レンタカーのハンドルを握り、南へ、ただひたすら南へ。ニュージーランド南島の最果ての港町ブラフにたどり着いた時、僕の旅は一つのクライマックスを迎えようとしていました。元自動車整備士として、これまで数々の道を走ってきましたが、この先に続く道は、アスファルトではなく、荒々しいフォヴォー海峡が隔てる海の道。その向こうに、今回の旅の目的地が待っています。
その名は、スチュワート島。マオリ語では「ラキウラ(輝く空の地)」と呼ばれます。人の数、約400人。対して、この島に生息する国鳥キーウィの数は、推定2万羽。そう、ここは「人よりも鳥のほうが多い島」。太古の森がそのまま息づき、現代の喧騒とは無縁の時間が流れる場所です。
僕がこの島に惹かれた理由は、たった一つ。夜の森で、野生のキーウィに出会うため。飛ぶことをやめ、大地を歩くことを選んだ不思議な鳥。その姿を、動物園のガラス越しではなく、彼らが生きる本来の場所で、この目で見てみたかったのです。
この記事は、スチュワート島での忘れられない数日間の記録であり、そして、これからこの特別な島を目指すあなたのための、詳細なガイドブックです。フェリーの予約から、夜の森を歩くための装備、島での暮らしの知恵まで、僕の体験のすべてをここに記します。さあ、一緒に地球の最南端の楽園へ、冒険の旅に出かけましょう。
スチュワート島への扉を開く

文明の終焉から、手つかずの自然の懐へ。スチュワート島へのアクセスは、それ自体がひとつの冒険の序章となります。移動手段は大きく分けて二つ、海路か空路か。選ぶルートによって、旅の始まりの光景がまったく異なるものになるでしょう。
南島最南端のブラフから船で向かう旅
私が選んだのは、南島の最南端に位置する港町ブラフから発着するフェリーでした。ブラフはカキの名産地として名高い、小さくても活気にあふれる港町です。フェリーターミナルに立つと、潮の香りとともに、これから始まる船旅への期待が入り混じった独特の空気を感じます。
利用したのは「Stewart Island Experience」が運航する高速カタマラン(二胴船)。この船が荒波立つフォヴォー海峡を越え、私たちをスチュワート島へと運んでくれます。
フェリーの予約と乗船手続きについて
スチュワート島への旅では、計画性がとても重要です。特にフェリーは季節によって便数が異なり、ハイシーズン(夏期)は満席となることもよくあります。必ず事前に予約を済ませておくことが必要です。
- 予約方法: 公式サイト「Stewart Island Experience」のオンライン予約が便利で簡単です。一般的には往復チケットを購入します。出発日や時間、人数を入力し、クレジットカードで決済すれば予約完了。Eチケットはメールで届きます。
- 料金: 季節によって料金は変動しますが、大人の往復料金はおよそNZ$200前後が目安です。
- チェックイン: 出航の30分前までにはターミナルに着き、チェックインカウンターで手続きを済ませましょう。大型の荷物はコンテナに預けることになり、バックパックなどの小型手荷物は船内へ持ち込めます。
荒れるフォヴォー海峡との闘い
フォヴォー海峡は、世界有数の荒れやすい海域として知られています。地元の人々はこの道を「シェイキー・アイルズ(揺れる島々)への航路」と呼ぶほど。私が乗船した日も、予報どおり高波が立ち、船はまるで葉っぱのように揺れました。
船酔いが気になる方は、対策をしっかり行いましょう。
- 酔い止め薬: 乗船の30分から1時間前に服用するのがおすすめです。ニュージーランドの薬局(Chemist)で簡単に手に入ります。
- 座席の選び方: 揺れが比較的おさまるのは船体中央の階下の座席です。窓の外を見ると酔いやすい場合は、あえて目を閉じて音楽を聴くのも効果的です。
- デッキに出る: 新鮮な空気を吸うことで、気分が少し和らぎます。ただし、波が高い日は危険なので、クルーの指示に必ず従いましょう。
