アスファルトの上で世界と繋がる。それが私の旅のスタイル。世界各地のマラソン大会に出場するためだけに旅を続ける私、マラソンジャンキー・サキです。レースのない期間は、次の戦いの地を求めて、まだ見ぬ道を走り、コンディションを整えるのが日課。そんな私が今回、トレーニングの拠点として選んだのは、ベトナム南部、メコンデルタの心臓部ともいえる街、ロンスエン(Long Xuyên)。
ホーチミンの喧騒とも、ハノイの歴史的な趣とも違う。ここには、メコンの大河とともに生きる人々の、ありのままの日常と、どこまでも続くかのような緑の田園風景が広がっています。観光客の姿はまばらで、まだ手垢のついていない、本物のベトナムが息づいている場所。ランナーにとって、これほど贅沢な環境があるでしょうか?
フラットで走りやすい道、早朝の新鮮な空気、そして走った後の身体を癒してくれる絶品ローカルフード。ロンスエンは、まさに走るために旅する者にとっての聖地かもしれません。この記事では、私の足で駆け巡ったロンスエンの魅力を、アスリート目線のコンディション調整術やコース情報も交えながら、余すところなくお伝えしていきます。さあ、一緒にメコンの流れに乗って、ディープなベトナムへ走り出しましょう!
なぜ今、ロンスエンなのか?アスリートの心を掴む未開の魅力

多くの旅人がベトナムと聞くと、ハノイの旧市街やホイアンのランタン、ホーチミンのバイクの洪水を思い描くでしょう。しかし、私がトレーニング地としてロンスエンを選んだのには明確な理由があります。それは、アスリートが最高のパフォーマンスを発揮するために欠かせない要素が、この地に凝縮されているからです。
まず第一に、圧倒的な「静けさ」が挙げられます。大都市の絶え間ないクラクションや人々のざわめきは、集中力を求めるアスリートにとって大きなストレスとなり得ます。ロンスエンの朝は、鳥のさえずりと川をゆっくりと行くボートのエンジン音ではじまります。この穏やかな環境が、心拍数を落ち着かせ、質の高いトレーニングや瞑想に没頭するのに理想的な舞台を提供してくれるのです。
次に、地形的な利点があります。メコンデルタに位置するロンスエンは、基本的にどこまでも平坦な地形です。これにより、一定のペースで長距離を走るLSD(Long Slow Distance)トレーニングや、スピードを意識したペース走に最適な環境が整っています。アップダウンによる余分な脚への負担を気にせず、純粋に心肺機能や持久力の向上に集中できるのです。川沿いや郊外に広がる田んぼのあぜ道も信号がなく、まるで自分専用のトラックかのような感覚を味わえます。
さらに、新鮮な空気と豊かな自然も魅力です。早朝、ハウザン(後江)から立ちのぼる川霧を浴びながら走ると、全身の細胞が浄化されるのを実感します。湿度は高いものの、それがまるで天然のスチームサウナのように発汗を促し、デトックス効果も期待できるでしょう。緑に包まれた風景は目にも優しく、メンタルの回復にもつながります。
最後に、地元の人々との温かなふれあいも忘れられません。観光地化されていないため、ロンスエンの住民は素朴で親切です。ランニング中にすれ違う子どもたちが「シンチャオ!(こんにちは!)」と笑顔で声をかけてくれるような、何気ない交流が厳しいトレーニングの合間に心を和ませてくれます。彼らの暮らしの一部に溶け込むように走る体験は、有名な観光地を巡るだけでは味わえない、旅の本質的な喜びと言えるでしょう。
ロンスエンは単なる通過点ではありません。心と身体をリセットし、自分自身と深く向き合うための特別な場所です。これが、私がこの地を強く推薦する理由なのです。
ロンスエンへのアクセス徹底解説!ホーチミンからの快適な移動術
トレーニングの質は、目的地に到着するまでの体調や環境に大きく左右されます。移動による疲労はできるだけ軽減したいものです。ベトナム南部の玄関口であるホーチミンからロンスエンまでは約180km。ここでは、私が実際に利用し、最も快適だと感じた移動手段について具体的にご紹介します。
定番はバス!FUTA Bus Lines(Phương Trang)を活用しよう
ベトナムの長距離移動で絶大な信頼を集めているのが、オレンジ色の車体が特徴の「FUTA Bus Lines(現地名:Phương Trang)」です。荷物が多い旅人でも安心して使える充実したサービスが揃っており、旅ランナーにとって心強い存在です。
チケットの予約・購入方法
チケットを手に入れる方法は主に3つあります。
- オンライン予約: 最もおすすめなのが公式サイトから予約する方法です。
