も不可能ではないが、施設の性格上、無断での立ち入りは困難な場合があるため、事前に施設側と連絡を取るか、ツアー参加を推奨する。
ツアーでは当時の監視塔の跡や、彼が隠したとされる大金を探そうと人々が掘った痕跡など、生々しい痕跡を目にすることができる。ガイドが語る、ドラマでは描かれなかった逸話は、この場所の異様さをいっそう際立たせる。しかし、ここも現在は静かに祈る場であり、穏やかな老後を送る人々の生活の場であることを忘れてはならない。見学の際は施設の規則を守り、居住者や修道士たちのプライバシーを尊重することが絶対のルールだ。大声で騒ぐことや立ち入り禁止区域に侵入する行為は固く禁じられている。また、ツアー内容に不満やガイドとのトラブルがあった場合は、その場で感情的にならず、後にツアー会社に正式に報告することが賢明だ。
霧に包まれたラ・カテドラルの跡地からメデジンの夜景を見下ろすと、権力の頂点に立ちながらも結局はこの山中の「檻」から逃れられなかった男の孤独が、夜の冷気とともに伝わってくるように感じられた。
コミューナ13(Comuna 13):絶望から希望へと昇るエスカレーター
かつてメデジンで最も危険視された地区のひとつであり、ゲリラ、準軍組織、麻薬カルテルの抗争が絶えなかった場所、それがコミューナ13だ。「ナルコス」では、暗殺者のリクルート拠点であり、暴力が制圧する無法地帯として描かれている。しかし今やコミューナ13はメデジンの再生を象徴する地として、世界中から観光客を引き寄せている。
その変化の象徴が、急斜面に設けられた巨大な屋外エスカレーターだ。かつて住民たちは何百段もの階段を上り下りしなければならなかった生活が、このエスカレーターによって大幅に快適になった。また、地区を彩るのが壁一面を覆う鮮やかなストリートアート(グラフィティ)である。一つひとつの作品には、暴力時代を生き抜いた住民たちの悲しみや怒り、そして未来への希望が込められている。
コミューナ13を訪れる際は、地元ガイドによるグラフィティツアーへの参加を強くお勧めしたい。多くのガイドはこの地区の出身者であり、アートに込められた意味や地区の歴史を自らの体験を交えて熱く語ってくれる。その話はどんなガイドブックよりも深く心に響くだろう。ツアーはサン・ハビエル駅周辺で直接ガイドに声をかけるか、オンラインの旅行プラットフォームで事前予約が可能だ。料金や時間、英語ガイドの有無などをよく確認し、料金トラブルを避けるためにも、支払いはツアー終了後、内容に満足してから行うのが一般的である。
深夜に訪れることはできないが、夕暮れから夜にかけてのツアーに参加すれば、ライトアップされたグラフィティと丘上から見下ろすメデジンの壮大な夜景、二つの絶景を同時に楽しめる。ブレイクダンスを披露する若者たち、陽気な音楽、そして観光客を温かく迎え入れる住民の笑顔。そこにはもはやかつての絶望の影は微塵もなく、コミューナ13の再生の物語は「ナルコス」が描くコロンビアの側面が、この国のすべてではないことを力強く証明している。
ドラマの舞台裏へ:撮影ロケーションを巡る旅

「ナルコス」の物語はメデジンを舞台としているが、撮影はコロンビア全土で行われている。なかでも首都ボゴタは、政治的な駆け引きやDEA(アメリカ麻薬取締局)の捜査活動を描写するうえで欠かせない場所となった。標高2,640メートルにあるこの高原都市の夜の空気に触れながら、ドラマの別の側面を覗いてみよう。
ボリバル広場:ボゴタの司法省ビル襲撃事件の舞台
シーズン1の見どころの一つが、左翼ゲリラ組織「M-19」による最高裁判事を人質にした司法省ビル占拠事件だ。エスコバルの影響が疑われるこの事件は、コロンビア史に深い爪痕を残した。現場となったのは、首都ボゴタの中心部に位置するボリバル広場である。
夜のボリバル広場は、昼間の喧騒とは打って変わって静まり返っている。国会議事堂、再建された最高裁判所、カテドラル、そして大統領官邸ナリーニョ宮殿が荘重にライトアップされており、政治・司法・宗教の中枢としての威厳を放っている。