約1時間の船旅は必ずしも快適とは言えませんが、この荒波こそがスチュワート島を外部から守り、独自の生態系を育んできた証拠です。その揺れすらも愛おしく思えてくるのは不思議な感覚です。やがて、深い緑に包まれた島影が水平線上に見えたときの安堵感と高揚感は、言葉では言い表せません。
トラブル時の対応:欠航になった場合
フォヴォー海峡の天候は変わりやすく、安全確保が難しいと判断されるとフェリーは欠航となることがあります。これは自然を相手にする旅では常に起こりうることです。
- 情報確認: 欠航の可能性がある場合、運航会社から予約時に登録したメールアドレスや電話に連絡が入ります。また、公式ウェブサイトにも最新の運航状況が掲載されるので、天候が不安定な日はこまめにチェックするのが賢明です。
- 代替案: 欠航が決定した場合、運航会社は翌日以降の便への振り替えや全額返金の選択肢を提示します。旅程に余裕を持たせ、1~2日の遅れを許容できるスケジュールにすることを強くおすすめします。
空から望む広大な原生林
もう一つのアクセス手段はインバーカーギル空港からの小型飛行機利用で、「Stewart Island Flights」が運航しています。
空の旅の魅力と注意点
わずか20分のフライトですが、眼下に広がる手つかずの原生林は圧巻です。まるで緑の海を俯瞰しているかのようで、白い波が打ち寄せる海岸線とのコントラストが美しく、空から島の全容を把握できます。
- 予約方法: こちらも公式ウェブサイトからオンライン予約が可能です。
- 手荷物制限: 小型機のため、預け荷物の重量制限が厳しく、1人あたり15kgまで。これを超えると追加料金がかかるか、荷物を別便で送る場合もあるため、慎重にパッキングしましょう。
- 天候による影響: フェリー同様、天候、とくに強風や霧によって遅延や欠航が発生することがあります。
ダイナミックな船の旅か、圧巻の空中絶景か。選択は旅の好みやスタイルによりますが、どちらを選んでもスチュワート島への道のりが特別な体験となることは間違いありません。
オーバンの小さな世界へようこそ
フェリーがハーフムーン・ベイの穏やかな入り江へと静かに入ると、眼前に広がるのはスチュワート島唯一の集落、オーバン(Oban)の全景です。人口約400人のこの村は、まるで時が止まったかのような穏やかで温かな空気に包まれています。
オーバンという唯一の村の第一印象
船着き場から伸びる一本のメインストリートの両側には、色とりどりの屋根を持つ家々、一軒のパブ、雑貨店を兼ねたスーパーマーケット、そして観光案内所(ビジターセンター)が肩を寄せ合うように並んでいます。これがオーバンの全ての風景です。
村内を走る車はほとんど見かけず、聞こえてくるのは鳥のさえずりと波のさざめき、そして地元の人々のゆったりとした会話のみ。信号もコンビニもなく、こうした「何もない」という点こそがオーバン最大の魅力となっています。
村の中心に位置する「South Sea Hotel」は、島の社交の場として知られています。昼間は旅行者がランチを楽しみ、夜になると地元の漁師たちがビールを片手に一日の疲れを癒します。ここで味わう地ビールと、新鮮なブルーコッド(タラの一種)を使ったフィッシュ&チップスは、島を訪れたならぜひ堪能したい逸品です。
島の暮らしと自然との調和
オーバンに数日滞在すると、この小さなコミュニティが自然とどれほど密接に結びついて生活しているかがよくわかります。住民同士の会話には、今日の天気や潮の満ち引き、森で見かけた鳥の話題が当たり前のように登場します。
スーパーマーケット「Four Square」は島民の生活の要となる施設です。本土からは定期的に物資が届けられますが、悪天候だと船は入港できません。だからこそ人々は食材を大切に扱い、自宅の庭で野菜を育て、海で魚を釣って暮らしを支えています。私にとって、ここでの買い物は都会の便利さに慣れた身には多くのことを考えさせられる貴重な体験でした。
この島では「biosecurity(生物学的検疫)」の考え方が徹底されており、本土からネズミやイタチなどの捕食者が持ち込まれないよう、島民や旅行者が細心の注意を払っています。荷物の中に不要な生物が紛れ込んでいないか、靴の裏に種子が付着していないかを入念に確認します。こうした島の豊かな生態系を守るルールは、誰かに強制されているわけではなく、ここに暮らす人々の誇りであり、日常の一部として自然に根付いているのです。