FUTA Bus Linesの公式サイトはベトナム語と英語に対応しており、出発地(Ho Chi Minh)、目的地(Long Xuyen)、日付を入力するだけで簡単に空席検索と予約が可能です。座席指定もできるため、揺れの少ない中央席や景色を楽しめる窓側席など、好みに合わせて座席を選択できます。支払いはクレジットカードが利用でき、予約完了後にEチケットがメールで届くので、当日はスマホ画面を提示するだけで乗車できます。
- 専用アプリでの予約: FUTA Bus Linesはスマートフォン用の専用アプリも提供しています。一度インストールすれば、次回以降の予約がよりスムーズになります。ユーザーインターフェースも直感的で使いやすい設計です。
- 窓口での直接購入: ホーチミン市のミエンタイ・バスターミナル(Bến Xe Miền Tây)へ直接訪れ、FUTA Bus Linesのカウンターで購入する方法です。言語に不安がある場合は、ホテルスタッフに目的地を書いたメモを用意してもらうとスムーズです。ただし、人気の時間帯は満席になることもあるため、余裕を持って行動しましょう。
料金は片道で150,000~200,000VND(約900~1,200円)程度。所要時間は交通状況によりますが、おおよそ4~5時間を見込んでおくと安心です。
乗車場所と車内の様子
ホーチミンからの発着は主にミエンタイ・バスターミナルです。市内中心部からはタクシーや配車アプリ(Grabなど)で30~40分ほどかかるため、時間に余裕を持って向かうことをおすすめします。
FUTAバスの最大の魅力は、快適なスリーピングシートです。2段ベッド式の座席は大きくリクライニングでき、足を伸ばしてゆったりと横になれます。乗車時にはビニール袋が配られ、靴を脱いで乗るのがルールです。清潔に保たれており、各座席にブランケットとミネラルウォーターが用意されています。冷房もかなり強めに効いていることが多いため、ウインドブレーカーやパーカーなど、はおれるものを一枚持っていくことを強く推奨します。これは体温調節が重要なアスリートにとって欠かせない準備と言えるでしょう。
トラブル時の対処法
もし予約したバスに乗り遅れてしまった場合は、慌てずにFUTAのカウンターで事情を説明しましょう。Eチケットを提示すれば、次の便に空席があれば振替の対応を受けられる可能性があります(ただし保証はありません)。言葉が通じにくい場合は翻訳アプリを活用すると便利です。長距離バスは途中でトイレ休憩がありますが、出発時間をしっかり把握し、乗り遅れないように注意しましょう。アナウンスはほとんどがベトナム語のみなので、周囲の乗客の動きにも気を配るのが賢明です。
レンタカーやバイクも選択肢のひとつ
より自由度の高い移動を望むなら、レンタカーやバイクの利用も考えられます。特にバイクはベトナムの風を直接感じられ、小回りが利くためローカルな道にも入りやすい魅力があります。
しかし、ベトナムの交通環境は日本と大きく異なり、交通量も非常に多いため運転リスクは高くなります。長距離の運転は体力を大きく消耗し、トレーニング前のコンディションを損なう恐れもあります。
さらに、運転免許に関しては注意が必要です。日本で発行された国際運転免許証(ジュネーブ条約加盟国発行のもの)はベトナムでは認められていません。ベトナムで合法的に運転するには、日本の運転免許証をベトナム語に翻訳・公証し、さらにベトナムの運転免許証へ切り替える必要があります。この詳細は在ベトナム日本国大使館の公式サイトで最新情報を必ずご確認ください。
以上の点を踏まえると、初めてロンスエンを訪れる方や、体調管理を最優先にしたいランナーにとっては、快適かつ安全な長距離バスの利用が最も賢明な選択と言えるでしょう。
早朝のメコンを独り占め!ロンスエン水上マーケット完全攻略

ランナーにとって早朝は、心拍が落ち着き身体が最もよく動くゴールデンタイムです。ロンスエンでの一日は、この貴重な時間を最大限に活かすことから始まります。目的地は、街の中心部を流れるハウザン川沿いに開かれる「ロンスエン水上マーケット(Chợ Nổi Long Xuyên)」。カントーのカイラン水上マーケットほど大きく観光化はされていませんが、そのぶん現地の生活が色濃く感じられる、本物の市場です。
夜明け前のほのかな明かりのなか、ホテルを出て軽くジョギングしながら船着き場へ向かいます。肌を刺すようなひんやりとした空気と川の香りが鼻をくすぐり、ゆっくりと身体が目覚めていくのを実感できます。
ボートのチャーター方法と交渉のコツ
水上マーケットを楽しむには、手漕ぎボートやエンジン付きの小舟をチャーターするのが一般的です。船着き場に着くと、船頭さんたちから「ボート?」と声をかけられ、交渉がスタートします。