ライトに照らされた石畳の広場を歩きながら、1985年11月に起きた銃撃戦と炎の記憶がよみがえる。軍が突入し、人質となった判事を含む100名以上が命を落とした悲劇の現場だ。ドラマではDEA捜査官のマーフィーとペーニャが、無力感を胸にその惨状を見つめていた。この広場の静けさは単なる平穏ではなく、多くの血の歴史を背負っていることを物語っている。
ボリバル広場周辺は主要な政府機関が集中しているため警察官も多く、比較的安全なエリアだが、夜間にはデモが発生する可能性もある。訪れる際は現地のニュースや政治情勢をチェックしておくと安心だ。また、スリや置き引きも頻発するため、貴重品管理には細心の注意を払いたい。この歴史的な場所で思いを巡らせる間も、旅行者としての警戒心は忘れてはならない。
ラ・カンデラリア地区:ペーニャ捜査官が駆け抜けた街並み
ボリバル広場に隣接するラ・カンデラリア地区は、ボゴタ最古の歴史を持つ旧市街だ。石畳の狭い路地とカラフルなコロニアル様式の建物が連なり、まるで時が止まったかのような独特の風情を醸し出している。ドラマではペーニャ捜査官が情報屋と接触したり追跡劇を繰り広げたりするシーンの重要なロケ地として多用された。
夜のラ・カンデラリアは昼間とは異なる表情を見せる。オレンジ色の街灯が濡れた石畳を照らし、壁に描かれた前衛的なグラフィティが妖しく浮かび上がる。バーやカフェからは心地よい音楽と笑い声が漏れ、ボヘミアンな雰囲気が漂う。この地区をあてもなく歩き回るのは、夜の散策を楽しむ人々にとって至福のひとときだ。
小さなバーに立ち寄って、コロンビアの国民的蒸留酒であるアグアルディエンテを注文する。アニスの香りが特徴の強烈な酒を舐めながら、カウンターの向こうのバーテンダーと拙いスペイン語で会話を交わす。彼はこの地区で生まれ育ったという。「昔はもっと危険だったけど、今はアーティストや学生が集まる素敵な街になったよ」と彼は笑い、その言葉には国の変遷がにじんでいた。
しかし、この魅力的な街並みにも注意が必要だ。複雑に入り組んだ細い路地は夜間になると人通りが減り、強盗など犯罪のリスクが高まる。特に一人歩きする場合は、大通りから外れた暗い路地には絶対に入らないこと。仲間と行動したり、人が多い道を選んだりして、安全を第一に考えたい。美しい景観に心を奪われつつも、常に背後の気配に気を配ることが、夜の街を安全に楽しむための基本だ。
現実の物語を紐解く:ナルコスを超えて
「ナルコス」はあくまでアメリカの視点から描かれたドラマである。エンターテインメントとしての完成度は非常に高いが、それがコロンビア全体を表しているわけではない。この国を訪れる際には、ドラマの世界観を一歩離れて、現実に生きるコロンビアの人々が紡ぐ多様な物語に耳を傾けることが大切だ。エスコバル時代がこの地に残した深い傷跡と、それを乗り越えようとする人々の不屈の精神。これら双方を理解することで、旅はより一層豊かなものになるだろう。
記憶の家博物館(Museo Casa de la Memoria):犠牲者の声に耳を傾ける場所
メデジンには、「ナルコ・ツーリズム」とは対照的な場所が存在する。それが「記憶の家博物館(Museo Casa de la Memoria)」だ。この博物館は、パブロ・エスコバルの時代に限らず、コロンビアが長い年月にわたり経験してきた内戦や武力紛争における犠牲者全員を追悼し、その記憶を未来へと継承するために設立された。
館内の展示は派手な演出を控え、犠牲者の遺品や証言の映像、アート作品などを通じて静かに、しかし強く暴力の悲惨さと平和の尊さを伝えている。エスコバルの名前は数ある暴力の要因の一つとして、断片的にしか登場しない。ここでは加害者の物語ではなく、匿名の犠牲者一人ひとりの声が真の主役なのだ。
この博物館の訪問は、被害者の視点からコロンビアの現代史を理解するうえで非常に重要な体験となる。公式ウェブサイトで開館時間や特別展の情報をあらかじめ確認し、訪問することをお勧めする。入場は無料だが、館内での飲食やフラッシュ撮影は禁止されている。展示に向き合う際は静粛を保ち、他の来館者の鑑賞を妨げないよう配慮しよう。ここで過ごす時間は、エンターテインメント的な「ナルコス」の視点を相対化し、コロンビアという国をより多面的に捉えるための貴重な思索のひとときになるに違いない。