夜の森へ、キーウィを探す冒険

ついに旅の核心に迫ります。スチュワート島を訪れる多くの人々が憧れる体験、それは夜の森で野生のキーウィに出会うことです。キーウィはニュージーランドの国鳥でありながら、夜行性で非常に警戒心が強いため、自然の中でその姿を目にするのは極めて困難とされています。しかし、この島では、その夢が現実になる確率が他のどこよりも高いのです。
旅のハイライト:キーウィ観察ツアー
自力で夜の森を歩きキーウィを探すことも不可能ではありませんが、成功率を格段に上げ、安全に楽しむには、専門のガイドが同行するツアーに参加するのが最善策です。私は「RealNZ」(旧Real Journeys)が実施する「Wild Kiwi Encounter」ツアーを選びました。
- なぜスチュワート島なのか? スチュワート島には、キーウィの天敵となるオコジョやイタチなどの哺乳類の捕食者がほとんどいません。そのためキーウィの生息密度が非常に高く、他地域に比べて人前に姿を見せることに慣れている個体も多いと言われています。ここで観察できるのは、ブラウンキーウィの一種である「スチュワート・アイランド・トコエカ」です。
- ツアーの予約方法: 非常に人気の高いツアーで、数ヶ月前から予約で埋まることも珍しくありません。旅行の日程が決まったら、まず公式サイトで予約を済ませましょう。料金は一人あたり約NZ$200。決して安価ではありませんが、その価値は十分にあります。
- 集合と出発: 日没後、オーバンの中心部にある「RealNZ」オフィスに集まります。ここでガイドからブリーフィングを受け、いよいよ出発です。
暗闇の森へ:準備と心構え
夜の森は昼間とはまったく異なる顔を見せます。キーウィとの出会いを成功させるためには、適切な準備と自然への敬意を持った行動が不可欠です。
持ち物と服装のポイント
- 服装:
- 防水・防風ジャケット: 島の天候は変わりやすく、夜は冷え込みます。雨風をしのげるアウターが必要です。ゴアテックスなどの静かな素材が理想的で、ガサガサ音のするナイロン製は避けましょう。
- 暖かいインナー: フリースやメリノウールなど保温性の高い重ね着が基本です。
- トレッキングシューズ: ぬかるみもあるため、防水でしっかりと足を支える靴が求められます。
- 帽子と手袋: 頭部や指先からの体温低下を防ぎます。
- 持ち物:
- ヘッドライト: 多くはガイドが用意しますが、自分でも持参するのが安心です。重要なのは赤色光に切り替え可能なタイプであること。キーウィは赤い光を認識しづらく、驚かせずに観察できます。白色光は絶対に使用禁止です。
- 双眼鏡: 適切な距離を保ちながら、細かな動作を観察するのに役立ちます。
- 虫除けスプレー: サンドフライ(小さな吸血ブヨ)対策に必須。特に夕暮れ時に活発になります。
- 水と軽食: 数時間のツアーに備えて、水分補給は欠かせません。
- カメラ: フラッシュの使用は厳禁。高感度撮影に強い機種でなければ、夜間の撮影は困難です。むしろカメラを置いて、目に焼き付けることに集中するのも良いでしょう。
禁止事項と守るべきマナー
野生動物の領域に足を踏み入れる際の謙虚な姿勢が大切です。
- 静寂を守る: 大声での会話は避け、足音も極力静かにします。
- フラッシュ使用禁止: キーウィの目を傷つけ、強いストレスを与えるため禁止です。
- 距離を保つ: キーウィが近づいてきても、こちらから接近したり触ったりしないこと。ガイドの指示に従い、適切な距離を保ちましょう。
- ガイドの指示を尊重する: 彼らはキーウィの生態や土地を熟知した専門家です。指示に従うことで、キーウィと私たち双方の安全を守ります。
静寂の森に響く生命の息吹