- 交渉の流れ:
- まずは複数の船頭に声をかけ、料金の相場を確認します。焦らず冷静に。
- 料金は多くの場合時間制なので、「1時間いくらですか?」「マーケットを一周したい」と具体的に希望を伝えましょう。ジェスチャーやスマホの電卓機能を使い数字を提示すると確実です。
- 2024年現在、相場は1時間あたり約150,000〜250,000VND(約900〜1,500円)。これを大幅に超える価格が提示された場合は、微笑みながら「マックワー(高いですよ)」と言って去る素振りを見せるのも効果的です。
- 料金が合意に達したら、出発前に再度金額と時間を簡単な英語で確認しましょう(例:「1 hour, 200,000 VND, OK?」)。
- 支払いは原則としてツアー終了後に行います。
- 持ち物と準備:
- 現金: チャーター料金や市場での買い物は現金のみ。細かいお札(10,000VNDや20,000VND)を多めに用意しておくとスムーズです。
- 日除け対策: 日が昇ると川面の反射光が強烈なので、帽子、サングラス、日焼け止めは必須です。
- 防水対策: カメラやスマホを濡らさないため、防水ケースやビニール袋を用意すると安心です。
水上で楽しむ絶品の朝食
ボートに乗り込み、マーケットの中心部へゆったり進みます。大小さまざまな船が行き交い、市場は賑やかそのもの。各船には売り物を示すために、長い竿の先にパイナップルやスイカ、キャベツなどが吊るされており、その光景も見応えがあります。
このマーケットの醍醐味は、なんといっても水上で食べる朝ごはんです。調理器具を備えた小さな食堂ボートが近づいてきます。
- 注文のポイント:
- 船頭さんに「お腹が空いた」とジェスチャーで伝えるか、「アンサン(朝ごはん)」と言うと、食堂ボートを呼んでくれます。
- メニューはフーティウやブンカー(魚すり身入りの麺)が定番で、指差し注文が簡単です。
- 注文後、隣のボートから温かい一杯が手渡されます。揺れるボートの上で味わうこの一杯は、走った後の身体にじんわり染み渡る特別な体験です。
- 練乳入りの甘く濃厚なベトナムコーヒー「カフェスアダー」を売るボートもあります。レース前の糖分補給とカフェインチャージにぴったりです。
マーケットで心に留めておきたいマナーと注意点
ローカル色が強い市場だからこそ、訪れる旅行者として守るべきルールがあります。
- 撮影時の配慮: 生活空間であることを忘れず、撮影前には笑顔で挨拶するなどコミュニケーションをとることが大切です。無遠慮にカメラを向けるのはマナー違反です。
- ゴミは必ず持ち帰る: 当たり前ですが、ゴミを川に捨てるのは絶対に避けましょう。自分が出したゴミは必ず持ち帰るのが基本です。
- 値引き交渉は節度をもって: 適切な価格交渉は旅の楽しみですが、相手の暮らしを尊重し無理な値引きを強要しないよう心がけましょう。
早朝のランニングから水上マーケットでの朝食まで、この一連の体験はロンスエンの暮らしに深く触れられる、最高の時間です。陽がすっかり昇る頃、市場を後にしてホテルへ戻る頃には、爽やかな疲労感が体を包み、メコンのエネルギーを胸いっぱいに感じていることでしょう。これこそ、旅するランナーが味わう至福のひとときなのです。
ロンスエン市内ランニングコース&観光スポット巡り
水上マーケットでエネルギーを補給したら、次はロンスエンの街並みを自分の足でじっくり味わってみましょう。私の旅のスタイルは、観光スポットを「点」でつなぐのではなく、ランニングという「線」で結びながら回ることです。街の匂いや音、人々の表情を五感で感じ取りつつ、アクティブレスト(積極的休養)を兼ねて市内を駆け巡ります。
オンバック寺(Quảng Tế Cổ Miếu)- 色鮮やかなパワーをもらう場所
まず訪れるのは、街の中心に位置する中国寺院「オンバック寺」。19世紀に建てられたこの寺院は、外観からして圧倒的な存在感を放っています。屋根には精緻な龍や鳳凰の陶器装飾が施され、赤と金を基調とした色彩はまるでエネルギーの結晶のようです。
中に足を踏み入れると、渦巻き状の巨大な線香が数多く吊るされ、煙と独特の香りが広がっています。これらの線香には願い事を書いた赤い短冊が添えられ、参拝者が奉納するものです。私は旅の安全と次のレースでの自己ベスト更新を静かに祈りました。
- 服装の注意点(Do情報):
この場所は神聖な祈りの場ですので、ランニングウェアのままでの訪問は控えましょう。私は一度ホテルに戻り、ショートパンツの上から重ねられる薄手の巻きスカートと、肩が隠れるTシャツに着替えてから向かいました。タンクトップや極端に丈の短いパンツなど、露出の多い服装はマナー違反とされています。入り口で服装チェックを受けることは少ないですが、敬意を示す心構えが大切です。