コロンビア旅行を計画するあなたへ:実用的なポイント
この奥深い国への旅を現実のものにするため、いくつか実用的なアドバイスをお伝えしたい。
まず、準備段階で最も大切なのは海外旅行保険への加入だ。事故や病気、盗難など不測の事態に備えることは、安心して旅行を楽しむために欠かせない。特に医療費が高額になることが多いので、治療・救援費用が無制限、もしくは高額保障のプランを選ぶと安心感が増す。
通貨はコロンビア・ペソ(COP)だ。日本での両替レートはあまり良くないため、米ドルを一定額持ち込み、現地の空港や市内の両替所でペソに交換する方法が一般的である。大きなホテルやレストランではクレジットカードが使えるものの、小規模な店舗や屋台、タクシーでは現金が必要になる場面も多い。
言語は公用語のスペイン語が基本だ。観光地のホテルやレストランでは英語が通じることもあるが、簡単な挨拶や数字、感謝の言葉などをスペイン語で覚えておくと、地元の人とのコミュニケーションが格段に円滑になる。「Hola(こんにちは)」「Gracias(ありがとう)」「Por favor(お願いします)」「Cuánto cuesta?(いくらですか?)」といった基本フレーズはぜひ覚えておこう。翻訳アプリの利用も非常に役立つだろう。
さらに、ボゴタのような高地の都市を訪れる際は高山病に注意が必要だ。到着初日は無理をせず、ゆっくりと身体を慣らすことが重要である。こまめな水分補給を心がけ、アルコールは控えめにすることを勧める。コカの葉のお茶(マテ・デ・コカ)は、高山病の症状緩和に効果があると言われている。
そして何よりも安全対策が不可欠だ。必ず在コロンビア日本国大使館のウェブサイトや外務省の「海外安全ホームページ」で最新の治安情報を確認し、危険とされるエリアには決して近づかないようにしよう。もし強盗などの被害に遭った場合は、絶対に抵抗せず、命を最優先に考えること。被害後は速やかに安全な場所に避難し、警察(ポリスツーリスタなど)へ被害届を出し、必要に応じて在コロンビア日本国大使館に連絡し指示を仰ぐことが大切だ。パスポートを紛失した場合に備えて、コピーや証明写真の予備を用意しておくと、再発行手続きがスムーズに進むだろう。
真夜中のコーヒーとアグアルディエンテ:コロンビアの魂に触れる

メデジンの夜が静かに深まってきた。エル・ポブラド地区の一角にある24時間営業の小さなカフェに腰を下ろす。店内には、夜勤を終えたタクシードライバーや、これから仕事を始める市場の男たち、そして私のような夜行性の者たちがぽつぽつと集まっている。
頼んだのは、一杯のティント。コロンビア流のやや薄めに淹れたブラックコーヒーだ。世界有数のコーヒー産出国であるこの地で、日常的に楽しまれている素朴な一杯。その温かく優しい香りが、旅の疲れをじんわりと和らげてくれる。
ドラマ「ナルコス」が描く世界は、確かにこの国が経験した紛れもない現実の一面だ。パブロ・エスコバルの巨大な影は、今なおコロンビア各地に色濃く残っている。しかし、私がここ数日間の真夜中の散策で出会ったのは、そうした影の下で逞しく、そして明るく生きる人々の姿だった。過去の悲劇を忘れずにいる一方で、そこに縛られず、未来に向かって力強く歩み続ける彼らのエネルギーこそが、現代コロンビアの真実の姿なのかもしれない。
隣の席の男が、小瓶のアグアルディエンテを取り出し、私に一杯すすめてくれた。言葉は交わせなくとも、その笑顔だけで十分だった。乾杯を交わし、強い酒を喉に流し込む。アニスの香りが鼻を抜け、身体がほてるように熱くなる。
ドラマの登場人物たちが駆け抜けた道を辿る旅は、いつの間にか、この国の人々の温かさに触れる旅へと変わっていた。硝煙の匂いはもう遠い昔のことで、今は豊かなコーヒーの香りとアグアルディエンテの甘い香りが、コロンビアの夜を優しく包み込んでいる。東の空が白み始めるまで、あと少し。この国の魂に寄り添うように、私は真夜中のカフェで、次のティントが来るのを待つことにした。