ブリーフィングを終えた私たちはカタマラン船に乗り、オーバンからさらに離れた人の気配がない静かな入り江へと向かいました。船を降り、ヘッドライトの赤い光だけを頼りに森の奥へ足を踏み入れた瞬間、空気が一変したのを感じました。ひんやりと湿った土の香り、青々としたシダの匂い、そして完全な暗闇と静寂が全身を包み込みます。
ガイドを先頭に列をなして森の奥へ進みます。ガイドは時折足を止め、耳を澄ませます。私たちも息を殺しながら闇に集中します。すると遠くから、「キー、ウィー」と鋭くもどこか物悲しげな高い鳴き声が聞こえました。ガイドがそれはオスの鳴き声だと囁き、心臓の鼓動が自分でもわかるほど早くなるのを感じました。
さらに進み、開けた砂浜にたどり着いたとき、ガイドが手を挙げて私たちを制止します。彼が指差す先の赤い光の中に、それは確かにいました。
丸みのある体に不釣り合いなほど長いくちばし。ずんぐりとしたその姿で、地面にくちばしを差し入れながら餌を探しています。野生のキーウィです。想像以上に大きく、力強い生命力が感じられました。
私たちは約10メートルの距離を保ちながらじっと見守りました。餌を探す音や時折警戒して首を動かす仕草。動物園で見るのとはまったく異なる、生きるために必死な野生の姿がそこにありました。時間が経つのを忘れそうでしたが、実際は数分の出来事だったかもしれません。やがてキーウィは満足したのか、ゆっくりと森の闇へと姿を消していきました。
キーウィはその生態も非常に興味深い存在です。ニュージーランド環境保全省(DOC)によれば、哺乳類に近い生態的地位を占めるよう進化してきたとされています。飛べない代わりに嗅覚が優れており、長いくちばしの先端に鼻の穴があるという鳥類の中でも極めて珍しい特徴を持っています。夜の森で、この鋭い嗅覚を頼りに地中のミミズや昆虫を探し出しているのです。
ツアーが終わり、オーバンへ戻る船上では、参加者全員が言葉少なでした。興奮と感動が冷めやらず、夜の森での体験をそれぞれが静かに反芻しているようでした。あれは単なる動物観察を超えた、地球の遠い昔から続く営みの一端を垣間見せてもらったような、神聖で魂が震えるような時間でした。
スチュワート島を歩く、感じる
キーウィとの出会いはスチュワート島の見どころの一つですが、この島の魅力はそれだけにとどまりません。昼間は自分の足でこの手つかずの自然を歩き、五感を使ってその豊かさを存分に感じてみてください。
ラキウラ・トラック:グレートウォークへの招待
ニュージーランドには「グレートウォーク」と呼ばれる、国が特別に管理している9つの長距離トレッキングルートがあります。その中のひとつが、スチュワート島にある「ラキウラ・トラック」です。
全長32kmで、通常は2泊3日かけて踏破するこのルートは、原生林の中を進み、美しい海岸線を眺め、歴史的な遺跡にも触れられる変化に富んだコースです。体力や装備に自信があるなら、ぜひ挑戦する価値があるでしょう。
日帰りで気軽に楽しむ
ただ、本格的な3日間のトレッキングはハードルが高いと感じる方も多いはず。ご安心ください。ラキウラ・トラックの一部だけ歩いても、その魅力の一端を十分味わえます。
オーバンの村からアクセス可能な範囲にも、素敵なウォーキングコースがいくつもあります。例えば、オーバンからリー・ベイ(Lee Bay)までの道は海岸線の絶景が楽しめ、片道1〜2時間ほどで歩ける手軽さが魅力です。リー・ベイには、ラキウラ・トラックの公式入り口を示す巨大な鎖のモニュメントがあり、記念撮影にぴったりのスポットとなっています。
トレッキングの計画を立てる際には、まずオーバンの中心部にあるラキウラ国立公園ビジターセンターを訪れてみましょう。ここで最新のコース情報や天気予報をチェックでき、地図も手に入ります。スタッフは親切で、あなたの体力や時間に合わせた最適なルートを提案してくれます。
野鳥の楽園、ウルヴァ島
スチュワート島を訪れたなら、ぜひ足を延ばしてほしい場所があります。スチュワート島から水上タクシーでわずか10分のところにあるウルヴァ島(Ulva Island)です。
この小さな島は、ネズミなどの天敵を完全に駆除した「オープン・サンクチュアリ(野外鳥類保護区)」に指定されており、本土ではほぼ姿を消した希少な鳥たちが、驚くほど近くで自然な姿を見せてくれます。