敷地はそれほど広くありませんが、細部まで緻密に作り込まれた彫刻や壁画は見応え十分。ゆったりと見学しながら心を落ち着かせるのに最適な場所です。
ロンスエン大聖堂(Nhà thờ Chánh Tòa Long Xuyên)- 天にそびえる荘厳なランドマーク
オンバック寺から数キロランニングすると、次に現れるのが天高くそびえ立つ「ロンスエン大聖堂」。高さ55メートルの鐘楼は街のどこからでも視認でき、まさに象徴的な存在です。1965年に建設が始まり1973年に完成した比較的新しい教会ですが、その荘厳な佇まいには歴史の重みすら感じられます。
白を基調とした美しい外観は、青空に映えて映えます。内部に入ると、高い天井とステンドグラスから差し込む柔らかな光が神聖な雰囲気を創り出しています。ミサの時間でなければ静かに見学が可能です。涼やかな聖堂内は、火照った体をクールダウンするのにぴったり。ベンチに腰かけて目を閉じ、深呼吸をして呼吸を整える。こうした時間も旅先での大切なコンディショニングになります。
アンザン博物館 – 走るだけではない、地域の歴史に触れるひととき
軽めのジョギングを続けつつ次に訪れるのは「アンザン博物館」。走ることでその土地の「今」を感じ、博物館を訪れることでその土地の「過去」を知る。この両方が揃って初めて、旅はより味わい深いものになると私は考えています。
博物館には、ロンスエンがあるアンザン省の歴史を示す貴重な資料が展示されています。特に興味深いのは、メコンデルタでかつて栄えた扶南国の遺跡「オー・エオ文化」の出土品や、この地域に多く暮らすクメール人の文化に関する展示です。自分が今駆けている土地がどのような歴史を紡いできたのか知ることで、風景がまた違って見えてくるでしょう。
- 訪問のポイント(Do情報):
- 開館時間: 通常は午前7時30分から11時まで、午後1時30分から5時までですが、事前に確認をおすすめします。ベトナムの施設は昼休みが長いことが多いので要注意です。
- 入場料: 無料または非常に安価です。
- 展示: 説明は主にベトナム語ですが、展示物を眺めるだけでも十分楽しめます。事前にオー・エオ文化について少し調べておくと理解が深まります。
博物館での知的なクールダウンは、肉体的トレーニングと同じくらい大切。歴史に想いを馳せながら次のランニングコースのインスピレーションを得る。このような時間の使い方も旅ランナーならではの楽しみ方です。
これらのスポットは市内中心部から半径2〜3キロ圏内に集まっており、ゆっくりしたペースで走れば、半日ほどで十分巡ることができます。ロンスエンの街はランナーの足に優しく、好奇心を刺激する魅力的なフィールドなのです。
フェリーで渡る聖地!トン・ドゥック・タン元国家主席の故郷「虎島(Cù lao Ông Hổ)」へ

ロンスエン市内でのトレーニングに慣れてきたら、少し遠出をして、より深くメコンデルタの魅力を味わってみましょう。目的地は、ハウザン川に浮かぶ中洲「虎島(Cù lao Ông Hổ)」。ここは、ベトナムの第2代国家主席としてホー・チ・ミンの後継者を務めたトン・ドゥック・タンの生家があることで有名です。この島は単なる地理的な存在ではなく、ベトナム近代史の重要人物を育んだ聖地とも言えます。
市内からフェリーで訪れる方法も、冒険心を刺激してくれます。車やバイクの騒音から完全に離れた静かな時間が流れるこの島は、長距離走のトレーニングに最適な環境です。
フェリー乗り場へのアクセスと乗船方法
虎島へは、ロンスエン市の中心から北へ数キロにある「Vàm Cốngフェリーターミナル」からフェリーが出ています。私はホテルからランニングで向かいましたが、もちろんGrabバイクやタクシーを利用することも簡単です。
- 乗船の流れ(Do情報):
- フェリー乗り場に着くとチケット売り場があります。行き先「Cù lao Ông Hổ」と伝えれば問題ありません。
- 料金は非常に手頃で、歩行者なら数千VND(数十円)程度。バイクや自転車を一緒に乗せる場合は追加料金が発生します。
- 固定の時刻表はなく、人や車が一定数集まると出発するという非常にローカルな運行スタイルです。日中は15〜20分間隔で頻繁に往復しているため、時間をあまり気にせず利用できます。
- 乗船時間は短く約10分。川風を感じながら、緑豊かな対岸の島がだんだん近づく様子は、これから始まる冒険への期待を高めてくれます。
虎島での過ごし方 - ランニングと歴史散策