ウルヴァ島へのアクセスと注意点
- アクセス方法: オーバンの桟橋からは複数の会社が水上タクシーを運行しています。予約なしで乗れる場合もありますが、事前に運航時刻を確認しておくと安心です。
- 島内の過ごし方: 整備された遊歩道があり、1〜2時間もあれば主要な部分をじっくり散策できます。特別な装備は必要ありませんが、歩きやすい靴が必須です。
- 持ち込み禁止とバイオセキュリティの徹底: ウルヴァ島の生態系を守るため、島への物品持ち込みには非常に厳しい規制があります。最大の懸念はネズミの侵入です。乗船前にバッグの中を入念にチェックし、靴底に付いた土や種子もブラシでしっかり落とさなければなりません。このルールを守ることが、私たち訪問者に課せられた、この楽園を未来に残す大切な責務です。詳細はUlva Island Charitable Trustの公式サイトでも確認できます。
島に一歩足を踏み入れると、まさに鳥たちの歌声が響き渡る世界が広がります。人懐っこいスチュワート・アイランド・ロビンが足元まで寄ってきたり、鮮やかな緑色の羽を持つ大型インコ、カカが頭上の枝で賑やかに鳴いたり。シダが茂る森の中を歩くと、まるでジュラシック・パークの世界に迷い込んだかのような錯覚に陥ります。
南の夜空を彩るオーロラ・オーストラリス
夜の楽しみはキーウィだけではありません。スチュワート島は、南半球で見られるオーロラ「オーロラ・オーストラリス(サザンライツ)」の観測地としても世界的に知られています。
緯度が高く、街の明かりによる光害がほとんどないこの島は、オーロラ観測に理想的な環境です。特に太陽活動が活発な冬季(6月〜8月)は最適なシーズン。夜、オーバンの村から少し離れた暗い場所へ足を運べば、緑色に輝く空のカーテンが広がる幻想的な光景に出会える可能性があります。
私が訪れたのは夏でしたが、それでも夜空の美しさは格別でした。天の川が空に架かる巨大な橋のようにくっきりと見え、流れ星も数え切れないほど輝いていました。レンタカーでニュージーランド各地を巡る中で数多くの素晴らしい星空を見てきましたが、この島の星空の濃密さは間違いなく一生忘れられないものでした。
旅の実用情報と心構え

これまでスチュワート島の魅力についてお話ししてきましたが、最後に、この島への旅を具体的に計画する際に役立つ実践的な情報と、元整備士としての視点からのアドバイスをお伝えします。
スチュワート島 旅の計画ガイド
- ベストシーズン:
- 夏(12月〜2月): 温暖な気候と長い日照時間が特徴で、ハイキングに最適な時期です。観光客も最も多いため、早めの予約が欠かせません。
- 秋(3月〜5月): 安定した気候が続き、観光客もやや少なめ。静かに過ごしたい方にぴったりの時期です。
- 冬(6月〜8月): 寒さが厳しい一方で、オーロラ観測のチャンスが最も高まります。雪が降ることもありますので、防寒対策をしっかりと。
- 春(9月〜11月): 鳥たちの繁殖シーズンで、森に生命力が満ち溢れます。
- 宿泊施設:
- オーバンにはバックパッカーズホステル、B&B(朝食付きの民宿)、モーテル、ロッジなど多様な宿泊施設が揃っていますが、数は限られています。特に夏や年末年始は、半年以上前から予約が埋まることもあるため、航空券やフェリーの予約と同時に宿泊先の確保を最優先に行いましょう。
- 食事:
- 島唯一のパブ「South Sea Hotel」やフィッシュ・アンド・チップスのテイクアウト店、数軒の小さなカフェがあります。選択肢は多くないものの、どのお店も地元で採れた新鮮な食材、特にシーフードを使った料理が絶品です。
- 自炊派には、スーパーマーケット「Four Square」で一通りの食材が手に入りますが、本土と比べると物価はやや高めです。
- 通信環境:
- オーバンの中心部では携帯電話の4G電波が届き、多くの宿泊施設にWi-Fiもありますが、速度はあまり期待できません。森の中やトレッキングコースではほとんど圏外となるため、スマートフォンを手放してデジタルデトックスを楽しむのも、この島での贅沢な過ごし方かもしれません。
元整備士が教える、旅のトラブル対策
私の旅はレンタカーで自由に動くスタイルが基本ですが、スチュワート島へは車の持ち込みができません。そのため、島へ向かう途中の南島のドライブが旅の重要な一部となりました。
- 南島でのレンタカー選び:
- ニュージーランドの道路は、都市部を離れると山道や未舗装路が多くなります。特に南島南部のドライブでは、急な天候変化も考慮し、パワーに余裕のある車を選ぶと安心です。燃費も大切ですが、それ以上に長距離運転の疲労軽減を優先した車種がおすすめです。
- ブラフのフェリーターミナルには長期駐車可能な有料駐車場があります。島へ渡る間、車を数日間停めることになるので、貴重品は車内に置かないように注意しましょう。
- 装備の重要性:
- アウトドア旅では装備が命を守ります。特に靴と雨具には、ケチらずに良いものを選んでください。「大丈夫だろう」という慢心が思わぬトラブルを招くこともあります。
- 出発前に装備の状態をしっかり点検することが重要です。防水ジャケットの撥水性能が落ちていないか、トレッキングシューズの靴底が摩耗していないかなど、簡単なメンテナンスで旅の快適さと安全性は格段に向上します。
- 旅を彩るBGM:
- 長時間のドライブや島での静かな時間には良い音楽が欠かせません。今回の旅で特によく聴いたのはニュージーランド出身のアーティストの楽曲です。
- Fat Freddy’s Drop: ダブやレゲエ、ソウルを融合したリラックスサウンドが南島の雄大な自然にぴったりです。
- Lorde: 彼女の少しダークで内省的な音楽は、曇り空の海岸線を走るときに独特の雰囲気を醸し出します。
- The Black Seeds: 明るく陽気なレゲエサウンドで旅の気分を盛り上げてくれます。
- 予定通りにいかないことを楽しむ心構え:
- スチュワート島の旅は天候に大きく左右されます。フェリーの欠航や予約したツアーのキャンセルも珍しくありません。そんなときは「運が悪い」と落ち込むのではなく、「島がもう少し滞在してほしいと言っているのかも」と考えてみてはいかがでしょう。
- もし予定が空いたら、村のカフェで地元の人と会話を楽しんだり、目的もなく海岸沿いを散歩したりしてみましょう。そうした予期しない時間の中にこそ、忘れがたい出会いや発見が隠れているものです。計画通りに進むことだけが良い旅ではありません。その場で起こる出来事を受け入れ、楽しむ柔軟な気持ちこそが、この島での旅を豊かにしてくれるでしょう。
地球の鼓動が聞こえる島
スチュワート島、ラキウラ。この島を離れる日、僕は再びフォヴォー海峡を渡るフェリーのデッキに立っていました。深い緑に包まれた島影が遠ざかるのを見つめながら、ここで過ごした数日間の出来事が次々と思い返されていました。
夜の森で出会ったキーウィ、その力強く輝く生命の息吹。ウルヴァ島で耳にした、鳥たちの無邪気で澄んだ歌声。オーバンのパブで交わした、地元の人々の飾り気のない笑顔。そして全てを包み込むような、圧倒的な静けさ。
この島は多くのことを僕に教えてくれました。便利さや効率とは真逆の場所で、人々がどのように自然と共存し、コミュニティを育み、小さな幸せを見つけて暮らしているか。そして、私たち人間が地球という星の一部として、いかに謙虚であるべきかを。
スチュワート島は、ただの観光地ではありません。ここは地球の古の記憶が今も息づき、その鼓動を肌で感じられる特別な場所です。もし日常の喧騒に疲れて、本当に大切なものは何かをあらためて考えたいと思うなら、ぜひこの島を訪れてみてください。
夜の森の闇の中で、耳を澄ませばきっと聞こえてくるでしょう。大地を踏みしめるキーウィの足音が。そして、あなたの心の奥深くから響き渡る、魂の声が。
僕の旅はまだ続きます。この島で得た記憶を胸に、再びレンタカーのハンドルを握り、次の道へと進みます。この素晴らしい地球の上には、まだ知らない風景が無数に広がっているのですから。