フェリーを降りると、まるで別世界に足を踏み入れたような感覚が訪れます。アスファルトの道はあるものの交通量は非常に少なく、聞こえるのは鳥のさえずりや風の音、そして島の人々の穏やかな会話だけです。
島の周回ランニングコース
この島の最大の魅力は、のどかな田園風景の中を走れることです。島を一周するコースが整備されており、距離はおよそ15〜20km。信号もなく、排気ガスの心配も不要。まさにランナーにとって理想的なコースと言えます。
道の両脇には果樹園や田んぼが広がり、時折、水牛がのんびり草を食べていたり、家の軒先でハンモックに揺れる住民の姿を見ることができます。すれ違う島民たちは皆笑顔で挨拶を返してくれ、都会では味わえない心温まるランニング体験がここにはあります。
- 持ち物・準備リスト(Do情報):
- 十分な水分補給: 島内には商店や自動販売機がほとんどありません。とくに長距離走をする際は、最低でも1リットル以上の水やスポーツドリンクの携帯をおすすめします。ランニング用のハイドレーションベストがあるとさらに便利です。
- エネルギー補給食: ジェルやエナジーバーなど、手軽に摂取できる補給食を忘れずに持参しましょう。
- 強い日差し対策: 遮蔽物のない道が多いため、帽子やサングラス、アームカバー、SPFの高い日焼け止めは必須アイテムです。
- 虫よけスプレー: 夕方近くになると蚊が増えることがあるため、露出した肌には虫よけスプレーを忘れずに塗っておくと安心です。
トン・ドゥック・タン記念館
島の中心には「トン・ドゥック・タン元国家主席記念地区」があり、ランニングの途中に立ち寄ってベトナムの歴史に触れるのもおすすめです。敷地内には彼が実際に暮らした質素な高床式住居が保存されており、人柄を偲ぶことができます。また博物館も併設されており、その生涯や功績について学べます。
ランニングという身体的な活動と歴史探訪という知的な要素を組み合わせることで、虎島での体験は一層深みのあるものになります。メコンの豊かな自然に抱かれ、歴史に思いを馳せながら走る。この島で過ごした一日は、私のランニング人生においても忘れがたい特別な時間となりました。
アスリートの胃袋を満たす!ロンスエンの必食グルメ
過酷なトレーニングに励むアスリートにとって、「食事」はパフォーマンスを左右する極めて重要な要素のひとつです。レース前のカーボローディング(炭水化物の蓄積)やトレーニング後のリカバリー(タンパク質とビタミンの補給)。これらすべてを、旅先の食文化を味わいながら満たせるのが、旅ランナーの特権とも言えます。メコンデルタの豊かな恵みに支えられたロンスエンの食は、アスリートの身体を内側からしっかりとサポートしてくれる最高のパートナーでした。
名物「ブンカー(Bún Cá)」— 優しいスープがじんわり身体に染み渡る
ロンスエンを訪れたら、これを食べずには帰れません。街の象徴ともいえる麺料理、それが「ブンカー」です。「ブン(Bún)」は米粉で作られた丸くて細い麺を指し、「カー(Cá)」は魚を意味します。
その名の通り、魚から取った出汁のスープにブンが入り、さらに魚のすり身揚げや白身魚の切り身が添えられた、シンプルながらも奥深い一品です。特に注目したいのは、そのスープの味わい。魚の生臭さは一切なく、旨味だけが凝縮された黄金色のスープは、驚くほどあっさりとしていながらも滋味豊か。長距離走の後、汗で失われたミネラルを補うために、この優しい塩加減のスープが身体にじんわりと浸透する感覚は、まさに至福の瞬間と言えるでしょう。
麺はツルツルとした喉ごしで、炭水化物補給にぴったりです。トッピングされた魚のすり身は良質なタンパク質源として、筋肉の修復を助けてくれます。テーブルに用意されたもやしやハーブ、ライム、唐辛子をお好みで加えることで、味の変化も楽しめます。私はいつもたっぷりのハーブとライムを絞り、ビタミンとクエン酸をプラスするのが好みです。
市内には多くのブンカー専門店がありますが、特に地元の人で賑わう「Bún Cá Hiếu Thuận」や「Bún Cá 63」は間違いなく美味しいお店でした。1杯約40,000VND(約240円)というリーズナブルな価格でこのクオリティが味わえるのは、毎日でも通いたくなるほどです。
メコンの恵み!新鮮なフルーツとチェー
トレーニング後のビタミン補給には、メコンデルタが誇る新鮮なフルーツが欠かせません。ロンスエン市場(Chợ Long Xuyên)に足を運べば、多彩な南国フルーツが山のように並べられています。マンゴー、ドラゴンフルーツ、ジャックフルーツ、ランブータンなど、どれも驚くほど安価で味も濃厚です。特に、カットされたフルーツを袋詰めで販売している屋台は、手軽にビタミン補給ができるのでとても重宝しました。
もう一つの楽しみが、ベトナム風ぜんざい「チェー(Chè)」です。ココナッツミルクをベースに、豆類や芋、タピオカ、フルーツなどさまざまな具材を入れた冷たいスイーツ。優しい甘さが、トレーニングで疲れた心身をそっと癒してくれます。店によって使われる具材が異なるため、さまざまなチェーを試すのも面白いでしょう。糖質と水分を同時に補える、天然のリカバリードリンクと言えます。
ローカル食堂で味わう「コムタム(Cơm Tấm)」
しっかりと米を摂りたい日のランチやディナーには、「コムタム」がおすすめです。コムタムは「砕き米」を意味し、精米の過程で割れてしまったお米を炊いたご飯のこと。この砕けた米の上に、甘辛いタレで焼いた豚肉(スオンヌオン)やベトナム風ミートローフ(チャー)、目玉焼き(オプ・ラ)などがのせられたワンプレート料理です。
パラパラとした食感の砕き米が、肉の旨味とタレをよく吸い、とても美味。特に炭火で焼かれた豚肉は香ばしく、食欲を刺激します。タンパク質と炭水化物をバランスよく摂れるコムタムは、身体づくりにも理想的な一皿。付け合わせの野菜やスープもついているため、栄養面でも優れています。
- 食事に関する注意事項(Do情報)
ベトナムのローカルフードは魅力的ですが、衛生面を気にされる方もいるでしょう。屋台や食堂を選ぶ際には、地元の人で賑わっているか、食材が新鮮に見えるか、調理場が清潔に保たれているかなど、自分の目でしっかり確認することが大切です。心配な場合は、十分に火が通った料理を選ぶと安心です。また、氷や生水は避け、ミネラルウォーターの摂取を心がけることが、コンディション維持の基本となります。
ロンスエンの食は単に美味しいだけでなく、アスリートが求める栄養素を、その土地ならではの調理法で最高の形で提供してくれます。まさに、走るための活力源として最適な食文化なのです。
快適な滞在のための宿泊施設とコンディション調整術

旅先でのパフォーマンスは、滞在場所の選び方と身体を最良の状態に保つ工夫次第で大きく左右されます。特に、日々のトレーニングを欠かさない私にとって、ホテルは単なる休息の場ではなく、重要なコンディショニングの拠点となります。ここでは、ロンスエンでの滞在を充実させるために、ランナーの視点からホテル選びと調整のコツをご紹介します。
おすすめのホテルエリア
ロンスエンの宿泊施設は主に市の中心部、特にハウザン川沿いの「Trần Hưng Đạo」通り周辺に集中しています。この地域には多くのメリットがあります。
- 利便性: レストランやカフェ、市場へのアクセスが非常に良く、トレーニング後の食事や買い物に大変便利です。
- ランニングコースへの近接性: 早朝にホテルを出てすぐ川沿いのプロムナードで走れるため、わざわざ移動時間を取らずに済みます。これは大きな利点です。
- 景観: リバービューの部屋を選べば、メコン川の壮大な流れを眺めながら心身をリラックスさせられます。特に日の出や夕焼けの光景は、精神的な回復にも効果的です。
ランナーが重視すべきホテル選びのポイント
私がホテルを予約する際、ランナーとして必ず確認するポイントを挙げます。
- シャワーの水圧と温度調整: トレーニング後に勢いの良いホットシャワーを浴びられるかは非常に重要です。事前に口コミサイトなどで水回りの評価をチェックしましょう。
- エアコンの性能: ベトナムの高温多湿な気候では、エアコンが快適な睡眠と回復を支えます。温度や風量の細かな調節ができるかを確認しましょう。
- 部屋の広さ: 走った後にストレッチや、持参したフォームローラーで筋膜リリースを行うスペースが確保できるかもポイントです。スーツケースを広げた上で、人が一人横になれる程度の広さが理想的です。
- 朝食の充実度: エネルギー補給に欠かせないバナナ、パン、卵料理、お粥(チャオ)など、炭水化物やタンパク質が豊富なメニューが揃っていること。朝食の質は一日のパフォーマンスに直結します。
- Wi-Fiの速度: トレーニングデータのアップロードや翌日のルート確認、家族やコーチとの連絡に安定したインターネット環境は必須です。
ロンスエンには、「Hòa Bình 1 Hotel」や「Dong Xuyen Hotel」など、これらの条件を満たしつつ価格も手頃な中級ホテルが多数あります。高級チェーンホテルは多くありませんが、コスパの良い快適な宿を見つけることは十分可能です。
旅先でのコンディショニング(実践的なポイント)
慣れない環境では、より丁寧なケアが求められます。
- 持ち物リスト:
- 塩分タブレット・経口補水液パウダー: 大量の汗で失われる電解質を効率的に補給できるため必須です。水に溶かすパウダータイプはかさばらず便利です。
- 携帯用の小型フォームローラーやマッサージボール: 飛行機やバスなど長時間の移動で硬くなった筋肉や、トレーニング後の脚のセルフケアに大変効果的です。
- インスタント味噌汁や梅干し: 慣れない食事で日本食が恋しくなるだけでなく、塩分補給やクエン酸摂取、胃腸の調整にも役立ちます。
- 常備薬: 胃腸薬、頭痛薬、絆創膏など、普段から使い慣れたものを必ず持参しましょう。
- 行動のポイント:
- 積極的な水分補給: 喉が渇く前にこまめに水を飲むことを徹底し、1日2〜3リットルの摂取を目標にしましょう。
- 睡眠時間の確保: 新しい環境への適応や日中のトレーニングで身体は思いのほか疲労しています。普段より30分でも多く睡眠を取るよう心がけてください。
- 暑い時間帯のトレーニングは避ける: 気温の低い早朝や夕方にトレーニングを行い、日中は無理せず室内でストレッチや休息に充てましょう。
ロンスエンという環境を最大限に活かすためには、基本となる身体のコンディションを整えることが不可欠です。これこそが、旅先でのランニングと快適な滞在を両立させる最も大切な秘訣なのです。
ロンスエン滞在モデルプラン(ランナー向け2泊3日)
「実際にロンスエンへ行ったら、どのように動けばよいのか?」という方のために、私が実際に体験したスケジュールを基に、ランナー向けの2泊3日のモデルプランを作成しました。トレーニングや観光、グルメを効率的に楽しむ際の参考にしてください。
1日目:メコンの風を感じながらの到着日
- 午前(〜12:00): ホーチミンのミエンタイ・バスターミナルからFUTAバスに乗車。移動中はリラックスしながら仮眠を取り、疲れをできるだけ軽減します。
- 午後(13:00): ロンスエンに到着。ホテルにチェックイン後、荷物を置いてまずはシャワーでリフレッシュ。
- 午後(15:00): ランニングウェアに着替え、市内の雰囲気をつかむため軽いジョギングへ。まずは川沿いのプロムナードを走り、街の地理を把握。ペースは無理せず、30〜40分程度。
- 夕方(17:00): ジョギングの途中でオンバック寺やロンスエン大聖堂の外観を見学。神聖な場所への本格的な訪問は翌日以降にして、この日は場所の確認のみ行います。
- 夜(19:00): トレーニング後の夕食は名物のブンカーを味わいましょう。優しいスープが、移動やランニングで疲れた身体を内側から癒してくれます。
- 夜(21:00): ホテルに戻ってフォームローラーで脚をしっかりセルフマッサージ。翌朝の早朝トレーニングに備え、早めに就寝します。
2日目:水上マーケットと虎島を走って満喫する一日
- 早朝(5:00): 起床。バナナと水で軽くエネルギー補給をし、まだ薄明かりの中を走り始めます。目的地はロンスエン水上マーケットの船着き場。
- 早朝(5:30): 船着き場にてボートをチャーター。活気あふれる水上マーケットを巡りながら、船上で熱々のフーティウの朝食を楽しむ、贅沢な一日のスタートです。
- 午前(8:00): ホテルに戻ってシャワーを浴び、しっかりと朝食をとります。
- 午前(9:30): 再度アクティブウェアに着替え、虎島行きフェリーの乗り場へ。この日は島でLSD(長時間ゆっくり走る)トレーニングを計画。
- 午前(10:00〜14:00): 虎島に到着後、島の周回コースをランニング。途中、トン・ドゥック・タン記念館も訪れて歴史に触れる時間を持ちます。持参した水分やエネルギー補給食は計画的に摂取。
- 午後(15:00): フェリーで市内に戻り、ホテルで休息を取ります。
- 夕方(17:00): ロンスエン市場を散策。新鮮なフルーツやチェーでビタミンや糖分を補給。お土産選びにもぴったりの時間です。
- 夜(19:00): この日の夕食は、炭火焼の豚肉が自慢のコムタム店へ。タンパク質をしっかり摂って、疲れた筋肉を回復させましょう。
3日目:メコンの余韻に浸りながらの出発日
- 早朝(6:00): 旅のラストラン。ロンスエンの街並みを目に焼き付けるように、これまで走ったお気に入りのコースをゆっくり走ります。アンザン博物館の前を通り、この土地の歴史に思いを馳せるひとときに。
- 午前(8:00): ホテルで朝食を済ませ、荷物のパッキング。
- 午前(10:00): チェックアウト。バスの出発まで時間があれば、好きなカフェでベトナムコーヒーを味わいながら、旅の記録をつけたり、ゆっくりくつろいだりするのもおすすめです。
- 午前(11:00): バスターミナルへ移動し、ホーチミン行きのバスに乗ります。
- 夕方(16:00頃): ホーチミンに到着。メコンデルタの穏やかな時間とは対照的な都会の喧騒が、旅の終わりを告げます。
このプランは一例にすぎません。ご自身の体力や興味に合わせて、自由に調整してお楽しみください。ロンスエンは、あなただけの特別な旅のプランを柔軟に受け入れてくれる懐の深い街です。
ロンスエンから足を延ばす、メコンデルタの更なる魅力

ロンスエンでの滞在自体が非常に充実した体験ですが、この街を拠点にすることで、さらに深遠なメコンデルタの世界への扉が開かれます。もし日程に余裕があるなら、ぜひ近隣の町まで足を延ばしてみてください。そこにはまた一味違ったベトナムの姿が広がっています。
チャウドック(Châu Đốc)-信仰の山と国境の街
ロンスエンからバスで約1時間半、北西へ向かうとカンボジアとの国境に接する街、チャウドックに到着します。この街の象徴は何といっても「サム山(Núi Sam)」。山そのものが信仰の対象となっており、麓から頂上にかけて多数の寺院や廟が点在しています。
ランナーにとっては、サム山は絶好のトレーニングスポットです。山頂までの道は舗装されていて、ほどよいアップダウンがあるため、心肺機能や脚力を鍛える坂道トレーニングに最適です。汗をかきながら登り切った頂上からは、チャウドックの街並みやどこまでも続く田園風景、そしてカンボジアの国土までもが一望できる絶景が広がります。この眺めを楽しみながらのクールダウンは、特別な体験となるでしょう。
またチャウドックは、水上生活者が多く暮らす地区やチャン族の村など、多様な文化が共存している点も魅力的です。ロンスエンとは異なる、国境の街ならではの独特な雰囲気を味わえます。
カントー(Cần Thơ)-メコンデルタ最大の都市と活気あふれる市場
ロンスエンから南東へバスでおよそ1時間。メコンデルタ地方で最大の都市にして経済の中心地であるのがカントーです。ロンスエンよりも規模が大きく、より洗練された街の雰囲気が漂います。
カントーの魅力の一つは、メコンデルタで最大規模を誇る「カイラン水上マーケット(Chợ Nổi Cái Răng)」。ロンスエンの市場がローカルな生活感を味わえるのに対して、こちらは観光客向けのボートも多く、より大規模でダイナミックな光景が広がります。大小さまざまな船がせめぎ合う様子は圧巻で、二つの水上マーケットを比べるのも貴重な体験になるでしょう。ベトナム政府観光局の公式サイトでも、その魅力が紹介されています。
さらにカントーの川沿いは美しく整備された公園が広がっており、夕暮れ時には多くの市民が散歩や運動を楽しんでいます。地元のランナーに混じって、この開放的なコースを走るのもおすすめです。近代的な橋やライトアップされた建物が、ロンスエンとは異なる都会的なランニングの楽しみを提供してくれます。
ロンスエンを中継地点として、これらの街を日帰りで訪れることも十分に可能です。FUTAバスをはじめ多様なバス路線が網の目のように結ばれており、移動もスムーズ。広大なメコンデルタのフィールドを、自らの足で、そしてバスを乗り継ぎながら探検していく—そんな自由な旅のスタイルが、この地では実現できます。
旅の終わりに – メコンの流れのように、ただひたすらに
ロンスエンの朝靄の中を駆け抜けたあのひととき。ボートの上で味わった、忘れがたいブンカーの味わい。虎島の果てしなく続く一本道で、自分の呼吸と足音だけに耳を澄ませた瞬間。旅を終えて都会に戻ると、あの穏やかで静かな日々がまるで夢のように思い出されます。
ただ観光地を巡るだけの旅では、おそらくこうした感覚は生まれなかったでしょう。自分の足で土地を踏みしめ、汗をかき、地元の人々と同じ食事を共にする。そうして初めて、その土地の真の鼓動を感じ取ることができるのです。ロンスエンは、私にそのことを改めて気づかせてくれました。
ここには派手なアトラクションや誰もが知る名高い世界遺産はありません。しかしメコンの大河のように、のんびりと、しかし確実に流れ続ける人々の生活があります。その大きな流れのなかに、ランナーとしてほんの一瞬身を置かせてもらう。その体験はどのレースで味わう達成感とも異なり、心に静かで深い満足感をもたらしてくれました。
この記事を読んで、もしあなたの心の一角に「ロンスエン」という地名が刻まれたなら、ぜひ一度、その道を走ってみてください。ガイドブックには載っていない、あなただけの特別な風景がきっと広がっているはずです。
次のレースはどこになるのでしょうか。まだ見ぬ道を求めて、私の旅も、そして走りも、これから先も続いていきます。メコンの流れのように、ただひたすらに、前へと。

